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「デジタル作画は漫画の世界をどう変えている?」⑦<番外編・前編>:吉河美希先生インタビュー

★基礎編はこちら

①<基礎編・前編>:『週マガ』連載陣の3分の1がフルデジ派!

②<基礎編・後編>:今までのトーン指示の間に自分で貼れちゃう!

★初級者編はこちら

③<初心者~初級者編・前編>: お金がない者への救世主・板タブ

④<初心者~初級者編・後編>:1万前後から始めるデジタル作画  

 ★上級者編はこちら

⑤<上級編・前編>:2018年の”液タブ”市場の今

⑥<上級編・後編>:「初の週マガ連載で担当に黙ってフルデジに挑戦しました」


現在は作家の3分の1がフルデジだという『週刊少年マガジン』。

 

『山田くんと7人の魔女』吉河美希先生も連載時、アナログのみの環境から徐々にデジタル機器を導入し、カラーは下描きから仕上げまでデジタルで手掛けるようになりました。

 

2017年に執筆した『ヤンキーくんとメガネちゃん』の特別読み切りでは、モノクロ原画を下描きから仕上げまですべてデジタルで挑戦。

 

吉河先生は連載時にどのようにしてデジタルを取り入れていったのか、どんな機器を使っているのか——実際に仕事場へ訪ねながら、根掘り葉掘り話をうかがいました!

 

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●連載中にいきなり板タブ購入 カラーがフルデジになるまで

 

——吉河先生のデジタルの導入の経歴を教えてください。

まずはカラー原画の色塗りだけ、先にデジタルに変えました。『山田くんと7人の魔女』の3巻(2012年10月発売)の表紙からですね。

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『山田くんと7人の魔女』3巻

 

——なぜいきなり3巻で……?

なんでだろう……(しばし考え込む)……わかんないですね(笑)

 

——連載に追われる中でふっと思いついた、みたいな……?

そうなんですかね、ちょっと本当に覚えてない(苦笑)

 

担当編集:吉河先生はけっこう、思い立ったらすぐやるタイプですよね。

 

いきなりだったもんでアシスタントからは「えっ」「無謀だ」「練習とかした方がいいんじゃないですか」みたいな声がけっこう上がりました(笑)

 

でもそんな時間ないから、コピックのこの肌色をデジタルで塗るにはどうするのってわかる人にいちいち聞いたりして。

 

最初は板タブから始めました。だけどモニターを見ながら手元でペン入力するっていう作業が苦手で、線画まではさすがに無理で。

アナログで描いた線画をPCに取り込んで、色をデジタルで塗る形にしていました。

 

——そこから連載はずっと板タブですか?

2014年の6月ごろに初めて小さめの液タブを買ったんですよ。ワコムからお手頃なものが出たので……試しに描いてみたら、こっちだったら線画もいけるなと。

描ける範囲が狭すぎたのでモノクロ原画までデジタルでやるには至らなかったんですけれど、可能性はかなり感じました。

 

ただ小さいと液晶画面に表示される色の再現が悪く、印刷すると全然色が違ったりするので、印刷物として世に出すのは怖かったんですよね。

 

1年後くらいに思い切ってワコムの大きい液タブを買って、24巻(2016年7月発売)の表紙から本格的にカラーも線画から液タブでやるようになりました。28巻で完結しているのでけっこう遅めでしたね。

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購入したワコム製の液タブ

 

 
●1日でカラー原画4枚 「デジタルの塗り方」に目覚めた瞬間

 

——デジタルはすぐ慣れたんでしょうか。

最初は本当に慣れなかったですね。半年ぐらいはかかった気がする。

モニターに表示された色を見て「よし」と思ったのに、いざ印刷された表紙がお店に並んでいるのを見ると「あれ、思っているのと違う」「目立っていない」みたいな。

 

入稿データのカラーモードのRGB(光の3原色)とCMYK(色料の4原色)の違いがわかっていなかったとか。毎回毎回そういう試行錯誤を繰り返しました。

 

——どのあたりで及第点に達しましたか?

満足できたのが、『週刊少年マガジン』2016年44号で『星野、目をつぶって。』とのコラボ企画「妄想グラビア」で描いた複製原画でした。

 

週刊連載をやりながら1週間で5枚描かなくちゃいけないという意味わかんない締め切りで、完全に追い込まれたんですよね。

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『妄想グラビア』

 

——連載しながら1週間でカラー5枚……!

複製原画だからそれなりにクオリティが高くないと、もらったファンの方もうれしくないじゃないですか。

速くてキレイに仕上げるにはどうすればいいんだろうと1週間ぐらい考えて、次の週でガッと塗ってみたら色んな手法が変わったんですよね。

 

——一番これだと思ったコツは何だったんでしょう。

デジタルって塗り込まなくても、レイヤー機能を使うと“引き算”の塗り方ができるんですよ。

 

それまではレイヤー機能をあまり使わず、コピックの頃と同じ塗り方をしていたんです。下絵のレイヤー、線画のレイヤー、その上に重ねた塗り用のレイヤー1枚に、多くの色を塗り分けていくという。

例えば髪の毛だと、まずは一番薄い色、次に薄い色、次に濃い色、最後に一番光が当たっているところ、みたいに1枚の中に何色も足していく感覚。

 

それをやめて、色塗りを複数のレイヤーで描くようにしたんです。

 

まず一番薄い色を塗って、さらに1枚レイヤーを重ねて次は影の濃い色を塗る。最後もう1枚重ねてハイライトに当たる明るい色を上から塗って終わり。

 

——アニメのセル画みたいな塗り方ですね。

色を考える時間が一気に省けましたし、何色も使わないことですごく速くなりましたね。

仕上がりとしても、一枚絵としてスッキリしすぎもせず、ごちゃごちゃしすぎもせず、見応えのある複製原画ができ上がりました。

 

この技をあみだした後に画集を出す機会があったんですが(※2017年発売『吉河美希画集 魔女の帽子とダテメガネ』)、そのとき1日4枚のカラーを描かなきゃ間に合わなかったんですよ。

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『吉河美希画集 魔女の帽子とダテメガネ』

 

——1日で4枚のカラー……?

この塗り方だとそれもできてしまったという。

 

——……一応確認したいのですが、これってやはり、速い……ですよね?

担当:めちゃくちゃ速いです……!

 

普通のイラストレーターさんだと1カ月に1枚かける人だっているわけですから。正直、二度とやりたくないですよね(笑)

 

担当:正直、発売延期もあるなと思ってました(苦笑) それでも間に合った上にクオリティが全然下がっていなかったんです。

 

——そもそも吉河先生の筆の速さが異常なのでは……。

でも、慣れたらカラーは本当にデジタルの方が速いですね。

 

ちょっとした色の違いを再現しようとすると、コピックだと1本1本固定した色を使い分けなくちゃいけないですが、デジタルだと作画ソフト上でささっと色を作れます。

 

アナログだと作業し終わったあと200本ぐらいのコピックが机にばーっと散らばっているんですよ。

ただでさえ13時間とか座って描き上げて疲れているのに、それを片付ける作業への絶望感がすさまじい。急に使いたい色のコピックが無くなるといったトラブルもないですし、いろいろとデジタルの方が楽です。

 


●ゲーミング用機器にグローブ……吉河先生のデジタルの仕事場

 

 モノクロ原稿のフルデジ挑戦の話に入る前に、現在の吉河先生のデジタル環境をご紹介。

 

基本的にはワコム製の液タブをAppleのノートPCをつないで、「CLIP STUDIO PAINT」(クリスタ)のEX版で執筆。

カラーの際は原稿を「Adobe Photoshop」(フォトショ)の入ったAppleのデスクトップPCに移動させ、最後に色を調整するそうです。

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吉河先生のデジタル作画環境

  

——作画ソフトを使い分けるのはなぜなんでしょうか。

クリスタでもカラーは塗れるので使っているんですけれども、色の表現に限界があるんですよ。

フォトショは本当に色の再現に優れているので、最後に細かい微調整をして提出するって感じですね。

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フォトショ用のデスクトップPC。周りにはNintendoSwitch、「スプラトゥーン」のサントラCDなど吉河先生のゲーム愛があふれている

 

漫画を描くとなったらクリスタはEX版(一番上のグレード。パッケージ版:3万6720円)を使った方がいいと思います。

最初はお手軽なPRO版を使っていたんですけど、ほしい線が出せないとか限界が出てきて、結局グレードアップせざるを得なくなりました。

 

フォトショは月額制の「Adobe Creative Cloud」です。

 

——ノートPCもデスクトップPCもMacですね。

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液タブの机

 

Macの色の再現って絶対なんですよ。印刷したときにモニターの色がそのまま出てくれる。

Windowsってモニターごとに色が変わっちゃったり、印刷時に色が違ったりするんですよね。

 

液タブも色の再現が悪いので、すぐそばにつないでいるノートPCの画面でどんな色が出ているか確認しながらカラーを塗っています。

 

発色に関してはワコムさん、もうちょっとがんばってほしいな、と……! もう少しで出る最新版は色が良くなると聞いているので、期待しています。

 

——iPadも設置されていますね。

これは小道具を参考にしたいときとか、資料の写真を出すのに使っています。

こうやってブラウザで「銃」「中世」とか打って表示してしまうとか。

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足立花と銃の対比がすさまじいことに

 

液タブ上に写真を出してトレースすることもできるみたいですが、私は構造だけ参考にするタイプなんでこの方がいいです。

 

ネームは上から洗濯バサミでぶら下げ。

携帯の設置台もあります。ここにないとほぼ丸1日にメールに気付かないので(笑)

 

——上にあるのは予備のデジタルペンでしょうか。すごく目立つ所に置いてある。

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2本もある

 

ですね……私よく、ペンを失くしちゃうんですよ。仕事場の中でも移動するときに持ち歩いて、無意識にその辺とかに置いちゃう。

 

ひどいときは描く時間よりもペンを探す時間が長い。

 

——それはひどい(笑)

絶対ここに置くって決めているのに、何回やってもどっかに持って行っちゃうんです。

 

——デジタルの仕事場も、作家の人となりが現れてくるんですね……。この液タブの左にある機器は何ですか?

これはゲーミング用のショートカットキーです。

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デジタルの人はけっこうみんな使っているんですが、最初オタク臭くてやべぇと思って、ショートカットのコマンドはいちいちノートPCで打っていたんです。

 

けどもっと速くなるはずと使ってみたら、圧倒的でした。

 

担当:確かに見た目の中二感がすごいですね。

 

——なんかキーの下から光が漏れている……しかも色が徐々に水色とか紫に変わってくる!

光の設定をレインボーにしているのがこだわりです(得意気)。

 

——何でですか。

かっこいいから!

 

でも初めは抵抗はあったんですけど本当にこれは速いですね。

 

配列のこだわりは、一番押しやすい位置の「Delete」キーに、“選択範囲の解除”コマンドを設定しているところ。

本来の「Delete」キーに設定されている“削除”コマンドは、ノートPCの方に設定して使い分けています。

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吉河流のコマンド配置

 

例えばトーンを貼ろうと範囲を選んでぐりぐり塗った後、次の動作に移る前に、残った選択部分を消さなくちゃいけないんです。

これをいちいち画面上のボタンで動作するのはめんどくさくて……使用頻度は高いですし、ショートカットキーに設定してからかなり時間を短縮できました。

 

——やっぱりデジタルはショートカットキーが大事ですね。

あと、夏場はペンを握る手にこのグローブをはめて作業しています。

 

液タブって熱を持っているので暑い季節はどうしても汗をかいちゃって、画面で手がすべるんですよ。それはグローブで防げるという。

 

ただ、やっぱり中二病臭いんですよね……。

 

——これ見た目すごいですね、右手にグローブ、左手にサイバー感あふれるショートカットキー。

完全にやばいっすよね、ガチ臭が半端ない(笑)

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——世間的な漫画家のイメージを大きく覆えす道具の数々、ありがとうございます!

 

吉河美希先生のインタビュー後編は、12日(月・祝)公開!!

 

 

 

<吉河美希先生の作品がWEBでも読める!>

 

▼『ヤンキー君とメガネちゃん』第1話

pocket.shonenmagazine.com

 

▼『山田くんと7人の魔女』 第1話

【第1話】してみましょう。 / 山田くんと7人の魔女 - 吉河美希 | マガジンポケット

 

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(終わり)