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「デジタル作画は漫画の世界をどう変えている?」<基礎編・後編>:今までのトーン指示の間に自分で貼れちゃう!

 ★前編はこちらから。

 

 『週刊少年マガジン』の作家も半数が導入しているデジタル作画。

 

 どれだけ漫画界に浸透しているのか<基礎編・前編>で紹介しましたが、今回の<基礎編・後編>ではどんなメリットがあるのかざっとあげていきます。

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○作業スピードのアップ

 どのデジタル作家も口をそろえて言うのが「効率がいい」、です。

 

 たとえば「やり直し」機能。線がずれた、目を描き直したい、とペン入れでやり直したくなったとき、アナログだと修正液で一度消して、乾くのを待って……と手間がかかるのが難儀でした。デジタルではボタン一つでさっきの状態に戻ってリトライできます。

 

 トーン貼りも早いです。指定のトーンを探して、台紙から剥がして原稿用紙に貼って、カッターで削って整える……という作業が、作画ソフトなら手元のボタンで入力モードをトーンに切り替え、貼りたい種類と箇所を選択し、ぐりぐり塗りつぶしていくだけ。

 

 マガジンで『ワールドエンドクルセイダーズ』を連載していた不二涼介さんも次のように語っていました。

 

「アナログだとアシスタントさんにこの箇所に何番のトーンを貼るようお願いするのですが、デジタルだとその指示の時間で自分でトーンが貼れてしまうくらい早いんです。自分でペン入れしたら、すぐにトーンのモードに切り替えて3秒くらいで塗れてしまうこともあります」(※不二先生の体験談は後日公開『上級編』に登場予定)。 

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(『ワールドエンドクルセイダーズ』よりカラー原稿を抜粋)

 

 下描きもレイヤー機能を使えば一瞬で消せます。レイヤーとは画像制作ソフト全般にある機能。1枚の透明な層(レイヤー)に背景を描き、その上から別のレイヤーを重ね合わせてキャラを描き、背景のレイヤーだけ表示する、キャラだけ見せる、背景を他のシーンでも利用する……といったさまざまな応用を可能にします。

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「CLIP STUDIO」公式ページより

www.clipstudio.net

 

 漫画でも、下描きとペン入れを別のレイヤーに分けて描くことで、ボタン一つで下描きを消したり表示したりできるのです。インクに気を遣いながら消しゴムをかけて、消しカスを払って……という作業がウソのように無くなります。

 

 他にもペン入れした後でもキャラの位置を画面上で切り取って調整できる、同じ素材をコピペして使い回せる……などなど、「修正が容易である」「作業工程が少ない」機能をあげると切りがありません。「仕上げをデジタルで覚えるとアナログに戻れない」とよく言われるのも、この効率のよさが一番の理由でしょう。

 

○制作費用が安く済む

 初期費用がなかなか高くついてしまうデジタルですが、一度導入してしまえばインクといった消耗品代がまったくかからないのも魅力的です。アナログのトーンは1枚400円くらい。作画ソフトにはもともと無料のトーン素材が豊富に入っていますし、一度素材データ集を買ってしまえば半永久的に何回も使えてしまいます。

 

 またプロの現場からは、アシスタント代が安く済むという声が上がっています。作家もアシスタントもデジタルで作業スピードが上がる分、それぞれできる仕事量が増え、雇う人数を減らすことができるのです。

 

○分業がはかどる 

 アシスタントと分業する場合、アナログ環境では作業担当者に原稿用紙を渡さなくてはいけません。みんなで1つの仕事場に集まったり、遠隔地にいるなら郵送し合ったりと、時間や空間的に大きな縛りがあります。

 

 そのため連載作家側はアシスタントを雇いやすい、アシスタント側は職を得やすい、と互いの穴を埋め合う意味でも、地方の漫画家は出版社の多い東京に集まるのが常識でした。

 

 デジタルなら原稿をクラウド上に保存できるので、作家もアシスタントも在宅で作業できます。互いに地方に住みながら短期間で仕上げるなど、働き方の幅が大きく広がるのです。

 

 漫画家とアシスタントのマッチングサービス「GANMO(がんも)」の募集欄を見ると、 「【在宅】デジタル背景・仕上げアシスタント様募集」「臨時在宅デジタルトーンスタッフ様募集」デジタル作画の求人がずらずら並んでいます。検索キーワードにあらかじめ在宅」「デジタル」「クリスタ」「Photoshop」が用意されているほど。

 

「漫画家の仕事場まで通わなくてはいけない」という縛りから解放されることで、分業を補いやすくなっているのは間違いありません。

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GANMO - 漫画家さん×アシスタントさんマッチングサービス -

 

この他デジタル作画のメリットは、

 

「手がインクで汚れることがない」

「原稿用紙の保管場所をとらない」

「筆圧調整機能を使えば手の力が弱くなってもペン入れができる」

 

など、あらゆる点があげられます。

 

 今年7月には『名探偵コナン』の青山剛昌さんが仕上げをデジタルで行っている、というニュースでネットが騒然となりました。大御所作家が導入するのにも然るべき利便性があるのです。

 

●「個性がなくなる?」デジタルのデメリット アナログも練習すべきなのか

 

 もちろんデメリットもデジタルには存在します。

 

 一番多くあがるのは、

「絵に個性が無くなる」という指摘。

 

 デジタルはソフトの補正機能によって、線の太さが均一化しやすい。またペンタブの表面、特に液タブだとガラスのようにツルツルしており、デジタルペンでなぞっても摩擦がほとんど発生しません。紙と付けペンだからこその、わずかな歪み、インクのにじみなど“生きた線”が生まれにくい、と言われています。

 

 デジタルは基本的に画面を拡大して作業するので、“描き込みが終わらない病”に陥りやすいという意見も多いです。

 

 たとえば原稿用紙だと10センチ×20センチくらいのコマにキャラや背景を作画する場合、24インチ(約30センチ×50センチ)といった何倍も大きいディスプレイいっぱいにコマ部分を拡大するので、本来気にならなかった細かいところまでつい描き込み過ぎてしまうのです。

 

 『ハヤテのごとく!』の畑健二郎さんもフルデジ派ですが、「印刷した時に潰れて見えなくなったり、線の太さのバランスが悪くなってしまっては意味がない」「用紙のサイズ感をもつことはアナログで学んでおくのが重要」と振り返っていました。

(『めざせ!まんが家 PCでまんがを描こう!CLIP STUDIO PAINT まんが制作ガイドブック』より)

 

 データをこまめにクラウド保存することで解消できますが、突然の停電で作業中のPCやソフトが落ちてしまったり、機器の故障でデータがすべて飛んでしまったりと、デジタル機器ならではのトラブルで一からやり直せざる得なくなる危険性も抱えています。

 

 このようにデメリットもいろいろあるわけですが、アナログとデジタルどちらが優れているのか、どちらも経験しなければいけないのか、という話ではありません。デジタル作画は、あくまで漫画制作における選択肢の1つ。それぞれの良し悪し、何ができて何ができないのかを理解して、自分の作風や肌に合うツールを選ぶのが重要でしょう。

 

 2016年には集英社『週刊少年ジャンプ』編集部主催の「矢吹健太朗 漫画賞」で奨励賞を受賞した作品が、その後作者との打ち合わせで、実は全てスマートフォンだけで描れていたことが分かった――というニュースが話題になりました。

 

どんな道具を使っているかよりも、「おもしろい」作品を作ることが大事なのです。

 

 これにてデジタル作画連載の<基礎編>は終了。年明け1月5日更新の<初級編>では、デジタル作画に必要な機材やソフトを1万円~5万円ほどでそろえるならどうすべきか紹介していくので、もらったお年玉は大事に取っておくべし!

 

みなさん漫画とともに、よいお年を。

 

 

<デジタル作画の作品がWEBでも読める!!> 

 

▼『ワールドエンドクルセイダーズ』第1話!

pocket.shonenmagazine.com

 

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(終わり)