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「デジタル作画は漫画の世界をどう変えている?」⑤<上級編・前編>:2018年の”液タブ”市場の今

★基礎編はこちら

①<基礎編・前編>:『週マガ』連載陣の3分の1がフルデジ派!

②<基礎編・後編>:今までのトーン指示の間に自分で貼れちゃう!

★初級者編はこちら

③<初心者~初級者編・前編>: お金がない者への救世主・板タブ

④<初心者~初級者編・後編>:1万前後から始めるデジタル作画  

 

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『ヤンキー君とメガネちゃん』吉河美希先生が使っている液タブ

 

ワコムにiPad Pro、Surface Pro、中華系……切磋琢磨する液タブ市場、各メーカーの特徴は?

 

 

学生のみなさん、お年玉まだ余っていますか? あげた側の大人たち、通帳のHPは残っていますか?

 

年末から更新している漫画界のデジタル作画にまつわる連載。

 

5本目となる<上級編・前編>では、ペンタブに10万円以上投資してもいい人や、板タブに慣れてペン入れもデジタルでやりたくなっている人に向けて、“2018年の液タブ市場の今”をざっくり紹介します。

 

ちなみに企画の都合上<上級編>と称していますが、別に液タブが板タブの上位互換だと言いたいわけではないので悪しからず。

「手元が隠れない」「表面に抵抗力があるのでペン制御しやすい」といった利点から板タブを好んで使っている作家さんも多いので……板タブ派のみなさんはどうか投げようとした石をお収めください。

 

 

●ワコムや海外メーカーの群雄割拠 液タブ市場の今

 

あらためて、液タブとは「液晶タブレット」の略で、液晶画面にデジタルペンを当てることでそのまま画面上に入力できるペンタブレットのこと。「手描きに近いけど高い」と一長一短あるのは連載第1回<基礎編>で紹介した通りです。

 

実は日本における液タブ市場は、ここ数年で各メーカーの競争が繰り広げられる大きな過渡期に入っています。

 

2013年くらいまでは今の板タブ市場と同様、液タブもワコムの一強時代が続いていましたが、ここ数年で国内メーカーやApple、Microsoftからペン入力性能の高いタブレットPCが発売されたり、中国メーカーの激安液タブが登場したりと、競合相手が続出。

 

年ごとにより高性能かつコスパのいい製品が生まれる、というめまぐるしい“液タブ革新時代”が到来しています。少年漫画同様、ライバルって大事です。

 

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左からワコム「Cintiq 13HD」、Apple「iPad Pro」、Microsoft「Surface Pro」

 

特に2017年は、Appleから「iPad Pro」新型モデル、Microsoftから「Surface Pro」が登場したことで、筆圧レベルはどれも1024〜2048からとワコム製とほぼ横並びに。それぞれの特徴に応じてどの製品を選ぶか、いい意味で悩めるステージまでやってきました。

 

捨てがたいメーカーはいっぱいあるのですが、本記事では2018年1月時点における「ワコム製液タブ」「iPad Pro」「Surface Pro」、3つのメリット・デメリットを大まかに紹介していきます。

 

 

●2018年における各メーカーの特徴

 

まずはデジタル作画で押さえておきたい基本性能の比較表をつくってみたのでご覧ください。

 

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液タブで気になる項目は「傾き検出」とか「描画遅延」とかまだまだたくさんありますが、あげると本当にキリがないので割愛させていただきます。石を投げないでください……。

 

○ワコム製

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左からワコム「Cintiq Pro」、「MobileStudio Pro」(ワコム公式ストアより)

 

さすがは世界シェア9割を誇るワコム、筆圧レベルといったペン入力の基礎能力は高いです。

 

注目すべきは、ファンクションキーの豊富さ。

 

デジタル作画では、「1つ前に戻る」「1つ後に戻る」「ツールの切り替え」「拡大/縮小」といった描画ソフトでよく使う機能をキーに登録しておくと、手元のクリック1つで操作を実行でき、作業能率をぐんとあげられます。

 

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「Cintiq 13HD」のエクスペンションキーと、プロペン(ワコム公式ストアより)

 

登録できるキーの数と押し易さに応じて能率はあがるわけですが、ワコム製はやはりペンタブに特化しているだけあって、液タブに備わったキーが最低9つからと潤沢。

 

さらには専用デジタルペンも腹の部分にある2〜3つのサイドスイッチであらゆる操作が可能、ペン先をひっくり返せば後ろ側で消しゴム機能が作動するなど、作画の時短ツールがぎっしり詰まっています。


ペンも「電磁誘導方式」で電池を必要としないので「描きたいのに充電待たなくちゃ」みたいなことにならない。小さいストレスをコツコツ軽減できるのです。

 

弱い点は、他社製に比べ若干コスパが劣ってきているところ。


売れ筋「Cintiq 13HD」を同じ8万円台のiPad Proと比べると、画像解像度が低かったり、ペン先と実際の線の間に生まれるわずかな隙間(視差)が数ミリ大きかったりと、性能面でやや負けてしまいます。

 

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液タブにおける“視差”。ペンの角度によって変わったりする

 

OSまで備えた「MobileStudio Pro」クラスまで行くと画質も視差も申し分ない最高クラスの液タブになってきますが、17万2800円からとなかなかのお値段。

 

とはいえ「Cintiq 13HD」も参考価格が2年前から1万円ほど下がっているなどコスパ向上は図られ続けています。今後の市場競争でまたどうなっていくか見ものです。

 

▼ワコム公式ストア

store.wacom.jp

 

 

○iPad Pro

 

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iPad Pro(Apple公式サイトより)

 

2015年に登場したAppleのタブレットPC「iPad Pro」シリーズから、2017年6月に発売された最新モデル(第2世代)。

iPhoneユーザーにはうれしいiOSを搭載、動画撮影や音声認識などあらゆる高機能を備えながら、筆圧レベル1024以上(推定)とペン入力もワコム製に太刀打ちできるほどになりました。


しかも液晶面が極薄のため視差がわずかしか生まれず、画像解像度や発色も良し。さすがはデザイナーの味方、Appleといったところです。

 

ネックなのはファンクションキーの少なさです。


本体にはホームボタンしか無く、デジタルペンの「Apple Pencil」にはサイドスイッチも消しゴム機能もありません。

「液タブは漫画制作にしか使わない」と考えているプロ志向、特に連載を視野に入れている人には、能率面で不満を感じてしまうでしょう。


一方でボタンがないためデッサン持ちができるなど、ペンの握り方の自由度が高いメリットもあります。

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Apple Pencil(Apple公式サイトより)


メモリの乏しさも懸念点の1つ。


描画ソフトは、例えば「CLIP STUDIO PAINT」でレイヤー画面を何枚も同時に開くと、メモリ容量をかなり食ってしまいます。PC動作が鈍くなったりソフトが落ちたりしてしまうので、8GBあると安心といったところ。

Pad Proのメモリは12.9型が4GB、ワンサイズ下の10.5型に至っては2GBと、タブレットPC本体だけでデジタル作画するにはなかなか心もとないです。


対処策として、某家電量販店のApple売り場担当者は「メモリに余裕のあるPCにつないで入力装置として使っている人もいます」と勧めていました。

 

タブレットPCの応用として頭に入れておくと良いかもしれません。

 

▼Apple公式サイト

iPad Pro - Apple(日本)

www.apple.com

 

 

○Surface Pro

 

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Surface Pro(Microsoft公式サイトより)

 

2012年に生まれたMicrosoftのタブレットPC「Surface」シリーズから、2017年6月に発売された最新モデル。こちらも入力性能がワコム製と同レベルまで上がってきました。

価格を上乗せすればメモリを4GBから16GBにまでグレードアップできるので、本体のみでの作画できるのが魅力的(8GBで約15万円〜)。

 

デジタルペン「Surface Pen」もお尻に消しゴム機能を搭載しているなど、デジタル漫画家にはうれしい要素が増えています。

 

それでも現状、デジタル作画だけで考えると他社製に比べて割高な印象。OSがWindowsかつ多機能なタブレットがほしい人向け、といったところです。

 

▼Microsoft公式サイト

新しい Microsoft Surface Pro | 超軽量かつ万能。

 

 

○価格が半額以下になってくる外資系液タブ

 

中国の「HUION(フイオン)」社製や「GAOMON」社製など、外資系液タブもどんどん増えています。魅力はなんといっても、段違いの安さ。筆圧レベルは2048以上とワコム製やApple製と遜色ないにもかかわらず、価格帯が3分の1くらい。

本連載<初級者編・前編>のような予算5万円以下の人でも余裕で手が届きます。

 

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GAOMON液タブ(Amazon.co.jp販売ページより)

 

例えば「GAOMON」の液タブだと、15.6型で解像度1920x1080、最大筆圧レベル8192(いずれも公式が出している情報)と、ワコムのミドルエンド液タブ並のスペックを持ちながら、お値段約4万円。約13万円の「Cintiq Pro 13」より画面が1.5インチほど広いにもかかわらず、価格は3分の1以下です。


液タブは画面サイズと描き易さが比例するものなので、ここまで安い上に画面も大きいならと購入者が続出。Amazonレビューも現時点で59件で星4.5と、コスパの良さで高評価を得ています。

 

問題は、リスクの大きさ。外資系のペンタブは日本の家電量販店ではほぼ扱っておらず、試し描きできずにネット注文せざるえません。

日本法人があり保証まで付いているのはHUIONくらいで、後はほぼサポートなし。性能に不満があったとき、“安物買いの銭失い”に陥りやすいデメリットを抱えています。

 

 

●消費者にはありがたや、メーカーのせめぎあい


……とこのように、数年前はワコム製一強だった日本の液タブ市場も一長一短をもった製品を目的や生活レベルにあわせて選べる時代となりました。2018年1月時点の情報をざっとまとめると、次のようになるでしょうか。

 

・液タブを作画にしか使わないつもりならワコム製
・多機能性を求めるならiPad ProやSurface Pro
・リスクより安さをとるなら外資系液タブ

 

1、2年後にはもっと高性能かつ安いタブレットPCが登場するかもしれませんし、売り場に中国産の液タブが置かれる日もいつかやってくるかもしれません。ワコムも競合相手に負けじとよりコスパのいい液タブを展開する可能性も十二分にあります。

 

競争の激しい液タブ業界、今後の発展に胸をドンドコ高鳴らしつつ、自分にあったこれぞという液タブを見つけていきましょう。

 

次回の<上級編・後編>では、プロの漫画家のデジタルツール導入例として、『週刊少年マガジン』で『ワールドエンドクルセイダーズ』を連載していた不二涼介さんの話を紹介。初の週刊連載でこっそりフルデジに初挑戦した、だと……!?

 

2月6日(火)更新です!

 

<週刊少年マガジン連載作品がWEBでも読める!>

 

▼『ヤンキー君とメガネちゃん』第1話

pocket.shonenmagazine.com

 

▼『ワールドエンドクルセイダーズ』第1話!

pocket.shonenmagazine.com

 

 

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(終わり)