週刊少年マガジンに掲載された漫画家(プロ)への花道を特別に大公開!!
今回は、2017年14号に掲載された日向武史先生編の後半戦をお届けします!
日向武史先生が、
徹底コーチング!!
これを読めば、
絶対に漫画での戦い方が
上手くなる!!
後半戦は漫画の二大要素、
キャラクターとストーリーの
真髄に迫る!!
キャラ作りは「ゴレンジャー理論」!!
――キャラ作りに悩まれる新人さんは多いかと思うのですが、先生はどういったことを意識されていますか?
日向:ゴレンジャー理論です。戦隊ヒーローのメンバーって赤と青と緑と黄色っていうように、似た色がないじゃないですか。
漫画のキャラも同じようにした方が上手くいくと感じています。
――それぞれ一人ひとりに、他のキャラと異なる個性や性格が必要だということですね?
日向:そうです。『あひるの空』はバスケなので、チームはたまたま5人でした。
その5人の中で色が被らないように、キャラを作ることを意識しました。同じチームに似たようなキャラはいらないんです。
――キャラたちが作品内のポジション、役割をそれぞれ分担するわけですね。
キャラの「色分け」、つまりバリエーション豊かなキャラ作りは、具体的にどうすればできるのですか?
日向:シチュエーションをまず設定して、それにキャラがどうリアクションするのか考えます。
『あひるの空』だと、「子どもが川で溺れていて、そこに主要キャラの5人が出くわした時、助けることは前提とした上で、皆がどういう行動をとるか」というところから始めました。
主人公である空は真っ先に飛び込む。で、一緒に溺れます。
千秋は溺れてる子にお姉さんがいるかどうか聞いてから助ける。
トビは目立ちたがり屋なので、ギャラリーを集めてから助ける。
モキチはもたもたしてる間に他の人に助けられてしまう。
百春は限界まで助けません。溺れた人が自力で助かるまで見てる。
キャラは設定とか見た目よりも、どういうリアクションをするかで決まるんだと思います。
⬆︎様々な色で作品を彩るキャラ。
キャラ同士のリアクションが似ないよう注意!!
キャラ作りの妙は欠点にあり!!
――では、先生は『あひるの空』のキャラ設定やデザインはどう行ったのでしょうか?
日向:既存のバスケ漫画の中に、低身長で3ポイントシューターっていなかったなと思って、まず空を着想しました。
身長が足りないっていうのが空のキャラとしての一番のポイントだったと思います。
――長所だけでなく、短所も考えるわけですね。
日向:むしろ短所から考えました。
他のキャラでも、例えば千秋は技術とかセンスはすごいあるんですけど、はやく走れない。
トビは技術とか全部文句なしなんですけど、協調性がない。
モキチは背が高いしパーフェクトなんですけど、体力がない。
百春は致命的にへたくそ(笑)。ただ高く飛べます。
で、そういう欠点を持った5人が掛け合わさって、盛り上がるシーンになる。
――お互いが補いあう、ゴレンジャーのチームバランスですね。
日向:キャラの絵を描く上で意識している点で言うと、「立ち姿でキャラクター性を伝える」、というのは、『あひるの空』で目指していることの一つです。
実際のバスケ選手でも、すごい選手は立ってるだけで体が放つオーラみたいなものがあります。
⬆︎佇まいでキャラクター性を表現することは至難の業だが、それだけに挑戦の見返りは大きい!!
――『あひるの空』の中だと、ヨーコの練習着を着た立ち姿は「上手そう!」と感じます。これを実現するコツはあるのでしょうか?
日向:例えば、バスケ選手の写真の絵の参考にするじゃないですか。
でも、そのまま実際に絵にしてみると、あまりカッコ良くならないんですよね。
思った以上にアスリートの体ってラインが太くて、絵で見るとスマートじゃないんです。
それを漫画映えする細いしなやかな体に描き換えながらmそれでも元の迫力あるプレーは再現しようとしています。
ただこれはとにかく難しいので、自分自身まだ完璧にはできていないと思いますが。
――資料を見つつも、あえてそのままではなく理想を描くわけですね。
ストーリーに悩む前にシーンを形にしよう!
――漫画を描いているとストーリーで詰まってしまうことがあると思います。そんな時はどのようにすればいいのでしょうか?
日向:これは週刊連載の考え方なので、新人さん達とまたちょっと違うと思うんですが……
ストーリーが思い浮かばない時でも、頭の中にシーンはあるはずなんですよ。
『あひるの空』で言えば、例えば空と千秋がやりとりしている映像だったり、まどかと空のいいシーンを描きたいな、みたいな。
だから、それをまず最初に描いちゃう。
――ストーリーではなく絵を先に決めてしまうということですか?
日向:そうですね。ストーリーに詰まっている時は、頭の中にあるシーンのイメージがぼんやりしているんです。
シーンが頭の中にあっても、そこでキャラが具体的に何を言ってるかはわからないんですよね。そしてセリフが思いつかなくて、ネームを描く手が止まっている。
でも、そこで何を言わせようかずっと悩み続けるのは良くない。
ですから先にもうシーンを描いてしまって、できあがった原稿に対して、「なんて言っているんだろう?」と想像してセリフを入れていく。
そういうやり方を、たまにやったりします。
――それで一度、「このままでいいや」とセリフが一言もない回が生まれたと聞きました。
日向:そこで言っているであろうセリフが、別になくても通ったんですよね。
「これなくてもいけるな」っていう風に一個ずつセリフを取っていったら、結果最後までセリフがなくなったっていう回がありました。
⬆︎霞川崎高校・牧野の過去を描いた、全ページがサイレンスの回(KC第32巻収録)
イマジネーションをストックしよう!!
日向:もちろん、連載の当初からそういう漫画の作り方をしていたわけではないんです。
やっぱり時間に追われていたのもあります。
あと基本的に面倒くさがり屋なので、頭の中にパッて浮かんだシーンを描いておかないと忘れちゃうんですよね。
だから、『あひるの空』の原稿作業はちょっと特殊。
来週分のマガジンの原稿18ページを描くんじゃなくて、色々な回の色々なシーンを同時に描いてるんです。
もちろんベースとなるページは一話一話描いてます。
ただ、その時思いついた描きたいシーンに時間が掛かりそうな場合は、そこの背景を先にアシスタントさんに描いておいてもらったりとかします。
例えば大栄戦で空がシュートを打っている見開きがあるんですが、そのページが入る回の原稿に実際に取り掛かる何か月も前から、そこの背景を描いてもらっていました。
――あの見開きのイメージ自体はずっと前から完全にできあがっていたんですね。
日向:はい。後で描こうと置いておくと、パッて湧いたイマジネーションが消えちゃう気がして。
そういうシーンがいっぱいストックとしてあります。
こういう漫画の作り方は実は一つの理想形なんじゃないかって思ってます。ただ、これはあくまで僕個人の方法でしかなくて、ストーリーが詰まったときの解決策は人それぞれだと思います。
ただ、「設定からストーリーを組み上げていく」以外の漫画の作り方もある、ということは覚えておいてもいいかもしれません。
⬆︎事前に描き溜めておいた、対横浜大栄戦の空のシュートシーン(KC第39巻収録)。作画には計1か月半かかったという。
――最後に、新人漫画賞への投稿を目指す新人の皆さんにメッセージをお願いします。
日向:努力がデフォルトの世界なので特に応援はしません。
サンダルやハイヒールで登山はしないようにして下さい。
(※この記事は週刊少年マガジン2017年14号に収録されたものです)
▼前半戦はコチラ
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(終わり)