突然ですがみなさん、今話題沸騰中の作品『みいちゃんと山田さん』をご存じでしょうか?
『みいちゃんと山田さん』は、歌舞伎町のキャバクラを舞台に、不器用な女の子たちの日々を描くヒューマンドラマです。
夜の世界の現実と福祉のあり方を問う本作は、亜月ねね先生がX(旧Twitter)に投稿するやいなや瞬く間に大きな反響を呼び、マガポケで連載化が決定。
読むほどに苦しくなるのになぜか目をそらせない、夜の世界で生きる女の子たちの物語です。
●『みいちゃんと山田さん』はこんなお話
本作の舞台は2012年の新宿・歌舞伎町。
主人公は、日本屈指の歓楽街で働くキャバクラ嬢、山田マミ(源氏名)。ある日、彼女が働くキャバクラに体験入店の女の子がやってきます。
……と思いきや、まさかの体験入店で遅刻!?
これが山田さんと、「みいちゃん」こと中村実衣子(なかむら みいこ)の出会いでした。
キャバクラ未経験のみいちゃんは、ドレスをレンタルし、接客の基本を教わって、さっそくお仕事をスタート!
メモも取って、やる気十分に見えますが……
あまり大丈夫ではなさそう……?
山田さんも不安そうに見ています。
そして、この不安は的中。
みいちゃんは、はじめて接客についたテーブルでグラスを倒してお客さんに飲み物をかけてしまったり……。
個人情報を守るために本名と源氏名を分けるのが基本とされているこの業界で、本名を源氏名にしてしまったり……。
キャバクラ嬢として、みいちゃんの行動は褒められたものではありませんでした。
あまりにも不器用で、正直すぎるみいちゃんに、山田さんも引いていましたが……
翌日、みいちゃんの正式採用が決定。
みいちゃんは喜んでいますが、ミスしてばかりだったみいちゃんを他のキャストが受け入れるはずもなく……。
みいちゃんの採用に猛反対し、辞めさせようとします。
みいちゃんは、他のバイト先でも失敗が続き、最後の望みでキャバクラにやってきました。先輩キャストからの強い非難の言葉に、みいちゃんの心が折れそうになった、その瞬間――
山田さんが、みいちゃんのために声をあげました。
一方的に責められているみいちゃんを、放っておくことができなかったのです。
山田さんの「ただ経験がなくて未熟なことと適性があるかは別」という言葉を受けて、みいちゃんは無事にお店で働けることになりました。
こうして、みいちゃんと山田さんは一緒に夜の世界で働きはじめます。
ここまで読んだみなさんは、「みいちゃんと山田さんが仲を深めて幸せになっていく物語だ」と思ったのではないでしょうか?
しかし、出会いから12か月後……
夜の繁華街で小さく芽生えた友情は、残酷にもあっけなく終わりを迎えるのです……。
物語はここから、みいちゃんが殺されるまでの12か月をたどっていきます。
山田さんとみいちゃんの間に何が起こったのか、なぜみいちゃんが殺されなくてはならなかったのか、謎は徐々に明らかになっていくのでしょうか……?
気になる続きは本編をチェックしていただくとして、ここからは、夜の繁華街で生きるみいちゃんと山田さんを紹介していきたいと思います。
●不器用で精一杯な女の子――新人キャバクラ嬢・みいちゃん
21歳の新人キャバクラ嬢、みいちゃん。
キャバクラで働くのは、このお店がはじめてです。
みいちゃんは今まで、どのバイトも続けられたことがありませんでした。
それでも「次こそできるかも」と希望を抱き、夜の世界へと足を踏み入れたのです。
慣れないことだらけの中でも、みいちゃんは明るく元気に精一杯頑張っています。
……しかし、みいちゃんには苦手なことがたくさんありました。
みいちゃんは小学生の頃から学校に通っておらず、小学生レベルの漢字が読めません。
なので、お客さんの名刺を見ても名前が分からないのです。
トラブルを起こすことも多々あります。
お客さんに住所を言ってしまったり、お店のSNSにキャストの個人情報を載せてしまったり……。
嘘をつくことも必要な夜の世界において、みいちゃんのような子は、「正直ないい子」ではなく、「関わると危険な子」になってしまいます……。
さらに、おっちょこちょいでミスが多く、みいちゃんを見る周囲の目はどんどん冷たくなっていきます……。
強いお酒の強要やお客さんの前でのいじめなど、キャストから不当な扱いを受けるように……。
人に見下され、踏みにじられる毎日は、みいちゃんの心を蝕んでいきます。
その中で、山田さんだけはみいちゃんを気にかけてくれていました。
山田さんも、はじめは他の人と同じく興味本位でみいちゃんを見ていたのかもしれませんが、みいちゃんにとって山田さんの存在は、この世界で頑張れる理由のひとつになったはずです。
山田さんの支えと、みいちゃん自身の努力の甲斐あって、数か月が経った頃、みいちゃんはすっかり売れっ子に。
接客業も板についてきたようです。
……しかし、みいちゃんの人気には秘密がありました。
求められるがままお客さんに体を許すことで、指名を取っていたのです。
それは、夜の世界においてあまり良くないことかもしれません。
しかし、この行為の裏には、みいちゃんの「人から必要とされたい」という純粋な願いがありました。
子どもの頃からうまく生きられなかったみいちゃんは、自分の体を差し出したときだけ、相手と対等な関係になれて、自分自身が認められると思い込んでいたのです。
それは、お店の外でも同じでした。
みいちゃんは彼氏にお金を渡すため、自分の体を売っていました。
「褒めてもらえるのが体だけなんてこと絶対にない」という山田さんの言葉は、みいちゃんに届きません……。
みいちゃんが「自分を大切に思ってくれる人がいる」ことに気づいてくれる日はくるのでしょうか?
みいちゃんを待つのはつらい結末かもしれませんが、最後まで目をそらさず、みいちゃんの生きた軌跡を見届けたいと思います。
●面倒見のいいクールお姉さん――キャバクラで働く女子大生・山田マミ
大学に通いながらキャバクラで働いている女の子、山田マミ。
山田マミというのはキャバクラで働く際に使用している源氏名で、本名は不明です。
大学生ではありますが、勉強する意味を見いだせず、大学はサボりがち。
代わりに、キャバクラへの出勤回数が増えていました。
その中で出会ったみいちゃんは、山田さんにとってなぜか気になる存在でした。
最初こそ、トラブルメーカーなみいちゃんに興味本位で関わっていましたが、困っているところを見ると放っておくことができません。
それは、一生懸命にやっても認めてもらえないみいちゃんの姿が、過去の自分に重なって見えたから。
山田さんの母親は教育熱心で、山田さんは頑張っても成績が上がらないことを責められ続けてきました。
母親から「無能」と蔑まれた過去を持つ山田さんだからこそ、周囲から見下されるみいちゃんに手を差し伸べずにはいられなかったのです。
みいちゃんが良くないことをしたときには、何がだめだったかを説明し……
キャストにお酒を強要されているみいちゃんのために、対処法を教え……
みいちゃんが同僚の女の子のために作ったバレンタインチョコを食べてもらえなかったときも、山田さんはドロドロになったチョコを躊躇なく口に入れました。
みいちゃんを利用する人とも、みいちゃんを見て見ぬふりする人とも、みいちゃんを玩具のように扱う人とも違う、ただただみいちゃんに寄り添ってくれる人。それが山田さんなのです。
みいちゃんと関わることで、山田さんの心にも、ある変化が。
世間の目に縛られることなく生きるみいちゃんと一緒にいると、母親に植え付けられていた「こうあるべき」という呪縛から解放されるようになったのです。
山田さんがみいちゃんを救う一方で、山田さんもみいちゃんに救われていました。
これから先、ふたりは、お互いにとってもっともっと大事な存在になっていくのかもしれません。
ふたりの友情を感じながら、山田さんの優しさが、みいちゃんだけでなく山田さん自身も照らす日が来るよう、祈りたいと思います。
眠らない町を舞台に、みいちゃんと山田さんの出会いと別れを描いた12か月の物語。みいちゃんの身に何が起きたのか気になりますが、今はふたりの時間を静かに見守っていきましょう。
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ぜひ周りの人にも教えてあげてください!