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「デジタル作画は漫画の世界をどう変えている?」④<初心者~初級者編・後編>:1万前後から始めるデジタル作画

★<前編>はこちら

「デジタル作画は漫画の世界をどう変えている?」③<初心者~初級者編・前編>: お金がない者への救世主・板タブ - マガポケベース

 

 ●漫画界の画像制作ソフトで牙城を築く「クリスタ」

 漫画のデジタル作画で使う画像制作ソフトは2000年頃までは、

 

「Adobe Photoshop」

「SAI」

「Corel Painter」

「GIMP」

 

など、それぞれ一長一短もった画像制作ソフトがせめぎあう群雄割拠時代が続いていました。

 

 そこに革命をもたらしたのが、2001年にセルシスから登場した「COMIC STUDIO」(コミスタ)です。

 

 ネームからトーン貼り、吹き出し入力まで、漫画制作の基本機能をすべて備えた“漫画特化型”のモノクロ画像制作ソフト。それまでペン入れは「Corel Painter」で、仕上げは「Adobe Photoshop」で――と個々の性能に応じてソフトを使い分ける必要がありましたが、コミスタなら1つで漫画作画の全行程がなせるとして多くの漫画家から支持を集めました。

 

 このコミスタと、色塗りに特化したペイントソフト「IllustStudio」(イラスタ)が組み合さったのが「CLIP STUDIO PAINT」(クリスタ)。2015年6月でコミスタとイラスタは販売終了し、現在セルシスの漫画制作ソフトはクリスタのみとなっています。

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 CLIP STUDIO PAINT(クリップスタジオペイント)公式サイト

 

 今回取材したり参考文献で見つけたりした漫画家も、新人からベテランまで9割以上がクリスタを使用。2017年4月に漫画の持ち込み・新人賞ポータルサイト「マンナビ」が行ったアンケートでは、デジタルを取り入れた漫画家102人のうち約8割がクリスタ、約1割がコミスタを主に使っていると答えるなど、漫画デジタル作画ソフトはクリスタ一強といっても過言ではないでしょう。

mannavi.net

 

 ここまで人気なのは、漫画制作ソフトとして有能なのはもちろんのこと、初心者に向けたサポートが手厚いのも大きな理由だと考えられます。

 

 ワコムと組んで先ほどのような入門セットを販売したり、クリスタを使う漫画家の体験談に基づいた入門書をいくつも出版したり、iPad Proの登場とともに月額980円のiOS版をリリースしたり。周囲にデジタルツールを使う人がいなくても、予算に乏しくても、クリスタなら誰でもデジタル作画が始められる、と言わんばかりの間口の広さをセルシスは作り上げています。

 

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画像制作ソフトは機能を覚えるのが大変なので、入門書が多数出ているのはだいぶ助かる(「CLIP STUDIO PAINT」公式サイトより)

 お値段はというと、基本機能をすべて備えたローエンドモデル「CLIP STUDIO PAINT PRO」のダウンロード版が5000円。

 これに複数ページの原稿を同時に管理できるなどプロの現場で使える高機能を備えたハイエンドモデル「CLIP STUDIO PAINT EX」が、ダウンロード版で2万3000円です。やはりアナログに比べ高いですが、半永久的に使えることを考えると妥当な線でしょう。

 

 カラー仕上げでは色調補正や質感表現がいい「Adobe Photoshop」を使う、など場面に応じて併用する漫画家もまだまだ多いです。他の作家の意見を参考にいろんなソフトを試してみるのもいいかもしれません。

 

 またこれからPCも買う人は、ちゃんと作画ソフトの動作がにぶくならないような最低限のスペックをもった機材を選びましょう。メモリやCPUがしょぼすぎて頻繁にフリーズするなどして、デジタル作画の売りである「効率の良さ」が損なわれてしまっては元も子もありません。このあたりはPC売り場の担当者に予算を提示しながら相談すると安心です。

 

●学生はどんな板タブとソフトを使っている? 

 さて最後に、実際に板タブでデジタル作画に取り組んでいる人の生の声として、青山学院大学・漫画研究会の3人を取材してきたので紹介します。

 

◆Aさん(4年生) 

 「5年前にワコムの『Bamboo Comic』を1.8万円で購入して、今も使っています。使用用途はほとんどイラスト。板タブは手元が隠れないので、ペンを持つ手で画面をやや覆ってしまう液タブよりも、ペンタブ入門編としては優秀だと思っています」

 

 「ソフトはクリスタのバリュー版(月額500円)です。素材をダウンロードするときなどにアプリの不具合が多いこと以外には難を感じなません。これもおそらく自分のPCのスペックや使っているブラウザの問題だと思うので、そこそこPCが使える人なら難なく使いこなせるかと」

CLIP STUDIOご利用ガイド:月額利用のバリュー版とは?

 

◆Bさん(4年生)

 「7~8年前に買った『Bamboo Comic』を使っています。バージョンとしてはAさんより1つ前のもの、筆圧感知も優秀で現役です。同人誌を執筆していますが、不便さはは全く感じていません。費用はソフト込みで3万円弱でした」

 

 「ソフトはシンプルな構造で動作が非常に軽いので『SAI』を使っています。ただ本格的な漫画を描くには難しいかもしれません。トーンといった仕上げはフリーソフト『MediBang Paint』でやっています。アナログのトーン作業は手が疲れてしまうので時間がかかっていましたが、デジタル導入後は速度が上がりましたね。トーン代も初期投資だけで済むのでだいぶ助かっています」

medibangpaint.com

 

◆Cさん(2年生)

 「1カ月前にワコムの『Intuos』を1.2万円ほどで購入しました。入力画面は小さいですが、大きめのモニターを持っていれば問題はないですし、収納もしやすいです」

 

 「ソフトはクリスタですね。フルデジタルでもいけますし、ペン入れのみアナログにして仕上げのみでも使いやすいです。正直使いこなすためまだまだ勉強中といったところですが、YouTubeの動画やクリスタ専門書籍など参考になるものが多くてありがたいです。特に公式のQ&Aは優秀です」

 

 同漫画研究会のデジタル作画の初心者~初級者の実感としては、「3万円あれば入門編としては完璧、5万円あればものすごくいいのがそろう!」(※PCとモニターは別)とのことでした。なかなか初期費用が捻出できない学生の声、参考になったでしょうか?

 

 次回は「上級編」。ワコムの対抗馬が盛り上がってきている液タブ市場の今をさらいつつ、『週刊少年マガジン』で『ワールドエンドクルセイダーズ』を連載していた不二涼介さんに、アナログからフルデジに移行した経緯を詳しく聞いちゃいます。

 

お楽しみに!

 

(終わり)