※この記事は2016年「別冊少年マガジン」9月号に掲載されたものです。
新海誠監督特別インタビュー!!
「別マガ」のテーマ、“冒険”と“絶望”を語っていただきました!!
圧倒的な映像美と繊細な感情描写で少年少女の思春期を切り取ってきた新海誠監督。
この記事では、読者のために、最新作『君の名は。』までの6作品を監督自ら解説してくれました。
物語が生まれた「発想の原点」に迫る!!
「別マガ」創刊時のテーマとして知られている“絶望”
——新海監督の絶望とはーー!?
新海監督:
僕にとっての絶望は“コミュニケーション”です。恋愛でのコミュニケーションだけじゃなくて、人とのコミュニケーション全般。どうしてもあの人のことが分からない…とか、どうしても分かってもらえない…とか、そういうことだと思う。最終的には分かり合えないけど、何とかやっていこうかってなることも多いですけどね。
僕が30歳だとして“絶望”をテーマに何かを描けと言われたら、『ほしのこえ』や『雲のむこう、約束の場所』になったんだと思います。映画ではなく漫画であっても、きっと。
新海誠監督自ら語る!
『星を追う子ども』
原作・脚本・監督:新海誠
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:メディアファクトリー/コミックス・ウェーブ・フィルム
©Makoto Shinkai / CMMMY
「それは、“さよなら”を言うための旅。」
あらすじ
幼いころに父を亡くした明日菜は、父の形見である鉱石ラジオを聞くのが好きだった。彼女はある日、「アガルタ」から来た少年・シュンと出会うが、彼と突然会えなくなってしまう。その直後、シュンに良く似た少年・シンと出会った明日菜は、彼を追いかけるように広大な地下世界「アガルタ」へと向かう。それは明日菜の旅の始まりだった。
「アニメーション監督としてアニメーションを創ろうとした、初めての作品」
新海監督:
この作品は「アニメーション監督」として挑んだ初めての作品です。それまでは趣味性の強さもあって、アニメーション監督というよりはむしろ映像作家というスタンスでした。
だから、一から勉強しました。脚本の書き方を学ぶために昔話を読み込んで物語の原型を探ったり、デジタルではなく紙に絵コンテを描いてみたり。よりエンターテイメントにしたかったんです。でも今思うと、当時はエンタメ性というより、物語の普遍性を重要視していたように思います。どこか別世界に行って帰ってくる構造とか、死者を蘇らせる設定とか、古事記やギリシャ神話に通ずるところですよね。それが『星を追う子ども』の発想の原点でした。
『言の葉の庭』
原作・脚本・監督:新海誠
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:東宝映像事業部
©Makoto Shinkai / CoMix Wave Films
「愛よりも昔、孤悲のものがたり」
あらすじ
靴職人を志す高校生の孝雄は、雨の日の朝には新宿の庭園の東屋へ行き、授業をサボってスケッチするのが常だった。ある日、東屋で昼間からビールを飲む女性、雪野と出会う。ミステリアスな雰囲気を纏う彼女に孝雄は惹かれていき、2人きりの雨の日だけの交流が始まるが……。
「名前も知らない2人が一緒に雨宿りするって、なんだかいいですよね」
新海監督:
『言の葉の庭』では、とにかく完成度を高めることを目指しました。だから尺も46分と少し短めにして、しっかりとコントロールできる範囲で、文句のないものを一本つくろうと取り組んだんです。
「雨宿りをしていた見知らぬ2人が出会う」っていうシチュエーションが物語の出発点でしたね。確か最初の設定では、男子高校生と大人の女性ではなく、サラリーマンと女子高生だったと思います。今とは真逆です(笑)。
サラリーマンから変えたのは、僕にキャラクターが近くなり過ぎてしまうと思ったからです。キャラクターの広がりが限定されてしまうようで、あまり上手くイメージを膨らませられないんですよ。だから男子高校生を主人公にしました。その後、靴職人などの要素を足しながらストーリーをつくりました。
『君の名は。』
原作・脚本・監督:新海誠
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:東宝
©2016「君の名は。」製作委員会
「まだ会ったことのない君を、探している」
あらすじ
山深い町に暮らす女子高生・三葉は憂鬱な毎日を過ごしていた。その原因は、父の選挙運動や、実家の神社の古い風習。「こんな狭い町抜け出して東京に出てみたい!」そんなことを思い毎日を過ごしていると、東京の男子高校生になる夢を見る。なんと、田舎に住む三葉と、東京に住む男子高校生の瀧は、夢の中で入れ替わっていたのだ! 出会うことのなかった2人が出会い、運命の歯車が動き出す。
「多くの“種”が芽生えて、この作品になりました」
新海監督:
いろんなものが“種”となった作品ですね。制作発表のときに言った小野小町の「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせれば覚めざらましを」の和歌ももちろんそのひとつですし、この作品の前にやっていたクロスロードというCM作品もそうですね。遠く離れたところにいる男女がお互い知らないうちに交わるかもしれないという短編だったんですけど、手ごたえがすごくあって。それをさらに広げていきたいと思いました。
そして、「いつか出会う運命にあるかもしれない人」という関係は、『雲のむこう、約束の場所』の白い塔のイメージと同一なんです。ヒロインの実家の神社の古い風習は『星を追う子ども』の発想に繫がった昔話が根源にはあると思いますし。
この作品は、僕の中で積み重なってきたいろんなものが、絡み合ってできた作品なんだと思っています。
【コラム】
妄想 監督と神木さん(『君の名は。』主演・瀧役)が入れ替わったら。
神木隆之介さんと、もし心が入れ替わったらという話をした新海監督。結論、まったくいいことがない! 監督曰く、「舞台に立てば緊張するし、カメラの前に立っても何もできる気がしません。セリフもとてもじゃないけど覚えられないですよ。ホント悪夢です(笑)。
人には得意・不得意ってあるんですね。
編集Kの選ぶ名シーンプレイバック
『言の葉の庭』
新海誠の語る『君の名は。』の見どころ
すべてが見どころです。神木さん、上白石さんをはじめとする声優陣の芝居は本当にフレッシュだし、キャラクターデザインの田中将賀さん、作画監督の安藤雅司さん、ずっと僕を支えてきてくれた背景美術スタッフの仕事が素晴らしいのはもちろんのこと、RADWIMPSさんの奏でる音楽は映画から切り離せません。
すべて含めて唯一無二の作品になっています。自分の映画の中で、初めてお金を払って観に行こうかなと思っている作品です。
> 前編はコチラ