『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』の敏腕テレビプロデューサー・加地倫三氏に瀬尾先生がインタビューしました。
エンターテイメントが多様化する中、ヒットを連発する仕掛け人は何を考えているのか。
テレビ業界の旗手が目指す「意外過ぎるゴール」とは――?
『ヒットマン』の瀬尾先生がその極意に迫る!
加地倫三
テレビ朝日の演出兼エグゼクティブプロデューサー。
『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』などのヒットバラエティ番組を数多く担当する敏腕プロデューサーで、加地が起用した芸人は売れるとも言われている。
2019年春から始まる『テレビ千鳥』も手掛ける。
- ・『アメトーーク!』毎週木曜日 23:20~
- ・『ロンドンハーツ』毎週火曜日 23:20~(2019年4月より)
バラエティとマンガは似ている!
瀬尾先生:
本日はよろしくお願いします。手掛ける番組を次々とヒットに導く加地さんに、本日は【ヒットの極意】を伺っていければと思います。ずばり、【ヒットの極意】って何ですか!?
加地さん:
直球ですね(笑)。テレビにおけるヒットの定義は「高視聴率を取ること」と「話題になること」の2パターンあると思います。
瀬尾先生:
そうなんですね! てっきり、「高視聴率を取ること」だけがヒットなんだと思っていました。
加地さん:
ゴールデンタイム(19時~22時)に限っては、それも間違っていないかもしれません。多くの人がテレビを観る時間なので、「高視聴率=話題」の図式が成り立ちますから。
ただ、深夜番組などは、そもそもテレビ全体として視聴率が高くありません。だから、ネットで盛り上がったり、「好きな番組ランキング」でランクインしたり、DVDが売れたりしてヒット番組へと成長していきます。これが後者の「話題になる」です。
深夜番組の『アメトーーク!』はこちらのタイプでしたね。視聴率も当時から良い方ではありましたが。
瀬尾先生:
なるほど、放送時間でアプローチの仕方が変わってくるわけですね。
加地さん:
だから僕が視聴率を気にするのは、ゴールデンタイムの『ロンドンハーツ』だけですね。視聴率が出る月曜の朝は平気な顔して出社してますが、内心は気が気じゃありません(笑)。
瀬尾先生:
わかります! 僕も雑誌の「読者アンケート」では同じような気持ちになりますから。特に順位が悪い週が続くと、結果を見たくなくなりますね。すぐに次の週のことを考えなきゃいけないのも憂鬱です。
加地さん:
テレビも同じです! 次の放送や収録を何とかしなければいけないので、落ち込んでいる時間もありません。
瀬尾先生:
お互い大変ですね(笑)。では改めて【ヒットの極意】を教えてください。
加地さん:
僕は、できるのであれば、ヒットしたくないなと思っています。
瀬尾先生:
え、ヒットしたくない……? 一体どういうことですか!?
ヒットを出さないことがヒットの秘訣?
加地さん:
番組にとって「終わること」が最も悪いことですよね。いわゆる「打ち切り」。だから、僕は常に終わらないよう「継続すること」を最も意識して番組を作っています。
そのためにはヒットしすぎない方がいいんです。
瀬尾先生:
素人考えでは、ヒットしたほうが継続できそうな気もしますが……。
加地さん:
ヒットするのが悪いわけではないのですが、ハードルが上がり過ぎるのはよくありません。
「行列のできる店だ」と紹介されて行ったお店って、待っている間にどんどん味に対するハードルが上がり過ぎてしまいません? 普通に食べたら美味しいのに、余計な先入観なども邪魔して、「美味しいけど、言うほどかな?」みたいな。
そうすると、お客は二度とその店には行かないじゃないですか。テレビも同じで、だからこそ僕はハードルを上げないで番組を観てもらえるように心掛けています。
瀬尾先生:
確かに、友達に「めっちゃ面白いから!」と勧められた作品だと期待しすぎちゃって、鑑賞後に物足りなく感じることがよくあります。
加地さん:
そう、その物足りなさが問題なのです! だから『アメトーーク!』が「好きな番組ランキング」の第1位に選ばれたときは、正直嫌でしたね。1位ってめっちゃハードル高いじゃないですか。
それに、翌年以降1位ではなくなってしまった時には「『アメトーーク!』も旬を過ぎたね」って思われてしまうリスクもあるし。
瀬尾先生:
あー、「落ち目感」みたいなものは出てしまうかもしれません。
加地さん:
だから、逆にいつも右肩下がりだと思ってやってましたし、その対策もいろいろやりました。
ゴールデン帯の『ロンドンハーツ』では、調子が良すぎた時期には、「視聴率を下げるであろう新しい企画」をやりましたし、深夜番組の『アメトーーク!』ではコアで万人受けしづらい企画を行いました。
瀬尾先生:
そこまで徹底されているのですね!
加地さん:
これには別の意図もあって、これまでとは違う別の「武器」を手に入れるためでもあるんです。
瀬尾先生:
武器……?
加地さん:
たとえば、ものすごく当たった企画や視聴率が高かった企画があったとして、毎週そればかりを放送したら、いつかは飽きられてしまいますよね。実際そうやって、一時的にはヒット番組になったのに、終わっていった番組をいくつも見てきました。
そうならないために、僕は別の企画を挟みます。
ヒット企画が150km/hの豪速球として、それを全球投げていたら目が慣れて打たれてしまいますよね? 投手がスピードを遅くした変化球をいくつも混ぜて打者を揺さぶるように、ヒット企画じゃない別の球種を視聴者に見せながら飽きさせないようにするんです。
豪速球企画で派手に三振を取らなくても、変化球企画でしっかりアウトを取ればいいんです。
瀬尾先生:
『アメトーーク!』の企画の振れ幅が大きいのにはそんな理由があったのですね。人気マンガから油揚げまで球種の揃い方が半端じゃありません(笑)。