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「マガジンでファンタジーは成功しない」と言われながら大ヒット 『RAVE』『FAIRY TAIL』『EDENS ZERO』の真島ヒロ先生&担当編集タッグに『ヒットマン』瀬尾公治先生がインタビュー!【前編】

『涼風』『君のいる町』『風夏』とヒット作を生み出してきた瀬尾公治先生が、漫画編集部を舞台にした漫画『ヒットマン』を週刊少年マガジンで連載中。

 

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これを記念し、さらには「あわよくば作品のネタがほしい」という目論見の下、瀬尾先生が名作を作った漫画家&編集者タッグにインタビューする企画「あのタッグに聞いてみた」がマガポケベースで始まりました。

 

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担当編集者・松木則明さん(左)と真島ヒロ先生(右)

第ニ回目である今回は、『RAVE』『FAIRY TAIL』と大人気バトルファンタジーを世に送り出し来た真島ヒロ先生と、初の持ち込み時からずっと真島先生の編集を担当している松木則明さん(銀杏社)のタッグがお相手。「マガジンでファンタジーは成功しない」と言われる中でヒットを生み出した2人はどのような道を歩んできたのか、話を聞きました。

 

  • 持ち込み作品を見て「楽しんでいるな」と思った

瀬尾 まずはお二人の出会ったときの第一印象をお聞かせ下さい。

真島 初めて会ったのは22年前、僕が19のときに講談社に持ち込みをしたときですね。優しそうだなと思いました。漫画に出てくるメガネのキャラと言えばこんな感じっていう(笑)

松木 僕が25のときかな、編集者になって3年目ぐらいでした。

真島 持ち込みの電話をしたときは松木さんじゃなくて、すげぇ怖そうな人だったんです。「月曜日持ち込みしたいんですけど」と言ったら「ちょっと月曜日空いてねぇなぁぁぁ!」って怒鳴られて、「こえええええ」ってなりました。電話口の向こうで「松木ちょっと空いてっかぁぁ!?」「ふぁいっ」みたいな声が聞こえて(笑)

 

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瀬尾 でもそれってすごいラッキーでしたね(笑) そこで電話口の人が担当していたらデビューしていない可能性だってあるわけなので。

真島 そうですね、お互いにとっては。めぐり合わせってありますよね(笑)

瀬尾 松木さんからみた、真島さんの印象は?

松木 ヤンキーが来た(笑)

一同 爆笑

松木 金髪だったんです。ピアスもしてて、僕の世代はピアス開けるって勇気いることだったから。しかも、顔をやや伏せながらこっちをチラチラ見てくるから、「あ、ニラんでいる」みたいな感じで。あと当時は最先端のおしゃれだったんだろうけど、とっぽい格好で。

真島 とっぽい!!

松木 打ち合わせの後、先輩に「まっちゃん大丈夫だった……?」って心配されました(笑) でも今思えば、ただ緊張しているおしゃれな青年ですね。 

瀬尾 そこから定期的に会うようになったんですか?

真島 週1、2回は必ず打ち合わせっていうくらい頻繁に会っていました。最初は担当が付くってことがよくわかっていなかったので。「担当付いている=すごい」みたいなステータスを感じていたので、どうやったら担当になってもらえるんだろう、忘れられないようにとしつこく電話して持ち込みしてましたね。

松木 「また持ってきて」みたいなやりとりを続けていたから、なんとなく担当でしょ? って思っていたんだけど(笑)

真島 でもあれ、「僕が今日からあなたの担当です」ってしっかり言ってくれなきゃわかんないですよ!

瀬尾 松木さんから見た、作品の第一印象はどうでした?

松木 楽しんでいるな」でした。持ち込みしてきた作品のタイトルが『XYZ』っていうカクテルの名前だったんだけど、登場人物も全員カクテルの名前で。僕は『めぞん一刻』世代なんですけど、あれも五代くんとか四谷さんとか……キャラの名前に数字が付いているんですね。そういった名前付けに遊び心が入っているところに「楽しんで描いているのかな?」って印象を受けていました。

 

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瀬尾 作風はやはりバトルファンタジーだったんでしょうか。

松木 『FAIRY TAIL』ほどバトルファンタジーってわけじゃなかったです。でもプルーはすでに出ていましたね。

真島 松木さんの基準がわかりませんが、僕の中ではバトルファンタジーだったんですけどね(笑) ずっとやっているマンガの走りです。

瀬尾 そのときなんと言われたんでしょう。

真島 「女の子をかわいく」と「丁寧に」、あと「読者を意識しよう」。それまで全部誰にも言われたことのない言葉だったのですごく印象に残っていますね。だって、自分が描く女の子って可愛いと思っていたから、「うそでしょ!? 何言っているんだ、この人!!」と思って。「丁寧に描け」は集中線も枠線も何から何までフリーハンドで描いていたのでわかったんですけど、「読者を意識」については、そのときはまだ全然ピンとこなかったです。

瀬尾 わかります。持ち込みするときって自分が天才だと思って行きますからね(笑)

真島 そうですよね!(笑)

松木 3年目目なりに、もっといいこと言えれば良かったのに、ずけずけ言っちゃってんでしょうね、きっと。

真島 でも今まで言われたことがないことをガツンと言われたのが刺激になりました。そこで「あいつ、俺のマンガわかんねーや」と諦めちゃう人も、きっといるわけじゃないですか。僕はそこであの人を見返してやりたいとがんばりました。

松木 この持ち込みの後に3日くらいで、のちに新人賞で入選を取る『MAGICIAN』のネーム60ページ分を描いてきたのかな。

真島先生の『MAGICIAN』はここで読める!

 

真島 忘れられちゃいけないという思いもありましたね。

瀬尾 わかりますね……おんなじような経験をしているので。

松木 すごく覚えているのは、こっちの意見をただ鵜呑みにするだけじゃなく、「こういう直し方にしてみました」と自分なりの意見を反映させてきたことです。プロでは当たり前ですけど、持ち込みしたばかりの新人には珍しかった。たくましいなぁと。

真島 なんでだったんですかねぇ……そうするよう言われたわけでもなかったんですけど。

 

  • 真島先生のファンタジー脳と、松木編集のマガジン意識

瀬尾 当初から現在に至るまで関係って変わりました? 打ち合わせの仕方とか。

真島 うーーん。昔より、あまりいろいろ言ってくれなくなりましたね(笑) 最初の頃はガンガン言われてはしょんぼりして帰ることが多かったんですけど、今はあんまり言ってくれないので、逆にこれでいいのかなと思うこともあるんですけど。

松木 『RAVE』のときとやり方はだいぶ変わりましたね。最初は下打ち(※ネームを描く前の打ち合わせ)をばっちりやっていんですけど、途中でやめたんです。「下打ちを無しにしてとりあえず最初からネームでみてください」って、『RAVE』の途中で真島さんのほうから言われたんですよ。下打ちって、いろんな意見を出し合えるので「なるほど!」とはなれるんですけど、その分、自由な発想がなくなっちゃうのかもしれないし、いい意味での苦しみも必要だと思って、そうすることにしました。

真島 今だったらどんな意見も受容できるんですけどね。おもしろい意見だったら取り入れたり、意見を踏まえた上でもっと別のことを考えたり……それだけの経験を積んできたので。

瀬尾 ファンタジー漫画特有の打ち合わせの大変さってあります?

真島 打ち合わせで「このシーンはこの映画のこの部分」「このゲームのこの部分」といろんなものに例えるんですけど、松木さんにまったく通じないところでしょうか(笑) しかも極端にファンタジーに疎いんです。20年もファンタジー漫画打ち合わせしているのに! ……でも、逆に助かっているっちゃ助かっているんですよ。松木さんほど知らない人がおもしろいと思えば、読者もおもしろいんじゃないんかと。

瀬尾 森川ジョージ先生が、担当の野内雅宏さんがあまりボクシングに興味なかったことが逆によかったとおっしゃっていたのと似ているかもしれません。

松木 『RAVE』連載当初はマガジンでファンタジーは成功しないってずっと編集部内で言われていた頃だったんです。打ち合わせしていると先輩に笑われるぐらいの時期もあって。だから成功させるために、ファンタジー部分に関しては真島さんのほうが数倍素養があるんだから任しちゃって、僕は「感情をもっと入れていくべき」だとかマガジン読者に受け入れられるような意見を心がけていました。

 

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真島 それはすごく覚えています。

松木 人と人との結びつき、そこに流れる感情、主人公のモチベーションとか、そういったことだけは大事にしようと、毎回ネーム打ち合わせで強く言っていた気がします。真島さんもいい意味で描きたいことがいっぱいあって世界観をどんどん広げていくんだけど、そこに「ちょっと待って、ここでもっと感情出ないかな」とか。

真島 ファンタジーならこういう展開です、っていう僕の提案に対して、漫画だったらこういう展開だよ、とアドバイスをもらう打ち合わせでしたね。

―― アドバイスが活かされた、印象的なシーンはありますか?

松木 会心だったのが、『RAVE』でハルたちがパンプキン・ドリューを倒すシーン。みんなでハルに「頼む」と魂を繋ぐんですけど、あのシーンはすごく「思いを繋げよう」って真島さんに伝えたし、内容に結びついた気がします。いい回だったなぁ。

 

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仲間の魂を繋ぎ、強敵ドリューを倒すシーン(『RAVE』134話より)

 

真島 僕は『FAIRY TAIL』の2話目です。作品の性質上、最初から主要キャラがドバーってたくさん出てくるんですよ。読者もきっと混乱するだろうなと打ち合わせで話しているとき、僕はファンタジー脳なので「こんなキャラいっぱい出てきて楽しいでしょ?」で魅せようと話していた。でも松木さんが「そこはまとめる役が必要だ」と言ったからマスターのマカロフが出てきて、ちゃんと最後には本筋に繋がっていく流れに決まったのを覚えています。

 

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「妖精の尻尾」をまとめあげるマカロフ(『FAIRY TAIL』2話より)

 

松木 3話目ぐらいまでは、1話ごとにそれぞれのテーマを作りたくて。1話目ではナツとルーシィの「キャラクター同士の出会い」を描いて、2話目は「ギルドのキャラクターを立てよう」と。そこでマカロフが演説するシーンが出てくるんですけど、それは打ち合わせの中で「妖精の尻尾はこういうギルドだ」と読者にわかってもらうために入れてもらいました。マカロフのセリフのニュアンスなどは真島さんがいいアイディアを出してくれましたね。

真島 けっこう今後の展開がガラッと変わることもあるんで、打ち合わせって大事ですよね。

 

【続きの後編はこちら!】

 
(文・構成:黒木貴啓