※この記事は2016年「別冊少年マガジン」9月号に掲載されたものです。
新海誠監督特別インタビュー!!
「別マガ」のテーマ、“冒険”と“絶望”を語っていただきました!!
圧倒的な映像美と繊細な感情描写で少年少女の思春期を切り取ってきた新海誠監督。
この記事では、読者のために、最新作『君の名は。』までの6作品を監督自ら解説してくれました。
物語が生まれた「発想の原点」に迫る!!
新海監督にとっての冒険とは!?
Profile:
新海誠 1973年生まれ 長野県出身
個人で制作した短編作品『ほしのこえ』でデビュー。数々の賞を受賞し、日本アニメ界の次世代を担う監督して大いに注目を集めている。新海監督の作品は“映像文学”と評されることも。
——「別マガ」の表紙にも掲げられている“一番新しい冒険の書!”
新海監督にとっての冒険とはーー!?
新海監督:
“冒険”と聞いて、初めに思い浮かぶことは“知らない場所に行く”ということです。かねてから僕の中には、「見たことない風景を見たい」「知らない人に会いたい」「知らない街で暮らしてみたい」という思いが、ずっとありました。例えば舞台挨拶で知らない街に行くと、「ここに住みたい」と思うことが、たまにあります。実際に引っ越すことはしませんが、普段の生活とは違う風景が、そこにあるような気がしてて。
今回の「君の名は。」をつくった後にも、「今まで想像もしてこなかったような人」「絶対交わらない人生を送っているような人」と、この作品を通じて会うことができるんじゃないかという思いを持ちました。
だから、映像作品をつくるということが、僕にとって“冒険”のひとつだと思います。
次なる、“冒険”はいつーー!?
新海監督:
最近、作品をつくり上げたあとの風景が「あんまり変わらなくなってきたな」と思うことがありました。その都度、新しい人が見てくださったりもするし、熱のこもった言葉を下さるんですが、僕から見える景色はいつも一緒だなっていう感覚があったんです。
だけど、『君の名は。』という冒険を通して、今までとは違う景色を見ることができるんじゃないかと思っています。
でき上がってから一週間くらいしかたっていないので、次回作とかはまだノープランですけど(笑)。自分自身が違う経験をして、これまでとは違う作品が出てきたらいいなって、漠然とした期待をしています。
アノ作品の「発想の原点」とは?
『ほしのこえ』
監督・脚本・美術・撮影:新海誠
配給:MANGAZOO.COM
©Makoto Shinkai / CoMix Wave Films
「私たちは、たぶん、宇宙と地上にひきされたる恋人の、最初の世代だ」
あらすじ
中学生のノボルとミカコ。彼らが淡い恋心のようなものを抱いていた中学3年の夏、ミカコは宇宙を調査する国連軍の選抜メンバーに選ばれた。地上と宇宙に離れた2人を繋ぐのは、携帯電話のメールだけ。徐々に離れる距離はメールの電波の往復にかかる時間も引き延ばしていき、ノボルとミカコの時間のズレは決定的なものになっていった……。
「当時のメールはLINEと違って既読がつかなかったーー」
新海監督:
コンピュータを使ってモノをつくる。その技術で何ができるか試してみたいっていうのが出発点でした。
僕は元々ゲーム会社に勤めていて、ゲームのOPなどをつくっていました。そこでコンピュータを使った映像制作の面白さを知ったんです。でも、それはあくまでゲームのための映像なので、“映像のための映像”=“それ単体で物語を持っている映像”をつくってみたくなりました。それが『ほしのこえ』制作のきっかけですね。
物語の“中身”には、当時、自分が使い始めたばかりの“携帯メール”を使いました。「返事が返ってくるのかもわからない」そんなコミュニケーションを主軸にしたいなと思ったんです。携帯メールに触れてみて色々感じることがあったんですよね。だからそれをテーマにしてみたかったんだと思います。
『雲のむこう、約束の場所』
原作・脚本・監督:新海誠
制作・配給:コミックス・ウェーブ
©Makoto Shinkai / CoMix Wave Films
「あの遠い日に僕たちは、かなえられない約束をした。」
あらすじ
青森に住む中学生のヒロキとタクヤは、国境のむこう、蝦夷にそびえたつ「ユニオン」の塔まで自作の飛行機「ヴェラシーラ」を飛ばすことを夢見ていた。そして2人が恋心を寄せるサユリに、いつかあの塔まで連れて行くことを約束する。しかし、何の連絡もないまま彼女は姿を消してしまう。やがて、徐々にサユリと塔を繫ぐ関係が明らかになっていく……。
「埼京線の高架下に沿って歩くと池袋の焼却炉が見えるんです。白い塔みたいな」
新海監督:
ビジュアルイメージが真っ先に浮かんでつくったのがこの作品です。海の向こうに真っ直ぐ立つ白い塔。遠くに見える何かを目指すような物語にしたかった記憶があります。
当時、僕は武蔵浦和に住んでいて、埼京線の高架に沿って歩いていくと、池袋に焼却炉の塔が見えました。白い塔が。それが自分にとっては大事な何かかもしれない、仮に希望でなくても、そこに行けば出会うべき運命が待っているような、そんな気にさせてくれたんです。
そのインスピレーションがこの物語の「遠く海のむこう、北海道に飛行機を飛ばす男の子たちの物語」に繫がったんだと思います。塔は、希望ではないんだけれど、誰か大切な人が待っていそうな、そんな予感の象徴として描きました。
『秒速5センチメートル』
原作・脚本・監督:新海誠
制作・配給:コミックス・ウェーブ・フィルム
©Makoto Shinkai / CoMix Wave Films
「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか。」
あらすじ
東京の小学校に通う貴樹と明里はお互いに恋心を抱いていた。しかし、明里が転校することになり2人は離れ離れになってしまう。中学生になった貴樹は、ある冬の日、彼女に会いに行くことを決意する。しかし、雨が雪へと変わり彼女が待つ駅へ向かう電車は遅延してしまう……。
「あなたはきっと大丈夫」って言葉から出発した作品。
新海監督:
前作『雲のむこう、約束の場所』で90分という長編に挑戦してみて、ものすごく大変だったんです(笑)。アニメーション制作のことは何もわからず手探り状態だったし、制作体制も自分には手に負えないと思えるくらいに大きくなってしまって。もっと自分ですべてをコントロールできる作品がつくりたいなと思ったんです。それが、連作短編の形式を用いた『秒速5センチメートル』の原点でした。
短い文章や言葉から発想して、SF的要素は入れず、現実のシチュエーションだけで話をつくりました。作中で、主人公に向かって初恋の女の子が「あなたはきっと大丈夫」って言葉を書くんですけど、例えばそんな、“想い”とも言い換え可能な言葉とか。そんないくつかの言葉たちが紡いでいった物語でしたね。
【コラム】
新海監督は七色の声を持っている!?
ビデオコンテを先につくるという手法をとる新海監督は、そのラフなビデオにキャラのセリフまで自分で入れるそう。
女の子の声も、おばあさんの声も全部C.V.新海誠。『君の名は。』三葉役の上白石さん曰く、女の子の声は可愛かったそうです。
編集Kの選ぶ名シーンプレイバック
『ほしのこえ』
『星を追う子ども』
『雲のむこう、約束の場所』
『秒速5センチメートル』
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