マガポケベースマガポケの秘密基地! ここだけで読める面白記事あります!

【第110回新人漫画賞締め切り直前特別企画】〜漫画家を目指すキミに贈る〜漫画家への花道 『おかえりアリス』押見修造先生が新人漫画家の悩みを解決!

新人漫画家さん必見!! 今回は、第110回新人漫画賞締め切り直前特別企画として、漫画家先生へのインタビュー「漫画家への花道」を大公開! 『おかえりアリス』の押見修造先生が新人漫画家の悩みを解決しちゃいます!

 

繊細かつ大胆
“剝き出し”の十代を描く青春群像劇の鬼才
『おかえりアリス』の押見修造に聞く!

〈抉り出す〉表現の極意!!

『惡の華』、『ハピネス』の押見修造先生が描く『おかえりアリス』。十代の等身大の葛藤と衝動を生々しく描き出し、少年誌の臨界点を突破し続ける押見先生を直撃取材!!

 

押見修造先生Profile
大学在学中の2002年に『夢の花園』でちばてつや賞ヤング部門優秀新人賞受賞。同年、コミック焦燥(太田出版)に掲載された『真夜中のパラノイアスター』でデビュー。その後、別冊少年マガジンで『惡の華』、『ハピネス』を連載。2023年3月現在、ビッグコミックスペリオールにて『血の轍』、別冊少年マガジンにて『おかえりアリス』を連載中。

 

●極意一
自己分割的キャラ作り

――本日はよろしくお願いいたします!


 よろしくお願いします!


――押見先生は、自分の内面を抉り出すような作劇法でこれまで多数のヒット作を生み出され、現在は、少年誌と青年誌で並行して連載されるなど、多方面で活躍されていますよね。今回は、そういった作品をつくるうえで必要なことや工夫などを伺っていければと思います。


 僕で良ければ(笑)。ただ、ひとつ前提として、今回お伝えする漫画の描き方は、少年誌というより、青年誌に寄っているかなと思っていて、アクセントというか、王道じゃないものの作り方として読んでいただけたら幸いです。


――なるほど。押見先生の中で、少年誌で描くときと青年誌で描くときで何か違いはありますか?


 正直に言うと、ほとんどありません。強いて言えば、想定読者が違いますかね。少年誌の場合は想定読者として中学二年生の自分がいて、青年誌だともうちょっと幅広く、生まれてから今までの自分全部に向けているような感じです。


――なるほど。ご自身をイメージして描かれてるんですね。


 そうですね。それはキャラクター作りでも同じです。自分をいくつかに分けるようなイメージですかね。例えば、主人公はだいたい自分のセルフイメージとして作ります。ヒロインは本来あるべき自分というか、想像の中の自分の象徴という感じです。そこにだいたいもう一人ヒロインが絡んでくるんですけど、そっちももう一個の自分、社会的な自分という感じで。そんな風に自分を分けていって、みんなで戦ってもらうっていう感じです(笑)。

 

▲押見先生の一部が投影されたという、『おかえりアリス』のキャラクターたち。

 

――たしかに、『おかえりアリス』の洋平・慧・三谷もそんな感じで戦ってますよね(笑)。逆に、全くのゼロから、自分とは関係の無いところから生み出されたキャラクターは今までいましたか?


 いないような気がします。具体的に友達や知り合いの人をモデルにしてみようということもあるんですけど、そのモデルにした他人と自分の中の何かをくっつけてみるという感じですかね。ただ面白いのが、それが描いているうちに、自分でありつつ、自分ではないような感じに変化していくんですよね。そうすると一気にキャラクターとして生き生きしてくるような気がしていて。それがいつも難しいなぁと思っています。


――『おかえりアリス』の中でも話が展開するにつれて、段々キャラクター像が変化していく感覚がありました。


 それが自分のやりたいところでもありますね。少年漫画的には主人公とかヒロインに理想を込めるというのが方法として一個あると思うんですが、自分は元々青年漫画なので、逆にそれを壊す方向で作ることが多くて。最初は理想的な、幻想を抱かせてくれるような人物が、だんだん壊れていくというのがやりたいです。


――そんな“歪み”を抱えているのが、押見先生の描くキャラクターの魅力だなと思います。


 ありがとうございます。たしかに、僕のキャラは歪んでいると言っていただくことが結構あるんですけど、自分ではあまり歪んでるという意識は無くて、普通に自分の好きなキャラを描くとこうなっちゃいます。よく悪役とかで、悪役のヤバさみたいなものを演出するためにわざとらしく過激な言動をさせてみたりとかあると思うんですけど、それはあんまりやりたくなくて。キャラの魅力を足すために歪みを足しているわけではなくて、自分の感情移入できる人間や、好きな感じの人間を描きたいということですかね。


――歪んでる人間の方が感情移入しやすいということでしょうか?


 と言うより、そもそも、すべての人間はもともと歪んでいるのではないかと思っています。「真っすぐ素直」というイメージの方が逆に自分からすると歪んで見えるんです。本来の自分に耐えられないから「真っ直ぐ素直」であろうとして、社会性や常識を身に着けるということなのでは、と思っています。本来の姿を本来の姿として描こうとすると、標準からすると歪んで見えるということなのではないでしょうか。

 

▲「本来の姿」が抉り出された見開きページ。有無を言わせない迫力が読者を釘付けにする。

 

●極意二
エンタメじゃなくても伝わる!

――なるほど。ただ、そうやって“本来の姿”を描くことって、恥ずかしかったり、苦しかったりするものなのかな、と思うのですが…。


 苦しいです(笑)。 なので、自分を壊して描いてます。


――自分を壊す!? 


 ″自分の無意識に降りて行く”と言ってもいいかもしれません。内面を説明しようとしたり、分かってもらおうとすると、つい言葉で説明しちゃいがちですけど、その時点で既に守りに入ってしまってるんですよね。無意識の中で出くわした自分をそのままさらけ出すというか。「皆で見てバカにしてください、全否定してください」という感じでやるとちょうどいいんじゃないかと思っています。


――そういう内向きなものをエンタメとして読者に届けるのは、とても難しそうだなと思います。


 個人的には、そんなことは無いんじゃないかと。そういう内向きなものはエンタメに落とし込まないと伝わらないと思われがちですし、「これは自分の個人的なことだから作品にならない」と思ってしまって、描けなくなる人はよくいると思うんですが、それ自体が原因なんじゃなくて、それをやって自分が壊れてしまうのが怖いというのが原因なんじゃないかと思うんです。壊れないように、自分を守るために「描けない」という状態に陥るという。自分を壊せれば、内向きなものでもちゃんと伝わるはずだと思っています。

 

●極意三
ネームの前に、脳内映像を固める

――それらを具体的に演出に落とし込んでいくうえで、どのような訓練をされたのでしょうか。


 まずはひたすら絵の練習をしました。僕も新人漫画家時代、色々やりたい演出とかあったんですけど、当初は画力が全然追いついてなくて。頭の中でしたい演出にアウトプットが追いつかないというか。こういう構図が描きたいけど、絵が下手だから描けないみたいな感じだったんですよね。だから、絵の練習をすることによって、段々描きたい構図なり演出なりが描けるようになっていったっていう感じだと思います。


――絵の練習と並行して、演出力強化のために実践されていたことはありますか?


 良く映画を見ろとか言いますけど、あんまり参考にした記憶が無くて。それよりは、妄想というか、頭の中にある風景とか記憶をどうやって漫画に落とし込めばいいかを考えていました。たとえば、一回文章にしてみるとか。脚本なり小説なりにして、イメージを膨らませることが多いですかね。僕はネームの前に最初プロットを作るんですが、その段階で漫画のコマ割りの状態じゃなくて、脳内映像として固めるというのをやります。そこが固まっていないとネームをしてもフワフワしちゃうので。それは映画とは違って、空気とか音とか感触を肉眼で見ている感じです。そういうものがあったうえだと生々しくなるんじゃないかなと思います。


――その風景や記憶は、実際の体験に基づいているものが多いのでしょうか?


 そうとも限りません。もちろん、実際の記憶を用いることもありますけど、本当はそうだったかもしれない過去というか、どこかの時点で分岐して自分は今この状態でいるけど、あそこで違う分岐を辿ってたら本当はこうなってたんじゃないかとか、あとは、あの時は全然本音を言わなかったり、内に隠してて外に出さなかったけど、あれを外に出してたらどうなったんだろうみたいなことを、事後的に思い出すっていうんですかね。本当は無かったんですけど、それを記憶として作ってみて、実際にあったことのように思い出すというのが自分の方法論ですかね。


――なるほど。それを具体的に描写していくうえで、どのようなことを意識されていますか?


 単純に、コード的に少年誌は性描写とか裸体が描けないので、それをどう逆手にとるかということは意識してます。直接描写ではなくて、どう間接的に表現するかを追究していく感じでしょうか。『おかえりアリス』はだいぶ直接的だとは思いますけど、これでも間接的にしようと思ってあんな感じになってます(笑)。


――『おかえりアリス』でも、裸体を隠す白ボカシや墨ベタを回によって変えているのが印象的でした。あの使い分けにはどのような意図があったのでしょうか。


 ずっと白で自然にぼかしてるのがなんか寂しい感じがして。それを黒でやると「修正」を意識させられて、抑圧されてる感じや禁止されてる感じがこの漫画にはふさわしいかなと思ったんです。ただ、雑誌に載った時の違和感が良くも悪くも凄くて、突出し過ぎたかなと思います(笑)。単行本では外す予定です。

 

▲墨ベタで塗りつぶされた裸体。「昔の成人漫画みたいで気に入っていた」とのこと。

 

●極意四
煮詰まった時は、受動的になる

――こうやってお話しを伺っていると、押見先生はご自身の描こうとしているものを明確にさせているという印象を受けます。ただ、新人さんのなかには「そもそも描きたいものが分からない」という人も多くいるかと思います。そのような場合は、どう創作に臨めば良いのでしょうか。


 描きたいものが見つからないというのは自分もものすごくそうでした。何となくモヤモヤしてエネルギーはあるんですけど、どっからどう出していいのか分からないみたいな感じがあってすごく辛かったんです。ただ、今になって思うと、描きたいものが何かなんて考えてたら何も描けるわけないよなと思うんですよね。描きたいものなんて別に無いですからね。僕も自分の好きな漫画とかがあって、こういうのが描きたいんだよなぁってずっと思ってたんですけど、でもそれは錯覚というか、本当はそういう風に思いたいというだけで、憧れているというだけで、別に描きたいものではないんですよね。だから、ポロって出てきちゃうものとか、つい描いちゃったものとか、手応えがあるときというのは「あ、これを描かなければいけなかったんだ」と言えるような時だと思うんですよ。それが無いとだいたいつまんなくなるという感じがします。


――事後的に描きたいものが見つかる、ということでしょうか?


 そうですね。何となく、部屋の中のどっかに勝手に動き出す機械があって、それを見つけてスイッチをオンにさえすれば出てくるんだと思うんですよね。でも自分も含めて、なかなかみんなそれがオンにできない。だから辛くて、何が描きたいのか分かんないって悩んじゃうんですけど、能動的になるとなかなかそれがオンにならない。受動的になるっていうんですかね、コントロールしようとしないで、なんとなく自然な感じでスイッチをオンにしてそれを眺めているという状態に入れればいいんだよなぁといつも思います。なんか発想しなきゃとかアイデアを見つけなきゃとかいう時には何も出てこなくて、どうとでもなれ、と受動的になった時に初めて出てきたみたいな感じがありましたね。同じタイプの人はその方法でいけるかもしれません。


――本日はお忙しい中、ありがとうございました!


 こちらこそ、ありがとうございました。

 

『おかえりアリス』は「別マガ」で大好評連載中!

 ▼1話無料試し読みはコチラから!

pocket.shonenmagazine.com

 

第110回新人漫画賞
特別審査委員長は内藤マーシー先生!!

締め切りは2023年3月31日必着! ご応募お待ちしております!!

 

ぜひ周りの人にも教えてあげてください!

感想をツイートする

 

▼過去の「漫画家への花道」はコチラ!

pocket.shonenmagazine.com

pocket.shonenmagazine.com

▼過去の新人漫画賞はコチラから!

pocket.shonenmagazine.com

pocket.shonenmagazine.com