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世界中にヤマタノオロチ伝説!? 『巨竜戦記』を2倍楽しむ歴史ガイド#2

世界中にヤマタノオロチ伝説!? 『巨竜戦記』を2倍楽しむ歴史ガイド#2

『巨竜戦記』を2倍楽しむ歴史ガイド第2号!


前回に引き続き『巨竜戦記』の本田真吾先生が「古事記」と「日本書紀」について知見のある松本直樹教授にインタビューしていただきました!

 

インタビュー「古事記って何ぞや!?」 『巨竜戦記』を2倍楽しむ歴史ガイド#2

ヤマタノオロチがヤシオオリの酒を飲む絵

ペルセウス・アンドロメダ型神話!?

本田先生:
松本先生、前回に続き、ありがとうございます!

先日のお話で、『古事記』などの日本建国の神話を編纂する際に、日本列島にヤマタノオロチ伝説に似た神話が存在していて、それを取り入れたのだろうと伺いました。

そして、世界の広い地域で同じ筋書きの神話が伝承されているともおっしゃっていました。今回はこちらについて、もっと詳しくお話を伺いたく思います。まずこの筋書きというのはどういったものなのでしょうか。

 

松本教授:
「ペルセウス・アンドロメダ型神話」の話ですね。まず初めに、この話型の名称の元になったギリシャ神話の「アンドロメダの救出」からお話ししたいと思います。

英雄ペルセウスは、怪物と化したメデューサを倒し、その首を持って、ペガサスに乗り、母親のもとに帰る途中で、海岸に鎖でつながれている美女を発見します。この美女の名がアンドロメダで、彼女は海の怪物ケートスの生贄にされるところでした。

アンドロメダの母であるカシオペアが、「自分は神よりも美しい」と豪語したために、海神ポセイドンの怒りを買って、海の怪物が送り込まれたのでした。

怪物は船を襲い、大津波を起こし、人々を苦しめました。その怒りを鎮めるには「アンドロメダを生贄にする」しかなかったのです。それを聞いたペルセウスは、怪物退治を決意。襲い来る怪物に向かって、持っていたメデューサの首をさし出し、怪物を石に変えて撃退し、のちにアンドロメダと結婚したという神話です。

 

本田先生:
本当にヤマタノオロチ伝説にそっくりですね!

 

松本教授:
神話というのは、もともと口で語り伝えられていたので、少しずつ違った形(例えば怪物の名前やペルセウスの乗り物が違ったり)の異伝もありますが、だいたいこんな話です。

この神話が有名なので、「ペルセウス・アンドロメダ型神話」という名称が生まれましたが、これが世界中で伝承されている類話の原型とか、典型というわけではありません。世界の類話をまとめると、だいたい次のような話の骨格が見えてきます。

 

1.怪物(多くの場合、竜や大蛇の形)が人々に災いをもたらす
2.怪物は定期的にやってきて、一人の乙女を生贄として要求する。
3.そこに英雄が現れ、怪物を退治する
4.最後に、英雄と乙女とが結婚する

 

本田先生:
確かにヤマタノオロチ伝説は「ペルセウス・アンドロメダ型神話」の特徴そのままですね!世界のヤマタノオロチ伝説に似た、他の物語についてもお聞きしたいです!

 

松本教授:
四世紀に書かれた中国の『捜神記』に竜蛇退治の説話が載っています。福建省の湿地に人々を苦しめる大蛇がいて、その大蛇は人の夢や巫祝(ふしゅく。神の言葉を聞くことができる人)を通して、12~13歳の少女を生贄として要求してきました。

役人たちは毎年八月一日の祭りの日に、奴隷の娘や罪人の娘を探しては大蛇に捧げ、その数は9人に及びます。十年目のこと、ある家の寄(き)という名の末娘が、親を救うために、自ら大蛇の生贄になることを志願します。

彼女は剣を携え、犬を連れて、大蛇のすむ洞穴の近くに待機。ご馳走で大蛇をおびき寄せたところを、犬が噛みつき、少女が剣で斬り、大蛇を倒したという話です。

 

まだまだある! 世界に伝わる共通の神話!

本田先生:
英雄の部分は異なりますが、定期的に生贄をささげるあたりは、ヤマタノオロチ伝説に似ていますね。
古事記の中に登場する神話で、世界の広い地域で共通して伝承されているのは、「ペルセウス・アンドロメダ型神話」の他にもあったりするのでしょうか?

 

松本教授:
世界に広くということになると「メルシナ型神話」が有名ですね。
「見るな」の禁忌を破ったせいで、最後に男女が別れるという話です。

古事記でも、イザナキが妻イザナミの死体を見てしまう話とか、山幸彦が妻の正体(大きなワニ)を見てしまう話があります。昔話の「鶴の恩返し」もメルシナ型ですね。メルシナというのはイベリア半島に伝わる女神の名前で、下半身は蛇だったとか……。

 

他にも、ワニを騙して河や海を渡るという「イナバのシロウサギ」のような神話や、失くした釣り針を探して海の世界を訪ねるという「釣り針探求型神話」など、インドネシアが源流だと言われる神話も日本に入ってきています。

インタビュー「古事記って何ぞや!?」 『巨竜戦記』を2倍楽しむ歴史ガイド#2

イナバのシロウサギがワニを騙して海を渡る絵

 

神話を神話たらしめる所以!?

本田先生:
色々あるんですね!ヤマタノオロチ伝説もどこからか、このパターンの神話が日本列島に伝わって、日本に合わせて変化したということなのでしょうか?

 

松本教授:
「ペルセウス・アンドロメダ型神話」については、あまりに広い地域で伝承されているので、どこで発生して、どう伝播したのかを知ることは難しくて、複数の地域で同じような型の神話が別々に発生した可能性もあります。

考えられることとしては、これらを伝承していた人々は、政治や社会制度の違いを超えて、何らかの思想を無自覚に共有しながら、それぞれの社会の中で生きていた。そしてその神話の一つが確かに、日本列島にも存在していたということなのだと思います。

 

本田先生:
なるほど、生きている環境が違っても、無自覚に思想を共有していたというのは正に神話と言った感じですね。実際にはどういった理由から、その思想の共有が起きたと考えられますか?

 

松本教授:
例えば、大自然の前では、人間なんて小さくて、非力な存在ですよね。これだけ科学技術が発達した現代だって、洪水だったり、津波だったり、地震だったり、人間は自然を完全に制御できてはいません。古代だったらなおさらです。

ギリシャ神話の海の怪物ケートスも、日本のヤマタノオロチも、それぞれ大津波とか巨大河川の氾濫とか、強大な自然が引き起こす現象を象徴する怪物だったと思います。

では、自然を克服するため人間には何ができるのか。

それは、世の東西を問わず「祭り」です。「ペルセウス・アンドロメダ型神話」には生贄となってきた乙女の存在がありますし、それを克服した時に英雄神の妻となる乙女が登場します。神の妻になることは、巫女として神を祀ることに他ならないと思います。

「生贄」「巫女」には祭りの匂いがします。
女性の美しさには、神を祭る力があったらしいです。 

自然の強大な力に対する畏敬の気持ちと、それを克服する祭りのあり方を伝えようという共通の思想から神話が生まれて、広く民衆に伝承されていたのだと考えられます。

 

本田先生:
祭りと美しい巫女ですか、今後作品を作っていく上での重要なヒントを頂いた気がします!

今回伺ったお話が『巨竜戦記』にどのように取り入れられるかにも注目してもらえたらと思います!松本先生、ありがとうございました!

 

松本教授:
『巨竜戦記』毎週わくわくしながら読んでいます。
また機会がありましたら、今度は「死の起源神話」の話でもしましょうか。人間は、死の恐怖から解放されていません。古代人はどのように死を受け止めようとしていたのか、考えてみましょう。

 

・プロフィール

インタビュー「古事記って何ぞや!?」 『巨竜戦記』を2倍楽しむ歴史ガイド#2

松本直樹
早稲田大学 教育学部 教授 
【主な著書】
『古事記神話論』(2003年、新典社)『出雲国風土記注釈』(2007年、新典社)
『神話で読みとく古代日本 古事記-日本書紀-風土記』(2016年、ちくま新書)
『わくわく日本書紀すごろく』(監修)(2016年、ナイスク)
『ゆるゆる古事記 今日も神さまはやりたい放題 』(監修)(2019年、三才ブックス)

 

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