X(旧Twitter)で大きな反響を呼び、昨年よりマガポケでの連載がスタートした『みいちゃんと山田さん』。
2012年の歌舞伎町を舞台に、問題を抱えながらも懸命に生きる女の子たちのドラマが描かれています。
話題沸騰中の本作の作者・亜月ねね先生に、作品のルーツや連載秘話、今後の見どころについて伺いました。
●諦めていた漫画家への夢――SNSをきっかけに再挑戦
――亜月先生が漫画家を目指したきっかけを教えてください。
亜月先生:
昔から絵を描くことも漫画を読むことも好きだったので、小学生の頃には自然と「漫画家になりたい」と思うようになっていました。まあ、思春期に差し掛かって、その夢は諦めちゃったのですが……。
――何か理由があったのでしょうか……?
亜月先生:
子どもながらに、漫画家になることの厳しさに気付きまして(笑)。でも、絵を描くこと自体は変わらず好きだったので、趣味として描き続けていました。大学も美術大学に進んで、油絵を専攻しましたね。
――そこから漫画家デビューまで、どのような経緯があったのですか?
亜月先生:
趣味で描いたショート漫画を、X(旧Twitter)にアップしたのがきっかけです。SNSに投稿すると、すぐに反応が来るのが楽しくて! 「次はこうしよう」「こうしたらもっと読まれるかも」と、どんどんのめり込んでいきました。そうすると、今度は長編を描きたいと思うようになるんですよ(笑)。担当さんに声をかけていただいたのは、初の長編である『みいちゃんと山田さん』をSNSにアップし始めて1年後でした。
――お話がきたときのお気持ちはいかがでしたか?
亜月先生:
私、弐瓶勉先生の大ファンでして。現在「月刊少年シリウス」で連載されている『タワーダンジョン』も愛読しているので、「講談社」という言葉に驚いちゃって!
担当編集D:
そういえば、亜月さんのペンネームも弐瓶さんの作品から付けられたんですよね?
亜月先生:
そうです! 弐瓶先生の『BLAME!』『BIOMEGA』などに登場する、“東亜重工”という架空の会社名から一文字いただきました。なので、一度は諦めた漫画家になれることと、弐瓶先生と同じ出版社さんにお世話になれることで、ダブルの喜びがありました(笑)。
●夜の街にあるアナログな人間模様が、物語を創る
――『みいちゃんと山田さん』は、歌舞伎町にあるキャバクラが舞台となっています。夜の世界を舞台にした理由を教えてください。
亜月先生:
訳ありな人たちのヒューマンドラマを描きたいと思ったのがきっかけでした。そこが色濃く出る舞台を考えたときに、夜の街がぴったりだな、と。
――時代設定を、現代ではなく2012年にしたのはなぜですか?
亜月先生:
今は、SNSで情報収集するのが当たり前で、馴染みがない世界の情報にもアクセスできますよね。夜の世界も、SNSを通じて徐々にオープンになってきましたが、当時は今よりももっと閉ざされたアングラな印象がありました。複雑な問題を抱えて、やむを得ず働いている方も多いイメージがあって……。また、10年前は発達障害への世間の認知も
さほど広がっておらず、手探り感がありました。当時の空気感で、夜の世界で働く人たちを正面から描きたいと思いました。
――当時の夜の世界を描くにあたって、どのように情報収集されたのでしょうか?
亜月先生:
詳しい知り合いに話を聞いたり、実際にキャバクラやホストクラブに行ったり、人や雰囲気をウォッチしに歌舞伎町に散歩しに行くこともありますね(笑)。
●幼少期からあった“社会への関心”が作品に
――執筆の際に意識していることはありますか?
亜月先生:
キャラクターにどういう表情をさせるかにはとても気を使っています。また、聞いたり見たりした話はそのまま描かないようにしています。その人が特定されると困るし、オリジナリティを出したいからです。どうやって作品に落とし込むか、考えるのはかなり楽しいですね。
――具体的には、どのような取材をされているのでしょうか?
亜月先生:
取材よりも観察で描いている比率の方が大きいです。街中やお店で、人やグループをウォッチするのが好きです。騒ぐ子供を押さえつける母親の死んだ目とか、ファミレスの女子高生グループの会話から垣間見える力関係とか、駅にいる修羅場のカップルなどから着想を得ることが多いです。取材は、個人間でかなり仲良くならないと本音は話してくれないですね。
――みいちゃんの友達であるムウちゃんのエピソードでは、福祉制度を活用するムウちゃんの姿が描かれていました。
亜月先生:
登場するキャラクターたちについて、障害があるなどの設定は決めていないので、作中で明言しようもありません。ただ、ムウちゃんは例外で、正しい診断と教育を与えられなかったみいちゃんとの対比を描きたかったことと、支援に取り組む人達の存在も描きたかったので、障害について明言しました。
――亜月先生は、もともと社会的なテーマにご興味があったのでしょうか?
亜月先生:
今思えば、ですが、子どもの頃から興味を持っていた気がします。家の本棚にあった少年犯罪や児童虐待、心理学などの本を好んで読んで育ちました。その環境があったからこそ、自分なりの表現方法で“社会”を描いているのかもしれません。
●衝撃的な第1話が話題に――あえて結末を明かす意図とは?
――本作は「みいちゃんの死」という“結末”が明かされたうえで物語が進んでいきます。このような構成にした理由はありますか?
亜月先生:
SNSで長編を描こうと思い立ったときに、勉強のために脚本術の本を読みました。そこで、先に結末を明かしてカウントダウン形式で物語を進める “フラッシュフォワード”という物語技法を知り、これなら謎が解き明かされるまで読んでもらえそうだな、と。やはり、SNSでの連載は、飽きられた時点で読まれなくなってしまうので……。
――結末が先に明かされているということは、最終回までの構成もすでに出来上がっているのでしょうか?
亜月先生:
そうですね。結末がわかっている分、退屈にならないように全体の流れを構成しています。そこを軸に、マガポケでの連載に合わせて1話あたりのボリュームを足していきました。
――SNSでは1話4ページで連載されていたので、エピソードの足し算が大変そうです。
亜月先生:
みいちゃんの過去編は、マガポケ連載が決まってから考えました。最初は増やすのが大変だったのですが、今は描きたい内容がたくさんあって、むしろページが足りなくなりそう(笑)。
●作画は努力の結晶! 得意キャラは……まさかのおじさん?
――エピソード追加の他に、SNSでの連載版から変更した部分はありますか?
亜月先生:
作画です! 作業用のソフトを漫画に特化したものに変えて、かなり絵の練習をしました。
担当編集D:
当初、作画担当の方を迎える話も出ていたのですが、亜月さんが頑張ってくださりました。キャラクターの表情がより豊かになったので、「これはいける!」と。
――感情が昂ったときの表情がリアルですよね。
亜月先生:
キャラクターによって表情の作り方やファッションも異なるので、いろいろな女の子が描けて楽しいです。当時の女の子たちの雰囲気やファッションを勉強するのに、古本屋で昔の雑誌を集めたのも楽しかったなぁ。
――女の子をたくさん描ける作品ならではの楽しみですね。
亜月先生:
あ、でも、描いていて一番楽しいのはおじさんかもしれません(笑)。作中に強烈なおじさんキャラを登場させがちなので、たまに「男を恨んでいるのか?」とコメントをいただきますが、決してそんなことはないです!
●“人間の黒い部分”が共感を呼ぶ⁉
――キャラクターを描く際に意識していることはありますか?
亜月先生:
「こういう人いるよね」と身近に感じてもらえるように描くことです。そのうえで、みんなの性格が被らないように気を付けています。みいちゃんの存在感がかなり強いので、周囲の人にも個性がないと、物語として見たときにバランスを取るのが難しくて……。
担当編集D:
お店を無断で辞めたニナちゃんも、損なことはしないココロちゃんも、嗜虐心を隠さないモモさんも、みんなキャラクターが立っているけど、ちゃんとリアリティがあります。
――リアリティの出し方で意識していることはありますか?
亜月先生:
キャラクターのダメな所や、自業自得な部分、人間の黒い部分を背負ってもらうことですね。嘘がないキャラクターにしたいので。
担当編集D:
亜月先生の描くキャラクターは、ちゃんと本音で話してくれるので、自分の中にうっすらある黒い部分を代弁してくれる気がします。
亜月先生:
どのキャラクターにも全く肩入れはしていませんが、人は優しさと残酷さを同時に宿す生き物だと思っています。本編で悪い部分の一面しか描けなかった場合は、嫌なだけの人にならないように、単行本の描き下ろしなどでフォローするようにしています(笑)。
担当編集D:
物語自体はヘビーだけど、亜月さんの眼差しや作画の柔らかさがあるおかげで、過酷な部分も読み進められるのだと思います。
亜月先生:
人間のダメなところも醜いところも描きたいのですが、描き方には気を付けています! たとえば、みいちゃんが多くの男性と関係を持ってしまうシーンでは、作画もデフォルメっぽくしました。若い女の子たちからの反響も多い作品なので、生々しさや肉感的な描写は避けようと決めています。
●物語はついに佳境へ――今後の注目ポイントは?
――今後の展開で、注目してほしいシーンについて教えてください。
亜月先生:
山田さんの内面の掘り下げです。みいちゃんの過去はたっぷり描けたので、山田さんについてもしっかり描きたいと思っています。
――みいちゃんにの身に何が起こったのか、そこも少しずつ描かれてきましたね。
亜月先生:
単行本の裏表紙でヒントを出しているのですが、毎回作り込むのが楽しいです。 あとは……そろそろ、みいちゃんの太客、あの男が動きだします(笑)。楽しみにしていてください!
――亜月先生が現在注目しているマガポケ作品はありますか?
亜月先生:
『ハードワーカー中田』は、とても面白いですね(笑)。男性心を知りたくて読み始めたのですが、最初から衝撃的な展開の連続で! 読む手が止まらず、今一番更新を楽しみにしています!
――最後に、読者の方へメッセージをお願いいたします。
亜月先生:
いつも読んでくださりありがとうございます! 皆さんに楽しく読んでいただけるよう頑張りますので、『みいちゃんと山田さん』を今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
●『みいちゃんと山田さん』単行本第3巻、大好評発売中!
ぜひ周りの人にも教えてあげてください!