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『アホガール』のヒロユキ先生に聞いた「面白い」の生み出しかた

漫画家志望のみなさんは、ほとんどすべて日々「面白い漫画」を生み出すために努力されていると思います。
でもちょっと待って!

 

その「面白い」、本当に面白いですか?

 

面白いってどういうこと?
どうやったら面白さって伝わるの?
そんな疑問にお答えする本が生まれました!

 

「週刊少年マガジン」で2012年から連載が始まり、2015年に「別冊少年マガジン」に移籍したギャグ漫画『アホガール』のヒロユキ先生が描く『マンガで夢を叶えるための“おもしろい”の伝え方』。

 

本を描いたきっかけ、裏話、描き切れなかったテクニック、そして次回作の構想まで、ヒロユキ先生へがっつりインタビューしました!

『アホガール』のヒロユキ先生に聞いた「面白い」の生み出しかた


デビューまで9年、「この漫画で何を伝えたいの?」を考えたことが転機となった 

『アホガール』のヒロユキ先生に聞いた「面白い」の生み出しかた

——とても具体的で、実用的な指南書でした。
漫画家を目指す人は残らず読んだ方がいいと心の底から思いました。

 

本書は、もともと同人作品として発表されたものに加筆修正していただいて、講談社から出版させていただきましたが、そもそもどうしてこの本を描こうと思ったんですか?

 

ヒロユキ先生:
素直に言うと、夏コミでなにか本を出したいと思ったんです。

 

でも『アホガール』を描き終わった直後で、まだがっつり描くのは嫌だなあって(笑)。
で、何か描く気になるものはないかなって考えて、そうだ、休んでいる間に漫画の描き方でも整理しておこう、と。

 

だから、僕にとっては備忘録でもあるんです。

 

——備忘録というには、読みやすくてわかりやすい内容でした。

 

ヒロユキ先生:
本としてまとめる以上は他人が読んでわかる形にしたかったんで丁寧に描くようには心掛けました。
気がついたら同人版でも結構なページ数になっていて。

 

——他人が読んでわかる形、というと?

 

ヒロユキ先生:
描いている内容は、この本のために改めて考えたというより、普段から考えていたり、漫画家同士で話し合ったりしているものなんです。

 

でも、漫画家同士の会話って前提が省かれるんですよ。
やっぱりそこはお互いプロだから、わざわざ言葉にしなくてもわかっちゃう部分が多い。
共通言語も潤沢ですし。

 

だからこそ、「”そうでない人”にとってもわかりやすい」にはこだわったつもりです。

 

『アホガール』のヒロユキ先生に聞いた「面白い」の生み出しかた

——そうでない人っていうのはつまり、この本のターゲットですよね。
どんな方をイメージして描いたんでしょう?

 

ヒロユキ先生:
新人賞……で、まだ賞にひっかからない人、くらいですかね。
もしかしたら、もう少し上のレベルまで通用するのかもしれませんけど。

 

これは本にも描きましたけど、具体的に言うとターゲットは新人時代の僕。

 

僕ははじめて出版社に持ち込んでからデビューするまで9年かかったんです。
でも、本当ならそんなに時間はかからなかったはず。

 

この本に描いたようなことがわかっていれば、その時間をもっとショートカットできたのになあって。

 

——新人さんに向けてという意味で、この本は新書みたいに構成がすごくしっかりしていますね。
やはりこだわって?

 

ヒロユキ先生:
序盤は直したんです。
最初に描いたネームを担当さんに見せたら、「序論みたいなものがあったほうがいいんじゃないか」って指摘されて。


たしかにそっちの方がわかりやすいなって思ったんで描き加えたんですよね。

 

——「僕がおもしろいと思って描いたマンガが、なぜ読者にはおもしろくなかったのか?」。
序章にある台詞ですけど、端的で鋭い言葉だと思いました。

『アホガール』のヒロユキ先生に聞いた「面白い」の生み出しかた

 

ヒロユキ先生:
誰だって、「自分の漫画は面白い」と思って描いていると思うんです。
も、それが「読者にはとっては面白くない」ことがよくある。

 

問題は、面白いとか面白くないってことより、自分と読者の間にある、そのギャップなんですよね。

 

——いつごろからそういうことを考えて?

 

ヒロユキ先生:
19歳の頃、持ち込んだ先の編集さんに言われたんです。

 

「この漫画のテーマはなに?」
「この漫画で何を伝えたいの?」

 

当たり前のことを聞かれているはずなのに、そのときに僕は「え?」と固まっちゃったんですよね。

 

「漫画にテーマとかいるの? 伝えたいことって必要なの?」
家に帰ってずーっとそのことについて考えました。

 

——ずーっと?

 

ヒロユキ先生:
2日くらいかな。
真剣に、それだけをずーっと。

 

もう上京しちゃっていたし、「漫画家になる!」と覚悟を決めていたので、この言葉の意味を理解できないといけないんだって。
マガジンの編集さんも、持ち込みに来た方にそういう質問をすることはありますか?

 

——言い方は千差万別でしょうけど、似たようなことを言う編集者は多いと思います。
僕の場合は「この漫画を読んだ後、あなたの読者はどんな顔をしていますか? 笑っているか泣いているか熱くなっているかニヤニヤしているか」と聞いています。

 

ヒロユキ先生:
それがゴールですもんね。
ゴールを共有できないと打ち合わせにならない。

 

まず自分に、読者に対する意図がある。
その意図が意図通りに伝わっているか、意図以下にしか伝わっていないか。
編集さんにはそれを教えてもらえばいいんです。

 

「ここで熱くなってほしい」
「ここで泣いてほしい」
でも熱くならなかった、泣けなかった。

 

「それはなぜ」というところから改善がスタートする。

 

——僕ら編集者も、うまく利用してもらえればと思います。

 

ヒロユキ先生:
打ち合わせって、意外と上手い下手が漫画家の側にもあると思うんです。

 

編集さんに何を求めるかが明確な人はやっぱり打ち合わせが有意義になることが多い。
僕の場合、自分の意図が伝わっているかどうかを判断してもらえればと思っています。

『アホガール』のヒロユキ先生に聞いた「面白い」の生み出しかた

——話を戻して、ヒロユキさんは2日考えて、どういう結論にたどり着いたんですか?

 

ヒロユキ先生:
やっぱり「読者には面白いと思ってほしい」というシンプルな結論でした。

 

読者にどう思ってほしいかって聞かれれば「面白いと思ってほしい」以外の結論はなかった。
となると、そのあとにやってくる問いは決まっていますよね。

 

「じゃあ面白いってどういうこと?」

 

——それをこの本では丁寧に分解していますね。

 

ヒロユキ先生:
面白いって言葉は便利すぎるんですよね。
免罪符のように「面白ければいいんでしょ」ってみんな言う。

 

それは「面白い」って言葉の便利さに甘えているような気がするんです。

 

「面白い」っていう言葉の便利さの中にもいろんな意味がある。
その中のどの意味を目指すのかは、やっぱり最初に作家の中に持てていないと。

 

——ちょっと乱暴な要約ですけど、この本には「面白い」に直接的につながるのは「キャラクターの魅力」だと描かれています。

 

漫画業界においては、戒律のように「キャラが大事だ」という言葉が信じられています。
それは間違っていないと思うんですが、なぜ大事なのか、という理由になると、うまく言葉にされないことが多いですね。

 

『アホガール』のヒロユキ先生に聞いた「面白い」の生み出しかた

ヒロユキ先生:
人それぞれの答えがあるとは思います。

 

とりあえず、この本の中では「キャラだけが、世界観や設定というあらゆる要素を踏み台にして、『面白い』に繋がる」という僕なりの結論を出しました。

 

もう一個、本に描いてないんですが漫画にとってキャラが大事な理由があると思っていて……

 

——それは?

 

ヒロユキ先生:
漫画と映画や本の大きな違いって、漫画は最初からラストまで一気に読むものじゃないってところだと思うんです。

 

週刊連載だったら1週間ごとに途切れてしまう。
正直、たまにお話を忘れちゃいますよね。

 

でも、キャラクターは残る。

 

世界観も設定も物語の状況も忘れていても、「こいつがこんな奴だった」ってことだけは読者は覚えていられるんです。
だから、一気に楽しむ他のエンタメよりも、「キャラ」の大切さが際立ってくるんじゃないかって。

 

——新人賞では「設定」や「世界観」の新しさを見せることに主眼を置いた作品に出会うことが多いですが。

 

ヒロユキ先生:
よっぽどの天才でもなければ、失敗してしまう気がします。
どんなに新しい設定や奇抜な世界観も、そこに生きているキャラが魅力的じゃないと意味がないものですから。

 

ただ、それって誰もが通る道なのかなとも思います。
1回通って「これじゃあダメなんだ」と気づくまでがワンセット(笑)

 

——ものすごく魅力的な設定や最高の世界観を思いついてしまったら?

 

ヒロユキ先生:
その世界観でもっとも輝けるキャラクターを考えることに全力を注げばいいんじゃないですか。

 

ものすごく面白い設定を持ったアイテムを思いついたとして、それを「どんなキャラクターが手に入れたら面白いか」にこだわり抜けばいい。

 

「面白いアイテムを思いついた」からといって、そのアイテムの面白さを見せることを主眼に考えているうちは難しいのかなって。

 

あくまで「そのアイテムを持っているキャラクターを魅力的に見せるにはどうすればいいのか」に知恵を絞った方がいいんじゃないかなあ。

『アホガール』のヒロユキ先生に聞いた「面白い」の生み出しかた

 

「魅せるキャラクター」とは?

——本書には「キャラが立つ」という言葉は使わない、と描かれていましたが。

『アホガール』のヒロユキ先生に聞いた「面白い」の生み出しかた

 

ヒロユキ先生:
便利すぎる言葉はいかがわしいと思っちゃうんですよね。
「キャラが立つ」も便利な言葉で、そこが怖いのであんまり使わないですね。

 

「面白い」も同じですし、「起承転結」って言葉も嫌いかな。

 

便利だから、よくわかっていなくても「わかった!」「自分にはわかっている!」という気になってしまう。
ズレって、そういう便利な言葉から生まれがちだと思います。

 

あと、ものすごく根本的なことを言えば、「キャラが立った」は僕ら作家じゃなく、読者が決めることだと思いますし。

 

——「主人公らしい主人公だけど……」と感じてしまうことがあります。
たとえば、明るくて元気で前向きで仲間思い。

 

特徴を列挙すれば好感度は高いのに、どうしても魅力的に見えないキャラ。
あえて言いますけど、「キャラが立っていない」。

 

ヒロユキ先生:
最大公約数的なキャラクター、っていうんですかね。

 

そういうキャラが魅力的に見えない場合、やっぱり「自分」がそこにいないのが原因なんじゃないかと思います。

 

誰かが作ったひな型を追って作ったキャラクターは魅力的に見えない。
他人の作った何かと向き合うのではなく、自分と向き合わないと、本当の意味でキャラは生まれにくいですよね。

『アホガール』のヒロユキ先生に聞いた「面白い」の生み出しかた ——キャラは「自分」から作ると本にもありました。
でも、主人公は好感度が高い方がいいと思うし、自分は到底漫画の主人公になれるような人間じゃない。

 

そういう場合は?

 

ヒロユキ先生:
その場合は、まず自分の好感度を上げることを考えたほうが良いと思います。

 

自分を偽って好感度の高いキャラクターを作ろうとしてもうまくいきませんよね。
自分のダメなところだって、こうやって描けば愛嬌みたいに見えてくるかもしれない、とか。

 

完璧な人間なんていないんだから、素直に自分をさらけ出せば多少の欠点も共感を持って見てくれるかもしれない。
そのための描き方を模索するとか。

 

あと、「こうなりたいな」という憧れだって「自分」から出てくるものじゃないですか。

 

それが「自分を犠牲にしてでも仲間を助けられるような強い奴」という可能性だってあるし、「人目を気にしてカッコつけたりしない、欲望にものすごく忠実な奴」という可能性だってある。

 

——キャラクターを創るときに「ダメなところも描こうぜ」という話もよく聞きます。
弱点を創ると可愛げが出る、というような。

 

ヒロユキ先生:
僕は弱点を考えようって思ったことはないですね。

 

「弱点を創る」ってふわっとした印象があるし、弱点があるからかわいげが出るわけではない。
ドラえもんは、きっとネズミが苦手って弱点がなくても人気が出たと思うんです。

 

同様に、キャラクターの好きなことや嫌いなこと、細かい設定を列挙する、というやり方も僕はやらないですね。

 

そういう決まりごとというより、やっぱり自分のどこをキャラクターに宿すのか、ということが大切だと思っているので。


「漫画家は売れないと食えない」世界

——この本を読めば、面白い漫画が描ける?

 

ヒロユキ先生:
まさか。

 

「理論」を知ることも大事ですが、「実作」も重ねていくことがいちばん大事です。
逆上がりのやりかたが書いてある本を読んでも逆上がりはできるようになりません。

 

面白い漫画の描き方なんてものがあるとして、それを知っていても、それを実践するための技術や経験がなければ原稿にはならないわけです。

 

逆に、実体験を重ねていけば、嘘や模倣、想像をしなくても自然に生み出せるようになりますよね、きっと。

 

『アホガール』ヒロユキ先生に聞いた 「面白い」の伝えかた

本書ではヒロユキ先生が、作例を使ってキャラやシチュエーションなどを具体的に解説しています。

——漫画家って、ハードですね……

 

ヒロユキ先生:
そうですね。
売れなきゃ食えないですしね。

 

いま漫画家を目指している人や若い漫画家さんも、一度は誰かに言われていると思うんです。
「漫画家は売れないと食えない、厳しい道だ」

 

それは事実だし、僕はそれが当然だとも思っています。
だからデビューはゴールじゃなくスタート。

 

大御所の先生やこれからデビューする新人、全員と戦い続けないといけない。
そこで生き残っていくには、食べていくには、とにかく考え続けなきゃいけないし、実作を続けなきゃいけない。

 

というわけで、新連載をはじめます(笑)

 

——楽しみです。

 

ヒロユキ先生:
今回はこの本を描いちゃったので、いつも以上に必死です。

 

だって恥ずかしいじゃないですか、こんな本を出しておいて失敗したら。
当てたいー! 『アホガール』越えたいー!

 

——連載開始はいつ頃を予定していますか?

 

ヒロユキ先生:
週刊少年マガジンで、2月下旬……3月ぐらいからですかね!(チラチラと担当を見ながら)

 

読者を楽しませるのはもちろんですが、自分が楽しむということを忘れていた感覚もあったので、今回は「自分も漫画を楽しむ」を目標にやっていきます。

 

一話14ページぐらいのギャグ漫画を考えているので楽しみにしていただければ嬉しいです!

 

——今日は、ありがとうございました!

 

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