――講談社 デジタル第一営業部にて。
「ハッハッハ! 『いじめるヤバイ奴』やっぱ面白いなー」
たくさんのデスクが並ぶフロアの一角で、自分のデスクに座って『いじめるヤバイ奴』の最新刊を読んでいるのは、電子書籍の販売担当I村。
「作品に登場する白咲さんがヤバイのなんの。こんな子に命令されたら逆らえないよな」
ちょうどその時、デスクにあるパソコンに1通のメールが届く。I村は慣れた手つきでメーラーを開きメールのタイトルを確認する。
『I村様へ 白咲花より』
「え……? 白咲さん?いやいやまさかな。」
先ほどまで読んでいた『いじめるヤバイ奴』の単行本にチラッと見やるも、すぐにディスプレイへと目を戻す。メールを開くと、I村の顔がみるみるうちに青ざめていった。
「や、やばい……。すぐに行動しなければ……。」
I村の手はガタガタと震えていた。
――講談社 3階会議室
ざわざわする会議室。そこにいるのは各電子書店の講談社担当20人。販売担当のI村に呼び出されていた。
「急にどうしたんだろう。I村さんもまだみたいだし……」
何の目的で集められたのか誰も理解しておらず、いたるところで疑問の声が上がっていた。
そのとき、会議室のドアが勢いよく開かれた。
I村だ!
その後ろには女の子が隠れるようについている。髪の毛は白く、儚げで、高校生くらいの……
「今日はお忙しいところ、お集りいただき誠にありがとうございます。この度はいつもお世話になっている皆様をおもてなししたく、このような会を設けさせていただきました」
I村が話しているにもかかわらず、会場の視線は彼には向けられていなかった。その隣にいる女の子、彼女はもしかして……
「白咲さん……?」
「『いじめるヤバイ奴』の白咲さんだよな!?」
「なんでこんなところに?」
会場のざわめきに気づいたI村は、話をみんなの関心事項へと方向転換する。
「あ、ご紹介が遅れてしまいました。本日の主催者であり『いじめるヤバイ奴』でヒロインを務める白咲花さんです!!」
とまどいながらも、会場からはパラパラと拍手が起こる。I村は続ける。
「いつも『いじヤバ』を売ってくださっている皆様にぜひ感謝の意を伝えたく、本日はお集まりいただきました。……アレを皆さんにお配りしろ!」
I村の指示で部屋の隅に置かれた大量の段ボールから何かを手際よく配っていくスタッフ。出てきたのは派手な原色で彩られたエナジードリンクだった。
楽天Kobo(外が暑い?この真冬に……?)
U-NEXT(しかも、これはエナジードリンク?)
今は2月。1年で最も寒い月。なにやらおかしなことになってきたと、会場に緊張が広がっていく。
「おかわりもありますからね! たくさん働くにはエネルギー補給も大事でしょうから!」
まんが王国(エネルギー補給……)
必死にエナジードリンクを勧めるI村の額には大粒の汗が流れていた。何かに追い詰められているように……。
「ところで、最近『いじめるヤバイ奴』の売れ行きはいかがでしょう?好調ですか?」
I村のその言葉によって、会場は一気に張りつめる。彼自身もそのことに気づいたのか、無理やり笑顔を作ってこう繋げた。
「あー、いやいや。こんなところで無粋な質問でしたね。とにかく栄養補給して鋭気を養ってください」
顔を見合わせる書店員。白咲さんはその場から動かず、書店員たちをじっと見つめていた。
honto「も、もしかして白咲さん……」
全書店員(『いじめるヤバイ奴』をもっと売れって言ってる!?)
ebookjapan(だから俺たちにエナジードリンクを飲まして、もっと働けって言ってるんだ!)
それまで立っているだけだった白咲さんの右腕が、みんなの注目を集めるようにすっと上に上がった。何かを口にする合図だろう。思わず生唾を飲み込む。
たった一言、か弱い声でそう言った。しかし彼女の声は人を支配する独特なパワーを持っている。左手にはアイスピックが握られていた。会場から、サーっと血の気が引いていく音が聞こえた。
こうして、各電子書店は白咲さんに目をつけられてしまい、『いじめるヤバイ奴』を売るべく展開が始まったのだった。でも、たくさん売ってくれたら白咲さんからご褒美があるとかないとか。それはまた別のお話。
注:この物語は、事実をもとに構成されたフィクションです。
各電子書店の皆様、ご協力ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします!!
『いじめるヤバイ奴』1~6巻、各電子書店にて絶賛配信中!
ぜひ、お読みくださいませ!!