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【第112回新人漫画賞締め切り直前特別企画】〜漫画家を目指すキミに贈る〜漫画家への花道 『100万の命の上に俺は立っている』原作・山川直輝先生が新人漫画家の悩みを解決!

新人漫画家さん必見!! 今回は、第112回新人漫画賞締め切り直前特別企画として、漫画家先生へのインタビュー「漫画家への花道」を大公開! 『100万の命の上に俺は立っている』の原作・山川直輝先生が新人漫画家の悩みを解決しちゃいます!

 

多彩な作品を繰り出すヒットメーカー!!
『100万の命の上に俺は立っている』原作・山川直輝先生に聞く!

超理論派ネーム作りの極意!!

「別マガ」にて『100万の命の上に俺は立っている』を大好評連載中の山川直輝先生に全力取材! 漫画家を志したきっかけから、山川先生の思考を言語化した超貴重なネーム作りの極意、企画やネーム作りの練習法まで全てを語る!

 

山川直輝先生Profile
2016年に「別冊少年マガジン」にて『100万の命の上に俺は立っている』の原作として初連載し、現在も連載中。その後、2017年から「週刊ヤングマガジン」にて『マイホームヒーロー』を同じく原作として連載中。

 

●極意 其の一
ネーム原作者に必要な心構え。

――まずはじめに、山川先生が漫画家を目指したきっかけを教えてください。


 幼稚園の頃から絵を描いていたので、絵を描くという行為がそもそも身近なことでした。漫画を描き始めたきっかけは、小学2年生の頃に兄が漫画を描いていて、それに影響されてという感じです。子供の頃って兄の真似をしたくなるじゃないですか? 
 でも、漫画を描くのは好きでも、プロの漫画家が狭き門なのは分かっていました。一歩踏み出す勇気がなかった僕は、地元の水産系の高校に進みました。ただ、遠洋漁業の研修の時に、研修担当の漁師と険悪になってしまったことがあって、その漁師(40代)が僕(17歳)の悪口をクラスメイト全員に言いふらしていたんです。そのことがきっかけで、水産系の道は辞めて漫画家になろうという決心をしました。
 そこからは、漫画を学べる環境に身を置こうと思い、代々木アニメーション学院に進みました。


――苦い経験が山川さんを漫画家の道へと背中を押したんですね…。
 続いての質問ですが、新人の頃は作画までされていましたよね。ネーム原作者という道に進んだ経緯をお聞かせください。


 正直成り行きでそうなったという部分が大きくて、元々『100万の命の上に俺は立っている』(以降、『100万の命』)の連載が決まったときに、僕が作画をするという案もあったんです。そんな中、現在作画を担当してもらっている奈央晃徳先生を編集部から紹介されて…という感じでした。連載が始まってすぐ、奈央さんにやってもらえたのは幸運だったと気づきましたね。今でも、手が空けば自分でも作画をしてみたいなとは思っていますが、ヤングマガジンの方で週刊連載もあるので今は難しいですね(笑)。月刊連載を2本くらいであれば、どちらか片方は自分が作画をすることも可能なのかなと思ったりしますが。


――ネーム原作者だからこその楽しみや苦労をお聞かせ願いたいです。


 やっぱり一番のメリットは作画をやらない分、色んな作品を並行して描けるという点です。昔ほどではないですが、今でも自分の描きたいものが湧き出てくるタイプなので、ネーム原作者という形は自分に向いていたかもしれません。そして、自分が想像していたよりも素晴らしい絵を上げてもらった時の喜びを味わえるのはネーム原作者ならではなのかなと。僕の場合は『100万の命』も『マイホームヒーロー』も、良い作画者さんに恵まれたなと思っています。
 苦労や、困難な点という意味では、自分の中の設定や解釈を作画者さんに100%伝えるのは難しいということですね。例えば『マイホームヒーロ―』は現実ベースの話なので、作画者さんと僕の共通理解の重なりが大きいと思うのですが、『100万の命』のようなファンタジー世界をベースにしたものとなると、自分の頭の中にある設定を全て伝えるのはほぼ不可能と言っていいです。ネーム原作者志望の方は、そこをちゃんと割り切って考えておくといいかもしれませんね。

 

●極意 其の二
ネーム上達には原稿を書くべし。

――マガジンライズという月例賞では毎回ネーム部門の募集が行われています。
 最初からネーム原作者を志すという選択肢についてどう思われますか?


 初めから絵は諦めて、原作一本でと覚悟を決めて目指すのなら問題はないかと思います。ですが、初めから原作一本と決めてしまうと、細かい技術的なところで苦労することになるのではと思っています。実際の原稿には、トーンや効果線の種類など、作画をしたことがないと想像がしにくいことがたくさんあり、作画担当者の方との完成原稿のイメージの共有が難しいのかなと。あまりに抽象的なネームの場合は、文字原作で十分ということになってしまうので。
 最近僕自身も、新連載用のネームを考えていたのですが、文章からネームにすると違和感がある部分があったり、文章で表現できなくて悩んでいた部分を一旦絵にして描き起こしてみると、うまく表現できたりしました。そういう意味で、ネームとして形にするということの難しさと奥深さは、一度自分の力だけで完成原稿まで描いてみることで分かる部分もあるのかなと思います。

 

●極意 其の三
漫画ベースと映像ベースを理解せよ。

――山川さんがネームを描くときに、意識したりこだわっている点はありますか?


 そうですね…まず、ネームには「漫画ベース」のものと「映像ベース」のものの2種類があります。
「漫画ベース」のネームは、ページ送りや見開き、デフォルメ、漫画的記号、漫画的省略のような漫画特有の表現技法を駆使して描くネームを指します。『この感じを描けばこういう意味』という漫画的お約束を通じて、読者に読みやすい形を目指すという感じですね。
「映像ベース」の方は、脳内の映像をそのまま漫画に落とし込んでいくというパターンで、映画やドラマっぽい感じですね。押見修造先生は、映像ベースで漫画を描いているとご本人から伺ったことがあります。
 僕の場合はどちらも使い分けていて、主に会話がメインで情報の整理が大切な場面は「漫画ベース」の描き方、動きが強い場面は「映像ベース」でネームに落とし込んでいくという風にやっています。また、自分がちょっと理屈っぽい人間というのもあり、アクションであまりにも大げさな表現を見ると「辻褄が合ってないな」と思ってしまうんですよね(笑)。そのため、実写映画のように物理法則に従ったアクションを描くのが好きです。

 

▲山川先生のネームと奈央先生の作画の比較。映像ベースの躍動感のあるネームが見事な絵に仕上がっている。

 

●極意 其の四
「ズラし」を考え抜け。

――初めて連載を目指す新人さんが連載ネームを作るにあたって、山川さんから何か助言など頂けないでしょうか。


 こればかりは、自分も永遠に悩み続けなければいけないハードルだと実感していて、もう「面白いものを考えるしかない」、としか言えないですね…。強いて言うのであれば、色々な作品を見ながら少しずつズラした企画を考えることが大切なのかなと。映画や漫画を見ているときに、あるワンシーンに対して「自分ならこうするな」と思うことがありますよね。例えばそれを膨らませて少しずつ企画にすることもできると思うので、そういう訓練をしてみるというのはいいかもしれません。あと自分の経験として、『100万の命』を考えた時は『ログ・ホライズン』というアニメを見て描いてみたという経緯があります。時代によって「売れ線」というのは存在していて、そこにある程度合わせつつも、違いを明確にしていくというのが大切なのかなと。その違いというのは、大枠の「ストーリー」と「キャラ」、作品として「何をやろうとしているか」で、それらを少しずつズラすという感じですね。
 最近で言えば「なろう系」と言われるものが一世を風靡していますが、一つのジャンルがここまで継続しているのはすごく珍しいです。ここまで続いているのは、少しずつ違う企画の作品が出ているからなんですよね。ジャンルとして一つに括られてはいるものの、ズラしと流行りが練り込まれたものが世に出て行って売れている印象があります。
 あとは、ストーリーの作り方の話になるのですが、芸人のバカリズムさんの脚本の書き方がすごく勉強になるかなと。バカリズムさんの脚本の書き方って、大喜利っぽい書き方なんですよね。一つの小さな出来事に対して、その正解を登場人物や視聴者に予想させて、予想を裏切る展開を続けるという作り方をしていると思います。よく行われるのは、ベタな展開や有名漫画でやったような展開を読者に想像させた上で、それと違うパターンにつなげるという感じですね。このテクニックを、どんなジャンルの作品でもできるようになったら最高です。細かいお話作りの部分の話かもしれませんが、結局これが出来るようになることが大切で、大枠がベタな王道だとしても、キャラの会話とか個別のエピソードだけでも魅せられるようになるので、地力がつきます。個人的には、少年漫画は「目の前の困難を突破する」というところが面白さのポイントだと思っています。面白い企画を思いつくことも大事ですが、もっと大事なのは連載が始まって以降の一話一話の読み応え、完成度になってくるのかなと思います。
 また、これは連載想定の話にはなるのですが、お話作りも2タイプあって、かなり先まで見越して考えるタイプと単話単話で考えるタイプがいます。例えば、『トモダチゲーム』の山口ミコト先生は単話ごとに考えるタイプと聞いたことがありますね。僕もどちらかというと単話で考えるタイプです。先の展開を全く考えていないわけではないのですが、今作っている話の大きなゴールだけざっくりと想像してあり、それに向かって単話の面白さを詰めていくという感じです。

 

●極意 其の五
面白いネームは足し算と引き算の先にある。

――昨今、YouTubeなどでも作画の練習法はよく目にしますが、ネームが上達するためにできる練習法はありますか?


 一番の練習は、やっぱりたくさんの作品に触れるということかなと。漫画はもちろん、映像や活字の作品も、吸収すれば全て活きてきます。
 あと、これは実践的な練習法の話になるのですが、面白いネームを作るための重要な工程は「足し算」と「引き算」だと自分は思っています。
 ネームを作るときに特に注意すべきなのはテンポで、アクションを頭から描くだけだとテンポが速すぎて内容が入ってこないことがあります。そこで必要なのが「足し算」で、観客や、それを近くで見ているキャラクターのリアクションを挟めばテンポは少し緩やかになります。逆に会話や情報が多すぎて緩やかになりすぎているところは、「引き算」の出番です。無駄なコマを削ったりセリフをまとめたりするといいです。
 新人の時は、面白いことには面白いけど、なくても成立するコマを削れない(削りたくない)という悩みが出たりすると思うのですが、目の前のネームと向き合い洗練させることが面白い作品作りへの第一歩かもしれません。

 

●極意 其の六
ハードルを乗り越えることこそ少年漫画の本質。

――今まで連載会議や新人賞に向けて練ったもので、ボツになった企画やアイデアがあれば教えてください。


 正直運もあって、あまり没を出されることなく連載になってきたというのはあります。『マイホームヒーロー』の時は担当さんにアングラ系の企画案を持ってきてくれと言われて、3案くらい持って行った内の一つが連載になりました。選ばれなかった案の内の一つは「ハッカーもの」の作品だったのですが、これは元々『100万の命』よりも前に描いていた読み切り作品がベースになっています。近所の変な大人にパソコンの知識を教えてもらった中学生が主人公で、教えてくれた大人が急に殺されたことをきっかけに、パソコンの知識を使って犯人を殺しに行くというあらすじです。大枠だけだと全然違う話に聞こえますが、実はこの作品が現在連載中の『マイホームヒーロ―』と『100万の命』に大きな影響を与えています。

 

▲現在ヤングマガジンで大好評連載中の『マイホームヒーロー』。考え抜かれたシナリオに魅了されること間違いなし!


――大きな影響というと具体的にどんなところでしょうか? 


 新人の頃って少年漫画は明るい上昇志向の王道な感じを描かなきゃダメだと思っていました。ただ、この『ハッカーもの』の読み切りで賞を獲れた時にその考えがガラリと変わったんです。この作品の主人公は、クラスでいじめを受けていて、ウジウジして世界中を呪っているような性格でした。
 それから、少年漫画の主人公は明るくて真っ直ぐな性格じゃないといけないと思っていた固定観念を捨て、どんな性格でもいいんだと思うようになりましたね。その事が、次に描いた『100万の命』の主人公・四谷友助の性格や、サスペンスなのに殺人犯が主人公という『マイホームヒーロー』の鳥栖哲雄に影響を与えました。
 また別の話にはなりますが、ストーリー展開をテンポよく進めるために、主人公にはすぐに正解を見つけ出せる洞察力と、物事への理解度、決断力を持たせています。

 

▲『100万の命』の主人公・四谷。合理主義な彼の人間性が滲み出たワンシーン。


――試行錯誤の末に、今の主人公の形があるわけですね…。
 現在、少年誌と青年誌で連載中の2作品はどちらも大ヒットされていますが、全くジャンルの異なる作品です。ネームの作り方の違いはありますか?


 少年誌と青年誌での違いでというのはあまりないかもしれませんね。
 ただ、週刊連載と月刊連載の違いは大きくあって、月刊誌は次の話を読むまでに1か月という間が空くので、読者が前回の話を忘れているという想定でネーム作りをしますね。1話で起承転結がまとまるようにするというか、単話での面白さというところをかなり意識しています。逆に、週刊連載はある程度オチがつけば、その話のテーマが途中で終わっても来週にすぐ持ち越せるという感じです。
 ジャンルの違いについては、僕のポリシーに同じようなものを描きたくないというものがありまして、「こいつ同じようなものしか描けないよな」と思われるのが嫌で、それこそ新人時代は全く違うジャンルの読み切りをひたすら書き続けていました。全部で16作品読み切りを描いたのですが、全て別々のジャンルの漫画を描き、自分の得意ジャンルであるファンタジーは15作目まで温存して描きませんでした。15作目で、満を持して描いたファンタジー漫画が『100万の命』の読み切り版で、プロデビューのきっかけになった作品です。ちなみに16作目はネットに掲載した未投稿作品なので、投稿漫画としては『100万の命』が最後になります。
 また、ネームの切り方のところで、「主人公がぎりぎり超えられるかどうかという難しいハードル」を用意して、それを乗り越える姿を描くということが大切だとお伝えしましたが、そのシーンをより読者に刺さるものにするには、「主人公を好きになってもらう工夫」がまず第一です。どうでもいいキャラよりも、好きなキャラがハードルを超える様子を見せた方が読者がのめり込みやすいので。後はそれを面白く見せることができれば、どんなジャンルでも成功すると思っています。


――連載を目指す方々へメッセージなどいただきたいです!


 まず、自分が心から面白いと思うものが需要の少ないニッチなジャンルだった場合、デビューから遠ざかります。好きなものが売れ線の人ならそれを突き詰めて描けばいいのですが、そうではない場合、『好き』を捨てて売れるものを描くか、デビューは大変だけど自分の好きを押し通すかを選ばなければいけません。
 自分も例に漏れず、「王道ではない主人公」と「時事ネタとフィクションの融合」という、需要の無い2つが子供の頃から好きで、読み切り単位でその好きを封印しながら売れ線を描くか、または売れ線を封印して好きを全面に押し出しながら作品を描いていました。
 しかし、それではデビューできず、最終的には「需要の無い好き」と、「需要のある売れ線」を「全て1つの作品に融合させる」形の漫画に14作目の読み切りである「ハッカーもの」で辿り着き、それを発展させて現在『100万の命』と『マイホームヒーロー』を描いています。
 漫画を描くというのは自分との戦いです。“面白さ”の精度を上げさえすれば、どんなニッチなジャンルだとしてもプロになれます。勿論ニッチであるほど、より面白いものが求められますが。色んな作品に触れて勉強して、ネームを切って…という研鑽を怠らないでください!

 

『100万の命の上に俺は立っている』は「別マガ」で大好評連載中!

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第112回新人漫画賞
特別審査委員長はマガポケにて『黒猫と魔女の教室』連載中の金田陽介先生!!

締め切りは2024年3月31日必着! ご応募お待ちしております!!

 

ぜひ周りの人にも教えてあげてください!

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