『特攻の拓』、『爆音伝説カブラギ』、『[R-16]R』などの原作者である佐木飛朗斗先生。『爆音伝説カブラギ』の単行本16~19巻に収録された、佐木飛朗斗先生が送る特別人生相談企画 「楽譜の無い道」全6回をマガポケで大公開しちゃいます!
今回は、第5回をお届け! ”強い生き物“に成ろうとする少年たちを描いてきた先生が、読者の悩みに応えます!!
キミが 特攻 めッ! 悩みを 特攻 めッ!!
■「楽譜の無い道」第5回
作家・原作家である佐木飛朗斗先生のスーパー人生相談企画第5回ッ! 『特攻の拓』から『爆音伝説カブラギ』、『[R-16]R』まで。”強い生き物“に成ろうとする少年たちを描いてきた先生が、読者の皆様の悩みに真摯に応えるぜッ!!
◎イラスト/東直輝
【初出】
マガジンSPECIAL 2016年No.4
[2016年3月19日(土)発売号]掲載
高校生です。最近、何を信じていいかわからなくなっています。TVにしろ新聞にしろ、報道される内容は偏っているとネットニュースでは言っています。
でも、逆にテレビや新聞では、ネットニュースを信じているのは恥ずかしいという雰囲気を感じます。
いったい、何を信じればいいのでしょうか。
世の中で起きていることを、佐木先生は何で知っていますか?
タイチ 16歳・男
佐木飛朗斗先生:
この「世の中で起きている事が知りたいが、何を信じて良いのかわからない」という悩みは、素晴らしいですね。それをタイチさんは16歳で悩んでいる。本当に凄い事だと思います。私は己自身の16歳を振り返って少しせつなくなりました(笑)。
タイチさんの悩みは、欲求と逡巡と言う二つの命題にわけられると思います。
第一は、「世界を知覚したい」という欲求。
第二は、「莫大な情報から何を取捨選択するのか?」という逡巡です。
これは、大の大人でも、とても難しい問題ですが、精進不足の私の主観と独断、そして経験でお応えしましょう。
まず、「世の中で起きている事を何で知っていますか?」との問いについてですが、私が見聞可能なものも、タイチさんとそう変わる訳ではありません。
同じニュースでも数社見る様にしていますが、これは各社報道の仕方が違うのと、事実の羅列でも前提文が一行抜けただけで、事象が違って見えてしまう事がありますし、情報源が違う場合もまた然りです。
ただ、現在起こっている事象のみを知り得ても、「世界を知覚する」事は非常に困難です。例えば「ギリシャ危機」ですが、これをドイツとIMF主導で救済するというニュースを見た時、まず、ユーロという通貨統合のいきさつや、何故、ギリシャはユーロ圏に加入したのか? 加入時の情勢、そして、それ以前に何故ギリシャがヨーロッパの一部として認知されているのか? 等の史実と、何故、国家経済が破綻寸前にまで追い込まれたのか? という現在の問題まで認識して、このニュースの意味、そして未来、この問題がどうなってゆくのかを思考する事が可能となるからです。
何だかとても面倒な事を言いますが、おそらくタイチさんの「世界を知覚したい」という欲求は、この様な事ではないかと推察します。
私の主観では、「何を認識するか?」によって、事象の未来を思考する力を身につける為に必要なのは、「己自身の天秤の支点を創る事」であると感じます。
21世紀の情報流通量は莫大です。
16歳のタイチさんが取捨選択に悩むのは当然の事と思われます。また、日本から遠く離れた小国の事件・事故のニュースなどは、この国に報道される事は稀ですし、この星、もしくは天体から海底まで含めた自然現象や、個人が全ての人間世界を把握する事は不可能と言わざるを得ません。
ただ、世界情勢や経済、そして各国の政治の動き、技術革新や法制度の問題まで、この国と地球上のニュースを解読する力を持つ大人に、タイチさんは成り得る16歳だと思います。けれども、あまり真剣にこの問題を突き詰めて悩んでしまっては、 16歳の心に良くありません(笑)。
好奇心を持って楽しく学び、経験を重ね、「己の天秤の支点」創りを心がけて下さい。まずは、興味の持てるニュースから探求してゆくのが良いでしょう。
「なぜ?」という問いが大切です。
16歳で、この問題に突き当たるタイチさんです。きっと、世界や時代の流れ、その精神とも言える事象を感得出来る大人に成長する事と思いますよ? 54歳の私でもまだまだ精進不足です(笑)。焦らずゆきましょう。
「21世紀の情報流通量は莫大です。16歳のタイチさんが取捨選択に悩むのは当然の事と思われます。」
■佐木飛朗斗 今月の 音葉 と 言楽
●『ガリア戦記』
ガイウス・ユリウス・カエサル 著
(訳/國原吉之助)
◎講談社学術文庫
紀元前、共和制ローマを再び帝政へと導いた英雄、ガイウス・ユリウス・カエサルの自著です。主観では、カエサルにとって、政治、軍事、都市計画、法整備に至るまで、全てが彼の芸術、もしくは作品の様に感じます。最高神祇官と独裁官に昇り詰めた彼が元老院議場に於いて暗殺される事になるのは歴史上あまりに有名な事件ですが、この『ガリア戦記』は、8年もの間、ガリアに侵攻した彼の発信するニュースの様でもあります。「カエサルは〜」と三人称で描かれ、雄弁な著述家であったキケロをして「純粋な裸体の様な文章」と言わしめた名文の数々。長く母国を離れざるを得なかった彼は、この戦記でローマの民衆の人心掌握と元老院に対する戦争の正当化を目論んだのでしょうか? いずれにしても、二千年以上前から、人間の愛するもの、憎むもの、名誉と誇り、恥と汚名、優しさ、残虐さは、変わらないのだと感じさせてくれる稀代の英雄譚であり、現在の21世紀に尚、第一級の歴史史料であり、そして「人間を識る」事の出来る素晴らしい書物です。彼が「書かなかった事」を推考するのもまた楽しい事ですが、このカエサルが「如何に世界を知覚しようとしたのか?」を、是非読者の皆さんも体験してみて下さい。
●J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ全集
J.S.バッハ(1685─1750) イツァーク・パールマン(ヴァイオリン)
◎EMI TOCE-59064~5
作曲家の多いバッハ一族の中にあって、「大バッハ」と呼ばれる、ヨハン・セバスチャン・バッハ。管弦楽、歌曲、鍵盤曲、弦楽など、膨大な数を誇る作品の中でも、この「無伴奏ヴァイオリンの為のソナタ&パルティータ」は、彼の「最小宇宙」であるかの様に感じます。ケーテン時代と呼ばれる、バッハがアンハルト゠ケーテン侯レオポルトの宮廷楽長を務めていた頃に作曲されたとされ、それまでの教会音楽的な楽曲とはまた違った趣を感じる事が出来ます。重音(和音)を弾くのが難しい構造であるヴァイオリンの独奏が、とても美しい和音を感じさせ、精緻で幾何学的でさえある旋律を紡ぎ出してゆきます(他にチェロ、フルートの無伴奏曲も存在します)。実は大バッハは、ヴァイオリンの構造を良く識らぬままこの曲を書き、結果、演奏難易度が高くなったとの説もあります。真実はどうあれ、ちょっと楽しい逸話ですね(笑)。この曲集が存在しなければ、後のパガニーニやイザイによる無伴奏曲は生まれる事は無かったと思わせる程、音楽史に輝く名曲揃いです。演奏は、20世紀の偉大なヴァイオリニストの一人、イツァーク・パールマン。峻厳なバッハを、美しい叙情性と、まるで舞い上がる様な官能性さえ感じさせる名演です。「大バッハの最小宇宙」、「無限と有限」。ぜひ体験してみて下さい。
次回の「楽譜の無い道」もお楽しみに!