『特攻の拓』、『爆音伝説カブラギ』、『[R-16]R』などの原作者である佐木飛朗斗先生。『爆音伝説カブラギ』の単行本16~19巻に収録された、佐木飛朗斗先生が送る特別人生相談企画 「楽譜の無い道」全6回をマガポケで大公開しちゃいます!
今回は、第3回をお届け! ”強い生き物“に成ろうとする少年たちを描いてきた先生が、読者の悩みに応えます!!
キミが 特攻 めッ! 悩みを 特攻 めッ!!
■「楽譜の無い道」第3回
作家・原作家である佐木飛朗斗先生のスーパー人生相談企画第3回ッ! 『特攻の拓』から『爆音伝説カブラギ』、『[R-16]R』まで。”強い生き物“に成ろうとする少年たちを描いてきた先生が、読者の皆様の悩みに真摯に応えるぜッ!!
◎イラスト/東直輝
【初出】
マガジンSPECIAL 2016年No.2
[2016年1月20日(水)発売号]掲載
「やらずに後悔するよりやってから後悔した方がいい」。
この言葉を座右の銘にしてる友達がいます。彼はどう考えても無理めなカワイイ女の子にいきなり告ったあげく、フラれてます。あまりに見境無いので、周りの女子たちはドン引きです。それなのに、彼は「オレは前向きだから」とこたえません。最初から失敗するとわかってることをするなんて、バカげてると思うし、自分勝手で迷惑なヤツだと思うのですが、先生はどう思われますか?
ふれでぃ 17歳・男
佐木飛朗斗先生:
素晴らしい友人です。
ふれでぃさんは17歳にしては、少し用心深過ぎる様な気がします。今回も、私の主観及び独断でお応えしましょう!(笑)
以前も申し上げた通り、「人は思ったより永く生きる」ものです。
時と共に成熟してゆきますが、人間自体がそう変わる訳ではありません。
ただ、年を重ね、経験を積む事によって学び、賢明に成ってゆきます。分別という知恵が身についてゆきます。
けれども、若い頃は、「無謀」であって良いのです。
もっとも、この「無謀」も、主観、客観があり、当の本人からすれば、「確信」して行っている事かも知れません。現在、53歳の私が、己の過去を振り返って見れば、かなり「無謀」でした(笑)。
けれども、その「無謀」が無ければ、決して現在の私は存在していなかったと確信する事が出来ます。人生に取り返しのつかない様な「無謀」は問題ですが、無理めの女の子に告白する事が、誰の迷惑にも成るとも思えません。
ただし、引き際は潔く(笑)。
17歳、青春真っ只中のふれでぃさんも思いっきりやってみてください。「自分勝手で迷惑なヤツ」で良いのではないでしょうか?
人間は生き物です。食物連鎖の頂点に君臨しています。他の命を身体に取り込まねば、生きてゆけないという、この地球上の生命のルールから逃れ得ません。生きている以上、何かの、そして誰かの迷惑に成る事は、必然です。
例えば、私が生きているという事は、これまで、私が食べてきた命と、消費してきたエネルギーの上に成り立っています。
また、資本主義社会に於いては、「通貨」は「命の単位化」です。
これは決して、「お金は命の様に大切」という意味ではありません(笑)。
人は生業によって、己の命を「通貨」という単位に変換して、己の命を賄っている、という事です。
人間同士も、日々、命の遣り取りをしている訳ですね。
これが、世界経済レヴェルになると、「円を売ってドルを買う」などという様に、通貨で通貨を売り買いします。
これはまさに、「経済戦争」ですね。
通貨が「命の単位化」であるなら、時間は「人生の単位化」です。
人間が天体の運行を数える事によって、「暦」は成立していますが、「時間」とは本来、物質の変化の量を指し示し、主観的に考えれば、私の存在が無くなれば、「私の時間」は終わります。
17歳のふれでぃさんにとって1年は、今まで生きてきた、17分の1ですが、私にとっては53分の1です(笑)。
人間世界では、通貨が変動する様に、時間も変動します。
年を重ねるごとに、どんどん1年は早くなってゆきますよ?
思いっきりやりましょう(笑)。
たとえ無謀であっても、後悔ばかりではありません。若い頃の無謀は、時として新しい人との出会い、そして新しい人生を切り拓く事だってあるのです。
「17歳、青春真っ只中のふれでぃさんも思いっきりやってみてください。
「自分勝手で迷惑なヤツ」で良いのではないでしょうか?」
■佐木飛朗斗 今月の 音葉 と 言楽
●『豊穣の海』
※書影は「春の雪―豊穣の海 第1巻」
三島由紀夫 著
◎新潮文庫
「春の雪―豊穣の海 第1巻」、「奔馬―豊穣の海 第2巻」、
「暁の寺―豊穣の海 第3巻」、「天人五衰―豊穣の海 第4巻」の全4巻
凄まじい生き様を貫いた、我が国が誇る文豪、三島由紀夫の最高傑作にして遺作です。第1巻の「春の雪」、第2巻の「奔馬」、第3巻の「暁の寺」、第4巻の「天人五衰」まで、非常に長い時の流れを描いています。その中で主人公は、ほぼ傍観者として人生を生きてゆきます。それぞれの巻に、激情、あるいは祈りの様な、正体のわからないものに突き動かされながら、生き、そして死んでゆく者達。交錯してゆく時代の精神と、人の心の中の深い精神世界。まるで三島由紀夫は、この「豊穣の海」全4巻を書き残す為に生まれて来たのでは無いかと思わせる程、衝撃的であり、また繊細、精妙にして、鬼気に満ち溢れています。主人公が最後に見る世界。この偉大な書物を、原語で読む事の出来る素晴らしさ。読者の皆さんにぜひ体験していただきたい世界です。
●交響曲第9番「合唱」
フルトヴェングラー&バイロイド(1951)
ベートーヴェン(1770─1827)
◎TOCE59007
ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 バイロイト祝祭管弦楽団
1951年7月29日 バイロイト音楽祭ライブ録音
いわゆる「ベートーヴェンの第九」です。戦後、日本、イタリアと共に敗戦国であったドイツのバイロイトに於ける復活第1回のオープニング録音です。指揮は、私が最も敬愛する指揮者の一人、ウィルヘルム・フルトヴェングラー。個人的に人類にこれ以上の「第九」が可能であろうか? と思わせる程の名演です。ワーグナーが創設したバイロイト音楽祭の歴史や、大戦中のフルトヴェングラーの生き様については、割愛しますが、指揮者、ソリスト、オーケストラ、合唱団及び観客達。この場に存在する全ての人々の希望や苦悩、悲しみや愛を具現化するかの様な演奏は、聴く者達の魂を震わせ、その胸を打ちます。「第九」は主観では第一楽章は「胎動する大地」、第二楽章は「巨大な質量を想起させる風」、第三楽章は「揺蕩う水」、そして第四楽章は「炸裂する炎(命)」と、四大元素を感じます。音楽の魔力を人間の力が解放する事を証明する、最高の一枚です。
次回の「楽譜の無い道」もお楽しみに!