『特攻の拓』、『爆音伝説カブラギ』、『［R-16］R』などの原作者である佐木飛朗斗先生。『爆音伝説カブラギ』の単行本16～19巻に収録された、佐木飛朗斗先生が送る特別人生相談企画 「楽譜の無い道」全６回をマガポケで大公開しちゃいます！
今回は、第２回をお届け！ ”強い生き物“に成ろうとする少年たちを描いてきた先生が、読者の悩みに応えます!!
キミが 特攻 めッ！ 悩みを 特攻 めッ!!
■「楽譜の無い道」第２回
作家・原作家である佐木飛朗斗先生のスーパー人生相談企画第２回ッ！ 『特攻の拓』から『爆音伝説カブラギ』、『［R-16］R』まで。”強い生き物“に成ろうとする少年たちを描いてきた先生が、読者の皆様の悩みに真摯に応えるぜッ!!
◎イラスト／東直輝
【初出】
マガジンＳＰＥＣＩＡＬ 2016年Ｎｏ．１
［2015年12月19日（土）発売号］掲載
ぼくには今、付き合って１年の彼女がいます。
彼女はかわいくてラブラブなのですが、最近別の女の子から告白されました。彼女に内緒でデートをしてみたのですが彼女とは違うかわいさで、「彼女がいても別にいい」と言ってくれるのでちょっと二股みたいになっています。彼女一筋の方がカッコイイとはわかっているのですが、一人に絞ることができず悩んでいます。
どうしたらいいでしょうか？
ヒロキ 17歳・男
佐木飛朗斗先生：
恋人を一人に絞る事が出来ない悩み。う～ん‥とても良いですね。いや、決して二股を推奨している訳ではありません（笑）。
近年、若い世代が、恋愛や結婚を面倒だと感じているというデータが報じられていますから。
私は、若い編集者やデザイナー、そして作家にも、「恋をしてるか？ 思いっきり恋をしろよ!?」と常に話します。
人間は、生き物です。
恋をすると性能が上がると確信しています（笑）。
本能的に全身の細胞が活性化し、思考や感性、そして感情にまで大きく影響する様に思います。
ヒロキさんは、17歳との事ですから、思いきり恋をしましょう。
ただし、この場合一つ問題がある様に感じます。以前からの恋人が、ヒロキさんの新しい恋人の存在を知らない、という事です。新しい恋人は、ヒロキさんにすでに恋人が居るのを知っているにもかかわらずです。
これでは不公正ですね（笑）。
これを是正するには、以前からの恋人にも、新しい恋人の存在を明らかにしましょう。それでも構わないと、以前からの恋人が納得するかどうかです。
そうでなければ、新しい恋は、ただの「浮気」となってしまいます。
彼女が、ヒロキさんの話を聞いて、「では別れる」と言った場合、ヒロキさんの心もまた試されます。
どちらを選ぶかは、必然になるからです。
また、話を聞いた彼女が、「どうあっても（新しい恋人と別れたとしても）別れる」と、言うかもしれません。
さらに恋人と別れたヒロキさんでは、つまらないと言って、新しい恋人も去って行ってしまう事は、世界中に満ち溢れているケースです（もちろん、男女が逆の場合も含めます）。
それなりに覚悟を決めて、恋に臨みましょう。
また、二人の恋人が、「それでも良い」と言った場合、ヒロキさんは彼女達を束縛する事はできなくなります。つまり、彼女達も他の男と自由に恋をする権利が、ヒロキさんに対して生じるという事ですね。
ただし、恋はゲームではありません。
楽しくもあれば傷ついたりもします。それで当然だと思います。
私の主観と概念では、恋は、愛を創造する過程であり、また愛を編み出す為の手段です。
恋人達は、出会ったり別れたりします。そして、恋を愛に変容させる事が出来たとしても、永遠ではありません。
もちろん、生涯の愛も存在します。が、終わる愛もまた存在します。そして、甦る愛さえも在るのです。
愛という言葉と感情は、とても深淵なものであり、不思議であり、また不条理なものです。
私は、生涯二人の女を同じ様に愛し抜いた男を知っています。すでに皆、他界されていますが、彼と、彼女達の人生は想像を超える複雑な深淵を持っていました。また、互いに対する感情も、決して美しいだけで無く、莫大な齟齬を生んでいた事も事実です。
人の心は、計り知れないものです。
デジタルの様に、０と１の配列で判定出来得るものではないのです。
17歳のヒロキさんには、思い切り恋をして欲しいと思います。17歳の恋でも、楽しいだけではない。それで当たり前です。
心と身体が張り裂ける様な経験となるかもしれません。愛を編み出す事になるかも知れません。そして、それが生涯の愛に成る可能性もあるのです。
どんな結果を生もうと恋は、人生に於いてとても大切な糧であると確信しています。誠実さとは、人それぞれであると思いますが、誠実な心は、正しく人の胸を打ちますよ？
「17歳のヒロキさんには、思い切り恋をして欲しいと思います。」
■佐木飛朗斗 今月の 音葉 と 言楽
●『アンナ・カレーニナ』上・中・下
※書影は上巻
レフ・Ｎ・トルストイ 著
◎岩波文庫 赤617－1 赤617－2 赤617－3
小説家であり思想家である、トルストイの傑作の一つです。夫と息子を持つ主人公アンナの恋を描いた作品ですが、もう一組の恋人達が対位法的に配置され、また、当時のロシアに於ける、政治と制度、命の誕生と死、貴族階級と農民達の思想・生活が、縦横無尽に全編張り巡らされています。終章近く、主人公が倦怠から徐々に破壊的な感情に囚われ、破滅への道を加速させてゆく姿は、現代に読んでみても、その背徳性に衝撃を受ける事でしょう。
恋、そして愛。倫理と背徳。人は、何と戦うのか？ 深い愛を持ちながら、何故、平穏を遠ざけてしまうのか？ 人間と愛と生活を深く抉る文豪の名作です。
●『
ニルヴァーナ
◎DgcRecords DGCD―24705
グランジロックという分野を確立させた、ニルヴァーナの1993年に発表されたアルバムです。この音楽を、『アンナ・カレーニナ』のバックグラウンドに聴く事は、決して推奨しません（笑）。
不幸な環境に育ったカート・コバーンが、一瞬でロックスターダムに上り詰め、ファッションアイコンとして雑誌を飾り、そして悲劇的最期を迎える。そのカート・コバーンの「人間の力」が全編炸裂しています。混沌と破壊、そして破滅的結末。これを『アンナ・カレーニナ』と共鳴させてみました。
が、１曲目の「Serve The Servants」の不協和音からリフ、そしてボーカルが入った瞬間感じられるのは、「これぞ、ロック魂!!」です（笑）。
好き嫌いは別として、「理論や技術」を笑い飛ばすかの様な、「人間の力の炸裂」を在り様とする「魂」を一度体験してみてください。
次回の「楽譜の無い道」もお楽しみに！
