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『ワンダンス』で実感した、”チャレンジ”の先に見えるもの

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パラアスリートの佐々木です。

 

自分が経験したことのないものに挑戦するのって怖いですよね……

 

僕もいまのパラスポーツに挑戦したときは未経験からのスタート。
「練習し続ければ上手くなるかもしれない」という期待感と「経験者と大きな差がある」という焦りを同時に感じました。

 

練習してもなかなか追いつかない。キャリアの差は埋まらない。
大きな舞台に立つチャンスをもらった時も同じでした。いやあ、遠いなあと。

 

でも、地元で一緒に練習して、背中を押してくれている仲間がいる。普段から応援してくれる家族がいる。この”誰か”の存在はとてもありがたいことです。

 

誰かのために頑張るというより、誰かがいるから頑張れるというほうがしっくりきます。でもなんで頑張れるんだろう、強くなれるんだろう。そんな”誰か”ってどうやったらできるんだろう……

 

漫画好きなパラアスリートが、漫画から毎日を「ちょっとだけ楽しくする」ヒントを解説。

 

今回は珈琲先生の『ワンダンス』。
障がいをメインテーマに据えていないのに、障がい者のリアルが描かれたすごい漫画。

 

未経験なことに挑戦するマインドにも親近感があり、一気に読んで一気に独断と偏見でこの原稿を書いてしまいました(笑)。 

周りに合わせて生きてきたカボくん

 

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『ワンダンス』は高校のダンス部が舞台。

 

部活動のサクセスストーリーや人間模様だけでなく、ダンスバトルやダンサーとしてのキャリアなど、ダンスにまつわるさまざまなことが描かれています。

 

主人公の小谷花木(こたにかぼく:あだ名はカボくん)は「やりたいことがあっても押し殺して、周囲に合わせて生きている」タイプの高校生。

 

高校に入学してすぐ、「自分の世界観をもち、周囲に流されることなく生きている」湾田光莉(わんだひかり)のダンスを見て、憧れるところから物語が始まります。

 

f:id:magazine_pocket:20200519191642p:plainカボくんには、吃音(きつおん)という特徴があります。

 

吃音は、「こ、ここんににちは」のような喋りかたになってしまったり、カボくんのように言葉が詰まったりしてしまう特徴のこと。「ピーパッパパラッポ」で90年代に大ヒットしたスキャットマン・ジョンも吃音を持っていました。

 

カボくんはそんな吃音を「溺れながら喋る感覚に近い、呼吸のタイミングを見失う」と表現しています。カボくんが自分を押し殺したり、周囲の目線を気にしたりという傾向は、吃音による「喋るのが苦手」という意識から来ているのかもしれません。

 

僕も両足が不自由で、カボくんみたいに「押し殺してしまう」みたいなトコがありました。これは「身体が不自由な人あるある」です。

 

こうした特徴によって自信を失ってしまうと、身体の不自由さ以上に自分が自分らしく生きていくための障壁となることもあります。このあたりが『ワンダンス』はとてもリアルに描かれていました。

 

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そんなカボくんは、湾田光莉(湾田さん)が踊る様を見て「自分も踊りたい!」と一念発起。実はカボくん、「中学時代に上手く踊れなかった……」とダンスにネガティブなイメージを持っていました……

 

彼女のなにげない一言や振る舞いに、カボくんはいろいろなことに気づき、一歩踏み出す勇気を持ち始めます。

 

経験者の中に未経験者が混ざるって怖い

 

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初めての部活動ってワクワクより「不安」が大きいのかも……

 

先輩たちはもちろん、経験者の同級生たちと比べて、自分は未熟で不甲斐ない。「この場所にいていいのだろうか」「ヘタクソな自分をみんなが笑っている……」とか考えちゃったりしませんでしたか?

 

でも、ワクワクするところもある。期待感と不安が入り交じった状態からスタートするのは「部活動あるある」です。

 

「できない自分が恥ずかしい」と恥ずかしい想いをする良い機会のひとつだとも思います。そしてここが分かれ道になるんじゃないか。

 

この恥ずかしさとうまく付き合うことができれば、できないことへのチャレンジを何の迷いもなく取り組むことができる。
うまく付き合えず「思い出したくない記憶」になってしまえば、チャレンジに及び腰になってしまうでしょう。

 

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ダンス部という性質上、ほとんどが女子学生という環境もカボくんを不安にさせる要因のひとつ。「ダンス部かよ(笑)」と男友達にイジられたり、その環境ならではの悩みが生まれたり、カボくんはさまざまな葛藤をします。

 

そんなカボくんにとって幸運だったのは、自分のそばに湾田さんがいてくれたこと。
そして、彼女が応援してくれたこと。

 

未経験であることへの不安も、女子ばっかりの環境にいることへの不安も、彼女がそばにいてくれたことで、うまく解消していきます。

 

カボくんと湾田さんの素敵な関係

 

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湾田さんは最初っからカボくんを気にかけていた訳じゃありません。

 

カボくんが自分のことを湾田さんに話したり、不安や悩みを相談したり、分からないことを質問したりしていたから、湾田さんもカボくんのことを見て、考えるようになっていきます。

 

誰かに見せたくないところを相手に開示していくことで、相手が自分に興味を持ってくれる。困ったときに助け舟を出してくれるんじゃないか。

 

カボくんは湾田さんに憧れて、「ダンサー、人間的に少しでも近付きたい」といろんな話をしましたが、そのおかげで「良き理解者」を得たんだと思いました。

 

「自分の良き理解者」という言葉がありますが、それは相手が「立候補してくれるもの」ではなく、カボくんみたいに自分がたくさんの情報を相手に伝えることで、気がついたら「なってくれているもの」なんじゃないか。

 

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やる気をみなぎらせて、基礎練習に励むカボくん。
湾田さんは、そんなカボくんを見て応援します。

 

自分のことを応援してくれる人がいると、とたんに意欲やモチベーションが高まるのは僕も同じでした。気持ちが高ぶるからかもしれませんし、安心・安全な気持ちがスタートラインを固めてくれるからかも……

 

「理解者」は強みにも気づかせてくれる存在

 

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カボくんのすごいところは応用力。中学時代にやっていたバスケットボールの動きとダンスの動きの関連づけが巧く、音の取り方はバスケの応用から身につけていきました。

 

ダンス経験者にはない発想で、未経験者だからこそ可能なこと。そんなカボくんの能力には湾田さんも気付き、驚きます。

 

こういったひとつひとつの気づきや発見を相手に伝えていくことで、信頼関係や何でも言い合える雰囲気が生まれていきます。

 

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関係が深まってくると、自分では気づかなかったことを伝えてもらえるようになります。

 

「本当は強烈にものすごくやりたいことがあるけど
 それが出せなくて苦しんでる感じがする」

 

これはカボの吃音という特徴も、自分のこれまでの振る舞いの傾向も、人との関わり方もすべてを見透かされたような一言。

 

ただ、自分のすべてを話していた湾田さんが言ってくれた言葉だからこそ、カボくんの心の中にしみ込んでいきます。それは納得感もあれば、自分のことを見ていてくれた嬉しさも含まれているかもしれません。

 

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人は皆、どこかで自分のことを見てほしい、解ってほしいと願っています。反面、どうせ自分のことなんて……と冷めて身構えている部分もあります。そのどっちつかずな感じが人間らしさなのでしょう。

 

僕にもパラアスリートという一面はありますが、そのほとんどの期間、レギュラーでもなければ、ベンチにいることばかりで代表に選ばれないこともありました。

 

”だから”かもしれませんが、一人でも見てくれている人がいる、応援してくれている人がいるというありがたさは、しみじみと心のひだに感じます。

 

意外と誰かが自分のことを見てくれている。
その誰かは最初のうちは明確ではないけれど、自分はひとりじゃない。

 

これが真実ではないかと感じています。

 

未経験なダンスに挑戦し、吃音という特徴とともに自分自身のこれまでと向き合う。カボくんが勇気を出して踏み出した一歩が、湾田さんとの絆になりました。

 

『ワンダンス』はいろいろな人と出会い、自分のことを話し、相手の言葉に耳を傾ける。
そして、自分を応援してくれる大切なひとりを見つけていく。そんな人生って充実しているのだろうなと感じさせてくれる作品でした。

 

マンガって、すごい。

 

佐々木一成 profile

『ブルーロック』に学ぶ、「出る杭」になる覚悟と勇気

WEBメディア「Plus-handicap」編集長。生まれつき両足と右手が不自由な義足ユーザー。国際スポーツ総合競技大会の正式種目であるシッティングバレー日本代表候補。

 

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