「お、合併号だ……そうかGWか……」
「早いですねー。でも、合併号ってなんですか?」
「そりゃ大型連休だと本屋さんとか取次(問屋)が休むからだよ」
「そうですか? 最近はお正月でもどこのお店も開いてますけど」
「そう言われるとそうだね。詳しくは俺も知らないな」
「販売部ならわかるかも。聞いてみましょう」
という訳で、講談社第三・第四事業局販売部の週刊少年マガジン編集部担当・新谷泰典に「合併号って何なの? ついでに販売部って何やってるの?」と聞いてみました。
販売部はどんな仕事をやっているの?
——合併号ってなんですか?
新谷:
いきなりですね(笑)。
合併号を説明するために、まず販売部がどんな仕事をしているか話してもいいですか?
——どうぞどうぞ。
新谷:
販売部は、ざっくり言うと雑誌や単行本を読者に届ける仕事を担当しています。
単行本の印刷部数や書店へ出荷する数を決めるほか、編集部の要望を踏まえて、書店店頭で使用されるポスターなどの宣材や単行本や雑誌につく小冊子などの企画・作成を担当しています。
※こうした宣材の制作も販売部が担当しているそうです。
——幅広いですね……実はどうやって単行本の印刷部数を決めているのかも、今日聞きたいことのひとつでした。
発売日に10万冊売れる単行本を5万冊しか印刷していなければ、5万人の読者をお待たせしてしまう。一方で、30万冊印刷すれば、20万冊が売れ残ってしまう……いったいどうやって「部数」を決めているんでしょうか?
新谷:
そこは販売部の腕の見せどころですね!
前巻の売れ行きや類似書の売れ行きなど、様々なデータを参考にします。作品の流れやジャンルも参考にしていますね。
——作品の流れって、どう部数に影響するんですか?
新谷:
たとえばスポーツ漫画だと、試合が終わってひと区切りしたタイミングで読者の熱が下がるんです。強豪チームとの白熱の試合が終わると、販売部数も下がってしまう傾向にあります
まさにここが販売部としても踏ん張りどころ。編集部と連携して、限定版や特装版を企画するなど、売り上げが下がらないように工夫します。
——ちなみに……1巻が出たときに「これは売れるな!」みたいな肌感覚はあるんですか?
新谷:
うーん……発売後一週間の売り上げを見れば、その後にどれだけ伸びるかの感覚は、これまでの経験から摑めているとは思います。
作品単位で言えば、7巻までの売り上げでその後の伸びも予想がつきます。7巻以降にドーンとくる作品ってあんまりないんです。
——「あんまりない」ということは、7巻以降にドーンと来た作品もあったんですね。
新谷:
「週マガ」の連載作だと、和久井健先生の『東京卍リベンジャーズ』ですね。
pocket.shonenmagazine.comすごく面白い漫画なんですが、発売当初は和久井先生の代表作『新宿スワン』のイメージが強く、まだ『新宿スワン』のファン層以外にはきちんと届いていない印象でした。
そこで担当編集と一緒に思い切って単行本の表紙デザインを刷新。青年漫画のようにクールでかっこいい表紙だったのを、少年漫画として「爽やか」に見えるように変更し、これまでのヤンキー漫画とは違った魅力があることを押し出しました。
結果、より年齢層の若い読者にもアピールできて、『新宿スワン』ファンの方々以外にも認知していただけました。7巻まで刊行されてはいましたが、ドーンと伸びた例ですね。
——なるほど……では、本題の合併号についてそろそろ……
新谷:
めちゃめちゃ聞きたいんですね(笑)。
合併号って何のためにあるの?
——ズバリ、合併号って何のためにあるんですか?
※ 年末年始には2・3合併号、4・5合併号と、合併号が2回出ます。
新谷:
合併号の一番の目的は、「漫画家の先生たちに休んでいただくこと」ですね。
編集部は当然ですし、読者の皆様も想像はつくと思いますが、週刊連載の漫画家さんたちの仕事量は世間のイメージを遙かに超えています。とにかく働き詰めなんです。
そんな先生たちの働きのおかげで成り立っているのが我々出版社。漫画家の先生たちが体調を崩されたりしたら元も子もありません、
先生たちにも息つく時間が必要です。ゆっくりと疲れを取っていただき、休息後にまた面白い作品を描いて読者を楽しませてほしい—そういう願いをこめて、合併号を作ったという経緯があります。
——でも1号分減るので、当然売り上げも減るわけですよね……?
新谷:
販売部としては、合併号は一種のイベントとして捉えています。
「週マガ」は毎週発売していますが、合併号は一週間休みになる=つまり書店さんに並ぶのも2週間になるんです。
単純に「販売期間が長い」ので部数も伸びやすいんです。
また編集部も合併号にあわせて企画を立ててくれたり、作品展開を盛り上げたりしてくれるので、ある意味、合併号は「お祭り」のような印象ですね。
——そういえば、合併号って一年の間に何冊出ているんですか?
新谷:
年末年始、ゴールデンウィーク、お盆休みの4冊ですね。
世間一般の長期休暇に合わせています。
——書店さんや取次(問屋)さんがお休みをとるからですか?
新谷:
実はあまり関係ありません。
書店さんや取次さんは法人ですので、お正月でもお盆中でも稼動しようと思えば稼動できます。でも、先生たちは個人事業主ですし、「先生が休んでいる間に、ほかの人が描けばいい」にはなりませんよね。
——なるほど、合併号についてはよくわかりました。実はもうひとつ、「なんで雑誌の“号”って翌週、翌月になっているの?」も気になっているんです。12月発売なのに「1月号」になっていますよね。「そういうものなんだろう」と思っていましたが、新谷さんは理由をご存知ですか?
※12/9発売の「別マガ」は発行日が「1月1日」の“1月号”になっている、なぜ??
新谷:
それは販売部じゃなくて編集部の方が詳しいと思いますが……(笑)。
でも説明しますね。
週刊誌は発売後15日先まで、月刊誌であれば45日先まで、発行日を自由に設定していいという基準があります。
これは昭和の時代に各出版社が集まって取り決めた規約だったりします。
——たとえば12月に発売した月刊誌は1月にも書店に並ぶので、古く見えないようにする工夫なのかなと思っていました。
新谷:
それも正しいと思います。
取り決めがなされたのが遙か昔なので、もしかしたらいまの時代の実情には合わないのかもしれません。とはいえ、いまさら「2020年から1月発売の月刊誌を『1月号』にしよう」と規約を書き換えるのも現実的ではないですよね。ある種の商習慣と理解していただければと思っています。
——ありがとうございます! モヤモヤが晴れました(笑)。
次は単行本についてもっと詳しく聞いてもいいですか?
新谷:
もちろんです。ネタはたくさんありますよ!
限定版と特装版は何が違うの?
——先ほど特装版の話になりましたが、「限定版」と「特装版」って何が違うんですか?
新谷:
ざっくり言うと、「重版がかかるかどうか」です。
「特装版」には重版がかかり、「限定版」には重版がかかりません。
単純に、「限定」なのにいつまでも購入できたらおかしいですよね(笑)。
——ちなみに限定版を出すようになったのはいつからなんでしょうか?
新谷:
厳密に「一番最初」というのはわかりかねますが、昔から少しずつは刊行していました。たとえば、高田裕三先生の『3×3EYES』や上条明峰先生の『SAMURAI DEEPER KYO』などは、初回限定版を出していますね。
※windowsで起動するパズルゲームが付いた“限定版”
読者に馴染みが出てきたのは、赤松健先生の『魔法先生ネギま!』がきっかけだと思います。この頃から「限定版の反響が大きいので重版をかけたい=特装版を作ってもいいんじゃないか」という声も出てきました。
−−「限定版」と「特装版」、どちらにするかを決める基準はあるんですか?
新谷:
「重版がかけづらいか、かけやすいか」で判断します。
たとえば「小冊子」は量産しやすいので特装版に向いていますね。
一方、缶バッジや作品内に登場するアイテムのレプリカキーホルダーなど量産が難しいモノは限定版で出すことが多いです。
——新谷さんにとって特装版を企画する上で重視してる点はありますか?
新谷:
販売部なので「売れたかどうか」という観点でお話しさせてください。
小冊子は読者にも喜んでいただける=実売数が伸びることが多いです。
もちろん缶バッジなどのグッズも喜んでいただけるのですが、小冊子付きのほうが実売数は伸びたりはします。一方、缶バッジなどグッズものは『進撃の巨人』で実施したように、雑誌と連動した企画を立てたりしやすいのが特徴です。
そうした前提があった上で、我々販売部としては、単価を上げて、売り上げアップにつなげることがミッションです。
ただ、読者に満足いただき、納得してもらわないと不満に思われてしまいますよね。そして、先生の負担を過剰に増やしてもいけない。
「売り上げアップ」を重視してはいますが、その前に「どんな特装版・限定版なら、先生に負担をかけ過ぎず、かつ読者に大満足してもらえるか」を考え抜いた結果が「売り上げアップ」になるとは常に考えています。
——『東京卍リベンジャーズ』の話もありましたが、単行本の表紙デザインに販売部が関わることは多いんでしょうか?
新谷:
そこまで多くはないですね。
あと、そんなに口出しをすることもありません。
ただし、「読者層に合わないかも……」と感じたら、担当編集者には伝えるようにしています。
たとえば、「週マガ」連載作なのに、ジャンプさんやサンデーさんではなく、コロコロコミックさんの読者が好みそうな表紙だと、さすがに読者も手には取らないですよね。
——編集部が先生と一緒にメニューや料理を作って、販売部がメニューの見せかたや料理をお客さまのテーブルまで持っていくのを担当している。そんなイメージなんですね。
新谷:
そうですね!
編集部が先生と一緒に0から1を創る、そして我々が1を10に、100にしていくんです。
瀬尾公治先生の『ヒットマン』で言う名取さんのポジションですね。
でも、僕は「彼女を脱がして!」って頼み込んだことはないですけど……(笑)。
——ありがとうございました!