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誰も見たことないアクション漫画を! 『戦車椅子-TANK CHAIR-』やしろ学先生インタビュー

マガポケで話題沸騰中の『戦車椅子-TANK CHAIR-』。
殺意を受けると一時的に意識が回復する伝説の殺し屋・平良凪(たいら なぎ)と、そんな凪のために奔走する妹・平良静(たいら しずか)が繰り広げる、バイオレンスアクションです!

 

※一部、20話までのネタバレを含みます。

 

最強の敵との戦いに終止符が打たれ、物語は第2部へと突入! 息を呑む展開と、さらに深まる兄妹の絆から目が離せません!

 

 

そんな『戦車椅子-TANK CHAIR-』を連載中のやしろ学先生に特別インタビューを行い、連載までの経緯や新章の見所などについて語っていただきました。

 

●初めて描いた漫画で、漫画家の道へ

──やしろ先生が漫画家を目指したきっかけを教えてください。

 

やしろ学先生(以下、やしろ):
初めて漫画の面白さを知ったのは、幼い頃に読んだ『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』、『河童の三平』などの水木しげる先生の作品で、夢中で読みました。また、怪獣映画も好きだったので、自然と自分で考えた妖怪や怪獣を描いたりするようになりました。その頃からずっと絵を描くことは好きだったのですが、「漫画」は描いたことがなくて……。大学生2~3年生になって初めて「絵を描く仕事がしたい」と思うようになり、就職活動をする前に一度漫画を描いてみようと決めました。どこにも引っ掛からなかったら大人しく就職しよう、と。そのときに描いた作品で最初の担当編集さんに拾っていただき、本格的に漫画を描き始めるようになりました。

 

──人生初の漫画で、漫画家への道が開けたのですね。

 

やしろ:
当時、僕は漫画の描き方をまったく知らなくて。漫画にはノド(見開きの中央部分)があるので、ギリギリまで描くと絵が隠れて見えなくなってしまうのですが、僕はそれを知らずに画用紙いっぱいに絵を描いていました。最初の担当さんと初めて会ったとき、「君、漫画の描き方知らないでしょ?」と言われましたね(笑)。

 

──その時はどのように漫画を描かれていたんですか?

 

やしろ:
とにかく描いてみようという気持ちが先行していて。まずは画材を買いに行ったのですが、メモリの入った漫画用の原稿用紙を見て「この青いメモリみたいなやつ、邪魔だな~」と思って普通の画用紙を買いました(笑)。少しは調べろよ、と思いますが(笑)。とりあえず自分の力で作品を描いてみたかったのだと思います。

 

──その後、『無法地帯』で「JUMPトレジャー新人漫画賞」佳作を受賞し、「少年ジャンプNEXT! 2010WINTER」に掲載された『新鬼ヶ島』でデビューされていますね。

 

やしろ:
最初の作品から『新鬼ヶ島』掲載までの1年半くらい、漫画をひたすら描いて勉強しました。10作品ほど、原稿用紙で500枚ほど描きましたね。そこでようやく人に見せられるレベルになったのかな……? 大学卒業までに漫画が載らなかったら漫画家は諦めようと思っていたので、安心しました。

 

担当H:
掲載競争率の高い雑誌に載ることは本当に大変ですよね。当時はWeb媒体がなかったので、さらにチャンスも少なかったと思います。そこを勝ち抜いて掲載された『新鬼ヶ島』は衝撃的で……。当時業界が騒然としたことを覚えています。

 

やしろ:
当時の鬱屈とした感じが出ていて恥ずかしいですが、「一生懸命描いてるな」と思って載せてもらえたのかな。当時の僕は、今以上にストーリーの作り方をよくわかっていなくて……。なので、凝った話にするよりも、見せ場をたくさん作ってプロモーションビデオのような作品にする方が良いと考えていました。自分が唯一持っている武器を使うならこの構成しかない、と思ったんです。

 

●引き止められる中、衝撃の漫画家断念⁉

──そして『新鬼ヶ島』の後、読み切り作品『叢鋼 -ムラハガネ-』が「週刊少年ジャンプ」にて掲載されています。順調に漫画家としての道を歩んでいるように見えますが、2013年に「ジャンプLIVE」にて掲載された『夏と神輿と巨大怪獣』の後、作品を発表されていません。それはどのような理由があったのでしょうか?

 

やしろ:
『夏と神輿と巨大怪獣』の制作に入る少し前に、自分の実力が足りていないと感じ、漫画を辞めようと思っていたんです。

 

担当H:
周囲の人は全員引き止めていましたよ。

 

やしろ:
僕は「何で引き止めてくれるんだろう?」と思っていました。もちろん嬉しかったのですが、これから漫画として何か新しいものを描けるとは思えなくなっていたんです。思い込みが激しいタイプなのかもしれません……(笑)。

 

担当H:
就活もうまくいってしまいましたしね。

 

やしろ:
気まぐれで映像関係の会社を受けたら採用されたんです。

 

──映像会社に入社してからも漫画を描き続けていたのでしょうか?

 

やしろ:
まったく描いていませんでした。漫画家の中には、人に見せるという目的がなくても漫画を描ける人と、そうではない人がいると思います。僕は自分のためだけに本気で描くことができなかった。それに「漫画はもう辞めたし」と思っていたので……(笑)。

 

●奇跡が繋いだ『戦車椅子』

──漫画を辞めてから『戦車椅子-TANK CHAIR-』の連載を始めるまでに、どのような経緯があったのでしょうか?

 

やしろ:
映像関係の会社に入社して数年経った頃、職場の先輩が、今の担当編集のHさんと偶然知り合ったらしく。

 

担当H:
その方に「とても才能のある漫画家さんが漫画の世界を離れて、今は映像関係のお仕事をしていて……」という話をしたんです。そうしたら、「その人、僕の後輩だよ」と(笑)。

 

やしろ:
それがきっかけで、先輩がHさんと繋いでくれました。Hさんは「また漫画を描きませんか?」と誘ってくれましたが、僕はそれも「社交辞令だろうな」と思っていて(笑)。聞き流していたら、「本当に何でもいいから描いてください」と強くお願いされ、「本気だったんだ」とようやく理解しました。

 

──奇跡のような再会ですね!

 

担当H:
そうなんです。奇跡といえば、やしろ先生のもう一人の担当編集Mは、中学時代からやしろ先生のファンで。

 

担当M:
学生時代、初めて読んだ『新鬼ヶ島』に衝撃を受け、「やしろ先生と漫画を作りたい」との思いで編集者を目指したんです。しかし、その後やしろ先生は漫画家を辞めてしまって……。そんなとき、Hさんがやしろ先生とコンタクトを取っていることを知り、本当に驚きました。

 

やしろ:
僕も「何で僕のことを知っているんだろう?」と驚きました(笑)。

 

●「車椅子の殺し屋」は家族のアイデア!?

──担当編集さんとの出会いから、『戦車椅子』の設定はすぐに出来上がったのでしょうか?

 

やしろ:
最初、Hさんから「アメコミヒーローみたいな話を描きませんか?」とお話をいただきました。家族にその話をしたら、「車椅子の殺し屋なんかどう?」と提案されて(笑)。その時点ですでに「これは面白いかも」と思っていたのですが、東京オリンピック・パラリンピックの影響で車椅子スポーツを見る機会が多くあり、車椅子にしかできない動きがあることに気付きました。例えば、その場から動かずに回転する動きなど。そこから「見たことのないアクション漫画を作れる可能性がある」と想像し始めました。

 

──最初に思い浮かんだのはどのようなアクションだったのでしょうか?

 

やしろ:
第1話のジグザグに走りながら敵を斬るアクションと、回転しながら敵を細切れにするアクションです。『戦車椅子』は、この2つのアクションのために描いたと言っても過言ではありません! この描写を成立させるために、他の設定を考えていきました。

 

 

──主人公の凪は「殺意を受けると意識が回復する殺し屋」ですが、この設定はどのように思いついたのでしょうか?

 

やしろ:
凪がしているのは殺戮行為ですが、読者がそれに反感を抱かないようにしたいと思っていました。とはいえ、「大義名分のため」では共感しづらいし、「復讐のため」だけでは気持ちのいい展開にならなそうな気がして。そこで、ミニマムな関係性の中に殺戮行為のモチベーションがあるなら上手く描けそうだなと思い、兄妹の話にしました。その過程で「殺意によって覚醒する」という設定もできて。作中では殺意を「殺」という文字で表現しているのですが、そこが漫画的で気に入っています!

 

●読み切りから短編、そして連載作品へ

担当H:
実は当初、『戦車椅子』は読み切り作品の予定でした。

 

やしろ:
まずは読み切りのお話をいただきました。働きながら1話を描いて提出したら、「4話まであると単行本になるので、あと3話分描きましょう!」と言われ、「あれ? これ読み切りじゃなかったの?」と(笑)。その後第4話で終わるように物語を描き始めたら、「第4話の最後で、ラスボスになるような人を出しませんか?」と言われ(笑)。「あれ? ラスボスを出したら4話で終わらないぞ?」と思っていたところ、Apple Booksさんが独占先行配信をしてくださることになり、第20話までのシリーズ作品になりました。

 

――そこで、ラスボスである“先生”が登場したのですね。

 

やしろ:
当初学園や鬼城島の設定はまったく考えていませんでしたが、ラスボスを出すにあたって「これはある程度舞台設定が必要だぞ」と気づき、その辺りを考えながら第5話から第20話までまとめてネームを描きました。その後、またしても驚くことに、マガポケで連載のお話をいただいて(笑)。ありがたいことですね。

 

──第4話までは働きながら描かれたとのことですが、その後もお仕事を続けながら描いていたのでしょうか?

 

やしろ:
第5話~第20話までを描こうと決めた段階で、会社は辞めました。働きながら漫画を描くのは体力的にも大変ですし、会社の規則で副業の許可が下りなくなって。ここまできたら最後まで描きたいという思いが強かったので、特に迷うことなくきっぱりと辞めました。

 

担当H:
しかも、やしろ先生は退職したことを僕たち編集部にも言わずにいたんですよ。……ただ、事前に相談されていても、「会社を辞めましょう」と言っていたかもしれませんが(笑)。やしろ先生の実力は十分に知っていますし、これからさらに活躍されると信じているので。

 

●連載で大切なものは、感性と理性!

──マガポケでの連載で実感していることはありますか?

 

やしろ:
連載だとやりたかったことを表現しやすいなと思いました。段階を踏みながら物語を描けるのも嬉しいです。

 

――反対に、苦労したことはありましたか?

 

やしろ:
第1話でロードローラーのようなものが出てきますが、その場のノリで「第七號機(マークセブン)」と書いてしまったんです。その結果、「第七號機ってことは少なくとも他に6つあるよね?」と言われ……(笑)。そこを考えるのは大変でしたね。でも、他にどんな車椅子があるかを考える中で、ガジェットを先に考えてそれを活かす話を作る方法もできました。刀を持って戦う第二號機や、ロボットのような無號機などはそのパターンです。


──会社員時代の経験が活かされているところもあるのでしょうか?

 

やしろ:
会社員時代にしていた映像の仕事では、狙った効果を出すために映像の順番や尺を調整する“編集”という作業があったのですが、これにより構成力が少し鍛えられました。自分の中では、漫画的なアイデアを生み出す発想力と、断片的な情報をストーリーとして組み立てる構成力は別物なんです。一度漫画を諦めたときは、情報を組み立てる技術がなくて苦しんだのだと思います。猛獣(感性)は武器になる反面、コントロールしづらい。物語を成立させるには、それを飼いならす猛獣使い(理性)が必要なのだと思います。連載する上で、感性と理性の両方が備わっていることが重要だと実感しています。

 

●人間は不完全だからこそ強い!

──やしろ先生が特に気に入っているキャラクターがいれば教えてください。

 

やしろ:
平良兄妹も好きですし、平良兄妹と同じく“学園”出身の黒坂兄弟も良いキャラクターだと思っています。黒坂兄妹の妹・騰子はコメントでも人気が高く、嬉しいですね。

 

──兄と妹という関係にこだわりがあるのでしょうか?

 

やしろ:
妹フェチなんじゃないかと思われているみたいですが、そんなことはありません(笑)。恋愛感情を絡めない方がこの作品のテイストには合っていると思ったので、兄妹という関係がいいかな、と。僕には姉が3人いるのですが、自分と重なるのが嫌だったので姉と弟にはしませんでした。

 

──兄妹のキャラクターを2組登場させた理由はありますか?

 

やしろ:
平良兄妹にライバルが必要だと思ったんです。そのライバルは「敵」ではなく、目指すところは同じだけどアプローチが違う人。平良兄妹と黒坂兄妹は“きょうだい思い”である点は共通していますが、学園に束縛された状態から脱出した人たちと、その場で生き抜こうと決めた人たちの対比になっています。

 

──学園の“先生”も、凪と対照的な存在です。“先生”の設定は第4話ラストの登場時に決めたのでしょうか?

 

やしろ:
第4話でビジュアルを考えた時点では、“先生”がどのような人物なのか考えていませんでした。その後話を進めるにあたって、平良兄妹の対となるような存在にしたいと思い、「完全」であることにこだわるキャラクターが出来上がりました。「人間は不完全なものだけど、補い合って支え合うからこそ強くなれる」ということが、この作品全体のテーマだと思っています。そこを軸にキャラクターと構成を考えましたね。

 

――その“先生”と凪たちの対決は、衝撃の結末を迎えました。

 

やしろ:
“先生”は究極の存在なので、凪がパワーで上回って勝つのは嫌だったんです。単純な勝敗で終わらないように、凪を不完全な状態にしている頭の中の弾丸を利用して“先生”の精神だけを封じ込めるという結末にしました。

 

●今後は、恋愛要素に注目⁉

――“先生”との戦いで命を落としたキャラクターもいますが、今後登場する予定はありますか?

 

やしろ:
騰子は今後もキーパーソンとして活躍してもらう予定です!

 

担当H:
やしろ先生は自分のキャラクターを大事にされているので、一度退場したように見えるキャラクターにも見せ場を作ってくれるんです。

 

――単行本宣伝話では、凪に倒された敵キャラが描かれていますね。

 

担当H:
イラスト1~2枚で宣伝を描いていただこうと思っていたのですが、送られてきたのが11ページの原稿で(笑)。驚いたと同時に、読者の方はきっと喜んでくれるだろうなと思いました。

 

やしろ:
内容もページ数も自由で良いとのことだったので、何ページでもいいのかな、と思って(笑)。作画に時間がかかるなと思ったのですが、一度思いついたものを描かないのは嫌でした。コメント数も本編より多いくらいで、嬉しかったです。


──現在は過去編が始まり、学園にいた頃の凪たちが描かれていますね。

 

やしろ:
第20話で終わらせるつもりで描いていたので、ページ数の都合でやや説明不足になっていた部分もあると思います。今後はこれまでに明かされていなかった情報を整理したいですね。過去編が数話続いたあとは、第20話からの続きになります。過去編で登場した新キャラクターは、現代に戻ったあとにも出てきてもらう予定です。


──今後の展開で注目してほしいところを教えてください。

 

やしろ:
当初は恋愛要素を絡めないように意識して描いていましたが、今後はストーリーを進めるために恋愛要素が出てきます。そこは今までと違うところなので、注目してほしいです。

 

──それでは最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。

 

やしろ:
いつも読んでいただきありがとうございます。マガポケではちょっと珍しいタイプの作品かもしれませんが、これからもこのテイストで描いていきたいので、応援していただけると嬉しいです!

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