
『可愛いだけじゃない式守さん』の真木蛍五先生による、待望の新作『ナキナギ』。
恋する女の子・汀(なぎさ)と、汀の恋路を陰から支える訳あり魔女・ナキカの日常を描いた、“見守り”コメディです!

単行本1巻発売を記念して、本作へのこだわりや、『式守さん』連載中から変化したことなどについて、真木先生にメールでインタビューさせていただきました!
●『式守さん』での教訓をもとに挑む新連載!
――本作が連載に至った経緯を教えてください。
真木先生:
ナキカのキャラ自体は、『式守さん』の連載中にX(旧Twitter)に投稿した落書きのタコ尻尾の女の子が元になっていて、その周りのキャラやどういう話にするかという部分をずっと練り続けていました。最初は男女のバディもので進めていたのですが、微妙に噛み合わず、汀をちっちゃい女の子に変えた途端連載が決まりました。
――連載が決まったときのお気持ちを教えてください。
真木先生:
やっとだ! という気持ちが強かったです。X(旧Twitter)の仕様がかなり変わって絵を載せなくなってから、描いたものを公開する機会をずっと失っていたので、『式守さん』で応援してくださった方々にようやく何かしらの成果を見せられる事が決まって、小躍りするくらい嬉しかったです。
――前作『可愛いだけじゃない式守さん』から2年の時を経て、待望の新連載となります。2年間で変化したことはありますか?
真木先生:
作品に対する誠意を取り戻す2年間だった気がします。『式守さん』のアニメ化以降、多忙すぎて毎週出来る限りの最善は尽くしていたけれど、どうしても1話1話を満足いく形にまで仕上げられなかった事が心残りだったので、『ナキナギ』は健康優先で毎週納得のいくクオリティに仕上げるということを目標に掲げました。
●『ナキナギ』の原点は、「海」に対する “恐怖心”?
――本作は、「海」が主題となっています。それには何か理由があるのでしょうか?
真木先生:
海の生き物がすごく好きで、同時に滅茶苦茶怖くて近寄りたくない感覚もあり、それを漫画にしたいと思い、海を題材にすることにしました。登場キャラも実際の海洋生物を元にしていて、生態もその生き物になるべく近い設定にしています。(ナキカ→タコ、アリオン→イルカ)

――昨年、海の魔女をモチーフにした特別読み切り『SeaWITCH』がマガポケに掲載されました。『SeaWITCH』で描かれた世界と、『ナキナギ』で描かれている世界は、繋がっているのでしょうか?
真木先生:
汀とナキカの名前と、ナキカが人魚姫を人間にしたというところは同じです。それ以外は全部設定を作り直したので違う世界になります。

▲特別読み切り『SeaWITCH』でのナキカ
――『ナキナギ』の舞台設定は、どのようにして誕生したのでしょうか?
真木先生:
『式守さん』では舞台設定を明確に決めてはいなかったので、今回は面白い絵になりそうな場所にしようと思っていました。また、アニメや漫画、小説でよく使われるデカすぎる学園ものを描きたいと思い、島自体を学校にしました。
――汀やナキカが通う学校は、中世ヨーロッパ的な造りが物語の世界観にマッチしています。モデルにした建物などありますか?
真木先生:
人魚といえばデンマークなので、デンマークの「フレデリクスボー城」やデンマークの街並みを参考にしています。

――取材に行った場所などはありますか?
真木先生:
沖縄県の小浜島という場所へ取材に行きました。最初は「ナキカ」の名前の元になった神様の伝承があるらしいキリバスという国にしようと思ったのですが、取材のハードルが信じられないくらい高かったので泣く泣く断念しました。
●ダークな世界観でも、キャラクターに“悪意”は入れない
――本作では、可愛らしいコメディの中に、ダークファンタジーの要素が織り込まれています。ダークな世界観を描こうと思った理由はありますか?
真木先生:
舞台を海にした理由にもつながりますが、表面的に綺麗だとか可愛いと思ったものが、よく見ると実は底知れないものかもしれない、ということにロマンを感じるので、キャラクターたちも怖い一面があるという前提で描いています。
現実でも、人間に友好的な海洋生物の動画を見たりすると、「可愛い!」と思うのと同時に「たまたまこの子が友好的なだけで、殺そうと思えば人間なんか簡単に殺せちゃうんだろうな」と脳裏によぎる感じが出したくて、ちょっとダークになっているのかもしれないです。
――ダークな雰囲気とコメディのバランスで意識していることはありますか?
真木先生:
悪意で行動するキャラを入れないように気をつけています。また、ダークな雰囲気が重くなりすぎないように「友達」という題材から逸れた部分はなるべく削るようにしています。

●魅力的なキャラ作りのコツは、キャラ同士の対極性!
――クーデレ魔女・ナキカと、片想い中のピュアな女の子・汀の組み合わせは、どのように生まれたのでしょうか?
真木先生:
ナキカは最初『SeaWITCH』のようなツンデレ高飛車キャラでずっと練っていましたが、「やれやれ系ハイスペック主人公」を女性にして描いたら面白そうだなと思い、大人びたキャラになりました。
汀は家族のいない孤独で現代っ子のひねくれた少年だったのですが、ナキカが暗い性格になったのでとびきり明るくて王道な女の子にしようと思い、「女児アニメの主人公」をイメージしたキャラになりました。

――汀が想いを寄せる同級生・茂崎(もざき)くんは、目元や表情が見えないキャラクターとして描かれています。この設定には何か理由があるのでしょうか?
真木先生:
特に理由はないです! キャラ設定を作る時は男女を逆に考えているので、茂崎もまた「暗くて地味で真面目そうな隣の席の子が可愛いことに自分だけ気づいた」というヒロインポジションのキャラになっています。それで前髪が長くて恥ずかしがり屋な感じになりました。
●メルヘンな表現の中で、ナキカの異質さを魅せる
――汀のコロコロ変わる表情を可愛く描くコツはありますか?
真木先生:
普通に描いた顔から目の位置を下げて、顔のバランスが子供っぽくなるように調整しています。あと『式守さん』の時よりもデフォルメやゆるい顔を増やすように意識しています。

――反対に、クールなナキカの表情の変化を描くうえで、意識していることはありますか?
真木先生:
汀の前や、汀に関することにだけ(つまり友だちに対してのみ)、表情をたくさん動かすようにしています。心の傷が癒えるにつれて表情もどんどん豊かになるようにしています。
――ナキカが魔力を発揮するシーンでは、作画へのこだわりを感じます。デザインをする際にイメージしているものや、意識していることはありますか?

真木先生:
おとぎ話の『人魚姫』から派生した物語なので、メルヘンだったり、絵本調になるようにしています。また、キラキラした画面の中に真っ黒なナキカが入ることで彼女の異質さを表現しようとしています。

●初のファンタジー作品、その手ごたえは……?
――描いていて楽しかった回はありますか?
真木先生:
基本どの回も描いていて楽しいです! ただ、単行本描き下ろしの話は自分が描きたくて勝手に描いた回なので、思い入れが強いです。
――反対に、大変だったシーンはありますか?
真木先生:
アリオンの髪の作画に、今本当に後悔しています(笑)。描いても描いても原稿が終わらない。右手も痛いし。なんでこんな髪にしちゃったんだろう。

――本作を連載する中で苦労したことや、実感したことがあれば教えてください。
真木先生:
ファンタジーを描くのが初めてなので、設定をちゃんと作った上で「現在起きていること」のみを描くことがとにかく難しいと思ってます。ファンタジー描く人ってスゲ〜と実感しまくってます。
●ネットの海から見つけてくれた方に、恩返しを!
――新連載を待ち続けていたファンの方から、嬉しい反応はありましたか?
真木先生:
読んでくださった方が感想をネットに投稿してくださるととても嬉しいです。表に出さない時間が長すぎて「これ面白いか?」という状態に頻繁に陥るので、そういう時何かひとつでも反応してくださっているのを見に行くと、とても励みになります。
――ご自身の作品でお気に入りのキャラクターについて教えてください。
真木先生:
『式守さん』のキャラクターですけど、猿荻(さるおぎ)はとても気に入ってます。

▲『可愛いだけじゃない式守さん』より、主人公・和泉(いずみ)くんの友達になった猿荻
――今後注目してほしいシーンについて教えてください。
真木先生:
この漫画はナキカが汀や人魚たちと出会って変わっていく漫画なので、そこに注目していただけると幸いです。
――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
真木先生:
いつも本当にありがとうございます。『ナキナギ』から手に取ってくださった方も、『式守さん』から支えてくださっている方も、とても励みになっています。
『式守さん』の時にいただいた沢山の応援を、『式守さん』が終わった後どうやって返していこうかと考えていました。なので『ナキナギ』は『式守さん』の優しい世界を読んでくれた方々も楽しめるような話にしたいと思い、『式守さん』よりひねくれていますが、善意でキャラクターが支え合うような漫画にしていこうと思っています。
今は世の中に漫画も溢れていて『ナキナギ』も誰かに拡散していただかないと埋もれてしまうと思いますが、この大きすぎるネットの海から『ナキナギ』を見つけてくれて好きになってくださった方の期待になるべく応えられるように尽力していきます。よろしくお願いします!
●『ナキナギ』単行本第1巻、大好評発売中!
ぜひ周りの人にも教えてあげてください!