名作・駄作・カルト作。アクション・SF・ラブコメディ。映画はいろいろあるけれど、まだ観てない映画をもう1本。今回の推薦者はベテラン編集者の森さんと、コミック営業部の江口さん。泣ける映画から恐怖に縮みあがる映画まで、今月もユニークな作品が集まりました! 編集部オススメの作品もおもしろいのでチェックしてみてね!
●TITLE『8年越しの花嫁 奇跡の実話』
2人が起こした奇跡とは
今回最初の推薦者はマガポケの広告や宣伝物を担当しているベテラン編集者の森さん。最初の推薦作は『8年越しの花嫁 奇跡の実話』だ!
映画にはいわゆる難病ものというジャンルがある。難病で余命を宣告された主人公が、運命を受け入れ、残された人生を精一杯生きる物語(『湯を沸かすほどの熱い愛』とか)、難病と闘う人の物語(『ダラス・バイヤーズクラブ』とか)、難病となった恋人、家族、友人を救おうと奮闘する人たちの物語(『ロレンツォのオイル/命の詩』とか)……物語の性質上、泣けてしまうものである。とりわけ若い恋人たちが主人公の難病もの(『余命10年』とか)は……正直、映画館で友達と一緒に観るのをためらってしまう種類の映画である(だって、友達に泣き顔を見られるのって恥ずかしいじゃん)。
『8年越しの花嫁 奇跡の実話』もやはり泣けてしまう映画なのだが、作品の基になった実話というのが、タイトルが示すように奇跡的な話で、他の難病映画とは違う感動も与えてくれる作品なのだ。
結婚を約束したカップル、尚志(佐藤健)と麻衣(土屋太鳳)は結婚式を控え、幸せの絶頂だった。そんな彼らに突然の不幸が訪れる。原因不明の病が突然麻衣を襲い、彼女は意識不明に!!
映画冒頭の2人の出会いがいい。合コンの1次会で帰ろうとする尚志に麻衣は
“楽しくなくても、顔に出さないのが大人でしょ”
“すみません。ごめんなさい”
“なにそれ、めんどくさいからとりあえず謝ってみますみたいなの!”
“今日はお腹が痛くて……”
“は、そうなの? じゃあ、悪くないじゃん、なんで謝るの”
しっかり者の女の子と、内気な青年の出会いである。
彼らは、本当にどこにでもいるような若いカップルだ。服装もダッフルコートやダウンといったごく普通の格好である。料理人を目指す女の子と、自動車修理工の青年。女優やミュージシャンではないのである。だからこそ観るものは共感できる。
麻衣の意識不明状態は何年も続き、尚志は麻衣の両親から“もう麻衣のことは忘れてほしい”と言われるが、尚志は予約した結婚式場のキャンセルもせず、毎年予約を延長し続け、病院に通い続ける。そしてある日、奇跡的に麻衣が目覚めるのだが……!?
これから先はネタバレになってしまうので書けないが、マジか! という展開になっていく。
病気の恋人に寄り添い、常に相手の幸せを願う尚志と、病気と闘い、いつも正直でいる麻衣。この映画を観ていると、2人がそうであることが奇跡に思えてくる。
演じる佐藤健と土屋太鳳の相性も良く、脇役の人々、麻衣の両親、尚志の会社の社長と仲間、全員が善意の人たちなのも心が温まる。他者を愛し、思いやることが素晴らしいと思える1本だ。
▼編集部オススメ、もう1本!
『ギフト 僕がきみに残せるもの』
難病に罹った元NFL選手が息子に宛てたビデオレター。こちらはドキュメンタリー。
●TITLE『ハスラー2』
かっこいい師匠とイキがる弟子のスリリングなドラマ!
森さん、推薦作2本目は『ハスラー2』。ハスラーとは、詐欺師、勝負師、博打うちのことである。
“ナインボール 番号順にポケットに落とす。勝負を決めるのは9番の球である。8球でものの見事に決めても9番を外せば負ける。一方球をブレイクした時に9番を入れるとそれで勝つ。つまりナインボールは運のゲームだ。だが時には運も実力である”。
冒頭、タバコが灰皿で燃え尽きていく様子をバックに、ゲームの説明から始まり、タイトル“THE COLOR OF MONEY”(原題 直訳すると“カネの色”)が浮かび上がる。プロのハスラー、ビリヤード・プレイヤーの物語である。監督は、ヤバい男の世界を描かせたらピカイチのマーティン・スコセッシ。
かつての凄腕ハスラー、エディ(ポール・ニューマン)は今では引退し、気ままな独身生活を送っていた。そんな彼がとあるバーで出会ったのは、若いハスラーのビンセント(トム・クルーズ)。荒削りで生意気なこの男に昔の自分を見たエディは、かつての情熱を思い出し、ビンセントを一流のハスラーに育てようとするのだが……。
『トップガン マーヴェリック』(2022年公開)で、若いパイロットたちを導く教官役を演じたトム・クルーズだが、『トップガン』(1986年公開)の大ヒットでスターの仲間入りをした彼も、まだ若手俳優の1人。対して、かつて〝ファースト・エディ〟と異名をとった凄腕ハスラー、エディ(1作目『ハスラー』は彼の若い頃の話である)を演じるポール・ニューマンは数々の名作に出演したハリウッドのレジェンドである。今では大スターのトム・クルーズが、大先輩の掌で転がされるのを観るのはなかなか楽しい。
“金を賭けた相手に情けをかけるな”
“玉突きの名人は腕だけでなくもう1つ必要だ。人の心の動きを見る目だ。名プレイヤーはその目を持ってる”……何ともかっこいい師匠のエディである。しかも女性にモテる。
『スターウォーズ』をはじめ、『ベスト・キッド』『クリード チャンプを継ぐ男』『キングスマン』など、師匠と弟子が描かれる作品はけっこうあるが、たいていの場合、弟子は扱いが難しく、暴走したり、言うことを聞かない。この映画でも弟子であるビンセントは、エディの元を飛び出してしまうのだが……!?
師匠エディを演じたポール・ニューマンは、この作品でアカデミー賞主演男優賞を受賞した。2年後『レインマン』でトム・クルーズと共演したダスティン・ホフマンが同じくアカデミー賞主演男優賞を受賞。トム・クルーズはオスカー請負の名共演者と話題になった。ちなみに字幕翻訳家で知られる戸田奈津子さんは、トム・クルーズからお歳暮を贈られたことがあるらしい。トム・クルーズ、運気のある男にして気配りの大スター。どんなに忙しくても必ず新作のプロモーションに来日してくれる親日の大スターでもある。
▼編集部オススメ、もう1本!
『ベスト・キッド』
師匠と弟子の映画とくればこれ! 師匠のミスター宮城が最高です。
『ハスラー2』
ディズニープラスのスターで配信中
©1986 Touchstone Pictures. All rights reserved.
●TITLE『三度目の殺人』
三度目の殺人は誰が犯すのか
今回2人目の推薦者は、コミック営業部の江口さん。単行本の部数や価格などを決めたり、宣伝施策の効果検証(難しそう!)のデータを作ってくださるお方である。そんな江口さんの推薦作1作目は『三度目の殺人』。
『そして父になる』の福山雅治と是枝裕和監督が再びタッグを組んだ心理サスペンスかつ重厚な人間ドラマだ。
弁護士の重盛(福山雅治)は同僚に頼まれ、ある殺人事件の犯人の弁護を頼まれる。
犯人の三隅(役所広司)が殺人の罪で裁かれるのは2度目。1度目は借金取り2人を殺害し金を奪い放火。30年の実刑を受けていた。そして2度目の殺人は、解雇された会社の社長を殺害し、ガソリンで焼却。まず死刑は免れない。だが勝ちにこだわる重盛は死刑ではなく無期懲役を勝ち取ろうと事件を調べ始める。
重盛は、真実なんか分かりはしない、犯人への理解とかいらない、必要なのは戦術だというドライな弁護士である。
一方、犯人の三隅はつかみどころのない人物で、その供述も面会の度に変わっていく。
そんな中、週刊誌にこの事件の暴露記事が掲載される。殺害された被害者の妻美津江(斉藤由貴)が保険金目当てに三隅に殺人を依頼したというのだ!? ところが事件を追う重盛の前に被害者の娘、咲江(広瀬すず)が現れ、殺された実父から性的暴行を受けていたと告白する。
事件を調べる重盛と、拘置所に収容されている三隅と重盛の会話のシーンが交互に映し出される。
拘置所で三隅に重盛は尋ねる。
“社長を殺したことは後悔してるんですか?”
“あんな奴、殺されて当然だったと思ってますよ。生まれてこなかった方がいい人間は世の中にはいるんです”
“だからと言って殺してすべて解決するわけじゃない”
“重盛さんたちはそうやって事件を解決してるじゃないですか”
“死刑のことを言っているのかな”。
部下と事件について話す三隅は言う。
“命は選別されてるんじゃないか。本人の意思とは関係ないところで人は生まれてきたり、理不尽に命を奪われたりする”。
裁く者と裁かれる者、それは司法と犯罪者であるが、一方で時と場所が変われば殺人者と被害者にもなり得るのである。
是枝裕和監督は光の当たらないところに光を当てる監督だ。育児放棄された子供たちの物語『誰も知らない』。社会から見捨てられた疑似家族の物語『万引き家族』……ドキュメンタリー出身の監督だからだろう。だがその視線は優しく、弱い者に向けられる。
“誰を裁くかは誰が決めるんですか”と問う三隅に答えられる者はいない。いるとしたら神ぐらいだろう。だが神がその問いに答えることはない。
▼編集部オススメ、もう1本!
『母なる証明』
こちらも殺人事件を巡る物語。裁いたのは誰だ!?
『三度目の殺人』
発売中
ブルーレイSP版:7480円(税込)
DVD通常版:4180円(税込)
販売元:アミューズソフト
©2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ
●TITLE『FALL/フォール』
想像を絶する地上600メートルの恐怖!!
コミック営業部の江口さんの推薦作2本目は『FALL/フォール』。重厚な人間ドラマと打って変わって、究極のサバイバル・ムービーだ!
人の業というのは厄介なもので、なぜそんなところへ行くのか、なぜそんなことをやるのかという謎の行動をとるものだが、結果、とんでもないピンチに陥り、命懸けの闘いを強いられることとなる……。
切り立った山でのフリークライミング中に夫のダンを滑落で失ったベッキー。1年経っても悲しみは癒えず、お酒を煽る毎日だ。ベッキーを心配する父親の“ダンはお前が思うほど立派な男じゃなかった。もし落下したのがお前だったら、ダンは何をしていたと思う? こんな場所で酒と悲しみに溺れていたか?”と、励ましているのだか、怒っているのか分からない言い様に反発するベッキー。
そんなある日、親友のハンターがベッキーを励まそうとやってくる。彼女にはあるプランがあった。それは高さ600メートル、かつて国内で最も高い建造物であったテレビ塔に登るというものだ。
最初は断っていたベッキーも、“休むのは死んだ時。一緒に冒険する相棒が必要なの”というハンターに説得され、行動を共にすることにする。いやはや、この時点で友人は選べよとベッキーに注意したくなる展開である。
“立ち入り禁止、命の危険あり”と表示された囲いを無視し、テレビ塔に到着すると……。とにかく高い! しかも周囲に何もない! 普通の人なら絶対登らないようなテレビ塔に2人は登っていく。古いこの塔は錆だらけで、ハシゴを登ると変な音がする。ハシゴを支えているネジやボルトが彼女たちの見えないところで緩んでいるのが観客には分かる。
ついに頂上の足場に辿り着いた2人。ダンの遺灰を塔から撒くベッキー。これで悲しみに区切りがつけられる。あとは家に帰るだけとハシゴを降りようとすると……皆さんのご想像通り、古いハシゴは崩れ落ちてしまうのである。
地上600メートルというのがどれほど高いのか、CGなんだろうが(こんな状況、リアルでは絶対ムリ!?)画面に映る景色は恐怖でしかない。
携帯の電波は届かない、水の入ったリュックを落とす、しかもダンと不倫していたとハンターから告白され(お父さんは正しかった)……。その上……さらに恐ろしい出来事が連発するのだ! ともかく心臓の弱い方は注意が必要な1本である。
▼編集部オススメ、もう1本!
『オープン・ウォーター』
ダイビングツアーに参加した夫婦が、インストラクターのミスで海に取り残され……!!
『FALL/フォール』
発売中
ブルーレイ&DVD:5720円(税込)
発売元:株式会社クロックワークス
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
ぜひ周りの人にも教えてあげてください!