名作・駄作・カルト作。アクション・SF・ラブコメディ。映画はいろいろあるけれど、まだ観てない映画をもう1本。今回の推薦者はマガジンを支えてくださる宣伝部のお2人。熱いコメントもいただきました! たぶん2人はかなりの映画好き(しかも文章うまっ!)。 編集部オススメの作品もおもしろいのでチェックしてみてね!
●TITLE『犬王』
室町時代のポップスター爆誕!
今月最初の推薦者は、少年マガジンの宣伝を担当する田幸さん。マガジンのスポットCM編成といった、コミックを売り込む大事なお仕事を担当してくれるお方。そんな田幸さんの推薦作1本目は『犬王』だ。
“狂騒のミュージカル・アニメーション”と銘打つ通り、ミュージカルなのだが、主人公が琵琶法師と猿楽(能楽)の演者コンビという、異色のアニメーションである。
時代は室町時代初期。壇ノ浦に生まれた漁師の子友魚は、京からやってきた侍に頼まれ、父親と一緒に、平家と共に海に沈んだ三種の神器の1つである天叢雲剣を探し当てるが、鞘から剣を抜いた途端、父親は死に、友魚は視力を奪われる。武士たちは逃げ、残された友魚は、亡霊となった父親の“無念を払え”という声に従い京へと向かう。その途中、厳島で琵琶法師谷一と出会い、弟子となり、谷一が所属する覚一座から友一という名を授かる。
京の都では、猿楽の一座に異形の子が生まれる。その子供は家族にも疎まれ、名前もなく、恐ろしい素顔を隠すため、瓢箪の面を被っている。
そんな2人の出会いがいい。走りまわって人々を驚かす異形の子が、友一とぶつかりそうになる。異形の子は瓢箪の面を外すぞと脅かし面を取るのだが、友一は驚くこともなく、目が見えないのだと答える。“意味ねえじゃん”と拍子抜けした異形の子は、琵琶を持つ友一に〝弾けるのか”と尋ねる。“もちろん!” と、琵琶を弾き鳴らす友一。“いいじゃん” “当然!” “新しいな”、踊り出す異形の子、“もっと行くぞ!”と友一。これって、ミュージシャンが、同じバイブスを持ったミュージシャンと出会って、バンドを結成しようと決めた瞬間みたいである。
友一の父親の亡霊から、自分たちの周りに平家の亡霊たちがいることを聞いた2人は、亡霊たちに気づく“苦しいのか? 言ってみろ、聞いてやる。一人残らず聞いてやる!!” 彼らの物語にインスパイアされた友一は新たな平家の物語を語り出す。長髪に褌をチラつかせ、クールな琵琶を弾きならす。その音に合わせて、異形の子が踊り出す。民衆を煽り、熱狂の渦を巻き起こす。稀代のポップスターの誕生である。異形の子は自らを犬王と名乗り、その知名度は高まっていく。そのうえ不思議なことに芸を1つ極める度、呪われた犬王の身体が変わっていくのだった。
ギミック満載の舞台、新しい音楽、新しい物語。この作品の見どころでもある、犬王たちの舞台(ステージ)は最高だ。ロック、ファイヤーダンス、ヒップホップ、ブレイキン、これぞエンタメだ!
民衆に認められ、貴族たちにも支持される犬王と友一。だが頂点に立った2人の運命は……!?
犬王は言う“俺についてる亡霊は、俺を呪っている訳ではないんだ。知って欲しいんだよ。自分たちがこの世にいたことを”。
“俺たちはここにある!”と叫ぶ犬王たちの友情と青春。歴史に消えた能楽師・犬王の物語。見届けずにはいられない!
▼編集部オススメ、もう1本!
TVアニメ『平家物語』
映画じゃないけど、『犬王』と同じくサイエンスSARU制作。平家のことがよく分かる。
『犬王』
DVD・ブルーレイ
発売中
販売元:アニプレックス
© 2021 “INU-OH” Film Partners
●TITLE『シュガー・ラッシュ:オンライン』
ネットの世界で気付かされたのは……。
宣伝の田幸さん推薦作2本目はディズニーアニメの『シュガー・ラッシュ:オンライン』だ。田幸さんは幅広くアニメを観ているらしい。
アーケードゲームの悪役ラルフとレースゲーム“シュガー・ラッシュ”のレーサーにしてプリンセスのヴァネロペの冒険を描いた『シュガー・ラッシュ』の続編である。 なんと2人がゲームセンターから、ネットの世界へ飛び出すのだ!
ゲームに熱中するあまり、子供が“シュガー・ラッシュ”のハンドルを壊してしまう。この古いアーケードゲームの部品はもう製造されてない。唯一の方法はネットオークションで探すこと。あるにはあったが、ハンドルは高額で、ゲームセンターの主人は購入を断念。
このままではゲーム機が廃棄処分されてしまう!! ラルフとヴァネロペは、自分たちでハンドルを手に入れようとゲームセンターに設置されたばかりのWi‒Fiでインターネットの世界に向かうのだが……!?
インターネットの世界をアニメーションにするとこうなるのか! 広大な未来都市にアマゾン、Google、Snapchat、Facebook、YouTube、楽天、天猫(中国のサイトね)と様々なビルが立ち並び、その周りを小鳥が鳴きながら飛び回る(この映画の頃はXはまだツイッターだった)。
なんとかeBay(世界最多の利用者を持つオークションサイト)に辿り着き、ハンドルを購入しようとするが、やり方が分からない2人は、2万7001ドル(約380万円)という高額で落札してしまう。ハンドルを手にするためには、お金が必要と知った2人は……!?
ネットの世界を分かりやすく、しかもその世界が持つ危うさもうまくアニメーションに落とし込みながら、物語は進んでいく。
お金を稼ぐために2人は様々なことをやってみる。高額なゲームアイテムを手に入れるため、危険なレースゲーム“スローターレース”で高価な車を盗もうとしたり、動画サイトで投げ銭(映画ではハートマーク)を稼いだり、ポップアップ広告を持ってディズニー・ドット・コムに行ったり。そういったところで2人は様々な経験をする。“スローターレース”でカリスマ女性レーサー、シャンクと出会ったヴァネロペは、自分が本当に好きなものがレースであると気付かされ、動画を投稿するラルフは、一時は人気があったものの、すぐに飽きられてしまう。動画サイトの運営者はラルフに忠告する、“インターネットには鉄則があるの。コメントは絶対読んじゃダメ。ここではね、人間の醜い部分が出ちゃう場合もあるのよ。無視しなさい”。ディズニー・ドット・コムではヴァネロペはストームトルーパーに追われ、ディズニーのプリンセスたちの愚痴を聞かされる。彼女たちでもムカつくことはあるのだ。
様々な経験をしているうちに、ラルフとヴァネロペの間に微妙な溝が生まれてくる。インターネットの世界で彼らの友情が試される。その結末は?
ディズニーキャラ総出演+ディズニー以外の有名キャラも多数出演! 華麗な舞台の裏も見せながら、ディズニーが得意とする冒険心や感動も忘れない。参りましたの1本です。
▼編集部オススメ、もう1本!
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』
インターネットを題材にした傑作アニメをもう1本。
『シュガー・ラッシュ:オンライン』
ディズニープラスで配信中
© 2024 Disney
●TITLE『我が人生最悪の時』
永瀬正敏の当たり役、私立探偵濱マイク!
今回2人目の推薦者は同じく宣伝の久松さん。推薦作1本目は『我が人生最悪の時』。
オープニング早々映し出される“日本探偵協会推薦”の文字、主人公は探偵なのである。そして画面はモノクロ。ハードボイルド映画である。
横浜・黄金町にある映画館“横浜日劇”の2階に事務所を持つ探偵・濱マイク(永瀬正敏)。幼い頃、親に捨てられ養護施設で育った。若い頃はヤンチャで警察の世話にもなったことがあるが、更正し、今の夢は妹を大学に行かせることである。観客に向かって“ワリーかよ、探偵の夢がこんな夢で〟と毒付いて見せる男だ。最近あまりみない演出だが、永瀬が演じるとちょっと愉快な気分になってくる。
彼の事務所に行くには、なぜか映画のチケットを買わなければいけない。上映しているのは『我等の生涯の最良の年』。
マイクの捜査費用は1日5万円プラス必要経費。他で断られた外国人の依頼でも仕事は受ける。
ハードボイルド映画の主人公というのは、たいてい私立探偵で、仕事の依頼を受けたことから、大きな事件や暴力沙汰に巻き込まれるものだ。仕事をこなすだけで良いのに、事件に深入りしてしまうのである。その理由としては男の友情(例『ロング・グッドバイ』『男たちの挽歌』等)、または女性(ファム・ファタールと呼ばれる、男にとって運命の女)のため(例『さらば愛しき人よ』『チャイナタウン』等)。で、この映画でマイクが陥ってしまうのは男の友情である。
雀荘(麻雀をやるところね。法律上の分類は“風俗営業”なので18歳未満は入れません)で、客に絡まれた台湾人のボーイ楊を助けたことから物語は始まる。絡んできた客が刃物を持っていたため、なんとマイクは小指を切り落とされてしまうのだ!? この展開にはビックリだが、ここで我慢せず“痛〜!!” と叫び出すところがマイクのキャラらしい。
なんとか指はくっつき、楊は深く感謝する。それからまもなく、楊がマイクの事務所にやってくる。指の治療費を渡そうとする楊だったが、マイクは断る。すると楊はそのお金で人を捜して欲しいと言う。捜して欲しいのは楊の兄。兄弟の幼い頃の話にすっかり肩入れしたマイクは、捜査を始めるとともに楊との友情を深める。だがそれは台湾マフィアと香港マフィア、そして日本の新勢力のヤクザの抗争に巻き込まれることを意味していた……。
お調子者で、人情に熱く、お金はないが人望はある。そして友達思い。そんなキャラクターに永瀬正敏という役者はピッタリだ。ほろ苦いラストシーンも、ハードボイルド映画に相応しい。1994年公開、モノクロ映画のこの作品は、若い読者の目にとても新鮮に映るに違いない。それにしても永瀬正敏、若っ!!
▼編集部オススメ、もう1本!
『シン・シティ』
こちらもモノクロのハードボイルド。原作はアメコミ。
●TITLE『すかんぴんウォーク』
吉川晃司デビューは映画だった!
久松さん推薦作2本目は『すかんぴんウォーク』。1984年公開の吉川晃司主演映画であり、アイドル映画である。久松さんは古めの映画ファンなのか!? ここで公表しちゃうが、実は久松さん、この映画のタイトルをずっと『すかぴんウォーク』と勘違いしてたらしい。たぶん若い頃の彼のボキャブラリーに“すかんぴん”という単語がなかったせいかと思われる。同じような話で(かなり昔の話だが)何代か前のマガジン編集長が『CYBERブルー』(他社作品ですが)を『サバイバルブルー』と間違って覚えてしまい、誰もそれを訂正できなかったということがあった。これもサイバーという言葉に馴染みがなかったせいだったと思う。世代というのは隠せないものだ(どうでもいい話ですが)。ちなみに“すかんぴん”とは無一文のことである。漢字で書くと素寒貧。
本題に戻ろう。吉川晃司と言えば、若い読者には俳優かつCOMPLEXのかっこいいおじさんミュージシャンだろうが、1984年の吉川晃司はバリバリのアイドルだった。有名なタレント事務所、渡辺プロダクションの社長の肝入りで彼を売り出すために作ったのがこの『すかんぴんウォーク』なのである。映画でデビューしたアイドルなんて、聞いたことある? まあ、彼はそれほどの逸材だったわけだ。
物語は広島から東京へ俳優を目指してやってきた民川裕司の青春サクセスストーリーである。
オープニング、なんと彼は海から東京にやってくる。しかもバタフライ!! さすが世界ジュニア水球選手権大会日本代表だった吉川だ。そのまま短パンと裸足で駆けていく。はとバスに潜り込み、六本木に着くと、自販機の下に落ちている小銭を集め、履歴書を買い、文房具店で履歴書を書き上げ(ペンはもちろん借りる)、パンの木という喫茶店でバイトを見つけ働きだす。その実行力たるや、エネルギーの塊である。
だが、ポップシンガーを目指すバイト先の先輩、吉夫(山田辰夫)とともに、いつかビッグになるという夢を追いながらも、実際は思うようにいかず、うだつの上がらない日々を送るようになる。自分たちが思う“ああなったらおしまい”な人たちに、なろうとしているのではないか。裕司が吉夫に言う“間違えたと思わない? やりたい事とやれる事をさ”ギクリとさせられるセリフである。
縛られるのが嫌で、学校や広島を飛び出したはずなのに、東京でも、どこに行っても縛られて自由になれない。挫折を味わいながら、果たして裕司は……。
恥ずかしくもあり、やりすぎ感も満載だが、これぞ青春映画。その輝きは永遠だ。ちなみに裕司の旅は続き、『ユー☆ガッタ☆チャンス』(1985年公開)『テイク・イット・イージー』(1986年公開)と続くのだった。
▼編集部オススメ、もう1本!
『桐島、部活やめるってよ』
青春映画をもう1本!
ぜひ周りの人にも教えてあげてください!