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【騙されたと思って1本!!】「別マガ」ムービーガイド 『終焉の魔女と世界の旅』片岡とんち先生&『ラヴラッド』西山西子先生が選んだムービー編

名作・駄作・カルト作。アクション・SF・ラブコメディ。映画はいろいろあるけれど、まだ観てない映画をもう1本。今回の推薦者は新連載『終焉の魔女と世界の旅』の片岡とんち先生と、同じく『ラヴラッド』の西山西子先生!
王道のハリウッドムービー、日本のファンタジーアニメ大作、サイコサスペンス、ハートウォーミングコメディ、今月もいろんな作品が集まりました! 編集部オススメの作品もおもしろいのでチェックしてみてね!

 

●TITLE『メン・イン・ブラック』
キミのそばにもエイリアンがいるかも!?

 今回最初の推薦者は、巻頭カラーを飾った新連載『終焉の魔女と世界の旅』の片岡とんち先生だ! 異世界での異文化冒険というユニークなファンタジーにみんなの期待が集まる片岡先生、推薦作1本目は『メン・イン・ブラック』だ。
 1997年公開のSFアクションコメディ。“メン・イン・ブラック=MIB”と呼ばれる秘密組織で働くエージェントの活躍を描いたものだが、彼らのお仕事は、なんと地球に住むエイリアンの監督である(もちろん一般人は地球にエイリアンがいること知らない)。
 ニューヨーク市警(NYPD)のジェームズ・エドワーズ刑事(ウィル・スミス)のモットーは“逃げる(N)ヤツは(Y)パンチ(P)でドツく(D)”。今日も逃げ回る犯罪者を追いかけるのだが、この犯罪者、人間離れした身体能力で、壁をクモのように這い上り、跳躍力もハンパない。あげく、ビルから飛び降りてしまう。その時、男のまぶたが縦に付いているのに気づき、驚くジェームズ。だがそんな男の異常さを仲間の警官や刑事に言っても信じてくれない。
 そこへ突如、黒いスーツに身を固めた男がやってくる。なんだか偉そうなその男はジェームズに、ビルから飛び降りた男のまぶたはエラだと教え、一緒に来いと命じる。怪しみながらもついていくと、そこは質屋。そこでジェームズが見たのは……。まあ、それは映画を観ていただくとして、黒いスーツの男=K(トミー・リー・ジョーンズ)に見込まれ、ジェームズは“MIB”のメンバーJ(MIBのメンバーの名はアルファベット)となるのである。
 この作品の魅力は、JとKのバディ関係である。生意気な若造と、つかみどころのない先輩の組み合わせは、テンポのいいボケとツッコミだ。日本のCMでのトミー・リー・ジョーンズのボケぶりも、この映画を観れば納得である。
 もう1つの魅力は、ユニークなエイリアンたちとガジェットの数々。
 エイリアンたちは、観光気分で地球にやってくる者もいれば(その外見は様々)、人間に化けて地球に住みつく者もいる。スティーヴン・スピルバーグとかジョージ・ルーカス、シルヴェスター・スタローンなんかは定住組である(映画ではそう言ってるし、日本でもウルトラマンがそうだ)。
 ガジェットもピカッと光ると記憶を消すことができるニューラライザー(これでMIBやエイリアンの存在を隠すことができる)。小さいのにめっちゃ威力のある原子スプレー機、別名チビ銃や、突然変異反射銃(カーボナイザー)等々。おもちゃっぽいのに、威力抜群!
 物語は、地球外から持ち込まれた“銀河”と呼ばれる原子エネルギーの塊を狙い、虫族エイリアン(かなりキモい)が地球にやってきたことから、地球が大ピンチになるというもの。もちろんこのピンチを救うのがMIBなのだ。それにしてもMIBの情報源が、ゴシップ誌やタブロイド誌なのは笑える。日本にMIBがいたら東スポを読んでいるかも。

 

▼編集部オススメ、もう1本!
『宇宙人ポール』
オタクコンビとおっさん宇宙人のロードムービー。

 

『メン・イン・ブラック』

デジタル配信中
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 1997 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

 

●TITLE『千と千尋の神隠し』
宮崎駿監督が描く、不思議の国に迷い込んだ少女の冒険

 片岡とんち先生、推薦作2本目はスタジオジブリ制作、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』だ。2001年に公開され、日本歴代興行収入第1位を記録した大ヒット作である(その記録は2020年まで続いた)。2003年にはアカデミー賞長編アニメーションを受賞。まさに映画史に残る傑作である。
 物語は、異世界に迷い込んだ少女の冒険である。そう聞くと、『不思議の国のアリス』を思い浮かべる読者もいるだろう。どちらも作家が知り合いの幼い娘をモデルに、彼女たちのために作った作品である。だがそこは日本が誇る宮崎駿監督、英国のファンタジーとは一味も二味も違う。なんせ、主人公の少女に困難を与えるのは、トランプのハートの女王ではなく、八百万の神々が通う銭湯“油屋”を経営している魔女の湯婆婆なのだから。
 10歳の千尋はご機嫌斜めだ。なぜなら、仲の良かった友達と別れ、引っ越さなければならないから。新しい家へ向かう途中、道に迷った千尋と両親は、不思議なトンネルを通る。すると現れたのは放棄されたテーマパークのような無人の町だった。探検気分で町を探索する両親は、そこで美味しそうな食べ物が並ぶ飲食店を見つけ、代金は後で払えばいいと勝手に食べ始めてしまう。千尋はそんな両親から離れ、先に進むとそこには“油屋”という看板を掲げた巨大な建物が。するとそこに突然少年が現れ“ここへ来てはいけない。すぐ戻れ! じきに夜になるその前に戻れ!”と警告する。怪しみながらも両親のもとへと走る千尋。無人だった町は、陽が落ちるにつれ、人間ならざる者たちが集まりだし、飲食店に戻ると、なんと両親は豚に! 混乱する千尋に声をかけてきたのはさっきの少年だ。ハクと名乗るこの少年は千尋の手を引き、油屋へと連れて行き“ここでは仕事を持たないと湯婆婆に動物にされてしまう”と教える。働くために油屋の経営者である湯婆婆と契約し、“千”と名前をつけられた千尋は、油屋で働くことになる。
 油屋は八百万の神々が疲れを癒すためにやってくる銭湯だ。油屋にはありとあらゆる神様がやってくる。烏帽子に赤い装束の春日さま、大根の神様おしらさま、大きなヒヨコの姿をしたオオトリさま、中には汚くて臭いオクサレさま(お風呂に入って綺麗になったら、名のある川の神様だった‼)etc。油屋の建物は寺院のようであり、部屋の内装は、神様を接待する部屋は豪華な和風(襖に描かれた絵が素晴らしい)、湯婆婆の部屋は西洋と東洋が入り混じった不思議な空間である。そんな油屋で懸命に働く千の前に、カオナシという神様ではない何者かが現れ……。
 この作品のテーマは少女の成長であるが、そんな平易な言葉で言っちゃうと、なんだか面白さが損なわれそうな気がする。宮崎監督も、言葉で言えるものはテーマじゃないって言ってるし。自分でもわからない頭の奥の蓋を開けて、なぜこれがと思うようなものを出す作業が映画作りだとも言っている。ならば観客は、宮崎監督が産み出したこの不思議な世界に身を任せるのが一番なのかも。ハクは何者? カオナシの正体は? 千尋の両親の運命は? とか気になってもね。

 

▼編集部オススメ、もう1本!
『思い出のマーニー』
スタジオジブリが描く少女をもう1本。

 

『千と千尋の神隠し』

発売中
DVD:5170円(税込)
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 

●TITLE『ヒメアノ〜ル』
強者の餌となった者たちは……。

 今回2人目の推薦者は、今号の特大センターカラーを飾った新連載『ラヴラッド』の西山西子先生だ! 西山先生、推薦作1本目は『ヒメアノ〜ル』。
 清掃会社でパートの仕事をしている岡田進(濱田岳)は趣味なし、彼女なしのサエない青年だ。ダラダラと日常をやり過ごしながらも、毎日が不安である。そんなことをパート先の先輩、安藤(ムロツヨシ)に愚痴ると“人はみんな不安なんだよ。もっと言えば不満や不安がないと生きていられないと思うよ。だって不安をなくすことが原動力になって毎日頑張ってるんだから、完璧に満足してるヤツなんていないと思うよ。だからキミは変じゃない”と、ごく真っ当な励ましを言ってくれるのだが、安藤自体がサエない感じなので、いくらいいことを言われても、岡田にはイマイチ刺さらない。ところが次に続く“俺は毎日恋をしている”の一言に思わず、“はあ〜?”的な表情を見せる岡田。彼女の名前は阿部ユカ(佐津川愛美)。岡田は安藤に連れられ、ユカが働くカフェに行くのだが、安藤の恋はまず成就しないであろう雰囲気である。
 ところがそのカフェで、岡田は高校時代の同級生・森田正一(森田剛)と遭遇する。しかも、安藤によると、森田はしょっちゅうこのカフェに来て、怪しげな視線をユカに向けているらしい。
 ユカの身を案じる安藤に頼まれ、森田の様子を探るため、嫌々ながら森田と一緒に飲みに行く岡田。だが会話はまったく嚙み合わない。
 物語が進むにつれ、森田がユカのストーカーであったこと、高校時代の友人を恐喝していること、そして猟奇殺人鬼であることが明らかになっていくのだが……‼
 映画全体に不穏な空気が流れ、奇妙な緊張感が観る者を不安にさせる。まともなことを言いながら、どこかその挙動がおかしい安藤。ユカと女友達、安藤と岡田が飲み会をした時、空気の読めない女友達の言動は、笑えるようで笑えない。そして森田の焦点の定まらない目、無気力な態度、突然爆発する暴力……。バリバリのアイドルだった森田剛がよくこの役を引き受けたものだと感心した。単独での初主演映画であるが、普通なら恋愛ものとか、かっこいいアクションとかを選びそうなものだ(ある意味、めっちゃアクション入るが、女性を殴る蹴るだからなあ)。だが、彼がこの役を選んだのには理由があった。映画を観ればそれが分かるが、ラストの衝撃は……。ちなみに森田剛はこのラストシーンをとても気に入ったそうである。
 タイトルのヒメアノ〜ルというのはヒメトカゲという、蛇に捕食される小さなトカゲの名前だそう。強者の餌となる弱者、勝ち組に蹂躙される負け組。考えさせられるタイトルである。

 

▼編集部オススメ、もう1本!
『アメリカン・サイコ』
こちらは勝ち組ゆえに病んでしまったシリアルキラーのお話。

 

●TITLE『さかなのこ』
ずっと好きは素晴らしい!

 西山西子先生、推薦作2本目は『さかなのこ』。今や博士である、さかなクンの自叙伝『さかなクンの一魚一会〜まいにち夢中な人生!〜』が原作だ。魚というか水中で生きる生物が大好きなミー坊(のん)が魚博士を目指して奮闘するというハートウォーミングな作品である。監督は沖田修一。
 さかなクンの役を、なぜ女性であるのんが演じるのかは気にしなくていい。なぜなら映画の冒頭で“男か女かはどっちでもいい”と宣言しているから。
 子供の時からとにかく魚に夢中。みんなにからかわれても平気。そして魚の絵がすごく上手い。釣り好きの先生たちに大好評である(勉強は出来ないが)。
 海水浴で巨大なタコを捕まえた小学生のミー坊(西村瑞季)。驚く周囲をものともせず“このタコ飼っていい?”すると母親はあっさり“いいわよ”と答える。ところが父親は、タコの頭を引っこ抜き、アスファルトにタコを打ちつける。“こうするとうまくなるんだ”ドン引きのミー坊だが、結局、みんなでタコを焼いて食べる。
 魚好きは高校生になっても変わらず、ヤンキーを率いる同級生の総長(磯村勇斗)に絡まれても、なぜか一緒に釣りをすることになり、結局、みんなで釣った魚を刺身にして食べる。
 他校の不良たちと総長たちが大乱闘になっても、なぜかイカ釣りになり、結局、みんなでイカを食べる。
 沖田修一監督は、なんというか不思議な脱力系の作品を作る監督で、作品の面白さを言葉で説明するのが難しいのだが、沖田監督の作品を観るとなんだか幸せな気分になるのである。
 さて、『さかなのこ』に話を戻すと、大人になったミー坊の人生にもそれなりの事件が起こる。夢だった水族館の仕事をクビになったり、頼まれた熱帯魚の水槽作りに失敗したり、子連れの友人がアパートに転がり込んだり……。何かは起こるけど、なぜか大事には至らない。というか大事にしない。西山先生のもう1本の推薦作『ヒメアノ〜ル』と真逆である。『ヒメアノ〜ル』の、起きてしまった出来事によって決定的に変わる主人公と、『さかなのこ』の、何が起きても魚ラブが変わらない主人公。双方とも周囲の人間を変えてしまうが、ミー坊は周りを幸せにするのである。
 もう一つ、この作品で素敵なのは、ミー坊の母親ミチコ(井川遥)だ。もっと勉強しろという高校の先生に“この子はお魚が好きで、お魚の絵を描いて、それでいいんです”と言い切る! 子供を全肯定する母親なのだ。
 好きなものはずっと好きでいればいい。そう言ってもらえるのって、いいよね!

 

▼編集部オススメ、もう1本!
『横道世之介』
沖田修一監督作をもう1本!

 

『さかなのこ』

発売中
ブルーレイ【特装限定版】:6380円(税込)
DVD:4180円(税込)
販売元:バンダイナムコフィルムワークス

 

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