さの隆先生の『君が僕らを悪魔と呼んだ頃』は、記憶をなくした主人公、悠介が「悪魔」と呼ばれていた自分の過去を振り返っていくサスペンス漫画。
今回は、悠介の「親友」として現れた会澤のあの“穴”について、真面目に現役医師さんに聴いてみました。
あの手の穴はどのぐらいの大きさなのか−−?
第2話、悠介と会澤の再会シーン。
会澤の手には、ぽっかり大きな穴が空いています。
ここは読んでいてギョっとしますよね。
筆者はしました……
この穴の大きさは簡単に出せました。
目がのぞき込めるぐらいの大きさ……4〜5cmほどの大きさと仮定して、早速医師さんにうかがいました。
手のひらに4〜5cmの穴が空いているのですが……
今回、お話をうかがったのは筆者の友人で、世界的にも希少な分野を扱っている現役の医師さん。
「専門分野ではないので医学書を読みながらですみません」と前置きしてコメントをいただきました。
——『君が僕らを悪魔と呼んだ頃』という漫画の登場人物、会澤の手に4〜5cmの穴が空いているのですが……
医師さん:
なるほど、これは……
まずスプーンをつかんでいる画像からは、中指と薬指が動かない状態と思われます。
そして指の配置は正常なので、おそらく手の中での骨の位置が変化していない、腱で補完されているような気がします。
ただ、穴を開けたがってる悠介くんが片手にドリルを持っていますが、この穴を広げたときも、ドリルを使って骨などを破壊しながら空けていったように思います。
——パッと見ただけでそんなにわかるものなんですね……
会澤は「真ん中の2本の指には神経が通ってない」と話しているのですが、それだけで済むものなんでしょうか?
医師さん:
手はとても複雑で繊細なんです。
このケースを見るだけでも、骨、神経、腱、筋肉の4つを考えなければいけません。
まず骨ですが、これがないと手の形が保てません。
会澤くんの穴の位置には、指の一番根元の骨である「中手骨」という骨があります。
穴の範囲を見ると、中指の第3中手骨と薬指の第4中手骨が切断されている状態ですので、本来ならば中指と薬指はきちんと固定されていない状態なんです。
ただ、手指は腱によってお互いに縛りつけられるように固定されているので、外から力を加えなければ元の位置を保てるのではないかとは思います。
——神経はどうなんですか?
医師さん:
会澤くんは「真ん中の2本の指には神経が通ってない」と言っているので、読者は動かない中指と薬指のことと思うでしょうが、これは少し違います。
指には右半分と左半分で別々の神経が入っていて、この穴で途切れている可能性が高いのは、中指の全体と薬指と人差指の内側半分です。
中指は動かなくても人差指と薬指は半分神経が通っているから動くはず……残念ながらそうはいきません。ここで腱が出て来ます。
腱は手のひらの中央付近から各指に広がっていくのですが、会澤くんの穴を見るとちょうど腱が広がっていく位置なんです。下手すると親指以外は腱が通らず、動かない可能性すらあります。
上の画像を見ると人差指と小指は曲がってるので、恐らく担当した医師が必死に指の機能を再建したのでしょう。
——ちなみにこんなに綺麗に穴を空けられるものなんでしょうか?
医師さん:
綺麗に空くのかの前に、そもそも手にこんなに大きな穴を空けられるのかを先に説明しますね。
この穴の位置には、もちろん動脈や静脈もそこそこ太いものが走っています。
手の先の方だから血液の流れは比較的緩やかとはいえ、太めの血管を切ると普通に生活をしていると見かけることがないほど大量に出血します。
−−うわあ……なんかちょっと、心が痛くなってきました……
医師さん:
ドリルで骨や神経ごと削り広げられるという想像を絶する痛みに耐えた会澤くんもすごいですが、ドリルが骨を砕く嫌な感覚や噴き出すような大出血を経験しても「どこまで大きくできっかな?」で穴を広げ続けた悠介くんの胆力も相当なものです。
なお、手にはこの穴を回り込むような血管もありますし、血流の足りない場所には新しい血管ができますので、出血さえ何とかできれば壊死したりはしません。
——なるほど、想像したくない感じですが、会澤がとんでもなく酷い目に遭ったのはよくわかりました……
医師さん:
あともうひとつ……医師として気になるのが感染症の問題です。
粗暴な中学生がそこらへんのドリルで開けた穴、しかも骨(感染に弱い)まで達する穴となれば、抗生物質などによるかなりがっちりした感染症対策をしないと、非常に厄介な感染症を引き起こします。
人差指と小指の機能が生き残ってることや大出血で死んでないことから考えると、確実に医師による治療が行われています。
ただ、医師が関与したなら、普通に考えれば穴もふさぐので、医師が関与した後にまた穴を開けたのだろうと思われます。
——そこまでのことをされているのに、飄々としていられる会澤もすごいですね……
医師さん:
会澤くんのように、親指や人差し指、小指を動かせるようにすることは可能です。ただし、医師が必死で再建、治療を行えばの話です。
それがなければ、親指以外は動かないでしょうし、感染症で会澤くんの生命も危うかったと思います。
また、穴を広げていく経緯で会澤くんの担当医に怪しまれなかったり、悠介くんが警察に補導されなかったりする事情は医師の私からするとわかりません。
ちなみにあのシーンはどうなのか?
——ちなみに、本作ではほかにもこんな「悪魔」の所業が出てくるのですが、アイスピックで頸動脈をブスリというのは、本当に可能なんでしょうか?
医師さん:
これは映画やドラマでもよく見かけるシーンですね。
安全ピン、アイスピックなど針状のものだと「難しい」でしょう。
もし頸動脈を傷つけることができたら、圧迫などでは止血が難しいほどの大出血を起こす可能性が高く、比較的短時間のうちに失血死する危険性が高いです。
でも、ここで狙われている頚動脈は首の結構深いところを走っていて外からは見えませんし(それっぽく筋状に見えるのは外頚静脈または胸鎖乳突筋です)、太さもせいぜい7mmくらいしかありません。
動脈は血管の壁が厚くて弾力があるので、注射針みたいに特別鋭くする特殊加工のされてない針では、よほど上手く当たらないと血管が動いて逃げちゃう可能性が高いんです。
「頚動脈をアイスピックや針で刺す」というのは、起こりうる被害が素人でも想像ができ「すごく怖い」ので脅しには有効。
ただし、実行する場合はほとんど運任せです。
なお、ナイフなど幅の広い凶器の場合は話が全く変わってくるので、あくまでもアイスピックなど針状の凶器に限った話とご理解ください。
——なるほど、それを知っていれば怖くなさそうですが……何度も刺されたら頸動脈に刺さらなくても危なそうですね……
医師さん:
そうですね……一番の対処法は、「悪魔と関わらない」です。
普段の生活で手にこんな穴が空くこと、首元にアイスピックを突きつけられることなんてまずありません。
真面目に生活して、危険そうな人には近寄らない、関わらないのが一番の対処法です。
−−ありがとうございました。
今回は真面目にお話をうかがいました。
このほかにも、あのハンマーで足の指をアレされちゃうシーンや、タバコや熱湯でアレされてしまうシーンもうかがったのですが、対処法はあるそうです。
でも、「まず、そうならないように心がける」ことをオススメされました。
人に熱湯かけて、腹抱えて笑ってられる人からはすぐ逃げたほうが良いです。
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