「週刊少年マガジン」で絶賛連載中の『ランウェイで笑って』。
いよいよTVアニメも1月10日(金)から始まり、絶好調な本作のテーマはファッション!
家族を養うためにデザイナーの夢を諦めかけていた都村育人と、158cmの身長でパリコレを目指す藤戸千雪を中心に、つまずいたり落ち込んだりしながらも、目標に向かって邁進するキャラクターたちの姿を描く少年漫画です。
そんな『ランウェイで笑って』が大好きです!と語ってくれたのは、講談社のファッション誌「with」編集者の松本紗野。「どんなところが好き?」「モデルのオーラってどういうもの?」などいろいろ聞いてきました!
少年漫画好きな松本さんの目に止まったランウェイ
――松本さんはファッション誌志望で講談社に入社して、ずっとファッション誌を担当。……ですが、少年漫画が大好きだと聞きました。
松本:
好きです!
「週マガ」もずっと読んでいますし、「マガポケ」でも追っています。
特にスポーツものなど地に足のついた少年漫画が好きですね。
――『ランウェイで笑って』も大好きだそうですけど、読み始めたきっかけは?
松本:
「週刊少年マガジン」をパラパラとめくっていたら、「ファッションを題材にした漫画があるんだ!」と驚いたんです。
ファッションと「週刊少年マガジン」って、縁遠いイメージがありませんか?
「デザート」や「BE・LOVE」みたいな少女漫画雑誌じゃなく「週マガ」!
でも、読んでみると「これは週マガだ!」って感じました。
――どんなところが「週マガ」でした?
松本:
主人公の育人や千雪、その周りにいるキャラクターが、つまずいたり悩んだりしながら、夢に向かって歩いて行くところですね。
絵柄は、女性でも読みやすそうな柔らかな雰囲気ですけど、まるで熱いスポーツ漫画を読んでいるような感覚を覚えました。
『ランウェイで笑って』は自己成長物語。
それがとてもおもしろい。
読むきっかけさえあれば、男性でも女性でも話に引き込まれて、どんどん読み進められると思います。
――ファッション誌の編集者として惹かれたポイントはありますか?
松本:
ファッション業界のことに詳しい人が描いている感じがします。
最近のエピソードで言えば、東京ガールズコレクションの業界的な立ち位置をきちんと把握しているなーと感じますし、服飾の専門学校のこともよく調べ上げていらっしゃる気がしました。
ファッション業界って華々しさだけが目立ちますが、実際はそんなこともありません。
納期までの忙しさや、パタンナーのような裏方の苦労など、華々しさの奥に隠れている地道な部分もしっかり描かれている。
そういうリアルさがおもしろいです。
――パタンナーのような裏方の苦労……本作でも育人がパタンナーとして先輩たちに嫉妬されたり、激励してもらったり。実際の世界でも、パタンナーはデザイナーの足がかりのような感じなんですか?
松本:
パタンナーを経て、デザイナーとなり、いまはブランドを立ち上げているというかたもいらっしゃいますし、パタンナーという仕事を好きでやっている人ももちろんいます。
本作でもカルロスはパタンナーの仕事に誇りを持っていますよね。
デザイナーが考えたデザインをパタンナーが実際の“服”にしていく……という服作りの工程には、両者の存在が必要不可欠なんです。
主人公・都村育人のココがスゴイ!
――作品について、もう少しうかがいたいと思います。
松本さんから見て、育人はどんな主人公ですか?
松本:
一見おとなしいですが、芯が強いですよね。
4兄妹で母親が入院しているなど複雑な家庭育ちで、とてもハングリー。
千雪の父親の紹介で、新進気鋭のブランドデザイナー柳田のところに転がり込むわけですが、柳田はとても気難しくて仕事に妥協しない男。
そんな柳田に「ヘタクソは帰ってくれ」と言われても「ここで帰ったらダメだ!」と柳田に食らいついていこうとする。柳田に見いだされたのは、そういうところが関係しているのではないかな、と。
そして、妹たちのために服を作ってあげていた、という描写がありますよね。平面を立体に起こすのには、特別な頭の構造、つまり才能が必要。
育人くんはハングリーさと才能を併せ持っている。つまり「ものづくり」に必要な条件を満たしていると思うんです。
あ、それと、人の意図を汲み取って、求められている以上のことをやってくれるところもすごいですね。
――カルロスが言っていた「ツッチ(育人)は、デザイナーの意図を察する能力がものすごい」というところでしょうか。
松本:
そこです!
意図を汲みつつ、自分なりにアレンジしてそれより一回り大きなことをしてくれる人は、スタイリストやカメラマン、ヘアメイクなど、実際にいろんな仕事、場で重宝されるんです。
ただ言われた通りにするだけでなく、想像を上回るものを提示できる才能って、現実でも成功する人の秘訣じゃないかな、と感じています。
作中で着てみたい服は?
――「ファッション業界のことに詳しい人が描いている感じがする」とのことでしたが、どこを読んでそう思いましたか?
松本:
作中ではファッションショーやコレクションなどの描写が見られますよね。
小説なら言葉だけで読み手の想像に委ねれば済むところを、漫画だと絵に起こして「見て感じて」もらわないといけない。
このシーンみたいに、漫画だと「世界を旅する」服を具体化して絵でも見せる必要があります。
ファッションに興味のない読み手にも、「うわぁ!」「素敵だな!」と納得してもらうために、コンセプトから服を練りこんでいかないと、こういう絵は描けないですよね。
『ランウェイで笑って』では、それを毎エピソードごとに考えているのがすごいです。
「ファッション漫画のデフォルメされたお洒落っぽく見える服」じゃなくて、「現実にもありそうな服」が多いなとも感じています。
ファッション業界に関わっている身としてはストーリーを読むだけでなく、「これを考えるのは大変だろうなぁ」と想像しながら読める楽しさもあります。
――作中で、「これは着てみたいな」と思った服はありましたか?
松本:
育人や柳田が入社するAphro I diteの服は「仕立てがいいな」と感じたので着てみたいですね!
服が出てくるたびに、「あのブランドを意識したのかな?」と想像するのも楽しいです。
モデルの「オーラ」とは?
――千雪が「with」にやってきたとしたらどうでしょうか。
松本:
「with」は読者と同じ目線、身近に感じられるような等身大のモデルさんに活躍してもらっている雑誌なんです。
実際に活躍しているモデルも150台後半〜170台前半です。
だから、身長158cmの千雪は「with」でも小さい方ですね。
撮影用のサンプルをきれいに着られることが求められるので、ある程度の身長は必要ですが、パリコレほど身長がネックになることはありません。
――千雪は「オーラがすごい」と言われていますよね。
松本さんがお会いしたモデルさんの中で、「この人のオーラはすごかった!」と印象に残っているかたはいらっしゃいますか?
松本:
真っ先に浮かぶのは女優の佐久間由衣さんです。
2013年、「ViVi」のモデルオーディションでグランプリを授賞されたんですが、オーディションではじめてお会いしたときから、放つオーラが周りと違いました。
その後も、凄まじい努力をしていらして、デビュー以来、どんどんオーラに磨きがかかっています。
ほかにもマギーさんやトリンドル玲奈さん。
彼女たちも特別なオーラを持っていましたけど、それに甘んじることなく、日々、ストイックに努力しています。
あと、藤井リナさんのオーラにも圧倒されました。
彼女が誌面に登場すれば、「可愛くならないわけがない!」というくらいの絶対的な存在感があります。
作中、千雪が心のオーラに圧倒されるシーンがありますよね。
「オーラがある」モデルさんは、現場に到着するだけで空気が変わるんです。
――「オーラ」という言葉はよく耳にしますが、実際なんなんでしょうか?
松本:
私個人では、「オーラがある人」=「目が離せない人」だと思っています。
人気がある人って、アンチもいますよね。
嫌いなら放っておけばいいのに、目が離せない。
だから注目してしまう。
好きだったらなおさらのこと、一時も目が離せなくなるんです。
――千雪にも、そういうオーラはあると思いますか?
松本:
あると思います。
作中で、千雪が憧れている日本のトップモデルと一緒に歩くときに、「君はちょっと抑えて歩いて」と言われるシーンがありますよね。
彼女のオーラの強さをよく表現しているなぁと思います。
また、彼女は常にプロ意識を忘れない。
現実のモデルさんたちとも似ています。
モデルもカメラマンもスタイリストも、一流になればなるほど互いの仕事ぶりを厳しく評価し合う真剣勝負の世界なんです。手を抜いたら、すぐにバレてしまう。
そして、一流の人は一流の人に目を留める。
千雪も有名な雑誌編集者やスタイリストの目に留まっていますよね。
リアルを追求しているからこそ今後の展開が楽しみな作品
――松本さんが一番好きなキャラクターは?
松本:
柳田です!
ショーやコレクションでの裏方さんの話にもリアリティがあると思いますが、デザイナー柳田のプロ意識もかなりリアリティがあって、身が引き締まる思いで読んでいます。
多くの読者は、「うわ、柳田、厳しいなぁ」と感じると思うんです。
でも、実際に「ものづくり」の現場では、「クレジットに自分の名前がのる」となるといい加減なことはできない。それがそのまま自分の評価につながるんですから。
柳田は自分のこだわりにとことん正直なんですよね。
こだわりがないとなかなか良いものは生まれてこないので、彼の極端な姿勢は素敵だなと思います。だからこそ未熟ながらもプロ意識を持つ育人には、厳しく向き合いながらも見まもってくれる優しさを持っているのではないでしょうか。
私自身、編集職という「ものづくり」に携わる者として、柳田の存在から刺激をもらいました。
『ランウェイで笑って』は、たとえファッションに興味がなくても、何かしら「創る」仕事をやっている人が読んだらきっとハマると思うんです。
それにきっと、本作を読んだらファッションに興味がわくと思いますよ!
――今後、楽しみにしていることはありますか?
松本:
パリコレモデルを夢見ている千雪は身長が158cmなんですよね。
それが本作の魅力のひとつなんですが、パリコレは175cmないと勝負できない世界。雑誌に登場する服でさえ、だいたい165cmの人が綺麗に見えるように仕立てていることが多いです。
170cmでも厳しいと言われていることも、ここまでファッション業界の裏側を調べ上げている作者の方でしたら知らないはずはないんです。
どういう意図があって158cmにしたのか。
本当にパリコレに立てるのか?
この2つが今後、どういう展開になっていくのか……それがとても楽しみです。
もしかしたら、ファッション業界って少年漫画と案外、相性がいいのかもしれませんね(笑)。
――ものづくりなど「創る」仕事をやっている人以外だと、どんな人にオススメしたいと思いますか?
松本:
最初にも話したように「自己成長物語」なんです。
「夢を叶えたい」という育人や千雪たちの姿から勇気をもらえる作品ですので、少年・少女層の若い読者だけに留まらず、30歳前後で「自分には、もう新しいチャレンジはできないだろうな」と諦めを感じているかたにオススメしたいです。
きっと「もう一度チャレンジしてみよう」とポジティブな気持ちを持ってもらえると思うんです!
ある程度、年齢や経験を積んでしまうと「現状維持でいいか」って思っちゃうんですよね。
でも、ただの「維持」ではなくて、今、取り組んでいることに、別の観点から取り組んでみる。中途半端に付き合ってきた男と別れる、とか(笑)。
そういうプラスの決断をする後押しになる作品なんじゃないかな、と思います。
――今日はありがとうございました。