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『ランウェイで笑って』 そもそもファッションショーってなに?謎の組織ってなに? ファッションメディア編集長に話を聞いた【前篇】

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少年マガジン連載中でファッションをテーマにした漫画『ランウェイで笑って』(作:猪ノ谷言葉)。様々な壁にぶつかりながら、純粋に夢に向かってもがく若者たちを描き、話題を呼んでいます。

 

普段ファッションに興味がなかった人でも、関心がでてきたという方も多いはず。そこで、ファッション業界の常識から裏話まで、日本のファッションブランドをもっと広めていきたいという思いのもとファッションメディア「ROBE」の編集長をされている、佐藤亜都(あづ)さんにお話をうかがいました。

 

【Profile】

佐藤亜都さん

「スタイラー株式会社」所属。編集者・ライター。ファッションアプリ「FACY」内の記事制作や、ファッションメディア「ROBE」のディレクションを担当している。

 

 

パリコレで受けた衝撃から、日本のブランドを盛り上げたいとファッション業界に就職

 

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--佐藤さんがファッションに目覚めたきっかけは?

佐藤亜都(以下、佐藤):きっかけってないんですよ()。物心ついたときからファッションが好きで。小学生の頃から「ナルミヤブランド」(※)にはまってました。中高時代は休日に赤文字系(※)や古着系など一通りのファッションを楽しみ、大学生のときに毎日私服が着られる状況になって、自分の良さを引き出す服を着るようになりました。

さらに、大学ではファッションを扱う団体に入り、デザイナーやジャーナリストなどファッション業界に携わる人を呼んで、講演会を開くという活動をしていたんです。そこでいろんな方の話しを聞き、コレクションブランドやモードに興味を持つようになりました。

 

※ナルミヤブランド…株式会社ナルミヤブランドが展開する、児童向けアパレルのブランド。90年代以降、SPEEDなどの人気グループをCMに起用し、多くの指示を得た。

 

※赤文字系…コンサバ系(conservative。保守的な、伝統を重んじたファッション嗜好)の洋服のこと。コンサバ系の代名詞ともいえる『JJ』『ViVi』『Ray』『CanCam』などの雑誌の題字が赤やピンクだったためこのような名前がついた。

 

--ファッションを仕事にしようと思ったのは、その活動がきっかけですか?

佐藤:漫画の主人公の千雪とも被るんですけど、直接的なきっかけは大学生のときに語学留学で1年間フランス留学をしたときに見たパリコレでした。その時に、日本には素敵なブランドがあるのに、世界ではほとんど知られていないと知ってすごく悲しくて。帰国したら日本のブランドを盛り上げるような仕事をしようと決め、セレクトショップの販売員を経て、スタイラーという会社に就職しました。そこで、アプリ「FACY(フェイシー)」の中の記事作りや、メディア「ROBE」のディレクションなどを行っているメディア班に在籍しています。

 

ファッション業界で憧れないものはいない! 世界最高峰のファッションウィーク、パリコレとは?

----漫画の冒頭では千雪が、パリコレへの憧れを語りますね。パリコレとは一体なんなのでしょうか?

 

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※『ランウェイで笑って』1巻より。

 

佐藤:パリコレは正式名称を「パリ・ファッション・ウィーク」と言い、一番歴史の古い伝統的なファッションショーで、千雪が言うように、世界中のモデルやデザイナーがここを目指しています。ファッションウィークとよばれる所以は、約9日間に渡ってパリの様々な場所でファッションショーが開かれるからなんです。パリコレはプレタポルテと呼ばれるショーの形式とっています。プレタポルテとは高級既製服のことを意味していて、SMLなどでサイズ展開をすることで、大量生産が可能になった生産形態のことを言います。『ランウェイで笑って』に出てくる東京コレクションもプレタポルテですね。

 

ーーーープレタポルテ以外にも種類があるんですか?

佐藤:今一般的なのはプレタポルテ(高級既製服のショーですが、もうひとつの形式であるオートクチュール(高級注文服)も一部で開催されています。その形式で有名なブランドは、DiorやChanelでしょうか。オートクチュールの成り立ちは、古くは19世紀に始まります。オートクチュールのファッションショーでは、見本となる服を身につけたモデルが顧客の前を歩き、それを見た顧客は気に入ったデザインの服を注文します。ブランド側はその顧客の体系や要望に合わせオーダーメイドで服を仕立てる、というものです。そのシステムは今のファッションショーの起源ですね。例えばハリウッドセレブがレッドカーペットで着る衣装や世界的アーティストの衣装など、世界には1着何千万円という服を買う方もいらっしゃいますから、そういった方々の需要に応じて数少ないブランドにはなりますが、今でも行われています。

 

ーーーーパリコレは1年に2回あり、かなり先の商品を発表すると聞きました。例えば今年(2018年)の10月に行われるパリコレは2019年の春夏コレクションだと。なぜほぼ半年後のコレクションを見せるんでしょう?

佐藤:ファッションショーがなぜ行われているかがわかると、その疑問も解決すると思います。そもそも、ファッションショーはただ見世物というわけではなく、バイヤー(※)が新作を買い付けに来たり、ジャーナリストがトレンド予測をして半年先のファッション誌の構成を考えるために来たりしています。そういったファッション関係者に次の半年の時代の流れを知ってもらうために”今まさに流行っている服”ではなく”未来に流行る服”を発表しているわけです。……とはいえ、この半年前にショーが行われる形式は、今の時代に合致していないのではないか、という議論も起こっています。ちょうど昨日、とあるブランドの2019年の春夏物のファッションショーを見てきたんですが、「夏って今じゃん!今着たいよ!」って思ってしまいました(笑)。それが消費者にとっての一般的な感覚だと思うんです。

 

※バイヤー…商品の買い付けの担当者。

 

--これは、多くの人が疑問に思っているのではないかと思うんですが、SNSなどでよく目にする「パリコレの超奇抜な服装」……をお店で買って着ている人はいるんでしょうか?

佐藤:ファッションショーで特に目立っている奇抜な服は、主にコレクション用に作られているコレクションピースというものです。これはファッションショーを盛り上げたり、コレクションのコンセプトを明確に伝える「宣伝用の服」のようなもので、実際には販売されないものもあります。もちろん、すべての服がそうではなく、多くが販売されるコマーシャルピースにはなるのですが。あ、でも、ヨーロッパはパーティ文化が根強いので、奇抜な服でも着る方は多いですよ。あとは、ショーで奇抜に見える服ってスタイリングの効果からそう見えるだけということもあります。トップスもボトムスもド派手なものをかけ合わせたりしている場合も、片方だけを使えばそこまで奇抜にはならないという例も多いです。いえ、中には本当にすごいものもありますけどね(笑)。

 

世界中からもファッション関係者が集まる「東京コレクション」とは?

 

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--世界では他にどんなファッションショーがあるのでしょうか?

佐藤:有名どころですと、ニューヨーク、ロンドン、ミラノですね。東京を含め、世界5大コレクションと考えることもあります。それぞれのブランドには特徴があり、ニューヨークだとコンサバ、ロンドンは若手も自由に表現する型破りな感じで、ミラノは伝統を重んじる空気があります。東京は普段着られるリアルクローズが多いです。かつてはアジアの中では最も注目されるファッションショーだったのですが、いまはソウルや上海のほうが勢いがあったりします。

 

--東京コレクションはいつどこで開催されているんですか? 一般人が見に行くことは可能なんでしょうか?

 

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※『ランウェイで笑って』1巻より。

 

佐藤:セキュリティの関係から開催場所を公表していないパリコレと違って、東京コレクションはわりと開放的です(笑)。今年はAmazon Fashion Week TOKYOとして、1015日~21日に開催されるのですが、一般の方でも見に行くことができるブランドもあるので、ぜひ見に行っていただきたいなと思います。

 

--東京コレクションにはまだ若いブランドも参加されるそうですが、やはりブランドが有名になるのは時間がかかるんですか?

佐藤:それが最近はそうとも言えなくて、『ランウェイで笑って』の中にも、モデルがかわいいと思った服がSNSで拡散されて話題になるシーンがありましたよね。ああいった感じで、たとえばTV業界に関わるスタイリストさんに、芸能人の衣装として使ってもらうことで知名度があがる、という場合もあります。過去に「ROBE」でポップアップショップ(※)を開催したときも、取り扱いブランドの服を着た有名人がTVに出て、そのコーディネートをSNSに投稿したことで話題になり、問い合わせが殺到したんです。

 

※ポップアップショップ…商業施設や空き店舗を利用し、一時的に出現するキャンペーン的なお店。ヨーロッパで始まったブランドイメージ向上を狙った宣伝手法の一つ。

  

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※『ランウェイで笑って』1巻より。

 

175cmの壁は厚いの? モデルが選ばれる基準とは?

 

--『ランウェイで笑って』の第1話で、千雪は身長の壁にぶつかってしまうわけですが、やはりモデルの身長は175cm以上が常識ですか?

佐藤:まだこの常識は根強くあります。最高峰のパリでは特にまだ身長は重要な要素です。ですが、モデルの業界でも、ここ最近はかなり変化がでてきています。それこそ10年前くらいまでは、だいたい175cm以上、白人、細身というモデルさんがほとんどでした。でも、近年では美しさの基準は一定じゃないという認知が広まりつつあって、175cm以下のモデルさんもいますよ。例えば水原希子ちゃんは168cmですが、NYコレクションやミラノコレクションにショーモデルとして出ていますね。長い間ファッション業界にあったモデルの健康問題、低年齢化、人種差別、労働環境といった数々の問題については、色々なところで議論を呼んでいてようやく改善されてきています。アジア人でも、どんな体型でも、最近は活躍しているモデルさんがたくさんいるので、千雪もチャンスをつかめるようになると思います!

 

--モデルはどういうルートでコレクションに出るのでしょうか?

佐藤:さまざまな方法がありますが、コレクションブランドに書類を応募するところからですね。その書類審査を通ったモデルの事務所には連絡が来て、本人がコンポジット(※)を持参してオーディションに参加します。オーディション自体は一瞬で終わりますね。そっからここまで歩いて、みたいな感じです。デザイナーや演出担当がオーディションを担当するんですが、そのショーで何を見せたいかを重視すると思います。たとえば力強い女性を見せたいなら、そういう歩き方ができるモデルかどうか、雰囲気を持ち合わせているかとか。もちろん、そのショーで使用する衣装に合うモデルかどうかも見られます。そのブランドとの相性で決まる部分も大きいですね。

 

※コンポジット……モデルの今までの写真をあつめたもの。これによってモデルのキャラクターや魅力が伝わりやすくなる。

 

【後編は11月29日更新!】


(上野郁美)