週刊少年マガジンに掲載された
漫画家(プロ)への花道を特別に大公開!!
今回は、2017年42号に掲載された
猪ノ谷言葉先生編をお届けします!
『ランウェイで笑って』
猪ノ谷言葉先生に聞く!
漫画家(プロ)へと続く
ランウェイの歩き方!!
第100回を迎えた新人漫画賞。史上4人目の特選受賞者・猪ノ谷言葉先生。連載デビュー作となる『ランウェイで笑って』も絶好調な猪ノ谷先生に、記憶に強く残る演出やキャラに感情移入する物語の組み立てなど、読者を魅了する漫画構成術について聞きました!
読者を揺さぶれ!
――初連載となる『ランウェイで笑って』は、第1話から大反響を呼びました。読者の心を掴むため、物語を盛り上げる際に気をつけていることを教えてください。
猪ノ谷:いかに感情移入してもらうかです。
大事なのは読者が山場の場面でキャラに対して「成長してほしい」って思う時に心情や考え方が変わること。
キャラの変化を望むような助走をつけてあげる、そのための筋道を作っていくということですね。
――助走をつけるとは、そのために説明にかけるページ数も必要になるのでしょうか?
猪ノ谷:実は重要でない部分は説明口調でもいいと思います。
読者が面白いと感じるかは、印象に残るシーンがあるかどうか。
全体が平均的に面白い作品より、山場で120点取れる作品のほうが印象に残りやすいと僕は考えています。
山場は盛り上がらないけれど、説明パートが自然だから面白いと思う人はあまり多くないはずです。
――読者の目線からシーンに優先順位をつけるということですね。では、山場を盛り上げるにはどうすればいいのでしょう?
猪ノ谷:物語の振れ幅を大きくすることです。大きければ大きいほど、読者の感情を揺さぶることができると考えています。
例えば、物語が山場で面白さが最大になるとすると、導入のキャラの境遇が悪い方が、山場でキャラの境遇が良くなった時に変化の振れ幅が大きくなる。
また、悪い状態から始まるなら、良くなる前にさらにもう一段悪くしたい。
そうするともっと振れ幅が大きくなって、読者の感情をより盛り上げられると思います。
――ゼロからプラスになるより、マイナスからプラスに変わる方が盛り上がるということですか?
猪ノ谷:そうです。『ランウェイで笑って』の第1話はまさにこれですね。
作品の面白さは全て見開きにかかっていると思います。
物語の展開は全て、見開きの持つ山場の為にあるというのが、僕なりの考え方です。
⬆︎『ランウェイで笑って』第1話の山場。低身長を理由にトップモデルにはなれないと言われてきた千雪が、その可能性を認められたシーン。
感情の種を蒔け!
――先ほど出た助走は、山場の盛り上げのために重要だと思います。それでは具体的に助走とはどういったものがあるのでしょう?
猪ノ谷:僕の場合は「感情」がそうであることが多いです。伏線として感情の種を蒔いて、育てたものを山場で収穫するっていうイメージですね。
僕の作品は、山場でモノローグを入れることが多いですが、これはキャラの思考を理解してもらいたいからです。
僕は物語の山場の為に構成しているので、それに向けて用意した助走、つまり前フリを回収していくという感じです。
――なぜ前フリに感情を使うことが多いのですか?
猪ノ谷:読者の感情を誘導したいからですかね。キャラの感情の動きを把握しやすいように。
それを想像してもらう漫画もありますし、僕はどちらかというと読者に共感してもらいやすいように心掛けています。
――共感しやすくなるように、作品だけでなく読者からも近づいてきてもらうということですね。例えばどういった誘導の仕方があるのでしょう?
猪ノ谷:大切だと思うのが、導入で読者の読み筋を掴んでおくことです。「この漫画はこのように読む」という姿勢になってもらう。
『ランウェイで笑って』の第1話だと、「1センチも伸びることがなく、高校3先生を迎えた」って序盤に見開きで持ってきていますが、これで〝読み筋〟がハッキリしますよね。
この作品は身長が必要な業界を夢見る子が、身長伸びなかったけどどうする?っていう。要は最初に提示しておくと、読者にその読み筋に沿って読んでもらいやすくなる。
⬆︎「身長が必要なトップモデルを目指す、低身長の少女」という読み筋を提示するのに効果的だった序盤の見開き。
――その読み筋があると、キャラを理解しやすくなるのですか?
猪ノ谷:はい。
導入で示した読み筋で物語が進むから、キャラの行動が全部それに沿って理解できて感情移入しやすい。伏線や感情など、読者に伝わる形で積み重ねやすくなる。
序盤に見開きを使うのは、読者の読み筋を掴んでおくための、僕のお薦めの方法です。
お喋りであれ!
――キャラの感情を描く重要性は分かりました。例えばキャラをうまく見せる手法はありますか?
猪ノ谷:回想は使います。ただ回想を描く際にも注意していることがある。
まず回想で説明したいことを書き出す。さらに回想中で説明できること、回想前後で説明できることを分ける。
回想に入ってこういうトラウマがありました。そのトラウマで後悔が残っている、というときは、「トラウマがありました」は回想の中で描きます。しかしこんな後悔をしているというのはその後でも描ける。
ここまで整理して回想を描いていきます。全部を回想内でやるとテンポが悪くなることもある。
テンポが悪いと読者は読みにくくなるので、そこは使い分けるようにしています。
――回想一つでも、読者が読みやすいかを考えるのが大切なのですね。その読みやすさが特に重要となる部分はありますか?
猪ノ谷:セリフは特に重要だと思っていて、声に出して読みやすいものを心掛けています。
そのために、ネームを作る時は常にセリフを口に出しています。喋って読みづらい文章は、目で読んでも気持ち悪いと僕は思っています。
セリフは必ず読者が読む要素なので、ここを気持ち良く読んでもらいたいです。
視野を広げよ!
――山場に向けて読んでもらう工夫はありますか?
猪ノ谷:僕はネームを作る時にめくり(※)単位と、右ページ左ページ単位で考えています。
読者に〝間〟を感じて欲しいところを右ページの下に置くと左ページへの視線の移動で〝間〟が生まれる。
でも〝間〟が欲しいコマを並べると、1コマ分は読者に〝間〟を作ってもらうコマを入れないと思ったテンポにならない。
だからめくりを考える時も、めくった時に「このシーンを見せよう」というのをベースにしています。
そのためにこのページは詰めなければってなれば詰めるし、余裕があるとポンっと入れちゃいます。
今描いているコマしか見えなくならないよう、広い視野を持つようにしています。
※「めくり」とは…ページの最後に入るコマのこと。
読者がページをめくるかはこのコマ次第!
――猪ノ谷さんはめくりがうまい印象がありますが、コツはなんですか?
猪ノ谷:新人の頃は「とにかく詰める!」と考えていました。
でも、めくりが質問で終わるとか、次を気にさせる要素を置いておくことも大事なのではと思ったんです。
一方で、次は何が来るかなと想像させつつ、予想を裏切りたいとも常に思っています。
――どうすれば予想を裏切れるのでしょうか?
猪ノ谷:伏線を張るのは一つの手です。それもなるべく伏線をコメディに忍ばせるなど、一つのシーンに二つの要素を入れることで、伏線を伏線と悟らせない。
これは、予想を裏切るために伏線を張る際の注意点だと思います。
読者の心を読め!
――作品づくりでベースとなる考えは何でしょうか?
猪ノ谷:読者が気にしているものを意識することです。
例えば、複数人の会話を描く場合、僕は会話の導入はキャラの顔を描きます。
一般的には【舞台→立ち位置→顔】の最初にどこで喋っているかを描くのが多いですよね。
でも、読者が気にしているのは、誰が、その次にどこで喋っているか、という場合もある。
だから僕は、【顔→舞台→立ち位置】の順に描いています。
――読者の視線を自分も持つことで、客観的に判断することが重要なのですね。
猪ノ谷:そうです。「何か喋っているぞ」の次に「どこで喋っている?」がくる。
だからいきなり学校で喋るコマを描いてもあまり話に入り込めないかもしれない。
読者が何を見ているかを徹底的に意識する。これが僕の漫画作りのベースにあります。
最初の読者は自分自身!
――最後にプロを目指す人たちへ一言お願いします。
猪ノ谷:とにかく、自分がその作品を知らないまっさらな読者として読んだ時に、その展開に納得できるかを考えてください。
これなら面白い、と思うまで描く。辻褄が通っているかでなく、大事なのは面白いかどうか。
そのためにさっき言った「掴み」とか細かいテクニックがありますが、それらは全部面白さのためにあることを忘れないでください!!
(※この記事は週刊少年マガジン2017年42号に収録されたものです)
▼『ランウェイで笑って』第1話がWEBでも読める!
▼「マガポケ」のDLはコチラから!
<App Store>iPhone/iPadの方
https://itunes.apple.com/jp/app/id998542154
<Google Play>Android端末の方
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.kodansha.android.magazinepocket
(終わり)