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"絶対”なんてないから面白い! 『ひゃくえむ。』魚豊先生に聞く人生の醍醐味! 前編

わずか10数秒で走り抜ける――
100m走を通して“一瞬”を描いたのが魚豊先生の『ひゃくえむ。』だ。

 

この作品の醍醐味は、勝者がいつまでもその立場にいられるわけではないという真理と、登場人物たちの言葉。
それらから読者が何を感じとるのか――

 

最終回を迎えるにあたって、100m走をテーマに選んだ理由や同作品が生まれた背景、セリフの意味や次回作について魚豊先生にお話をうかがいました!

絶対的なものがないから面白い! 『ひゃくえむ。』魚豊先生に聞く人生の醍醐味!前編

 

まさかの“スポーツダメダメ”時代

 ――最終回を迎えた『ひゃくえむ。』ですが、連載を終えてみてどうでしたか。

 

魚豊先生:
楽しかったですね。
僕はあとで「もっとこうすれば良かった」「もっと上手く描けたはず」とくよくよすることがないんです。自分に甘いので(笑)。絵を描くことも好きだから、追い詰められることなく最後まで楽しく描き切りました。

 

――「もう終わるのか!」という気持ちでいっぱいなんですが、もともとこの長さで考えていたんですか。

 

魚豊先生:
それは嬉しいです。
連載する前から内容を細かいところまで詰めていて、「この長さまで!」と最後を決めていました。もし、打ち切られてしまったら自分でWebサイトを立ち上げて最後まで描く!という気持ちで描いていました。

 

――結果、最終回まで完走できたという感じですね。

 

魚豊先生:
ありがたいです。
皆さんに支えてもらいました。

 

――先生個人のこともうかがいたいです。先生のご出身はどちらですか?

 

魚豊先生:
生まれも育ちも東京ですね。
近くに映画館があり、映画を観に行きやすい環境でした。

 

――いろいろな“物語”に触れやすい環境だったんですね。

 

魚豊先生:
そうですね。

 

――ちなみに、好きな漫画や映画はどんなものでしょうか。

 

魚豊先生:
好きな漫画は真鍋昌平先生の『闇金ウシジマくん』。
映画では、『セッション』や『タクシードライバー』、『桐島、部活やめるってよ』、あとは『第9地区』ですね。

 

――心に響いたポイントは?

 

魚豊先生:
どの作品も人に優しいって思うんです。
勝者はいつまでも勝者じゃないし、負けることもある。どの作品も仮想敵を作ってそれをやっつければおしまい、という勧善懲悪で物語が進んでいくのではなく、リアルな人間ドラマがあるので好きなんです。

 

――どの作品も人が「変わる」瞬間があるように感じます。先生自身も「変わった」
という経験を持っているんですか?

 

魚豊先生:
僕は高校時代、体育がダメダメだったんです。100m走で400人中400位というダメっぷり。
周りはみんないいやつばかりだったのでそれでいじめられるみたいなことはありませんでしたが、「できない自分」がみんなの目に映っているのが悲しくて恥ずかしくて。あくまでも、自分の中だけの問題なんですが、そこは劣等感、弱者感みたいなものを持っていました。

 

――もしかして、先生も小宮みたいに100m走ビリからトップに躍り出たとか?

 

魚豊先生:
いえ、そんなことありません。ずっとビリ(笑)。
文化部に所属していたので、体育会系の部活に入っている人たちのような「イケイケ勢」でもありませんでした。いまも変わっていないです。
ただ、劣等感や弱者感を持っていてもいわゆる「リア充嫌い勢」には当時は共感できませんでした。それは結局「打倒リア充」という点で連帯できていて、孤独ではないし、本質的にはリア充と同じだと思ったんです。
リア充、非リア充、双方に違いはない。
必ずしも力がある=幸せという訳ではないんですよね。

 

――リア充のほうが勝っているように見えますよね。でも、「恋人にフラれた」とか「テストの成績が悪かった」とか、非リア充と“悩むこと”は同じなのかもしれませんね。

 

魚豊先生:
最期、死んだらみんな同じなんですよ。いまは勝っているように見える人でもいつかは死んでしまう。ということは、みんな最後は負けてしまうんじゃないかと考えたんです。
だったら、“いま”生きているこの一瞬をどう生き抜くかが大事なんじゃないか。
「つまらないな」「上手くいかないな」と感じる瞬間も大事にするべき一瞬、「人生にはそういうときもあるさ」と感じてもらいたい。そんなことを考えながら、『ひゃくえむ。』を描いていました。

 

ガチとエンジョイ、楽しいと苦しいを両立できる人こそ強い

 ――財津選手のセリフには、常にグレーでいることを教えてくれるものが多いですよね。

 

絶対的なものがないから面白い! 『ひゃくえむ。』魚豊先生に聞く人生の醍醐味!前編

魚豊先生:
人生って白黒つけられない。
楽しい瞬間の直後に、つまらなくなることもある。人類で言えば、ある人はいじめられる苦しみを、ある人はお金持ちなのに痩せたいという苦しみを、また別の人は明日食べるものがないという飢えの苦しみを感じている。
ほかの人から見れば「そんなこと」と思われるかもしれないけど、本人にとっては絶対的な苦しみなんですよね。

 

裏を返せば「絶対的な幸せ」はない。それぞれが中庸、グレーのところにいて、もがいているんです。それに気づければ、絶対的な楽しみや幸せを追い求めて苦しむことはなくなるし、気が楽になる。それを作品の中で表現したくて、財津というキャラクターを生み出しました。

 

――財津選手に質問をしてしばらく経った後の小宮と、彼のトレーニングを横目で見ていた経田の勝負も印象的なシーンでした。財津選手のひと言で殻を破った小宮が、経田に勝った。あのシーンは象徴的に感じました。

 

絶対的なものがないから面白い! 『ひゃくえむ。』魚豊先生に聞く人生の醍醐味!前編

魚豊先生:
両立できていなかったんですよね、経田は。
勝ちたいという“ガチ”に傾きすぎていて、“エンジョイ”を忘れていた。

 

どんな分野でも、この2つは両立できないと思われがちですが、ぼくはガチ勢こそエンジョイ勢なんじゃないかと思っているんです。向上心は持っているけれど、楽しんでいる。まさに「好きこそものの上手なれ」で、人からどう言われようと、両立できていれば無敵になれるという例として、この2人のドラマを挿入しました。

 

後編はこちら

 

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