別冊少年マガジンで大人気連載中のコラム
『別マガ ムービーガイド』を大公開!!
週マガ編集部の映画担当が、漫画家さんや編集部員のオススメ映画を聞いて、それを紹介するコーナー!
今回は、2018年9月号に掲載された押見修造先生編をお届けします!
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名作・駄作・カルト作。アクション・SF・ラブコメディ。映画はいろいろあるけれど、まだ観てない映画をもう1本。
紹介された映画が気に入ったら、オマケで編集部のオススメのもう1本もご覧くださ〜い!!
今回の推薦者は、毎号ドラマチックな展開で、読んでいると血……ではなく、体力が奪われそうになる『ハピネス』の作者、押見修造先生の登場だ!!
映画がお好きだと言う押見先生の推薦作、
1本目は『ゴーストワールド』。
『ゴーストワールド』、それは闇に潜む異形の者たちの……な〜んて話では全然なく、2人の少女の物語である。ジャンルとしては青春映画か。
しか〜し、この作品、そんじょそこらの青春映画とはまったく違うのだ。
イーニド(ソーラ・バーチ)とレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)は高校を卒業したばかり(ただしイーニドは条件付き。美術の補習を受けることが卒業の条件だ)。
大学には行かず、とりあえず2人で暮らそうと決めている。
このお年頃の女子2人、青春映画の主役にもかかわらず、まったく可愛げがない。
いつも不機嫌でむすっとしてるし、口を開けば〝どいつもこいつもダサくてバカばっかし〟と他人に容赦ない。
大学で経営学を学ぶんだと言うクラスメイトには〝あんたってつまんない男〟の一言で済まし、大人に対しても完全にバカ扱い。
まあ、それも無理のない話で、彼女たちの周りにはロクな大人がいない。
よく行くコンビニの常連は半裸でヌンチャクを振り回すし、
美術の補習教師は、ワケの分からない不気味な前衛ビデオを生徒に見せ、〝これが私なの〟などと言ってるし、
馴染みの本屋の店員に至っては、〝死体の肉をはがすなら、湯がいても無駄だぞ〟
……まったくダメ人間ばかりである。
そんなある日。新聞のお尋ね欄に、1度会ったきりで、名前も知らない女性を探す男性の投書を発見した2人は、さっそくその女性に成りすまし、男を呼び出すことにする。
もちろん、面白半分で。酷い話である。
嘘の呼び出しにやって来たのはさえない中年男だ。
それを陰で笑いものにしたあげく、つけまわし、郵便物を勝手に覗き(犯罪だろ、それ)、フリーマーケットでレコードを売る彼=シーモアに話しかける2人。
ところがイーニドはシーモアをキモいと言いながら〝彼はいい感じよ。嫌いなタイプの正反対。すごいイモだもん。かえってイケてる〟などと言い出す。
なぜならこのレコードオタク(かなりのコレクターでもある)のシーモアは実はこの映画に登場する大人の中で唯一まともな大人なのである。
〝世界の人は満足なんだ。ビッグマックとナイキで。でも僕は99%馴染めない〟
〝コレクターの生き方は健全じゃない。人と付き合えず、モノがすべて、僕は惨めなオタクと一緒さ、っていうかオタクだろ〟
自分が孤独であること、たいした人間ではないことを素直に認めるシーモアは、ある意味大人なのである。そんな彼に惹かれるイーニド。
一方で、親から独立するため(2人で共同生活するため)レベッカはカフェで働き始める。
イーニド同様、世の中に馴染めなかったレベッカが、働くことで大人になってゆく。そんなレベッカを焦る気持ちで眺めるイーニド。
さてこの2人の青春の行方は?
イーニドのセリフがいい〝私はサイテーの人間よ。だけど自分でもなぜなのか説明できない。自分がわからないの〟。
映画のキャッチ・コピーは
〝ダメに生きる〟である。
バカボンのパパではないが、それでいいのではないだろうか。
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押見先生2本目はデヴィッド・リンチ監督の『ブルーベルベット』。
お〜!! 来た来た〜!!
デヴィッド・リンチですよ〜。
カルトの帝王、あの『ツイン・ピークス』(TVドラマ)の生みの親。
はっきり言ってヤバい映画です。
それもハンパなく。
父親が倒れたため、帰郷した青年ジェフリーは、病院に行く途中、切断された耳を発見する。
警察に届け出たものの、好奇心から耳切断事件に関わるとされるクラブ歌手、ブルー・レディことドロシー・ヴァレンズの家に忍び込む。
だがそこに現れたのは……!?
主人公ジェフリー役を演じるのは、デヴィッド・リンチ監督御用達俳優カイル・マクラクラン。
すごいハンサムなのだが、あまりにハンサム過ぎて、なんかヘンな感じがするという不思議な役者だ。
だがそれ以上にヘンで不思議なのがこの映画である。
物語そのものは〝ある誘拐事件に巻き込まれた青年の話〟ですむのだが、見る者が目を向けてしまうのは、事件そのものではなく、映画が持つ不思議な世界観や、登場人物たちの倒錯した性癖や行動である。
オープニングから、その特異な世界が広がる……。
青い空、郊外の住宅地の庭には美しい花が咲いている。
だが、その庭をカメラがズームしていくと、地中には虫たちがうごめいているのである(これはちょっと気持ち悪い)。
一見、普通に見えるものが、リンチ監督にかかると、不気味な世界に変わってくるのだ。
そして登場人物たちのどこかずれた行動。
ジェフリーが偶然切断された耳を発見した時。彼は、警察を呼ぶのではなく、そこらに捨ててあった紙袋に耳を入れて警察署へ持っていくのである。
普通、そんなことしないよなあ。
しかも彼は事件に関係してると聞くと、クラブ歌手ドロシーの家に不法侵入し、彼女のことを覗き見るのだ(おかげでまたとんでもないものを見ちゃうのだが)
ドロシーの性癖もこれがまた……いわゆるマゾと言うんですか……ここで説明するのはやめときます。
そして。極めつきは、ドロシーの夫と子供を誘拐したと思われるフランクである。
ガスマスクをしながら(何かのガスを吸うためらしい)〝ファック〟を連発。ドロシーに襲いかかるのだ。
正直、変態以外の何物でもない。
演じるのは故デニス・ホッパー。知る人ぞ知る性格俳優である。画家・写真家・彫刻家としても有名で、薬物依存でダメになったこともあるが、見事生還。イって帰ってきた男である。
大昔、日本の入浴剤のCMに登場し、入浴シーンを披露。お風呂に浮かべて遊ぶアヒルのおもちゃに〝アヒルちゃ〜ん!!〟と呼びかけ、洋画ファンを驚かせたこともある(ホント、驚いたよ)。
この作品をうまく伝えるセリフがある。ジェフリーがガールフレンドに言うセリフだ。
〝隠された世界を見た。不思議な謎の真っ只中に僕はいるんだ。秘密の中に〟。
デヴィッド・リンチ監督が見る世界は、たとえ同じ世界でも、僕らが見ている世界とは違う。彼は隠された世界を見ることができるのだ。そしてその世界に存在する秘密を知っているのである。
(※この記事は別冊少年マガジン2018年9月号に収録されたものです)
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▼『ハピネス』第1話
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(終わり)