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【騙されたと思って1本!!】「別マガ」ムービーガイド 『性悪男とAIのセオリー』諫山創先生&熨斗上カイ先生が選んだムービー編

名作・駄作・カルト作。アクション・SF・ラブコメディ。映画はいろいろあるけれど、まだ観てない映画をもう1本。今回の推薦者は「別マガ」2月号の表紙&センターカラーを飾った読み切り『性悪男とAIのセオリー』ネーム原作の諫山創先生と、作画の熨斗上カイ先生だ! 久しぶりの諫山先生別マガ登場に編集部も盛り上がっております! その勢いで映画も選んでもらっちゃいました。編集部オススメの作品もおもしろいのでチェックしてみてね!

 

●TITLE『イット・フォローズ』
ゆっくり静かに近づいてくる恐怖……

 今回最初の推薦者は、な、な、なんと諫山創先生! 「別マガ」2月号の表紙&センターカラーを飾った読み切り『性悪男とAIのセオリー』のネーム原作で別マガにお戻りになったのだ。読者の皆さんはすでに作品を読まれたことと思うが、嬉しいことである!
 そして諫山先生、推薦作1本目は『イット・フォローズ』。ホラー映画だ!!
 ホラー映画というのは、通常、安い製作費で作ることができるため(スターも必要ないし)、新人の監督が撮ることが多い。過去には『スパイダーマン』シリーズで知られるサム・ライミ監督が『死霊のはらわた』で、『ワイルド・スピードSKY MISSION』や『アクアマン』のジェームズ・ワン監督が『ソウ』で監督デビューを果たした。ホラー映画は才能ある若手監督が名をあげるのに適したジャンルなのである。そしてユニークなアイデアがあり、観客がそれを気に入れば、驚くほどの大ヒットになるジャンルでもある。
 この映画のユニークなアイデアというのは、正体不明の何か(イット)が、歩いて後をつけて来る(フォローズ)、ゆっくりと。ただそれだけ! ところがこれがめっちゃ怖いのだ!!
 ある晩、郊外に建つ家から一人の女性が飛び出してくる。何者かに追われているようだ。だがその何者かは見えず、彼女の様子に驚いた近所の人が〝大丈夫?〟と尋ねても彼女は〝大丈夫〟と答えるだけ。だがその様子は明らかにおかしい。その後、彼女は車に乗り、走り出す。
 次の朝、不自然に折り曲げられた彼女の死体が海岸に!!
 ジェイとヒューのカップルがデートに出かける。いいムードになった2人は車でセックス。ところがヒューは、ジェイに何かを嗅がせ気絶させる。目覚めたジェイは車椅子に縛り付けられ、ヒューから驚くべきことを告げられる。
〝あるモノがつけて来る。俺が感染したそれをさっき車の中で君にうつした〟。
 他人には見えないが、様々な人間に姿を変えた何かが、感染した人間の後を追い、殺しにくるらしい。
〝なるべく早く誰かと寝て相手に感染させろ〟そして、ヒューは歩いて近づいてくる何者かをジェイに見せるのだった。
 何者か=イットから逃れるためには、セックスをする。するとイットはその相手を追うようになる。しかし、そのうつした相手がイットに殺されてしまうと、また自分のところに戻ってくるのだ。
 その後、ジェイのもとに他人には見えない何者かが近づいて来る。ゆっくり歩いてくるので、逃げようと思えば逃げられる。だがどんなに遠くに逃げようと、必ずそれはやって来る。寝巻き姿のおばあさん、下着姿の少女、水を滴らせる半裸の女性となって。中でも一番恐ろしいのは……まあ、これは映画を観てください。ホント、怖いから。
 暗く静かに恐怖が観客に伝わるユニークなホラー。監督はこれが2作目のデヴィッド・ロバート・ミッチェルだ。

『イット・フォローズ』© 2014 It Will Follow. Inc,

 

▼編集部オススメ、もう1本!
『アス』
ユニークなホラーをもう1本。

 

『イット・フォローズ』

発売中
デジタル配信中
ブルーレイ:5170円(税込)
DVD:4180円(税込)
発売・販売元:ポニーキャニオン
© 2014 It Will Follow. Inc,

 

●TITLE『アフターサン』
父親と娘の切ない思い出の夏

 諫山創先生、推薦作2本目は『アフターサン』。『イット・フォローズ』と打って変わって、11歳の娘ともうすぐ31歳になる若い父親の物語だ。それは繊細で、傷つきやすく、悲しいほど美しい物語である。
 作品の冒頭に古いビデオの映像が流れる。映像の中で少女が父親に尋ねる〝私は11歳になったばかり。11歳の時、将来は何をしてると思ってた?〟。
 ソフィと彼女の父親のカラムは、夏をトルコのリゾートホテルで過ごしている。2人が過ごしているそれほど豪華ではないホテルに母親の姿はない。どうやらソフィの両親は離婚しているらしい。普段は母親と暮らす彼女だが、夏の間だけ父親のカラムと一緒にいられるようだ。
 11歳の娘と父親の関係は特別だ。娘は父親をパーフェクトな存在と思っているし、幼さの残る娘はとても可愛い。父親と一緒にいられる嬉しさに〝同じ空を見るってステキ。遊び時間に空を見上げて太陽が見えたら、パパも太陽を見てると思える。同じ場所にいないし、離れ離れだけど、そばにいるのと同じ。だからそうやって私たちが同じ空の下にいるなら一緒と同じ〟などと言ってくれる健気な娘に、カラムは切ない気持ちになる。
 ところが話が進むにつれ、カラムのどこか不安定なところが見えてくる。眠れない夜を過ごし、言動にもどこか危なげなところが表れる。
〝11歳の誕生日には何をした〟と聞く娘に、自分の11歳の誕生日は誰も覚えていなかったと答えてしまうカラム。護身術を強引にソフィに教えようとするカラム。
 作品の間に挟まれる、暗闇に光るフラッシュのシーンが観るものをさらに不安にさせる。
 幼いソフィは、自分には理解し難い何かがカラムを苦しめていることに気づいているが、彼女に出来ることはない。しかもソフィも子供から、思春期の少女へと成長しつつあり、そんな自分の変化にも戸惑いがある。
 それでも、2人が過ごす夏は美しい。プールサイドで日焼け止めをソフィに塗ってやるカラム。昼間に撮ったソフィのビデオを眺めるカラム。ホテルで兄妹と間違えられニンマリする2人。何もせず、ただビーチチェアに寝そべり同じ空を眺める2人。
 父親役のポール・メスカルが繊細な演技を見せてくれる。最近では『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』でこれぞ〝漢〟な役を演じていたが、この作品の彼は、優しく悲しい。
 そしてこの映画がたどり着く結末は、同じように優しく悲しい。

 

▼編集部オススメ、もう1本!
『SOMEWHERE』
こちらは映画スターと彼の11歳の娘の物語。やはり切ない1本です!

 

『アフターサン』

発売中
ブルーレイ:5500円(税込)
DVD:4400円(税込)
発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

 

●TITLE『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』
最後の『エヴァンゲリオン』

 今回2人目の推薦者は、同じく『性悪男とAIのセオリー』作画の熨斗上カイ先生だ!
 熨斗上カイ先生、推薦作1本目は『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021年)。ついに登場である。いやあ、今まで推薦されなかったのが不思議なくらい。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007年)『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年)『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年)に続く『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(2021年)シリーズ最後の作品である。総監督・原作は庵野秀明。
 TVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』から25年。難解かつ哲学的な内容にもかかわらず(いや、それ故か)アニメ史に残る作品となっている『エヴァンゲリオン』であるが、劇場版シリーズが始まったのは2007年、今から18年前だ。さすがに未見の読者もいると思うので(いないかもしれないが)、ごく簡単に説明すると……。
 セカンドインパクトと呼ばれる大災害後の世界が舞台である。この大災害によって世界の人口は半分に。
 第3新東京市に謎の生命体〝使徒〟が襲来。〝使徒〟に対抗すべく製造されたのが、汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオンである。パイロットは母親のいない14歳の少年・少女たちである(なぜそうなのかは、ぜひシリーズを最初からご覧ください)。
 物語の中心となる少年、エヴァンゲリオン初号機のパイロットになるのが碇シンジ。彼の父親、碇ゲンドウは使徒殲滅を主要任務とする国連直属の超法規的組織ネルフの最高司令官である。
 使徒という謎の生物とエヴァンゲリオンの壮絶な戦いと、パイロットである少年・少女たちの成長が物語の柱となっているが、複雑でコントロールが難しいエヴァンゲリオン、それを操縦する繊細すぎる少年・少女たち、彼らを利用しようとする大人たちの思惑、そしてシンジと父親の確執が物語を複雑にしてゆく。
 3作目の〝Q〟で、サードインパクトのトリガーとなってしまった碇シンジは、避難民村〝第3村〟へ辿り着くが、罪の意識から抜け殻のようになっている。それでも第3村での生活で、少しずつ人間らしい感覚を取り戻していくシンジだったが……!?
 天罰のように人類に襲いかかる使徒の謎、重荷を背負わされた少年・少女たち、碇ゲンドウ率いるネルフの真の目的、さらには神殺しまで飛び出し、物語は神話と化していく。
 綾波レイをはじめとする出色のキャラクターたちを生み出し、様々な考察を呼んだ。圧倒的な作家性と、商業性までも持ち合わせた『エヴァンゲリオン』。その最終章がこの作品なのである。

 

▼編集部オススメ、もう1本!
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』『破』『Q』
この際シリーズ全部観ちゃいましょう!

 

●TITLE『七つの会議』
企業ものの面白さ満載!

 熨斗上カイ先生、推薦作2本目は『七つの会議』。『半沢直樹』シリーズや『花咲舞』シリーズで知られる作家池井戸潤の、同名小説の映画化だ。
〝鬼が来る、もうすぐ鬼がやってくる〟というセリフで始まるこの映画、ホラー映画ではない。中堅電機メーカー東京建電で働く男女の群像劇である。
 冒頭のセリフは、営業部の定例会の始まりを恐れる営業二課長 原島(及川光博)のセリフである。
 原島がなぜそれほど定例会を恐れるのか。そこで売り上げを発表しないとならないからだ。売り上げ目標を達成できない原島は会議で吊し上げられるが、それも無理なノルマのせいである。ところがこの張り詰めた会議中、イビキをかく者が!
 営業一課 〝万年係長〟 の八角、通称八角(野村萬斎)である。驚いたことに、それまで原島を大声で叱責していた営業部長の北川(香川照之)は、なぜか八角に対して何も言わず、会議を終了する。
 誰もが不思議に思う中、八角にまつわる事件が起きる。八角に対して厳しい態度を取った営業一課長の坂戸(片岡愛之助)が、八角によってパワハラで訴えられたのだ。社内のエリート部署である営業一課の長である坂戸だったが、意外にも厳しい処分を受け、左遷。新たに課長の座についたのは二課の原島であった。
 この人事に疑問を持った原島は八角を調べ始めるのだが、そこで判明したのは会社の存続をも左右する不正の実態だった!!
 組織の理論、親会社・子会社の関係、下請け会社との付き合い、加えて社内不倫と会社組織のあるあるが満載!
 中でも営業部と経理部の仲の悪さはどの会社にもありそうだ。営業には、自分たちが稼いでいるという自負がある一方、それゆえ、間違ったエリート意識を持ちやすい。結果、書類仕事を下に見る。営業が提出するいい加減な伝票に経理はうんざりさせられるという図である。編集部の皆さん、伝票はきちんと正確に書きましょう!
 かつては超やり手、今ではグータラ社員の八角を演じる野村萬斎、怒鳴り散らす上司、北川役の香川照之、会社の罪を背負わされるハメになる営業一課長坂戸役の片岡愛之助のキャスティングがいい。オーバーな演技が求められる役は、やりすぎるとリアリティがなくなってしまう。その点、舞台役者でもある彼らは、この手の演技に耐えられる。さすがだ。
 この映画、学生の読者には、将来の勉強になるかも。一昔前と違い、コンプライアンスなど、日本の会社も変わりつつあるが、組織の目的が、利益と拡大である以上(まあ、資本主義ってそういうものだし)、多かれ少なかれこの映画のような場面に出くわすだろう。その時、どうするか。なかなか難しい問題である。

 

▼編集部オススメ、もう1本!
『空飛ぶタイヤ』
池井戸潤原作の作品をもう1本。

 

『七つの会議』

発売中
ブルーレイ:5280円(税込)
DVD:4180円(税込)
発売元:TBS
販売元:TCエンタテインメント
© 2019  映画「七つの会議」製作委員会

 

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