今回は、「週マガ」42号に掲載されたマガジン連載中の漫画家先生へのインタビュー企画「漫画家への花道」第3弾を大公開! 第3弾では、『女神のカフェテラス』の瀬尾公治先生が新人漫画家の悩みを解決! さらに、瀬尾先生にお答えいただいたものの、惜しくも本誌に収まりきらなかった内容をマガポケベースで大公開しちゃいます!
〜漫画家を目指すキミに贈る〜
漫画家への花道
【第107回新人漫画賞締め切り直前特別企画第3弾!!】
『女神のカフェテラス』瀬尾公治先生が新人漫画家の悩みを解決!
心揺さぶる演出の極意!!
3号連続特別インタビューのラストを飾るのは、第107回新人漫画賞にて特別審査委員長を務められる瀬尾公治先生! 前作『ヒットマン』最終回と現在連載中『女神のカフェテラス』第1話の同時掲載が話題を呼ぶなど、読者の心を鷲づかみにするラブコメを生み出し続ける瀬尾先生に、新人作家たちが抱く「演出」についての疑問をブツけちゃいました!
瀬尾公治先生(@seokouji)Profile
広島県出身。1996年、『HALF&HALF』で新人漫画賞佳作を受賞し、デビュー。2021年12号より、週刊少年マガジンにて『女神のカフェテラス』を連載中。過去代表作に『涼風』『君のいる町』『風夏』『ヒットマン』等があり、ラブコメ漫画において不動の人気を誇る。
●極意その壱
実体験を織り交ぜて、感情に説得力を
新人漫画家からの質問①
キャラのリアルな心理描写や人間ドラマは実体験に基づく? それとも全て創作?
――『女神のカフェテラス』は、キャラの心情やドラマにとてもリアリティを感じるのですが、これらは実体験に基づいているのでしょうか?
瀬尾先生:
さすがに丸々、実体験ってことはないですね。ただ完全に創作というわけでもなくて、出先で見かけた喫茶店での出来事とか、学生時代のバイトでの経験とか、そうした実体験からイメージを膨らませて描くことが多いです。経験と想像、両方合わせるって感じですかね。
――やはり想像だけで描くのは難しいのでしょうか?
瀬尾先生:
それもありますが、個人的には何かしら実体験に基づいていた方が、キャラクターの感情だったり行動だったりに奥行きが生まれて、より説得力のある作品になるような気がします。
――羨ましすぎる数々のサービスシーンも実体験から…?
瀬尾先生:
そこだけはちょっと例外かもしれません(笑)。実体験だったら楽しそうですけど。
▲紅葉が押し殺していた想いを吐露するシーン。こういう場面も、自身がなかなか本音を言えなかったりした経験を思い出しながら描いているとのこと。
●極意その弐
読者に与える情報量のバランスを意識する
新人漫画家からの質問②
あえて背景を描かなかったり、セリフだけにしたりといった演出は、どう使いこなす?
――瀬尾先生はある種の「引き算」の演出を、とても効果的に取り入れられているように思うのですが、使いどころに基準はあるのでしょうか?
瀬尾先生:
感覚による部分もありますが、大まかな基準はあります。例えば、キャラの表情やセリフに集中して欲しい時、つまり感情面をより印象強く見せたい時には、背景を省略することが多いです。背景が入っていると余計な情報になってしまうというか。逆に、情報を詰め込んでストーリーを一気に進めたいような時には、シンプルに背景だけのコマにしたりしますね。要は、読者に与える負荷を調整することで、読み取ってほしい情報とそうでないものにメリハリをつけている感じです。
――でも背景って、読者への負荷は少ない一方、作画的にはむしろ負荷が重くなったりしませんか?
瀬尾先生:
確かに、一つ一つそれなりに労力はかかりますね。ただデジタルだと一回描いてしまえばコピーして何度も使えたりするので、最初の苦労さえ乗り越えれば、割と楽だったりします(笑)。他にも負担を減らす上で、写真を活用することが多いです。例えば『女神のカフェテラス』でも、連載前に舞台となった三浦海岸に取材旅行に赴いたのですが、そこで撮影した資料写真は今でも非常に役立っています。
▲【2コマ目】感情を強調するために、背景を抜いている【4コマ目】まとめて情報を出すために、背景だけのシンプルなコマにしている
●極意その参
好きな漫画は何百回も読み込んで、面白さを分析する
新人漫画家からの質問③
読みやすいコマ割りや吹き出し配置のコツは?
――『女神のカフェテラス』は登場キャラクターが多い中でも、非常に読みやすく感じるのですが、ページを構成する上で意識されている点はあるのでしょうか?
瀬尾先生:
基本に忠実にやるのが一番だと思います。無駄に凝ったコマ割りをせず、フキダシは右上から左下に流れるように、といった具合に。最近はスマホの小さい画面で漫画を読まれる方も増えたので、なるべくフキダシを大きくして、セリフは短く、分かりやすく、ということも意識していますね。僕の場合ですが、セリフが3行以上になりそうな時は大体フキダシを分けています。あとはキャラの口調ですかね。例えば『女神のカフェテラス』だと、主人公の隼を「はやっち」と呼ぶのは秋水だけですし、「隼」って呼び捨てにするのは紅葉だけだったりします。
――フキダシの大きさやセリフをかなり意識されているんですね!
瀬尾先生:
そうですね。それこそ原稿を描く際は、いつも絵の構図よりも先にフキダシの配置から決めていたりします。これに関しては大分好みや手癖による部分も大きいかもしれませんが。
――こうした技術は、どのように習得されたのでしょうか?
瀬尾先生:
好きな漫画の「面白い」「読みやすい」と思ったシーンについて、その理由を因数分解して考える練習はしていましたね。自分なりに言語化して理解しておくというか。なので好きな漫画は、直感的な感想だけで片付けるのではなく、何百回も読んで分析するのがいいと思います。
▲セリフも差別化して分かりやすく!
●極意その肆
ネームを形にした先に、見えてくるものがある
新人漫画家からの質問④
ネームに詰まったらどうすればいい?
――これだけ多くのことを意識しながらのネーム作り、時には悩むこともあるのでしょうか?
瀬尾先生:
そうですね。ネームは結構詰まります。
――どういった部分で詰まることが多いですか?
瀬尾先生:
いつも見せ場から逆算してネームを作っているのですが、そこに至るまでの場面転換や繋ぎのアイディアが一番難しいです。あと、面白い小ネタを削るのが辛かったりしますね。絶対に本筋には繋がらないのに、どうにか入れ込みたくて、いつもギリギリまで粘っちゃいます。
――具体的にどれか一つ覚えていたりしますか?
瀬尾先生:
隼がいない回(#13)で、秋水が鼻メガネをして、桜花がドッと笑っているシーンとかですね。あれは無理やり入れたって感じです(笑)。
――ネームに詰まった時の解決法はあるのでしょうか?
瀬尾先生:
とりあえず仕上げることですかね。机に向かって悩み続けるより、多少粗くてもネームを仕上げてしまって、打ち合わせの中で叩き上げていった方が、結果的に良いものが出来るような気がします。全体像が見えてきたからこそ出てくるアイディアだったり、浮き彫りになる問題点だったりもありますし。一段階視野が広くなると思います。
▲秋水の鼻メガネのシーン。瀬尾先生「他のコマに混ぜ込みました」
●読者からの反応がとにかく楽しい
新人漫画家からの質問⑤
生まれ変わっても漫画家になりたい?
――ぜひとも正直なご意見を聞かせて下さい!
瀬尾先生:
漫画の文化のある国に生まれたいですね。外国人として生まれたとしても、漫画を描いて日本人に挑んでみたいです。……つまりは、なりたいってことです(笑)。漫画家は大変なことも多いですが、それ以上に、読者の方々から反応を貰えるのがとにかく楽しいです。それが心の栄養になるというか。だから疲れた時とか、ついつい読者の感想を見たりしちゃいます。海外だとその反応も全然違うだろうし、外国人漫画家としてそれを楽しんでみるのも面白そうですよね。
――では、まだ読者のいない新人時代は?
瀬尾先生:
とにかく担当編集の反応をうかがっていましたね。ネームを読んでいる途中で吸っていたタバコを置いて、少し姿勢を正したりしたら「おっ、ついに本気になったぞ!」って嬉しくなったり。
――なるほど(笑)。とにかく反応がやりがいに繋がる、と。
瀬尾先生:
そうですね。毎週読者の反応も変わりますし、とても刺激的でやりがいのある仕事だと思います。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました!
瀬尾先生:
こちらこそ、ありがとうございました。
「漫画家への花道」
瀬尾公治先生 番外編!!
ここからは瀬尾先生にお答えいただいたものの、惜しくも本誌に収まりきらなかった内容をマガポケベースで大公開! 新人時代の練習法や、プロ作家としての日々の過ごし方について、ここだけの情報が盛りだくさんです!!
●新人時代の練習法について
新人漫画家からの質問 番外編①
連載前の新人時代にやっておいてよかったことは?
――プロになった今、振り返ってみていかがでしょうか?
瀬尾先生:
コマ送りでキャラの表情を描く練習です。新人時代に担当編集者の方に言われてやり始めたのですが、これは勉強になりました。
――具体的にはどういったものなのでしょうか?
瀬尾先生:
例えば「振られた女の子が、笑顔で別れようとするのに、こらえきれずに泣いてしまった」みたいなシチュエーションを自分の中で想定して、その子の表情が笑顔から泣き顔に変化するまでを小刻みに描く、といったものです。描ける表情にバリエーションが生まれて、表現の幅が一段広くなったように思います。
――逆にやっておけばよかったと思うことはありますか?
瀬尾先生:
もっとデッサンの勉強をしておけばよかったな、とは思いますかね。描き続けていれば絵自体は上達するのですが、骨格や筋肉を理解しているのといないのとでは、描くスピードが全然変わってきます。僕は新人時代にあまりデッサンに取り組めなかったので、今でもアクションシーンとかは難しく感じますね。『女神のカフェテラス』で秋水がキックをかますシーンとかも、結構時間がかかりました。
▲秋水がキックをかまして、絡んできたチンピラを撃退するシーン
新人漫画家からの質問 番外編②
連載に向けてネームや演出を考える時間と、絵の練習をする時間の比率は?
――ラブコメは企画も絵も、どちらも重要となるジャンルだと思うのですが、新人時代、どのくらいの比率で取り組まれていたのでしょうか?
瀬尾先生:
僕の場合は担当編集者の方からとにかくネームを急かされていたので、正直なところ、絵の練習をする余裕はほとんどなかったです(笑)。
――では初めから絵は上手だったのですか…?
瀬尾先生:
そんなことはないですよ。清書原稿をひたすら描き続ける中で上達していきました。普段絵の練習ができていない分、原稿を清書する時はなるべく考えながら、じっくりと丁寧に描くようには心掛けていました。
●プロ作家の日々の過ごし方
新人漫画家からの質問 番外編③
1週間のタイムスケジュールは?
――1話分の原稿が出来上がるまでのスケジュールをお伺いしたいです!
瀬尾先生:
大体ネームが3時間から1日、下書き3.5日、作画2.5日といった流れです。休日については、作画がスムーズに進めば作れるかもしれない、といった感じになります。
――やはり週刊連載は大変ですね…!
瀬尾先生:
それももちろんありますが、僕が家でついダラダラしちゃって、作業に取り掛かるのが遅いことも影響しているような気がします(笑)。
新人漫画家からの質問 番外編④
インプットの時間は意識的にとっているのか?
――週刊連載で時間も限られている中かとは思いますが、意識的にインプットの時間をとられていたりするのでしょうか?
瀬尾先生:
ゼロからだと良いアイディアも生まれてこないので、極力とるようにはしています。近頃はご時世柄あまり出来ていませんが、頑張って飲みに行ったりはしていましたね。バーに来られている自分が知らない世界の人たちの話を聞くのが、とても刺激になっていました。
――未知の世界にこそアイディアの種が眠っている、と。
瀬尾先生:
そうですね。実際、バーでの雑談が作品の中で活かされたことも結構あったりします。新人作家の方だと飲みに行けない場合も多いかと思いますが、バーに限らず、草野球とか食事の誘いとかでも、とにかく「誘われたらどんな面倒なことでも断らない」というスタンスで、新しい環境やコミュニティに飛び込んでいくといいのではないでしょうか。
――瀬尾先生、改めて、お忙しい中ありがとうございました!!
『女神のカフェテラス』は週刊少年マガジンで大好評連載中!
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第107回新人漫画賞
特別審査委員長は、瀬尾公治先生!!!!
締め切りは2021年9月30日当日消印有効
ぜひ周りの人にも教えてあげてください!