新人漫画家さん必見!! 今回は、第111回新人漫画賞応募開始記念特別企画として、漫画家先生へのインタビュー「漫画家への花道」を大公開! 『アルスラーン戦記』の荒川弘先生が新人漫画家の悩みを解決しちゃいます!
あなたのネームがさらに良くなる!!
『アルスラーン戦記』の荒川弘先生に聞く!
読者を物語の虜にするネームの極意!!
「別マガ」にて『アルスラーン戦記』を大好評連載中の荒川弘先生に電撃取材! 打ち合わせ前の忙しい合間を縫って、新人漫画家達が抱くネーム制作の疑問を荒川先生にお聞きしました!
荒川弘先生Profile
北海道生まれ。2001年、デビュー作の『鋼の錬金術師』(スクウェア・エニックス)が大ヒット。現在、別冊少年マガジンにて『アルスラーン戦記』(原作・田中芳樹、光文社・カッパノベルス刊)を、Wingsにて『百姓貴族』(新書館)を、月刊少年ガンガンにて『黄泉のツガイ』(スクウェア・エニックス)を連載中。牛が好き。
──本日はよろしくお願いします! 新人作家さんから寄せられた質問をベースに、ネームの作り方の極意についてお聞きできればと思います!
よろしくお願いします!
●極意その一
ネームは2回描く!!
新人漫画家からの質問①
──荒川先生は普段どのようにネームを作られているのでしょうか?
最初のステップではアニメで使うような絵コンテを使います。原作小説を読んで頭の中で映像が浮かんだところから絵コンテに描き写します。この段階でカメラワークを決めて、最終的にその間をつないでいきます。その次は皆さんがイメージするような、キャラクターとセリフが入ったネームを作っていきます。絵コンテを含めるとネームが2回あるようなものですね。
──めちゃくちゃ大変ですね……。なぜ2回もネームを作られるのでしょうか?
絵コンテを使った工程を挟むことで、よりわかりやすい伝え方がないか、省略できる箇所がないかなどを考える機会が増えるからです。読者の皆さんにとって読みやすい作品にすることを心掛けています。
●極意その二
必要な情報を取捨選択すべし!!
新人漫画家からの質問②
──『アルスラーン戦記』のネームで情報が詰め込みすぎにならないように意識されていることはありますか?
情報を取捨選択することですね。ただ、原作小説のどこを拾うか、どこを削るかについては私自身も毎回悩んでいます。
情報を吟味をする際は、本作の主人公であるアルスラーンのエピソードは拾うように心がけています。やはり主人公を見せることは大切なので。逆に説明パートはかなり削っています。
これとは別に、そのお話で見せたい部分を大きくするため、ネーム内に山場を作ることも大切にしています。担当編集との打ち合わせで、このエピソードまで入ったら盛り上がるよねとか、ここで引くと格好良いよねとか話しています。やはり読者の皆さんに毎月読んでもらいたいので。
──ちなみに、原作が小説だからこその難しさはあるのでしょうか?
田中芳樹先生の原作小説には、さり気ない一文の中にも恐ろしく重要な情報が入っていることがよくあるんですよ。なので見逃せない。あと、えげつないことがサラッと書かれていることがあるので入れるべきか、入れないべきか悩みます(笑)。
●極意その三
場転ではシーンを繫ぐ要素を取り入れるべし!!
新人漫画家からの質問③
──『アルスラーン戦記』では敵・味方の視点が頻繁に変わりますが、場面転換を自然にするため、どのようなことを意識されているのでしょうか。
まさに現在連載中(2023年3月時点)のエピソードはそれぞれの陣営が入り乱れていますね。場転では読者の意識が途切れてしまうので、共通の絵やセリフをあえて入れることでシーンを繫ぐ……言い換えればバトンを渡すことを意識しています。
分かりやすい例は18巻収録の百八章、キシュワードからギスカールに視点が変わるシーンがあたるかな。ここではそれぞれの陣営で違う意味合いを持つ「欠けた」という単語を使うことで場面転換につながりを持たせています。
また、真逆の状況をあえて入れることで読者の目を引いて、意識を途切れさせないという手法もあります。
10巻収録の六十一章でルシタニアに追われたマルヤムの騎士からクバードに視点が変わるシーンがそれにあたります。マルヤムの騎士が「武勇の誉れ高いアンドラゴラス王の国だ 正義と愛国心に溢れるものがきっとおる!!」と言った次のコマで、あくびをしたクバードが出てくる。セリフと正反対のキャラクターが登場することで読者の目を引いています。
▲自身の剣が「欠けた」キシュワードと、自軍の兵が「欠けた」ギスカールの感情が対照的なシーン。場転の流れがスムーズだ。
──すごく高度なことをサラッとされていますね……!! こういったテクニックはどのように勉強すれば良いのでしょうか?
特定の作品は思いつかないですが、映画、ドラマ、漫画でもこういったテクニックを使っている方は沢山います。なので、あえて言うとしたら、どこからでもテクニックを盗むことでしょうか。
あとは、他の漫画を読んでいて読み間違えたり、分かりづらいと感じたりする時は、なんでそうなったのか分析して考えると良いと思います。
●極意その四
白と黒を使い分けるべし!!
新人漫画家からの質問④
──ネームにメリハリがないと言われることが多いのですが、どうすればいいでしょうか?
見開きページの中で重要な部分を際立たせることかと思います。具体的には、目立たせたい箇所では大きいコマを使ったり、色調や背景の密度を他のコマと変えたりすることで読者がその部分に注目することができます。
5巻収録の三十四章でザンデがダリューンに攻撃されるシーンではコマ内にあえて白い部分を残し、他の部分との密度差を表現することで読者の視線を誘導しています。
▲ザンデがダリューンにふっ飛ばされているのが一目でわかる躍動感満載のシーンとなっている。
さらにコマの色調を使い分けてキャラクターの心情を表現することもできます。キャラクターがポジティブな時は白基調で、暗く不穏な雰囲気を出したい時は黒基調にすることが多いです。コマ割りも同じように、閉塞感を出したいシーンではタチキリ(断ち切り線まで描かれたコマのこと)を使わないようにしています。
これらのテクニックを応用したのが8巻収録の五十一章冒頭シーンです。ここはダリューンがバハードゥルに切られるシーンで黒枠に縦ゴマが続いています。アルスラーンにとってダリューンが倒れるのは衝撃的な出来事なので、その時はダリューンしか見えてない。アルスラーンの視野の狭さと心象風景を表現するために縦ゴマと黒い枠線を用いています。
▲アルスラーンの信頼も厚く、作中最強クラスの強さを誇るダリューンがピンチに!! 緊張感ある印象的な見開きページだ。
――こうしたシーンを作り上げるにあたって参考にされた作品などはありますか? また、コマの色調はネームの段階から既に決めているのでしょうか?
明確に参考にした作品はありませんが、メリハリをつけて印象的なシーンにしたいときは基本的なテクニックを大切にしています。
コマの色調についてはネームの段階で既に決めているところもありますが、原稿執筆時に決めることもあります。
あと、原稿に下書きする時は必ず見開きで確認して、読みやすさを確認しています。細部に神は宿ると言いますが、そういう地味な作業の積み重ねが大切だと思います。
●極意その五
良いネームを描くための資料は世の中に溢れている!!
新人漫画家からの質問⑤
──良いネームを描くために参考にすべきものはありますか?
(そのときに読める漫画を)なんでも読んでください(笑)。
本屋さんに行くと参考資料が溢れかえっています。宝の山ですよ。この世の中にある漫画をできる限り沢山読んでもらいたいです。
連載を始めるにあたっていろんな漫画の1巻目だけを集めて読む人もいると聞いたことがあります。
●極意その六
リアリティのある世界観はモブキャラクターの描写から!!
新人漫画家からの質問⑥
──ファンタジー世界を描く上で、リアリティを出すために意識されていることはありますか?
モブキャラクターの生活を丁寧に描写することは特に意識していることの一つです。モブ一人一人に家族がいるだろうなとか考えながら描いています。感情を入れると表情も出ますし、たまに馬にも感情が出ることがあったり(笑)。
あとは土地の地形に沿った気候とかも気にしています。港町・ギランが舞台になった時は、この方角に海があって、うしろが山でってことは……風はどの方向に流れるんだろう、とか考えていました。農家で天気を気にして生きてきた人間だからだと思いますが。
もちろんそういったリアリティよりもカッコ良さを優先するのはよくありますけどね。
▲馬を描くのが好きという荒川先生。馬の焦りの感情が伝わってくるようだ。
●極意その七
キャラクターの魅力を掛け合いで表現すべし!!
新人漫画家からの質問⑦
――荒川先生の作品では敵・味方関係なく好感を持てるキャラクターが多いです。『アルスラーン戦記』のキャラクターを描かれる際に意識されていることはありますか?
『アルスラーン戦記』は原作のキャラクターがとても魅力的ですよね。厳しい戦いの中でも愛嬌があるので、親近感が湧いて皆に好かれるのだと思います。
キャラクターの魅力的な部分は原作のどこかに必ずヒントとしてあるので、それを拾ってキャラクター同士の掛け合いを作っています。このキャラクターならこういう反応や合いの手を入れるだろうなというのを考えています。
●極意その八
長台詞は分割すべし!!
新人漫画家からの質問⑧
──キャラクターの台詞が長くて説明臭くなってしまうことが悩みです。読者に最適な情報を伝えるため意識されていることはありますか?
長台詞は分割し、砕いた文章にするのと同時に、間に他のキャラクターの疑問や合いの手を入れることを意識しています。
ナルサスが政治や戦略の話をする時はセリフが長くなってしまいますが、彼の周りにはアルフリードのように積極的に質問する子たちがいるので助かっています。
●極意その九
他にも聞きたい漫画の極意!!
新人漫画家からの質問⑨
──頭の中の「面白い」を表現する方法として、マンガならではの強みはなんだと思いますか?
読むスピードを読者の皆さんに委ねられるのがマンガの一番の強みだと思います。アニメや映画のような映像コンテンツと違ってマンガは読み手の自由なスピードで読める。スピードと言うか呼吸ですかね。どこから読んでもいいですし、手軽に読めるのが良い。それによって読者ひとりひとりの解釈も生まれると思います。
描き手の呼吸と読者の呼吸がばっちり合うと、面白さに拍車がかかります。
──最後に、荒川先生は生まれ変わっても漫画家になりたいですか?
転生したらまた漫画家だった場合? どの世界に、何年後に生まれ変わるかにもよりますが、楽しくていいじゃないですか。売れるかどうかは別としてインドアOKだし、漫画を描くのは性にあっています。
──打ち合わせ前のお忙しい中、長時間に渡りありがとうございました!
こちらこそありがとうございます。
『アルスラーン戦記』は「別マガ」で大好評連載中!
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第111回新人漫画賞
特別審査委員長は「別マガ」にて『トモダチゲーム』連載中の佐藤友生先生!!
締め切りは2023年9月30日必着! ご応募お待ちしております!!
ぜひ周りの人にも教えてあげてください!