ある日、週刊少年マガジンのI上編集からこんな相談を受けました。
(※I上さん登場記事)
I上「講談社の漫画ってコマの外に【★この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・出来事などとは一切関係ありません。】って小さく但し書きが入っていますよね」
※よく入っている但し書き(画像右)
I上「ぼくが今担当している『我間乱 -修羅-』って…………フィクションですか?」
???
『我間乱』作/中丸洋介 全22巻
『我間乱』シリーズとは?
江戸中期。武芸者が集う”海原藩”を舞台に繰り広げられるのは、次期藩主を定める為のトーナメント“海原大仕合”。最強の剣客の血を引く少年・黒鉄我間らが、数多の強者たちと死闘を繰り広げる”極限武闘活劇(アルティメットクロニクル)”。 2018年3月よりアプリ「マガポケ」で、2ndシーズン『我間乱 -修羅』が連載中。
『我間乱 -修羅-』既刊2巻/クリックで試し読みへ
I上「いえ、違うんです。変になったわけじゃないです。『我間乱』シリーズって、本格剣客漫画という信条で打ち合わせしているんです。『我間乱』で描かれている”江戸時代”に、”我間たち”が使っていた必殺技は、”真実”だと思っているので…。だから、実際に見てみたいんですよ。だから、ブログで記事にして欲しくてーー」
「彼らが使っていた”技”が現代でも再現可能なのかをーー」
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……ということで。
読者に鮮烈な印象を残す『我間乱』シリーズの必殺技。果たして現代でそのような必殺技は再現可能なのか? 剣道有段者に再現可能な技について意見をうかがいました!
検証にご協力いただいたのは剣道六段、剣道の「基本稽古に特化した映像解析サポート」をされている『剣道LABO』代表の三森定行さんです。
1976年生まれ。中学から剣道に熱中し、高校は全国屈指の強豪校へ進学。大学・社会人と様々な師範から指導を受ける。動画を活用した新しい稽古環境を社会人剣道家に提供するべく、2017年に「剣道LABO」を開業。東京を拠点に活動中。
5つの技をピックアップし、実際に見てもらうと…
漫画『我間乱』には数多くの技が登場しますが、今回は編集者I上さんが「この技が見たい!」という6つの技をピックアップ。まずは三森さんに、現代的な視点で、技についての感想を伺ってみました。
1.逆鱗(『我間乱』42話)
剣を振り下ろす瞬間、素早く握っている左右の手を入れ替えることで軌道を変化。相手は急な変化に対応できず、回避することができないという技。そもそも“握っている手を入れ替える”ということ自体が可能なのか、この点がネックになりそうですが…。
三森さん「振り下ろす瞬間に持ち手を入れ替える……この技はできたら面白そうです! 剣道ではほぼ行われない動作ですね…。刀(竹刀)を振り下ろすスピードというのは結構速いんです。その最中に持ち手を変えるのは難しいように思います…。また、たとえ上手く入れ替えたとしても、刃筋の向きが変わってしまい切れにくくなるかと」
その場で実際に手の入れ替えを行ってみてもらいましたが、確かに上手くいかない様子。入れ替えられたとしても振り下ろすスピードは遅く、これでは相手も簡単に避けられてしまいそうか…。”逆鱗”をいともたやすく放つ真ノ丞の技術、おそるべし…と言わざるを得ないでしょう。
2.虚蹴跳(『我間乱』18話)
次は剣というより跳躍に関する技。跳躍した際に後足で前足を蹴り、この衝撃によって加速するというものです。跳んでいる間に蹴ること自体は出来そうですが、果たしてこれが加速に繋がるのでしょうか。
三森さん「剣道ではジャンプすることはないので、この発送は新鮮です。実現できれば、一気に間合を詰められるので間違いなく勝利できるでしょう! 技を見たとき、まず思い浮かんだのが、剣道と薙刀の試合でした。実際に行われることがあるのですが、その試合は剣道側は、薙刀をジャンプして避けていました。ただ、後足で前足を蹴ることによる加速は…とんでもない筋力が必要そうで、再現はちょっと難しいかな…」
剣道と薙刀、まさに弁慶と牛若丸の戦いが思い浮かびますね! しかし、後足で前足を蹴ることはできても、これによって加速することは難しそうです。よく知られた”縮地”の進化技ですが、我間らの脚力は現代人の比ではなかったのはまちがいなさそうです。
3.紫電閃(『我間乱』14話、『我間乱-修羅-』第8話)
こちらも加速が特徴となる『紫電閃』。重力を利用して身体をギリギリまで落下させ、筋力を総動員して地面を蹴ることで加速。間合を一気に詰めつつ、その勢いで切り上げる技です。剣道で竹刀を“切り上げる”という動作はあまりイメージとして浮かびませんが、果たして……!
三森さん「これは…すごい体勢ですね…! 身体を地面すれすれくらいまで倒すのは、物理的に難しそうです。先に足が出てしまうと思います。剣道には切り上げるという動作がないのですが、これほど速く動くことができれば、”無敵”ではないかとおもいます」
おおっ! 無敵と太鼓判…! 再現しようとしましたが、漫画に描かれているレベルで身体を倒せば、そのままビターン! と地面に激突してしまいます…。我聞のように、常人離れした瞬発力・筋力が必要なようです。確かに、作品の中でも溜めが必要で、スキの多い技として描かれていました。しかし、現代の人間には再現は難しかった…!
4.鳴神(『我間乱』144話)
ここまで再現できる技は無し。やはり現代に再現可能な必殺技はないのか……しかし、諦めずに次の技へ! 『鳴神』は倒れ込みを利用した加速で間合いを詰め、その距離からの急激な方向転換&加速。これによって、相手の死角へと入り込んで斬るという技です。
三森さん「打った後すり抜ける際には、剣道でもかなりスピードが出ていると思います。でも、打つ前に急な加速や方向転換をしてしまうと、竹刀が定まりにくいですね……。結果的に、ちゃんと狙った場所を打つ(斬る)ことは難しいですね。」
剣道では打ち込む場所は面・胴・小手・突きの4ヶ所。こうした背景からも、真横などに回り込むといったことは、あまり考えられないようです。まさに“斬る”ことを前提とした、剣術ならではの技と言えるでしょう。また、実戦で使用するならば、刀の向きをブレさせないための握力が必要。伊織が、鬼気迫る修練の末に手に入れた力なのでしょう。
5.紅蓮旋(『我間乱』35話)
いよいよ、残り1つとなってしまいました。我聞たちの技は、現代で再現は不可能なのでしょうか……。
ラストの『紅蓮旋』は横方向の斬撃。剣を片手で持ち、もう一方の腕で剣を持っている腕を弾くことにより威力が増します。剣道で見ない片手持ちという時点で嫌な予感がしますが、果たして再現できるのでしょうか。
三森さん「竹刀を右手1本で持つということはほぼないので、振り抜くところが難しそうですね。でも、これは再現できますよ」
!!!
三森さん「やってみましょう」
遂に再現できそうな技が!
再現シーンを動画でご覧ください。
剣客漫画『我間乱』シリーズの剣技は再現できるか!? 剣道有段者に聞いてみた!(紅蓮旋 横から編)
剣客漫画『我間乱』シリーズの剣技は再現できるか!? 剣道有段者に聞いてみた!(紅蓮旋 前から編)
いかがでしょう?
打ち込んだ瞬間、道場には驚くほどの大きく「バシッ!」という音が鳴り響きました。もし真剣であれば、間違いなく相手は真っ二つ……。同席した担当I上氏も「すげえ音……」と絶句していました。「完全に善丸じゃん……」。
見事に『紅蓮旋』を再現してくださった三森さん。最後に、再現してみて難しかった点について伺いました。
三森さん「左手で右手を弾くような、こういう動きは剣道にありません。ちゃんと動きを意識していないと、どうしても右手だけで振ってしまいますね。上手くいけば確かに勢いが増す一方で、力の入れ加減も難しかったです。でも、これは真剣であれば十分に人が切れるだけの技だと思いますよ」
必殺技としての太鼓判です!
再現実験の結果、『我間乱』シリーズの必殺技は実現可能であった、ということがわかりました。担当I上氏も安心(?)したのではないでしょうか。
三森さん、ご協力、ありがとうございました!
そして、かつて存在した、驚異の肉体を持ち、戦いのための技を身につけた剣客たちの生き様を描く、『我間乱-修羅-』を、引き続きお楽しみください…!
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