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『Fate/Grand Order-turas réalta-』森瀬繚氏による特別コラム「アルスターサイクルとフィニアンサイクル」を大公開!!

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『Fate/Grand Order-turas réalta-』単行本第11巻絶賛発売中! 今回は11巻の発売を記念した特別企画、ライター・森瀬繚氏執筆の特別コラム「アルスターサイクルとフィニアンサイクル」を大公開します!

 

 

単行本第11巻発売記念特別企画!!
読むともっと「第五特異点・アメリカ」のことがよく分かる!!

森瀬繚氏による特別コラム!!
「アルスターサイクルとフィニアンサイクル」

藤丸、マシュらが闘う、クー・フーリン、メイヴたち
そして「ケルト人」「ケルト神話」の歴史的背景を探ろう!

 

Profile:森瀬繚
フリーで活動するライター、脚本家、翻訳家。
歴史/神話/伝承/オカルトについて、多数訳書・著書を執筆している。
過去訳書に『新訳クトゥルー神話コレクション』(星海社)など。
『Fate/Grand Order-turas réalta-』単行本にも過去、コラムを寄稿している。

 

●ケルト人の出自

 ケルト人というのは、ヨーロッパの青銅器時代の後期、紀元前1500年頃からヨーロッパ亜大陸の中央部――アルプス山脈の北西部に居住し、ハルシュタット文化を栄えさせた民族だと考えられている。彼らは輝く金髪と明るい瞳、白い肌、そして背の高い強靭な肉体を有し、紀元前8世紀頃には鉄製の武器を使用して、馬具を用いた騎馬での戦闘を行っていた。紀元前500年頃になると、ギリシャ人やローマ人、スキタイ人など周辺民族の影響を受けたラ・テーヌ文化が花開いた。戦士階級や知識階級などの身分階層や、戦争と宴会を好む傾向は、この時期に生じたようである。そして、ケルト人はヨーロッパ亜大陸の四方へと大移動を開始し、紀元前400年頃にはアイルランドとブリテン島を含む広大な地域に居住するに至る。
 彼らは言語と文化をある程度共有する民族だったが、ひとつの国家にまとまっていたわけではなく、自分たちを呼び表す言葉も持たなかった。しかし、紀元前5世紀頃のギリシャの著述家であるミレトスのヘカタイオスは彼らを「ケルトイ」、『歴史』を著した歴史家ヘロドトスは「ケルト」と呼んだのである。
 アイルランドとブリテン島のケルト人は今日、分子遺伝子学の研究成果を受けて、ガリア(現在のフランスとその近辺)から移住してきたという従来説とは異なり、南方のイベリア半島から渡ってきた可能性が高いと考えられている。なお、アイルランド人は、自身の島を“エリン”と呼んだ。これは“西の島”を意味するとも、戦いと豊穣の女神エリウに由来するとも言われている。

 

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▲戦乱時代のアイルランド地図4王国の分布

 

●アイルランドの神話と伝説

 紀元前3世紀の後半になると、南下を始めたゲルマン人やローマの拡大に押されて、ヨーロッパ全域に広まっていたケルト人社会は徐々に衰退を始めた。前50年代には、ガイウス・ユリウス・カエサルがガリアを征服。その後、ブリテン島に侵攻したローマは、西暦84年には島の大部分を属領化した。かくしてケルト人独自の社会は、スコットランドとウェールズの一部、アイルランドにおいて、わずかに命脈を保つこととなる。
 古代のアイルランド人は文字で記録する習慣を持たず、自身の神話や伝説を書き残さなかった。“ケルティック・ルーン”と呼ばれることもあるオガム文字は、ローマ帝国ないしはキリスト教の修道士が伝えたラテン文字の影響下で、4世紀頃に作られたと考えられている。しかし、4世紀頃からアイルランドで布教をはじめた修道僧らが、職業的な詩人のみならず農民たちが口承で伝えてきた神話や伝説を収集・研究し、これらの物語を書き残した。彼らは、他の地域に比べると土着の神話や伝説に寛容で、むしろ積極的にキリスト教の教えや世界観に取り込む形で布教を進めたのだ。『侵略の書』『マグ・トゥレドの戦い』など、アイルランド・ケルト神話の主要な“原典”は彼らの蓄積した記録をもとに、12世紀以降に編纂されたものである。しかし、いかに寛容だったとはいえ、キリスト教の影響がそれらの“原典”に入り込むのは不可避だった。例えばダーナ神族の興亡を物語る『侵略の書』は、キリスト教の神による天地創造や堕天使ルシフェルの反乱の物語で幕を開けるのである。

 

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▲アルスターサイクルで主要人物として語られるクー・フーリン。

 

●アルスターの戦士たち

 アイルランド神話にまつわるテキストは、神話物語群(しんわサイクル)、アルスター物語群(サイクル)、フィアナ物語群(フィニアン・サイクル)と呼ばれる三種類の物語群(サイクル)に概ね分類される。このうち、アイルランド島北東部のアルスターを中心的な舞台に、イエス・キリストと同時代を生きたとされる伝説的なアルスター王、コンホヴァルの治世を描いたのがアルスター物語群で、英雄クー・フーリンの活躍やアルスターの隣国コナハト(コノート)の女王メイヴとの確執の物語が含まれる。

 

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▲アルスターサイクルには、かつてクー・フーリンの師匠だったスカサハの物語も含まれる。

 

 数多くの物語から成っており、クー・フーリン一人の事績についても、誕生が描かれる『クー・フーリンの誕生』、女戦士スカサハのもとでの修行や妻を娶る経緯が描かれる『エウェルへの求婚』、この時に女戦士アイフェとの間に設けた息子コンラを自らの手で殺害する『アイフェの一人息子の最後』、そしてメイヴが雄牛ドン・クアルンゲを強奪しようとしたことに端を発する戦争を描く『クアルンゲ(英語圏では“クーリー”)の牛捕り』など、複数の物語に分散している。これらの物語の大多数は日本語訳されていないので、より原典に近い物語を知りたい向きには手が届きにくいかもしれない。
 ただし、『クアルンゲの牛捕り』については、11~12世紀頃の『赤牛の書』、14世紀の『レカンの黄本』にそれぞれ含まれる第一稿本をベースに、12世紀の『レンスターの書』に含まれる第二稿本の内容も盛り込んだ、アイルランドの詩人キアラン・カーソンによる再話『トーイン』(東京創元社)で、原典に近い物語を読むことができる。

 

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▲フィニアンサイクルでは、フィン・マックール率いるフィアナ騎士団の活躍が語られている。

 

●上王の時代

 フィアナ物語群は、アルスター物語群の数百年後、アイルランド島東部のレンスターと南部のマンスターを中心的な舞台とする、詩が中心の物語群だ。アイルランドの上王コーマック・マク・アートに仕えたという、フィン・マックール(フィン・マク・クウィル)率いるフィアナ騎士団の活躍を描くもので、クー・フーリン同様、フィンを含む英雄たちがアイルランドの神々との血縁者と設定されているので、アイルランド神話に含まれている。時代的には3世紀頃だと考えられているが、それぞれの物語によって100年単位のばらつきが生じるようだ。
 こちらも数多くの物語から成っているが、特に重要なのは12世紀に遡る『古老たちの語らい』(15世紀と17世紀の写本が現存)で、フィアナ騎士団の生き残りであるオシーン(フィンの息子)、カイルテ・マク・ローナーン、そしてアイルランドにキリスト教を広めた聖パトリック(史実の彼の活動期間は主に5世紀)の会話を通して騎士団の興亡が語られている。
 なお、フィアナ騎士団の一員であるディルムッド・オディナの物語は、『ディアルミド(ディルムッド)とグラーニャの追跡』と題する散文物語が原典である。現存するテキストは17世紀のものだが、12世紀の『レンスターの書』において言及されるので、少なくともそれ以前の時代に遡るようだ。
 外敵と戦う戦士たちの冒険物語と、妖精や異界にまつわる超自然的な物語が影響しあうフィアナ物語群の構成は、ブリテンのアーサー王物語にも影響を与えたと考えられている。

 

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▲フィアナ騎士団の一員で、フィンの下で戦ったディルムッド・オディナ。

 

『Fate/Grand Order-turas réalta-』
単行本第11巻絶賛発売中!

スカサハ&クー・フーリンの表紙が目印!

kc.kodansha.co.jp

 

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