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【ショウ年マンガ】音楽家ヤマモトショウの自由研究 第3回「音楽マンガ今昔物語ー紙から音って出なくない?ー」

今回は、「別マガ」11月号に掲載された【ショウ年マンガ】音楽家ヤマモトショウの自由研究 第3回「音楽マンガ今昔物語ー紙から音って出なくない?ー」を大公開!

 

別マガ異色のエッセイ連載、第3回―!
ショウ年マンガ

音楽家ヤマモトショウの自由研究
第3回「音楽マンガ今昔物語ー紙から音って出なくない?ー」

妥協してちゃ、それなりのもんしか手に入んねーぜ

 マンガと音楽の両方が大好きな自分にとっては、やはり「音楽マンガ」というのは人生から切り離せないものです。

 僕がバンドを始めた頃、一番ハマったマンガは『BECK』(ハロルド作石先生)です。音楽業界で仕事をしていると音楽マンガの話になることは多いですが、体感としてはダントツでこのマンガの話題が多い気がします。バンド好きなら絶対わかる音楽的なネタもそうですが、出てくるライブハウスやレコード会社等も「確実にここだな」とイメージできるようなリアリティがあり、面白い。それでいて、少年マンガらしい非現実感と突飛な展開も最高です。ハロルド作石先生の音楽愛(特にロックミュージックへの愛)が随所に垣間見えるのも、コアな音楽ファンに刺さっている理由なのではないかなと想像しています。

 ところで、音楽マンガというのは、ある種絶対的なジレンマを抱えていると思います。それは「物語の主軸である音が聴こえない」という点です。マンガを読んでいるだけではそのシーンで流れている曲がわからない、というのはどうしようもないことですよね。

 『BECK』でも劇中にしか出てこないオリジナル曲が存在するので、これがどんな曲なのかわからないというのは、読んでいる人がどうしても抱えてしまうジレンマではないでしょうか。その問題に対して『BECK』では、楽曲をつくる主人公たちの成長や精神的葛藤、あるいはバンドや恋愛における人間関係の変遷といったストーリーと、新たに生まれる楽曲がリンクして実質的にその楽曲が表現されることで、この課題をクリアしていると思いました。ここが面白いし、素晴らしい発明なのかなと感じています。とはいっても、やっぱりどんな曲なのかは気になるもので、僕も「Devil's Way」ってこんな曲では? と何度か作曲してみたこともあります。最新の連載『THE BAND』も今後の展開が楽しみで仕方ないです。

 

令和の黒船!? 『ふつうの軽音部』!

 さて、最近話題な音楽マンガといえば『ふつうの軽音部』(クワハリ先生・出内テツオ先生)ではないでしょうか。これはタイトルの通りで、超人的なキャラクターや売れっ子ミュージシャンを描いた作品ではなく、普通の高校生が主役となっています。

 僕も軽音部出身なので(高校ではなく大学ですが)、この作品に出てくる「軽音部あるある」はわかりすぎてしまって、あまりの解像度の高さにびっくりしました。そこも間違いなくこの作品の魅力なのですが、前述の「音楽マンガのジレンマ」に関しても、『BECK』とは違う角度からクリアできているのではと思っています。

 というのも、舞台が「普通の軽音部」ですので、基本的に主人公や登場人物たちが演奏するのは「コピー曲」なんですね。だから、少なくともその曲が「どんな曲なのかわからない」ということはないわけです。今の時代は作中に出てきた曲をスマホからすぐにサブスクで聴くこともできるので、曲を流しながら作品を読んでいる人も結構多いんじゃないでしょうか。「普通の軽音部を描く」ことで「既存の曲を使う」というアイデアは、誰もが楽しめる音楽漫画であるために、効果的な手法なのだと気づくことができました。後述しますが、自分が面白いと感じる音楽漫画は、実在する曲が作中に出てくることが多かったです。 コピーなので、主人公たちがオリジナルの曲に比べて「うまく演奏できているか」はあまり問題になりません(そもそも現代的な楽曲の多くはスリーリズムのバンドセットだけでは再現できないことも多いので、コピーバンドを原曲の再現として捉えるのはナンセンスなわけです)。それよりも、「なんでその曲を選んだのか」とかそういったところに面白さが現れます。例えば、普通だったらELLEGARDENとNUMBER GIRLの曲を一つのバンドが一つのライブでやるということはないわけですが、軽音部のバンドならぜんぜんありなんですよね。主人公がNUMBER GIRLの「IGGY POP FAN CLUB」という曲を演奏するシーンがありますが、歌詞の内容だけではなく、この楽曲のとある特徴が最終的に演奏とストーリーの肝になっていたりするのが、最高だなと思いました。もし今後「オリジナル曲をつくる」というような話の展開になった場合、果たしてどうやって表現するのかめちゃくちゃ楽しみです。もちろん、あえてそれはやらないというパターンもありえると思います。

 

色々あるぞ、音楽×マンガ!

 演奏以外にも音楽を表現するマンガはあります。『ワンダンス』(珈琲先生)はダンスをテーマにしたマンガですが、こちらも「音楽が聴こえてくる」タイプのマンガだと思います。ダンスバトルを主軸におくことによって、自然に既存曲を使用することが可能になっています。これが「オリジナル曲で、オリジナルのダンスを踊る」という話だったら流石にちょっとイメージがしづらいと思うんですが、劇中に出てくる楽曲を聴きながらマンガを読むことができるので「ここの音ハメはこういうことかな…」と想像しながら読めるのも楽しいです。それでいて、あくまで「音」に拘っているところが『ワンダンス』のすごいところかなと思います。音楽マンガはどうしても「歌詞」に引っ張られて物語が進むことが多いですよね(誌面で見た時に最もわかりやすい情報ですし)。既存の音楽マンガではあまり見られなかった挑戦をしているように感じましたし、新しくて面白いマンガだと思います。

 「既存曲で説明する」という話でいうと『SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん』(長田悠幸先生・町田一八先生)も面白い作品です。天才ギタリスト、ジミ・ヘンドリクスの亡霊に取り憑かれた主人公の物語ですが、もうこれはジミヘンの曲を聴いてしまえばよいわけです。音楽の世界には「27クラブ」というちょっと恐ろしい都市伝説があるのですが、それを題材にしているのも音楽好きからするとポイント高いです。逆に『僕はビートルズ』(かわぐちかいじ先生)は、現代のビートルズの完璧なコピーバンドが、過去にタイムスリップしてビートルズより先にビートルズの楽曲を発表してしまう…というところから展開するストーリーです。こちらもビートルズという誰もが知る楽曲を聴きながら読むことができる楽しさがあります。それにしても、ジミヘンもビートルズも「現代」「過去」両方が描かれる中で、その楽曲そのものにはまったく古さを感じないというか、今でも発見があって創作の源泉になってしまうというのは、本当にすごいことだなと思いました。

 音楽×マンガの表現方法は、今後も興味が尽きないテーマです。

 

10月の担当編集
宣伝すみません! 超熱血音楽マンガ『鳴るさんだぁ』
10月18日(土)からマガポケで連載開始です!!

 

次回 「原作者が書く歌詞論」 につづく!

 

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