名作・駄作・カルト作。アクション・SF・ラブコメディ。映画はいろいろあるけれど、まだ観てない映画をもう１本。今回の推薦者は新連載『弁護人ゆらぎの衝動』の岡野める先生と、同じく新連載『アカデミックハイプ』の西塔しゅんけ先生！ クライム・コメディ、実際の事件を基にしたオタク監督映画、アニメーション、そしてミュージカルと、今月もいろんな作品が登場します！ 編集部オススメの作品も面白いのでチェックしてみてね！
●TITLE『スナッチ』
ダイヤを巡っておかしな野郎たちが大暴れ！
今回最初の推薦者は、ハイスクール・リーガルコメディ『弁護人ゆらぎの衝動』で巻頭カラーを飾った岡野める先生だ！ 推薦作１本目は『スナッチ』。クライム・コメディである。
ベルギー、アントワープ。聖書に関するばちあたりな会話をしながら、ユダヤ人ラビ（ユダヤ教の宗教的指導者）たちがビルに入っていく。すると一転、彼らは強盗団に変身！ 狙いは86カラットのダイヤ（とにかくデカイ）だ！
ここで場面は一気にキャラ紹介に突入する。クールな出だしで、かっこいい！ 映画はこの盗まれたダイヤを巡る男たちの大騒動である。
ダイヤを盗んだ強盗団のリーダー、フランキー（ベニチオ・デル・トロ）は、依頼主であるニューヨークマフィアのボス、アビーへダイヤを届けるはずだったが、ギャンブル中毒のフランキーは、途中のロンドンで裏ボクシングに賭けようと、ダイヤの入ったアタッシュケースを持ったままノミ屋に出かけてしまう。
この裏ボクシングに絡んでいるのが、プロモーターのターキッシュ（ジェイソン・ステイサム）と元締めのブリックトップだ。ブリックトップに八百長試合を命じられたターキッシュは、仕方なく子飼いのボクサーにその役を任せるが、彼はパイキーと呼ばれる放浪集団の若者ミッキー（ブラッド・ピット）にのされて使いものにならなくなってしまう。
一方、ノミ屋に向かったフランキーは、ダイヤを狙うロシア人ボリス・“ザ・ブレイド”に依頼された３人組の強盗に襲われる。ところが、そのノミ屋を経営していたのがブリックトップだったため話はややこしいことに!? とここまでの話で訳が分からなくなった読者も多いと思うが、心配はいらない。この作品の面白さはクールな映像スタイルと、ユニークなキャラたちなので、それを楽しめればＯＫだ。
ざっとキャラを見てみると……裏ボクシングの元締めブリックトップは、逆らう者を感電させ、死体をポリ袋に詰めブタに食べさせるという非情な男。ボリス・ザ・ブレイド、別名“弾丸をくぐる男”は殺すのが不可能らしい。そしてパイキーのミッキー。英語を喋っているのだが訛りがひどすぎて何を言っているのかわからない……。
イギリス人、ロシア人、アメリカ人、ドイツ人（話に出てくるだけだが）、ユダヤ人（ユダヤ人もどき）、そしてパイキーの三つ巴ならぬ、五つ、六つ巴で、おバカな野郎たちが大暴れ！ “な訳あるかい!!”とツッコミ満載の展開に爆笑だ！ 監督はガイ・リッチー。２本目の監督作ながら、彼の才能を認めたブラッド・ピットが製作費を安くするため格安のギャラで出演を承諾。その甲斐はあったようだ。
▼編集部オススメ、もう１本！
『シャーロック・ホームズ』
ガイ・リッチー作品をもう１本。ホームズを演じるのはロバート・ダウニー・ジュニア。
『スナッチ』
発売中 デジタル配信中
ブルーレイ：2619円（税込）
DVD：1551円（税込）
発売・販売元：ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
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●TITLE『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
タランティーノ監督のハリウッド愛炸裂作品！
岡野める先生、推薦作２本目は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。映画オタク（!?）のクエンティン・タランティーノ監督が1969年のハリウッドで起きたカルト集団による殺人事件にインスパイアされた作品である。当時の映画界を描いた作品でもあり、実在の人物も多数登場する。
映画の都ハリウッド。1969年のハリウッドはどんなところだったかというと……愛と平和をモットーに、自由を求めるヒッピーと呼ばれる若者たちが現れ、大スターが君臨するハリウッドにも変化が訪れている時代……。
西部劇TVドラマ『賞金稼ぎの掟』のスター俳優リック・ダルトン（レオナルド・ディカプリオ）は、今や落ち目。シーズン終了も決まり、プロデューサー（アル・パチーノ）からはイタリアの西部劇映画への出演を勧められているが、プライドの高い彼はなかなかそのオファーを受け入れられない（ちなみにイタリアの西部劇を日本ではマカロニウエスタンと呼ぶがアメリカではスパゲッティウエスタンと呼ぶのだ）。
リック・ダルトンの専属スタントマン、クリフ・ブース（ブラッド・ピット）はリックの人気低迷を受け、スタントの仕事も減り、今ではリックの運転手兼雑用係である。とはいうものの、長らく仕事を一緒にしている彼らは親友のような関係だ。
そんな時に、リックの家の隣に越してきた夫婦がいる。ロマン・ポランスキー監督とその妻、女優のシャロン・テート（マーゴット・ロビー）である。
当時のポランスキー監督はヨーロッパからアメリカへ拠点を移し、監督作『ローズマリーの赤ちゃん』が大ヒットしたばかり。ハリウッドの寵児ともてはやされていた（この映画は悪魔崇拝者によって悪魔の子を身籠らされた女性の恐怖を描いたホラーで、かなり面白いので機会があったらぜひご覧いただきたい）。妻である女優のシャロン・テートとは結婚したばかり。
映画はリックとクリフの物語を描きながら、当時のハリウッドも描いていく。撮影スタジオではブルース・リーとクリフが一戦を交え、スティーブ・マックイーンらも登場する。
そして物語はハリウッドで最も大きなスキャンダルの１つ、シャロン・テート殺人事件に向かっていく!!
この事件はチャールズ・マンソン率いるカルト教団“マンソン・ファミリー”のメンバー３人が、当時妊娠８か月だった女優シャロン・テートと、たまたま家に居合わせた友人たちを惨殺した事件である。
リックとクリフ、そしてシャロン・テートの運命は？ この作品はタランティーノ監督のハリウッドへの愛がこもったおとぎ話である。なので物語の結末は……。それは観てのお楽しみということで。
▼編集部オススメ、もう１本！
『キル・ビル Vol.1』
こちらは日本愛炸裂のタランティーノ作品。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
発売中 デジタル配信中
ブルーレイ＆DVDセット
【通常版】：5217円（税込）
発売・販売元：ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
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●TITLE『かぐや姫の物語』
なぜかぐや姫は月からやってきたのか？
今回２人目の推薦者は、今月号のセンターカラー、令和のネオ不良漫画新連載『アカデミックハイプ』の西塔しゅんけ先生だ！ 推薦作１本目は『かぐや姫の物語』。
ジブリ作品では異色の、４コマ漫画が原作の『ホーホケキョ となりの山田くん』（1999年）から14年ぶり。50億円という破格の製作費と８年の歳月をかけた高畑勲監督作である。
日本人なら誰でも知っている“かぐや姫”。昔々、竹取の翁は光り輝く竹の中から小さなお姫様を見つけました。家に連れて帰り、その姫をかぐや姫と名付け、育てることにしました。かぐや姫は美しく育ち、その噂は世に広まり、５人の貴公子が姫に求婚しましたが、かぐや姫は無理難題を言って断りました。ついには帝までがかぐや姫に求婚しましたが、かぐや姫は月に帰ってしまいました……というのがあらましで、あれ？ 最初からお姫様だったっけ？ 竹の中から出てきたのは赤ちゃんじゃなかったっけ。いやそれは桃太郎か……とおバカな疑問は別として、そもそも彼女はなぜ月から地上にやってきたのか？ どうして帰らないといけなかったのか？ 実は謎な物語である。この難問に答えを提示したのが、高畑監督の『かぐや姫の物語』だ。
月の世界は完璧な世界である。それに対して地上は不完全この上ない。だがここでの生活は……木地師の子供たちと野山を駆け回る幼いかぐや姫、屋敷に閉じ込められ、自分のことを物か何かのように品定めしようとする男たちへの怒りが爆発し、修羅の如く駆け出すかぐや姫、満開の桜の下で幸せそうに舞うかぐや姫、そして心を寄せる捨丸と再会し、彼と月まで飛んでゆくかぐや姫……物語が進むにつれ、１人の女性であるかぐや姫の笑い、怒り、喜びが観客に伝わり、なぜ彼女が月からやってきて、月へ帰らなければならないのかを理解するのだ。
この作品が特別なのはその内容もそうだが、まるで水墨画のような柔らかい映像だからだ。セル画のアニメとは全く違う。絵画における印象派の作品をアニメーションで作ったらこうなると言われたのが前作『ホーホケキョ となりの山田くん』であったが、これをさらに進化させたのがこの作品だ。MoMA（ニューヨーク近代美術館）がパーマネントコレクションに加えたいと言ってきたのも頷ける。
ところでこの作品の公開時期は、当初宮崎駿監督の『風立ちぬ』と同日公開と発表されたが、これは締め切りを守らない高畑監督にプレッシャーをかけ映画を完成させるための作戦だったそうだ。結局『風立ちぬ』は2013年７月、『かぐや姫の物語』は同年11月に公開されたのだった。
▼編集部オススメ、もう１本！
『ホーホケキョ となりの山田くん』
高畑勲監督作をもう１本。
『かぐや姫の物語』
発売中
ブルーレイ：7480円（税込）
DVD：5170円（税込）
発売元：ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2013 畑事務所・Studio Ghibli・NDHDMTK
●TITLE『ラ・ラ・ランド』
ロマンチックなミュージカル
西塔しゅんけ先生推薦作２本目は『ラ・ラ・ランド』。パワハラ音楽教師が強烈だった『セッション』で一躍注目を集めたデイミアン・チャゼル監督作。女優志望のミア（エマ・ストーン）とジャズピアニストのセブ（ライアン・ゴズリング）の恋愛を描いたミュージカル映画である。
冬。渋滞しているLAのハイウェイでの『アナザー・デイ・オブ・サン』のダンスシーンで映画は始まる。この映画の大ヒットの後、TVやCMでよく使われるようになった曲だ。仕事に出かける途中のミアとセブはここで最悪の出会いをする。女優志望のミアは、ハリウッドの撮影スタジオ内にあるカフェで働き、自分のジャズの店を夢見るセブはレストランのピアノ弾きである。
その日、オーデションで散々な目にあったミアは、同居する友人たちとパーティに出かけるが、楽しむことができない。帰り道、レストランから流れるピアノの音に惹かれ、入って見ると、そこには最悪の出会いをした男が!?
春。偶然にも、あるパーティで再会する２人。お互い皮肉を言い合うが、一緒になった帰り道、LAの美しい夜景をバックに２人は歌い踊り出す。セブは“キミはタイプじゃない”ミアは“あなたは対象外”、だから“恋に落ちる訳ない”とお互いに言い合いながら、恋に落ちる２人。２人がデートするグリフィス天文台のシーンは美しい。ここは多くの映画に登場するLAの名所である。
夏。恋に落ちた２人がお互いに夢中になる季節。だが厳しい現実が少しずつ近づいてくる。
秋。夢を追う人々の前に立ちはだかる問題が２人に迫る。それはお金と才能である。どんなに素晴らしい夢を持っていても、生活はしなくちゃいけない。寝るところと食べるものは必要だ。そして、これが厄介なのだが、自分には果たしてその夢を叶えるだけの才能があるかである。
ついに２人に冬がやってくる……。
ミュージカル映画を言葉で語るのは難しい。歌や踊りの良さは、観てこそ分かるものだから。言えるのは主役２人の相性の良さと、楽曲の美しさ、そしてロマンチックなLAの風景である。
▼編集部オススメ、もう１本！
『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』
こちらはピアニストの兄弟と女性シンガーの恋のゆくえ。
『ラ・ラ・ランド』
発売中 デジタル配信中
4K ULTRA HD:8580円（税込）
ブルーレイ: 2750円（税込）
DVD: 1980円 （税込）
発売元: ギャガ
販売元: ポニーキャニオン
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