名作・駄作・カルト作。アクション・SF・ラブコメディ。映画はいろいろあるけれど、まだ観てない映画をもう1本。今回の推薦者は新連載『GREED PUNK』の宮澤隼先生と、同じく新連載『アキレス』の佐伯直先生だ! どちらもバトルもの。でも違う面白さ! もちろんお二人の選んだ作品も違う面白さ! どちらがお好み? なんてことは言わず全部観てください。全部面白いですから! 編集部オススメの作品も面白いのでチェックしてみてね!
●TITLE『グランド・ブダペスト・ホテル』
個性派監督による、美しい幻
今回最初の推薦者は、巻頭カラーを飾った新連載『GREED PUNK』の作者、宮澤隼先生。新感覚“泥棒”バトルアクションに読者の僕らはワクワクだ! 宮澤先生の推薦作1本目は『グランド・ブダペスト・ホテル』。
舞台はヨーロッパ大陸の東端、旧ズブロフカ共和国(架空の国)。そこには、グランド・ブダペスト・ホテルという栄華を極めたホテルがあった。だが時は流れ、今では寂れたホテルとなっていた……。そんなグランド・ブダペスト・ホテルに宿泊する作家(ジュード・ロウ)は、ホテルのオーナーであるゼロ・ムスタファ(F・マーリー・エイブラハム)と出会い、華やかなりし頃のホテル、そしてベルボーイだった若き日のゼロ(トニー・レヴォロリ)と、彼の師であり友人であったコンシェルジュ、グスタヴ(レイフ・ファインズ)の物語を聞く。
皆さんはホテルのコンシェルジュとは何者かご存じだろうか。コンシェルジュというのは、宿泊客のあらゆる要望に応える、いわば何でも屋さんである。彼らにかかれば2年先まで予約で埋まっている超人気レストランの予約も速攻で取れるし、ソールドアウトの演劇やコンサートのチケットだってすぐに用意できる(まあ、お金持ちの宿泊客に限られるが)。この作品に登場するコンシェルジュ、グスタヴは超有能なコンシェルジュである。ただし、彼が相手をするのは、金持ちで、老人で、不安で、虚栄心が強く、軽薄、金髪で寂しがり屋の女性たちである。こう聞くとロクでもない人物のようだが、これがなんとも魅力的なのである。経験、教育、家族ゼロのゼロをベルボーイとして採用してくれたものこのグスタヴである。
常連客の伯爵夫人マダム・D(ティルダ・スウィントン)が亡くなった。彼女の遺言でグスタヴは超高価な絵画『少年と林檎』を相続するのだが、これにマダム・Dの息子ドミトリー(エイドリアン・ブロディ)は大激怒。絵画を取り戻すため、グスタヴをマダム・Dの殺人犯に仕立て上げようとするのだが……!?
監督はウェス・アンダーソン。映画好きに人気の高い監督であるが、その作風を説明するのは難しい。淡々としているというか、テンポも独特。どこか外したユーモアは妙にクセになる。今作も迫りつつある戦争の描写あり、殺人事件あり、凄腕の殺し屋なんかが登場するにもかかわらず(グスタヴとゼロが殺し屋から逃げるシーンは最高に笑える!)、その世界はまるで箱庭で繰り広げられる人形劇のようである。自分のお気に入りの人形(役者、それも一級のクセ者揃い)を好きなように動かしているような感じ。ピンク色の美しいグランド・ブダペスト・ホテルはまるで手の込んだドールハウスのようにも見える。
映画のラスト、年老いたゼロが、華麗な過去が失われようとしているホテルで作家に言うセリフ“正直、彼の世界は彼が来るずっと前に消えていた。とはいえ、彼は見事に幻を維持して見せたよ”。監督は、映画という美しい幻を、観る者の記憶に留めたかったに違いない。
▼編集部オススメ、もう1本!
『犬ヶ島』
ウェス・アンダーソン監督作をもう1本。
『グランド・ブダペスト・ホテル』
ディズニープラスのスターで配信中
©2024 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
●TITLE『ブラック・パンサー』
謎の先進国ワカンダの新国王が大活躍!
宮澤隼先生、推薦作2本目は『ブラックパンサー』。『アベンジャーズ』と同じくマーベルのヒーロー映画であるが、実はこの作品には他のヒーロー映画とは違うところがある。黒人の監督による黒人のヒーローを描いた作品なのだ。
神秘の国ワカンダの誕生秘話から物語は始まる。宇宙一硬い物質であるヴィブラニウムがアフリカに落下した。その地に5つの部族が移り住むが、争いが続く。ある戦士がパンサーの女神に導かれ、神秘のハーブを見つける。彼はそのハーブによって、超人的な筋力、スピード、直感力を得、ブラックパンサーとなった。5つの部族のうち4つの部族がこの戦士に従い、彼は国王となった。ワカンダ国の誕生である。
ワカンダ人はヴィブラニウムを使い、科学技術を発達させ、国を最新テクノロジーの超文明国としたが(隠された都市部はほとんど宇宙都市!)、ヴィブラニウムを守るため、その真の姿を隠した。他国との交流はせず、援助も受けない。そのためワカンダは発展途上の農業国と見なされた。
2018年、ワカンダのティ・チャカ国王が国連でのテロに巻き込まれ死亡。王位は長男のティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)に。
同じ頃、ロンドンの博物館で盗難事件が発生。盗まれたのはアフリカの工芸品。だが、それはヴィブラニウムで作られたものだった! そのことを知った新国王のティ・チャラは、闇マーケットで売られようとするヴィブラニウム奪還のため韓国・釜山へ向かうのだが……!!
他国と交流のないアフリカの発展途上国が、実は世界で最もテクノロジーが進んだ国だったという設定も面白いが、王位を継承するためには、名乗りを挙げる挑戦者と戦わなければならないとか(迫力満点のファイトシーンあり!)、ハーブを使った儀式で死んだ人間と会話するとか(スピリチュアル!)、国王の親衛隊がみんな女性(めっちゃ強い)とか、何かとユニークなワカンダである。だがこの映画の魅力はなんと言っても新国王のティ・チャラだろう。元カノに未練タラタラで、天才科学者の妹にはよくイジられる。それでもいざとなったら頼もしい、かっこいい男。ヴィブラニウムが取引される闇マーケット(場所は違法賭博場)に現れる彼は、まるで007のようである。妹が開発したボディスーツに身を固めたブラックパンサー姿も抜群だ。
演じるチャドウィック・ボーズマンは『42~世界を変えた男~』で人種差別に苦しみながらも、黒人初のメジャーリーガーとして活躍したジャッキー・ロビンソン役を演じて絶賛され、スター街道まっしぐらだったのだが残念なことに大腸がんで亡くなってしまった。享年43歳。惜しい役者さんを亡くしたものである。
そして物語はヴィブラニウム奪還の大捕物に留まらず、先代のティ・チャカ国王とその弟の過去にまつわる秘密に繫がっていく。その展開は現代の黒人に不寛容な世界を映し出してもいる。『ブラックパンサー』はエンタメとしても一級品だが、黒人監督のライアン・クーグラー(『クリード チャンプを継ぐ男』など)が同胞の役者を使って、深いメッセージを込めた作品でもあるのだ。
▼編集部オススメ、もう1本!
『42〜世界を変えた男〜』
チャドウィック・ボーズマンの映画をもう1本!
『ブラックパンサー』
ディズニープラスで配信中
©2024 MARVEL
●TITLE『パラドクス』
無間地獄に陥った人間たち。そのわけとは⁉
今回2人目の推薦者は、センターカラーを飾った新連載『アキレス』の佐伯直先生だ! 火花を散らすバトルファンタジーにもワクワクです!
佐伯先生、推薦作1本目は『パラドクス』。
“パラドクス”の意味を辞書で調べると、逆説とか背理、矛盾といった説明が出てくる。
映画『パラドクス』は言葉通り、見た通りのようで、実はそうではないという奇妙で不思議で怖い作品だ。
ウエディングドレスを着た老婆が赤い手帳を手にしたまま、動いているエスカレーターの階段に上向きで倒れている意味深なオープニングで幕を開ける。一体どういうこと? とビビる観客をそのままにして2つの物語が始まる。
1つ目の物語。刑事マルコに追われるカルロスと彼の弟オリバー。2人はアパートの非常階段から逃げようとして、カルロスが足を撃たれてしまう。そこで奇妙な爆発音が聞こえる。するとこの3人はこの階段から出られなくなってしまうのだ!? 出口の扉が開かない。それだけならまだしも、1階から地下へ降りようとすると、なぜか最上階の9階に来てしまう、9階から上に行こうとすると1階に出てしまう。やがて撃たれたカルロスは死亡。マルコとオリバーは階段に残される。
2つ目の物語。旅行に車で出かけた4人家族。正確には母親とその恋人、母親の恋人が気に入らない息子と、アレルギー持ちの娘の4人である。母親の恋人が不注意にも与えてしまったジュースのせいで喘息を起こす娘。大事な吸入器も壊れてしまい、4人は家へ戻ろうとするが、そこでも奇妙な爆発音が。すると走っていた一本道から出ることができなくなっていた……。
なんとも不条理で悪夢的展開であるが、物語はさらにギアを上げていく。最初の階段に話が戻ると、そこは35年後になっている。マルコとオリバーが餓死しなかったのは、階段に設置されている自販機のおかげ。なぜか自販機の食べ物や飲み物は、ループしているかのように一定時間ごとに元に戻るからだ。それにしても2人は35年も階段に閉じ込められていたのである! 空間は変わらないものの、彼らの時間は35年分過ぎている。マルコはヨボヨボの爺さんになり、彼より若かったオリバーは階段の上り下りで身体を鍛えてマッチョな中年に!? そうなってくると、あの4人家族も……。想像通り一本道から出ることなく35年が過ぎていた。いやはや彼らの35年後が凄すぎて言葉を失いそうになるが、そこで初めて観客はこの2つの物語のつながりに気づくのだ。そして冒頭のウエディングドレス姿の老婆の意味も。
正直に言います。佐伯先生の紹介で初めて観ました。いやあ、凄い作品でした。最初は核戦争かなんかで世界が絶滅したのに気づかない人間の魂が彷徨っていたなんてオチかと思ったら全然違った。この無間地獄にはとんでもない意味があるのだった。
▼編集部オススメ、もう1本!
『未来世紀ブラジル』
不条理な映画をもう1本。
●TITLE『パンドラム』
自分たちは果たして正気なのか?
佐伯直先生、推薦作2本目は『パンドラム』。これまた怖い作品ある。
1969年、人類初の月面着陸、世界人口36億人。2009年、地球型の惑星探査機ケプラー打ち上げ、世界人口67億6000万人。そして2153年、世界人口は243億4000万人となり、水と食糧不足が世界的に慢性化。2174年、限られた資源の争奪戦が頂点に達し、人類は宇宙に救いを求め、宇宙船エリジウムが打ち上げられた。
宇宙船エリジウムで何やらよくないことが起きそうな気配である。宇宙船の中での恐怖体験を描いた映画といえば、有名なところで、AIが暴走する『2001年宇宙の旅』(AIのハルは怖かった)、宇宙のモンスターが乗組員を襲う『エイリアン』(最強の宇宙生物の恐怖)、宇宙移民が目的の宇宙船で1人だけ早く目覚めてしまった男の物語『パッセンジャー』(孤独は怖い)、変わったところでは『13日の金曜日』のジェイソンが455年の冷凍状態から目覚めて宇宙船で大暴れする『ジェイソンX 13日の金曜日』(これは恐怖よりも笑いが勝つかも)なんてのもあるが、この作品は……。
宇宙船エリジウムのコールドスリープから目覚めたバウアー伍長。だが宇宙船の様子がおかしい。しかも記憶の一部を失っている。バウアーが眠っていたカプセルには注意書きがあった。“長期にわたる冷凍睡眠には軽度の記憶障害が起こる”。彼は記憶障害を起こしていた。訓練は覚えていても、目的地がどこかは思い出せないのだ。司令室にも入ることが出来ない。そんな時、バウアーの上司と思われるペイトン中尉が目覚める。彼も記憶を失っており、この状況が理解できない。ところがここでバウアーは原子炉の不調に気づく。どうやら彼は技術班だったらしい。しかも原子炉を再起動しないと宇宙船が危ないことが分かっている!? そこでペイトンが指令を出し、バウアーが換気口に通じる天井から船内を探索することになるのだが……。
まだらになっている記憶、彼らより先に目覚めた乗組員との遭遇と合流、突如宇宙船に現れたゾンビのような人食いモンスター=ハンター、そしてパンドラム……。パンドラムとは、起動機能不全症候群のこと。宇宙船の中で精神を患ってしまうのだ。過去には自分の船が呪われていると思い込んだ乗組員が、5000人分の睡眠カプセルを宇宙に放出したこともあったという。自分たちの正気が疑わしい中、原子炉に向かおうとするバウアーたちが知った真実とは!? そしてハンターの正体とは!?
どうやら佐伯先生は、得体の知れない恐怖がお好みのようです。
▼編集部オススメ、もう1本!
『ライフ』
宇宙の微生物を採取したはずが……。こちらも宇宙船内の恐怖もの。真田広之も出演したアメリカ映画。
ぜひ周りの人にも教えてあげてください!