『ダイヤのA actⅡ』連載200回記念企画第二弾!
日本一の投手が「エース」を語る!
福岡ソフトバンクホークス・千賀滉大投手に寺嶋裕二先生が直撃インタビュー!
千賀滉大投手Profile
1993年生まれ、愛知県出身。2011年の育成ドラフト4位で福岡ソフトバンクホークスに入団。
代名詞である「お化けフォーク」を武器に、2016年から4年連続で二桁勝利。
2019年には育成出身選手初となるノーヒットノーランを達成した。
ひたすら走ったあの頃に、今の知識を持って戻りたい
──もし今、千賀投手が中学3年生だったら、青道に入りたいと思いますか?
千賀投手:
行きたいかと言われると……練習は厳しいし、層は厚いし、なかなか難しいですね(笑)。でも正直、高校時代は強豪校への憧れはあったんですよ。青道や稲実のように練習環境が恵まれていて、周りもしっかりしていて、みたいな。
寺嶋先生:
当時の監督から受けた指導で今に役立っていることはありますか?
千賀投手:
ランニングと体幹トレーニングをちゃんとするよう言われていました。あとは「バッティング練習だけじゃなく、投げることもちゃんとしなさい」とずっと言われてましたね。
寺嶋先生:
監督に対して「嫌です」と言えていたほうでしたか?
千賀投手:
僕は「行けるか?」と言われて「代えてください」と言うタイプでしたね。インピンチで痛くて投げられなくなるのは事実でしたし、そこで無理をする気持ちになれなかったんです。
やっぱり中学の時、成長痛で長く野球をやれなかったのが面白くなかったという経験がありました。この1週間頑張って投げて、そのあと半年、1年とか試合に出られなくなるよりは、1か月休んでずっと野球をやれるほうがいいって考えでした。
寺嶋先生:
なるほど、怪我の経験から……。
千賀投手:
実際に怪我をしないとわからないことはやっぱりありますよね。怪我でリハビリに行った選手で「あの頃の俺は馬鹿だった」という人も多いですよ。
寺嶋先生:
ぶっちゃけ、ピッチャーの走り込みって必要だと思いますか?
千賀投手:
経験上、心拍数をちょっと上げて心臓を動かし、血流を良くすることは絶対に必要だと思います。高校時代に140㎞/h超えの球が投げられたのも、ランニングを軸にして鍛えられたものが出たんじゃないかと思います。
寺嶋先生:
10年前と今とでは練習環境も変わるので、漫画の中での練習も少しずつ変わっています。実は『actⅡ』では、タイヤ引きはダッシュの描写のみなんですよ(笑)。
千賀投手:
たしかにトレーニングのあり方に注目が集まるようになったのは、ここ最近のことですよね。今だとウエイトとかでより効果的な練習法もあるので、ランニングと並行して取り入れるべきだと思います。
そういえば、青道にはウェイトの描写があまりないですよね(笑)。
寺嶋先生:
……これからめっちゃ増やします!!
千賀投手:
高校時代に今のトレーニング知識を持って戻れたらなあ……とすごく思います。
2018年のオフにダルビッシュ有さん(現・カブス)とお会いしてトレーニングに対する考え方をお聞きして、自分なりに手応えを摑んだり、投手という役割についての意識が変わった部分もあって。
それで昨シーズンは長いイニングを投げ抜けるようにいろいろな努力をしていました。今年はもう「行く!」と決めていた1年だったんで、そこに葛藤はなかったです。
侍ジャパンで培われた「エース」としての矜持
寺嶋先生:
千賀投手は他球団の投手との交流も目立つ気がします。
千賀投手:
侍ジャパンに選ばれたことがすごく大きかったと思います。則本さん、菅野(智之投手・現巨人)さん、岸(孝之投手・現楽天)さん、ダルビッシュさんとかとお話しできて、情報交換できるようになったのはすごくありがたかったです。
寺嶋先生:
違うチームの投手同士でもオープンに付き合えるものですか?
千賀投手:
みんなオープンで、隠すこともないですよ。侍ジャパンができてから、みんなで広く情報を交換していけばいくほど、日本の野球のレベルも上がっていくという想いが選手たちにあって、投手陣は特にその傾向が強い。
今はひとつのチームが鎖国みたいにやっていてもなかなか強くなれないし、技術や練習に関してチームの垣根を超えた交流ができるのはすごくいいと思います。
寺嶋先生:
今のプロ野球投手は先発、中継ぎなどの分業がどんどん進んでいます。その中でエース独特の考え方っていうのは残っていくと思いますか?
千賀投手:
ありますし、絶対残りますね。メジャーでもプレーオフでエース級がバンバン投げますけど、彼らはそこで「勝つためならもう壊れてもいい」ぐらいの勢いで投げるじゃないですか。ピッチャーの根本とか本質は、絶対にああいう場面に出るんだと思います。
寺嶋先生:
高校野球もそういう所ありますね。負けたら終わりなので……。ひとつの試合に上に進めるかどうかが直結する。
千賀投手:
プロだと先発のいいピッチャーが怪我をしやすいという状況もあり、長いシーズンを戦い抜くために分業が当たり前になりました。
でも、それが進みすぎて、入団してすぐ150㎞/h後半の球が投げられる若手が先発にチャレンジせず、いきなり中継ぎで起用されるパターンが増えてますよね。
7回まで100球投げた先発投手に続投させるのと中継ぎを出すの、どちらがいいかと考えると「じゃあ中継ぎで」というムードもありますし。特にソフトバンクのようにいい中継ぎが多いと、その判断が増えるのも仕方ない部分はあって……難しいですよね。
寺嶋先生:
でも、ピッチャーという人種の本質としては、最後まで投げ抜きたい?
千賀投手:
それは間違いないと思います。だから今年は、「120球投げた千賀のほうが元気な中継ぎより上」だと感じさせることができれば8〜9回まで行けるなと考え、そこに向けて躍起になりました。
そうしていかないと、規定投球回に届くイニングを投げる、エースと呼べる投手が本当にいなくなってしまう。そのために、効果・効率を重視したトレーニングやピッチングを心がけていましたね。
寺嶋先生:
チームに向ける意識の面では、何か変化したことがあったんですか?
千賀投手:
チームメイトに対して、最近の調子や、今どんな感じで調整をしているか聞いて、コミュニケーションを取ることは意識していました。
今まで他球団の人とはそういったやり取りもしていたんですが、チームの中にはあまり目を向けていない部分があったので。そこをすごく意識したのは今年が初めてでしたね。
アドバイスをするにしてもやっぱり責任があるので、自分も練習態度を含めてちゃんとしなくちゃいけないと思ったり。
寺嶋先生:
先発エースとしての心意気が感じられるお言葉ですね。最後に千賀投手にとって、エースという存在はどんなものなでしょう。
千賀投手:
ちょっと前まで、エースというのは「とにかく勝つ」「絶対負けない」とか、そういうものだと思っていたんですが、最近になって「それは投手なら誰もがわかっていることだよな」と思って。
むしろ沢村のように、周りに「この試合でお前が投げて負けたら仕方ない」という場面を任せられるような、チームに一番認められた存在がエースと呼ばれるんですよね。
僕もプロの世界で、その一言がもらえるような選手でありたいと思います。