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奈央晃徳先生、2本目は
『風立ちぬ』である。
アニメーションの神様、宮崎駿監督がこれを最後に引退すると宣言し、初めて実在した人物を主人公にした長編アニメーションでもある。引退宣言は後に撤回され(ありがたい!!)、主人公、堀越二郎(日本の航空技術者)は実在するも、物語は監督の創作である。
冒頭は少年が夢でみている飛行シーンだ。
少年が操縦する飛行機は、機械というより、血の通った不思議な鳥のようである。美しい日本の風景の中を、気ままに飛び回る少年は、どこまでも自由だ。
だが、空にはやがて暗雲が立ち込め……少年は地上へ落ちていく……。
少年の名は堀越二郎。『風立ちぬ』は彼の半生を描いた作品である。
二郎が尊敬しているのは飛行機の設計家、イタリア人のカプローニ伯爵だ。彼はしばしば二郎の夢の中に現れて聞く
〝まだ風は吹いているか?〟
ある夜の夢で、二郎はカプローニに尋ねる
〝近眼でも飛行機の設計はできますか? 僕は近眼なので操縦はできません〟
すると彼は
〝私は飛行機の操縦は出来ない。パイロットに向いている人間は他にいる。少年よ、飛行機は戦争の道具ではなく、商売の手立てでもないのだ。飛行機は美しい夢だ。設計は夢に形を与えるのだ〟
と答える。
これを神の啓示と受け止めた二郎は、飛行機の設計士になる決心をする。
成人した二郎は、願い通り、飛行機の設計士になっていた。
夢の中では相変わらずカプローニから〝風は吹いているか?〟と聞かれ、〝はい! 大風が吹いています!!〟と二郎。
するとカプローニは
〝では、生きねばならん〟。
関東大震災、大恐慌を経て、時代は戦争へと向かい、飛行機も必要とされるのは戦闘機になってゆく。
航空技術者としてドイツに留学した二郎は、再びカプローニの夢を見る。
彼は言う
〝キミはピラミッドのある世界と、ピラミッドのない世界。どちらが好きかね。空を飛びたいという人類の夢は、呪われた夢でもある。飛行機は殺戮、破壊の道具になる宿命を背負っているのだ。それでも私はピラミッドのある世界を選んだ。キミはどちらを選ぶかね〟
それに答えて二郎は〝僕は美しい飛行機を作りたいと思います〟
〝創造的人生の持ち時間は10年だ。芸術家も設計家も同じだ。キミの10年を、力を尽くして生きなさい〟。
そして二郎は戦闘機の設計を引き受けるのである。
ここで思うのは、二郎の矛盾である。
決して戦争を肯定する人間ではない二郎が、なぜ戦闘機を設計するのか? それは彼が戦闘機の美しさに抗えないからである。そして美しい飛行機(ゼロ戦)を完成させるのだが、パイロットたちは誰一人として戻ってこなかった。彼に残されるのは虚無なのか?
だが、最後に夢に現れたカプローニが指差す先には、二郎が誰よりも愛しながら、早世した妻、菜穂子がいた。
彼女の〝生きて〟という言葉に、うん、うんと頷く二郎。矛盾を抱えながらも、夢や美、芸術を追い求めずにはいられない人々(宮崎監督自身もそうだろう)を支えるのは、言い古された言葉かもしれないが、やはり愛なのだ。
そして、10年間しかない創造的人生を過ぎてもなお、夢の実現を求めてしまうのは、芸術家の業であり、祝福でもある。
(※この記事は別冊少年マガジン2017年11月号に収録されたものです)
▼『100万の命の上に俺は立っている』奈央晃徳推薦映画紹介!「別マガムービーガイド」(前編)はコチラ!
(前編を引用)
▼『100万の命の上に俺は立っている』第1話がWEBでも読める!
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(終わり)