プロ漫画家さんに直接、
マンガ上達の秘訣を聞く
『読む漫画スキルアップ』。
第2弾。
前回に引き続き、東直輝先生を迎え新人漫画家さんが悩める一大テーマ・画力について徹底的に伺っていきます。
第1回(読む漫画スキルアップ 第1弾 画力編)で東先生から話が出た、“生きた絵”を描くコツとは――。
――ネームではいい絵が入っていたのに、いざ原稿になるとネームの時にあった魅力がなくなっている、というのは多くの新人作家さんが実感したことのある悩みだと思うのですが、これに対処法があるんでしょうか?
東先生(以下、東):あります。
「下書きは、
ネームからトレスする」
これです。
――ネームをトレス? 下書きはネームとは別に、原稿用紙に描くのが一般的と思いますが…。
東先生のネームと原稿
東:そこが落とし穴なんです。
ネームというのは、自分の脳内から最初に出てきた一番「脳内のイメージに近い絵」。
だから、ネームをネーム用紙に描いて、それとは別に原稿に絵を描いてしまうと、同じシーン、同じキャラクターを描いてもどんどんイメージから離れてしまって、似て非なるものになってしまう。
結果、魅力に欠けた「死んだ絵」になりがちなんです。
――なるほど。ネームと原稿を別のものと考えず、脳内のイメージをそのまま原稿に落とし込むことが必要なんですね。
東:そうです。僕も新人の頃、『外天の夏』という作品を描くことになった時、原作者の佐木飛朗斗先生に1話目のネームを確認してもらったんですね。
その時ネームの絵をとても褒めてくださって、僕も「よし、いい原稿を描こう!」と張り切って原稿に入りました。
でも、下書きの段階でもう一度見てもらうと「何をやってるんだ」と。全然ダメということで、全ページ描き直しました。
――それは壮絶な経験ですね…。
東:僕の中に「ネームはOKもらえた。さあ本番だ。綺麗に、丁寧に描こう」という意識があったんですね。
でもそれがダメだった。
佐木先生から「ネームで描いた線を、一つも逃さず描け」と言われて、それからネームをトレスしてそれを下書きにする、というやり方を始めました。
それで「生きた絵」が描けるようになりました。今でもやっているやり方です。
――新人作家さんにもおすすめ、ということですね。
東:そうです。新人作家さんの中には、「ネームは担当に見せる確認用。原稿とは別!」と考えている人も多いんじゃないんでしょうか。でも、僕は違うと思う。
ネームは「担当に見せる確認用」ではなく「読者に見せる確認用」なんです。
だから、ネームをしっかり描いて、それを担当さんに見せた時「いいね」と言ってもらえたら、きちんとそのネームをベースにして下書きを描いたほうがいいんです。
そして、その下書きを基に原稿を描いて…とすれば、新人さんでも「生きた絵」が描けると思います。
――そのやり方ですと、ネーム、下書き、原稿と同じ絵を3回描くことになりますよね。なかなか大変そうに感じます。
東:でも、3回描くことで自分の絵のクセがわかってきて自分の下手なところ、改善点が見えてくるんです。
また、自然と絵を描く回数が上がりますから、上達も早くなりますよ。
画力の上達の過程って、3ステップあると思うんです。
まず「ネームの絵が一番いい」という段階。
その上で、今回教えたやり方を繰り返していくと「下書きが一番いいね」という段階にステップできる。
さらに繰り返していって「原稿が最高だね」という段階に至るんです。
――なるほど。具体的にネームをトレスする際、何か気をつけることなどありますか?
東:原稿用紙はB4というサイズですよね。ネーム用紙は、そのB4に2ページ分描くのが一般的だと思います。
その場合は、トレスの際ネームを拡大コピーしてやってみてください。
もちろん、B41枚につき1ページずつネームを描いてもOKです。
気を付けて欲しいのは、ネームをA4、A5などで描かないこと。AとBでは縦横比が違うので、必ずネームの段階からBの判型で描いてください。
――では、ネームを描く時のコツなどはあるんでしょうか?
東:さっきお話した通り、読者に見せる設計図ですから、読者さんが読んだ時のことを考えてネームを描きますね。
具体的には、いつも見開き単位で考えています。
読者はページの上側から見ていきますから、偶数Pの最初のコマに読みやすい大ゴマが入って、ページの下に小さいコマが入っていると、視線の誘導がスムーズになりますね。
パラパラとページをめくった時に、手を止めてもらいやすくなるとも思います。
その上で、奇数ページの最後のコマには、どうなってしまうんだろう、という「読者の興味を引くコマ」を入れるのが大切です。
奇数ページの最後で興味を引いて、ページをめくってもらって、偶数ページの最初にその答えがある、その繰り返すことで、読者さんを漫画の世界に引き込むんです。
このあたりも全部、佐木先生から教わりましたね。
見開き単位で考えられたネームと、そうでないネームの比較
赤線が読み手の視線の動き。右から左、上から下へ自然と視線が流れストレスなく読めるとともに、読み手を物語の中に引きこむ。
――佐木先生とのお仕事の中に、様々な気づきがあったんですね。引き続き、原稿を描く際のコツを伺っていきたいと思います。原稿を描く時のコツって何かあるんでしょうか。
東:あります。まず気を付けないといけないことは…
東先生から語られるコツとは…
第3回につづく!!
東先生に聞きたい質問を大募集。
質問は担当フジカワ ツイッターまで!
東直輝
『爆音伝説カブラギ』(原作/佐木飛朗斗)など代表作多数。
現在は新作を鋭意準備中である。
▼『爆音伝説カブラギ』第1話はコチラ
(終わり)