マガポケベースマガポケの秘密基地! ここだけで読める面白記事あります!

『リアルアカウント』をもとに心理学者に聞く! SNSでフォロワーを増やすには?炎上を避けるには?

マガポケで連載中の『リアルアカウント』は、SNSをテーマにした漫画。フォロワーの増減が生死につながるデスゲームであり、作中ではドキドキの心理合戦が繰り広げられています。

 

f:id:shimashimaoffice:20180728215435j:plain

 

今回は『リアルアカウント』の作中エピソードに絡め、社会心理学の専門家である寺口司先生に、SNSについてさまざまな質問をしてきました!

 

監修・取材協力

f:id:shimashimaoffice:20180728224343j:plain
大阪大学大学院人間科学研究科 社会心理学研究分野
助教 寺口 司 先生

2011年、大阪大学人間科学部卒業。2016年、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程満期退学。同年より助教着任。「他者の攻撃に対する、関係のない第三者の反応」について、社会心理学的に検討を行う。SNSに関わる問題にも関心を持つ。

 

f:id:shimashimaoffice:20180728215438j:plain

ちなみに、寺口司先生は大の漫画好きで、『リアルアカウント』も全巻読破。「作者は心理学をよく研究して、人間のネガティブな部分をえぐり出している」と感心してくださっていました!

 

読む人の心理を操ってフォロワーを増やすには?

――SNSではフォロワー数の多さがちょっとした自慢にもなるようです。Twitterを例にフォロワーの増やし方を教えてください。

寺口先生:フォロワーの意味によって増やし方は違います。もし友達を増やしたいなら、現実と同じように同じ趣味を持つ人に声をかければいいですよね。そうではなく、単純にフォロワー数を増やしたい(見知らぬ人にフォローしてもらいたい)なら、戦略を立てる必要があります。まずはSNSをやっている人の目的を知ることから。だいたい5つに分かれるんですよ(引用1)

 

f:id:shimashimaoffice:20180728215442j:plain

 

① ネット上での交流のため

② 現実の交友関係を維持するため

③ 情報収拾のため

④ 自分をよく見せるため

⑤ 気晴らしのため

 

の人は他人をフォローするモチベーションが低くて難しい。となると①③⑤の人がターゲットになり、中でもを狙って取り込むといいでしょう。ある研究によれば情報収拾が目的の人はタイムラインをよく見る(引用1)ので、興味を引く話題や役立つ情報をツイートしていればフォローしてもらえる可能性が高くなります。結果的に「フォロワーがたくさんいるからフォローしよう」と同調する人も増えていく相乗効果も生まれますね。

 

――ツイートする情報はどのような内容がいいのでしょうか?

寺口先生:試しに2018年6月12日以前に3000件以上リツイートされたツイートを約1万5000件調べてみました。このうちフォロワー数3000人未満の一般人は2394件。この内容を分析すれば、一般の人が人目につきやすいツイートをするコツがわかりますよね。

そして確認してみると、1834件は画像、動画、URL(アイキャッチ)がついていたんです。バズるツイートを狙うなら、まずは文字だけよりも視覚に訴えるものをつけたほうがいいということです。文字だけにしたい場合は、トレンドに関する話題にしましょう。

ツイートに「拡散希望」と入れるのも多少は効果があるようです(引用2)。読む人に「拡散してほしい」と明確に指示しているので、影響されてリツイートする人はいると思いますね。

 

f:id:shimashimaoffice:20180728215446j:plain

 

――読んだ人がリツイートしたくなるように操るわけですね。

寺口先生:最も人がリツイートしやすい心理状態は、ポジティブな気持ちでドキドキしているとき(引用3)。フォロワー数を効率よく増やすには、そういう心理状態になる画像や動画を選んで投稿するのがいいでしょう。だからリツイート数を競う作中のRTゲームで女性が脱いだのは正しい戦略とも言えます。さまざまな種類の画像を検証したデータでも、女性のヌード画像が「ポジティブな気持ちでドキドキさせる」ことは示されていて(引用4)ある意味、正攻法と言っていいと思います。

 

f:id:shimashimaoffice:20180728215449j:plain

 

――ちなみに作中には男性のヌードも登場しますが、同じようにポジティブな気持ちになるんですか?

寺口先生:男性のヌード画像については、多少ポジティブはあるものの、男性が女性のヌード画像を見たときほどではなかったようです。似たような話では、ヌードではないイケメンの男性の画像の方が「ポジティブな気持ちでドキドキさせる」ようです。

 

f:id:shimashimaoffice:20180728215454j:plain

 

デマは信頼度とフォロワーが減る危険な投稿

――ネガティブでもリツイートされやすい投稿はありますか?

寺口先生:邪道ですが、災害時などに頻発するデマツイート。デマに関する研究(引用5)(引用6)によれば、緊急性が高くて、どこかあいまいで、不安を煽るツイートは、何も考えずにリツイートする人が多い。しかも自分がいるところから遠い場所のことだと、情報のソースも確認しないんです(引用7)。なぜか画像の有無やリツイート数など、情報の本質には関係ないことを見てリツイートする。

とはいえ、逮捕されることもあるのでデマはいけません。

 

――ちなみに、寺口先生が『リアルアカウント』の世界に入り、炎上を引き換えに注目を浴びるようにするのであれば、どのようなツイートをしますか?

負けたら死ぬ、という状況ですよね。私だったら『リアルアカウント』の参加者の腕についている番号を利用します。自分の腕を自撮りして「やばい、参加者がどんどん増えてる。みんなも腕に数字が出たら注意してくれ」とツイートします。緊急性が高くて、どこかあいまいで、不安を煽るツイートでしょう? これはかなりリツイートされると思います。とはいえデマなので、バレたときに私の信頼度がゼロになり、フォロワーもゼロになってゲームオーバーでしょう。

 

f:id:shimashimaoffice:20180728215458j:plain

 

犯罪自慢などの炎上しやすい話題を避ける

――SNSではときどき炎上事件がおきます。どういう話題が燃えやすいのでしょうか?

寺口先生:2つに分かれる話題は炎上につながりやすいんです(引用8)。例えば政治は与党と野党、性別は女性と男性に分かれるから燃える可能性が高くなります。3つに分かれる話題は炎上しにくいので、敵と味方に分かれないような内容を投稿しましょう。相手をけなすような言葉を吐くのも本当にやめたほうがいいですね。

 

――昔よりも、SNSで炎上することが増えているような気がしています。投稿の内容がエスカレートしていく理由はあるのでしょうか?

寺口先生:他人より目立とうとする行為を繰り返していくうちに、集団で極端な方向へ向かってしまう“集団極化”という現象ですね。いわゆる“バカッター”や実況もお互いに目立とうとしてちょっとずつネガティブな方向に行き、最終的にとんでもない爆弾を投下してしまうのでしょう。

それを見て怒りを感じた人たちが「ひどい人には罰を与えなければ!」と拡散して一気に炎上してしまう。このような気持ちは誰もが持っています(引用9)。だからこそ“バカッター”のように正義感を刺激するツイートは炎上につながりやすいんです。さらにネガティブな言葉は目に留まりやすい(引用10)。こういった理由がいくつも重なって燃えてしまうんですね。

作中の大炎上祭では黒歴史も燃えていましたね。でも、恥ずかしい過去の一つや二つは誰でもあるものでしょう。私は忘れたことにしていますが、いずれにせよ炎上しやすい話題には注意が必要ですよね。

 

f:id:shimashimaoffice:20180728222509j:plain

 

困ったフォロワーへの対応は難しい

――行きすぎた正義感というか、ときどき攻撃的な人もいますが……。

寺口先生:実は誰かを傷つける行為は誰でもすることで、特にネガティブな気持ちのときは八つ当たりも発生しやすいんです(引用11)。誰もがその可能性を持っているものの、中でも攻撃性が強い人やストーカー気質を持つ人への対応は気をつけないといけません。リムーブ、ブロック、アカウントに鍵をかけるといった対応では解決しないケースもありますね。

 

――傷つける側ではなく、作中にはネガティブなツイートで気を引こうとする“かまってちゃん”も登場します。このような属性の人との付き合い方はどうしたらいいのでしょうか?

そういう自己愛性の強い人を否定したり本当のことを言ったりするのは危険です。というのも、自己愛性が強い人は自分を守るために相手へ怒りをぶつけやすい(引用12)

私だったら否定も肯定もしない。無視するわけではないけど、なるべく遠いところにいるようにしますね。ちなみに作中の鎮静かまってちゃんを撃破する作戦は危なっかしいなぁと思いました。

 

f:id:shimashimaoffice:20180728221303j:plain 

既読スルーできない人と「不謹慎」と言う人はそっくり

――作中ではLINEのようなコミュニケーションアプリも登場します。現実では“既読スルー”が話題になりますね。

寺口先生:既読スルーできない人には、“ノイジー・マイノリティ”と“多元的無知”という現象が関わります。見慣れない単語だと思いますが、ネットでも現実でもよく見られる現象です。順番に説明してきますね。

 

f:id:shimashimaoffice:20180728221742j:plain

 

“ノイジー・マイノリティ”とは、大きい声で意見を言う少数派。逆に何も言わない多数派“をサイレント・マジョリティ”と言います。例えば△が少数派で○が多数派だとしても、△ばかり目立って○が目立たなければ、△が多数派に見えますよね。 

“多元的無知”とは、△が多いと言う空気感ができて○と言えなくなる現象です(引用13)。童話の「裸の王様」はこれらの現象のよい例です。「王様は裸なんじゃないか」と思っていても、他の人は王様の服をほめているから「何も言わないでおこう」と思うわけです。

 

――空気を読むと言うか忖度すると言うか。それが既読スルーのしくみなんですね!

寺口先生:そうです。グループで話をしていても、既読スルーやスタンプ1つで終わらせたいと思うこともありますよね? でも「周りの人は嫌がるのでは?」と思い、黙って続けてしまう。たぶん最終的に全員が「やめたい」と思っているのではないでしょうか。

実は作中の不謹慎ハンター24時も同じで、「自分は不謹慎と思わないけど、周りは不謹慎と思っているのでは?」と同調してしまう。“ノイジー・マイノリティ”と“多元的無知”によって、本当の意見の割合とは違う現象が起きてしまうんです。

 

f:id:shimashimaoffice:20180728223457j:plain 

f:id:shimashimaoffice:20180728223533j:plain

 

『リアルアカウント』の世界で、心理学者は勝てるのか?

――作中に人の心を読む心理学者が登場します。寺口先生も『リアルアカウント』を余裕でクリアできますよね。

寺口先生:いえ、即死する自信があります(笑)。人の心が読めて操れるんだったら、心理学者を辞めて会社を立ち上げてますね! 社会心理学は「人の心は人と人の間にある」という考えのもと、おおよそこんな行動が起きる。そして○%の確率で、こんなことが起きるのではないか、という法則を検討する学問なんです。カリスマ営業マンのような特定の分野の専門家の経験から、一般的な行動の法則を導き出すこともあります。

 

――現実は漫画とは違うんですね。最後に、心理学者に憧れている読者にメッセージをお願いします!

寺口先生:実は「漫画のように人の心を読んでみたい」という好奇心から、心理学を志す学生も多いんです。でも勉強するうちに読めないことがわかってくる。読めないということは、人には謎がたくさん残っていることになりますよね。それが、心理学のおもしろさなんです。今後『リアルアカウント』で心理学者が大活躍してくれたら、私のゼミに学生が増えるかもしれませんね。これからも楽しみにしています!

 

f:id:shimashimaoffice:20180728224256j:plain

 

引用文献リスト

1) 柏原 勤 (2011). Twitterの利用動機と利用頻度の関連性:「利用と満足」研究アプローチからの検討 慶應義塾大学大学院社会学研究科紀要:社会学・心理学・教育学:人間と社会の探究, 72, 89-107.

2) 山本 雅人・小笠原 寛弥・鈴木 育男・古川 正志 (2012). 東日本大震災時のTwitterにおける情報伝播ネットワーク 情報処理, 53, 1184-1191.

3) 深田 浩介 (2013). ソーシャルネットワーキングサービスにおける流言に関する研究 大阪大学大学院人間科学研究科修士論文 (未公刊)

4) Lang, P. J., Bradley, M. M., & Cuthbert, B. N. (2008). International affective picture system (IAPS): Affective rating of pictures and instruction manual. Technical Report A-8. Gainesville, FL: University of Florida.

5) Allport, G.W. & Postman, L. (1947). The Psychology of Rumor. Henry Holt and Company.

6) 釘原 直樹 (2011). グループ・ダイナミックス:集団と群衆の心理学 有斐閣

7) 寺口 司・釘原 直樹 (2017). SNSにおける情報拡散の意思決定過程に自我関与が与える効果 電子情報通信学会技術研究報告, 117(270), 21-24.

8) 田中 辰雄・山口 真一 (2016). ネット炎上の研究 勁草書房

9) Fehr, E. & Fischbacher, U. (2004). Third-party punishment and social norms. Evolution & Human Behavior, 25, 63-87.

10) Ogawa, T. & Suzuki, N. (2004). On the saliency of negative stimuli: Evidence from attentional blink. Japanese Psychological Research, 46, 20-30.

11) 大渕 憲一 (2011). 新版 人を傷つける心:攻撃性の社会心理学 サイエンス社

12) Baumeister, R., Smart, L., & Boden, J.M. (1996). Relation of threatened egotism to violence and aggression: The dark side of high self-esteem. Psychological Review, 103, 5-33.

13) Allport, F.H. (1924). Social psychology. Boston: Houghton Mifflin.

 

pocket.shonenmagazine.com

 

(金子志織)