「マガポケ」で大人気連載中! ゆずチリ先生の『きみとピコピコ』は、高校に入学してテレビゲーム部に入部したゲーム好きの太田太一と、同じく新入生のギャル・鬼咲アゲハさんのドキドキのピコピコライフを描く、ゲーム&青春ラブコメ漫画!
今回は、単行本発売決定を記念して、作者のゆずチリ先生にインタビュー! 先生の漫画家になるまでの道のりや本作の見どころを伺いました!
▼『きみとピコピコ』
●卒業文集に描いた将来の夢は「あだち充」先生!?
――先生が漫画家を目指されたのはいつ頃でしたか?
ゆずチリ先生:
中学1年か2年の時に、急に思い立ったんです。漫画は好きで読んでいて、漠然と漫画家に憧れる気持ちはありましたが、絵を練習したことはありませんでした。でも、偶然クラスの友達が漫画の絵を描いているのを見て「俺にも描けそうだな。描きたいな」と思い、周りに「俺は漫画家になる」と言っちゃったんですよね。友達からすれば「こいつ何いってんだ?」ですし、イタい中学生っぽい話なんですけど (笑)。 その日から急に漫画を描き始めて、中学の卒業文集の「将来の夢」にも「あだち充になる」って書いてあるんですよね (笑)。
――目標があだち充先生ということは、つまり「少年サンデー」派…?
ゆずチリ先生:
愛読書は「少年サンデー」で、「少年マガジン」とはほとんどなじみのない中学生でした。当時は畑健二郎先生の『ハヤテのごとく!!』が流行っていて、真似して描いたりしていました。あとは、ノートにあだち充先生作品の模写みたいな漫画を描いていましたね。
――中学や高校で漫画研究会に入ったりされたんですか?
ゆずチリ先生:
それが、中学・高校には漫研がなくて。自分の周りには漫画を描いている人はいなかったので、正しい描き方を知らないまま、漫画家になると言っていました。近所の本屋に1冊だけあった漫画の描き方入門みたいな本を買ったのですが、昔ながらのやり方しか載っていなくて。中学時代はネットもほとんど使えず、本当にすべてが手探りで「カラス口ってなんだろう…?」と思いつつ、勘で描いていました。
――複数ページがあるような漫画は描かれていましたか?
ゆずチリ先生:
1冊30ページぐらいのノートに、1日1枚くらいずつストーリーがある絵を描いていましたが、いわゆる完成原稿を描くまではめちゃくちゃ長かったです。当時は絵自体がまともに描けなかったですし (笑)。 高校時代も、原稿用紙1ページに、自分なりにペン入れをしてトーンを貼って満足しているレベルでした。それから大学受験のための浪人生になり、1年間予備校の寮に入っていたので、大学に進学してから「ようやく本格的に漫画が描ける!」となりました。
●寮生活で勉強と漫画の腕が磨かれた?
――予備校の寮というと、漫画からは離れていたんですか?
ゆずチリ先生:
寮は基本的に娯楽がない場所でしたが、部屋にあだち先生の『あだち充短編集』と、あずまきよひこ先生の『よつばと!』を持ち込んでいて。それを目当てに、みんなが部屋に集まってきたりしました。僕が勉強したり漫画を描いたりしているときに、僕のベッドでずっと『よつばと!』読んでいるヤツがいたり (笑)。 『よつばと!』はセリフを全部暗記するくらい読んでいて、その頃から急にネームが描けるようになって、部屋に来た友達に見せたりしていました。
――予備校で漫画家としてもレベルアップしていたんですね。
ゆずチリ先生:
そうはいっても勉強をしなければならなかったので、1年で描けたネームは3本くらいでした。同世代で本気で漫画家を目指していた人からすると、遊びレベルだったと思います。大学で漫研に入って、初めて漫画を描いている人たちに出会いました。
――大学の漫画研究会はどんな雰囲気だったんでしょう。
ゆずチリ先生:
大学入学を機に趣味で描き始めた人がほとんどで、僕が漫画家になるというと「えっ、ゆずチリくんガチなの?」みたいな雰囲気でした。ただ、中学・高校・大学と過ごしてきて、周りに漫画を描いている人がいなかった代わりに、「お前、絵なんか描けないじゃん」と馬鹿にする人もいなかったので、謎の自信を持ったまま「漫画家になる」と言い続けてこられたというか。いや今振り返ると、僕の絵は全然イケてなかったですけどね (笑)。
――デビューは在学中とお聞きしましたが、最初は持ち込みだったんですか?
ゆずチリ先生:
入学してから1年くらいかけて32ページぐらいの読み切りをフルアナログで完成させて、2年目の春に小学館の「ゲッサン」編集部に持ち込みました。「少年サンデー」じゃなかったのは、当時あだち先生が「ゲッサン」で描いていらしたのと、週刊誌に持ち込むのはちょっと腰が引けたという理由です。それがきっかけで担当編集さんがついて、そこからは漫画に全力投球です。
●誰が見てもかわいくて、楽しくて、明るい! アゲハさん誕生
――「マガポケ」で連載を始められたきっかけはなんだったんでしょう。
担当編集K:
ゆずチリ先生が以前に連載されていた『漫画学科のない大学』がすごく面白くて、僕からご連絡したんです。その頃にちょうど「マガポケ」編集部でラブコメ作品のコンペがあって、読み切りの『きみとピコピコ』を描いていただいたところ読者からの反響も良く、連載が決まりました。
――ゲームを題材にするアイデアはどうやって出てきたのでしょうか。
ゆずチリ先生:
打ち合わせで担当さんとお互いの好きなものを話していたんですが、僕は趣味がゲームぐらいしかなくて(笑)。 「それなら、ゲームを題材にしたものを描いてみませんか?」と提案してもらって、ゲームとラブコメでストーリーを考えました。それが『きみとピコピコ』の最初です。
担当編集K:
僕もけっこうゲームは好きな方なんですが、先生はゲームについて単純に面白いとかつまらないとかでなく、「任天堂はこうで、ソニーはこうで……」とユーザー視点とは違う、作り手側の視点で話をされるんです。その視点や知識を活かしてもらえたらいいな、と思ったんです。
ゆずチリ先生:
描くうえで担当さんと共通で意識していたのは、とにかく女の子が楽しく遊んでくれる姿や、表情を大事にしようという点でした。その中で、女の子もオタクにするのか、男の子と女の子のどちらがゲームを語るのかといったところを考えていきました。
――読み切り版と連載版ではアゲハさんのキャラクターがだいぶ変化していましたね。
ゆずチリ先生:
読み切り版は「ヤンキーっぽい女の子に絡まれて「怖い!」と思ったけど、一緒にゲームをしたらとてもかわいい女の子だった」というお話でした。そのままでいくことも考えたんですが、連載にあたってアゲハさんをもっと天真爛漫にして、誰が見てもかわいくて、楽しくて、明るくて、底抜けにゲームを楽しんでくれるキャラにしたくて、今の性格になりました。背の高さも太田くんより少し低めにして、小さいけど元気でパワフルな彼女が、彼を振り回しながら話を進めていくようにできたらいいな、と。
▼『きみとピコピコ』【読み切り版】はこちらから読めます!
――太田くんとアゲハさんにモデルはいるんでしょうか?
ゆずチリ先生:
特定のモデルは意識していませんが、ふたりのゲームに対する考え方や、面白がり方みたいな内面は、僕の気持ちや経験が出ていると思います。
●時代を問わずに全部のゲームをリスペクトしている
――登場するゲームはどういう基準で選ばれているんでしょうか。
ゆずチリ先生:
初回は「ファミリートレーナー」という少し珍しいゲームを選びましたが、基本は自分で遊んだもの、知っているものからピックアップして、その中で多くの人が知っていそうなゲームを選んでいます。あとは『きみピコ』を読んでもらった後で「遊んでみたい!」と思ったときに、あまり苦労せずに手に取って遊べそうなもの。登場した実名ゲームでも、『Pop'n ツインビー』や『バレーボール』は今すぐNintendo Switchでダウンロードして遊べます。
――第1話で、ファミコンなどのいわゆる「レトロゲーム」を題材にしていたので、それが登場ゲームの中心になるのかと思ったんですが、新旧いろいろなゲームが出てきましたね。
ゆずチリ先生:
レトロゲームは僕も大好きなんですが、“それこそが至高!”みたいな扱いにはしたくなかったんです。レトロゲームはもちろん、最新ゲームも面白いですから。どんなゲームも、作られた当時の基準で「すごく面白いものを作ろう」という意識で開発されたものですし、ゲームを題材にして描くなら、時代を問わずに全部のゲームをリスペクトしたいんです。それぞれのいいところをつまんで、この漫画を読んでくれた方に、ゲームの魅力を感じてもらいたいです。
――確かに、ゲームを題材にした作品は特定のゲームに特化している印象があります。
ゆずチリ先生:
ゲーム好きの方だと「もっと踏み込んでくれよ」と感じる人もいるだろうし、僕自身にもそういう気持ちはあります。でも反対に「僕はゲームが好きだけど、漫画を読んでいるみんながみんな、そんなにゲーム好きってわけでもないだろう」と思う冷静な自分もいるんですよね。
どういうバランスにするかはとても悩んで、レトロゲームも見つつ、基本はカジュアルな、あまりゲームで遊んでいない人も楽しめる話にすることを念頭においています。ゲームについて語りたい方には話のネタとして、そうでない方は一緒にゲームを遊んでくれる女の子とのやりとりを楽しんでもらえればいいな、くらいの感覚です。正直、まだバチっとした正解は出てないので、この先も考えていくことになりますね。
――ストーリーの軸になっているのは「誰かとゲームを一緒に遊ぶと楽しいよ」でしょうか?
ゆずチリ先生:
今のストーリー展開では、「誰かと遊ぶ」に落ち着くことが多いですが、僕としてはそれだけじゃなく「ゲームはひとりでやっても楽しい」「ひとりでもこんな楽しみ方がある」という提案もしていきたいと思っています。やっぱり僕がゲーム好きだから、漫画を読んでくれた方にもゲームを好きになってほしいし、ちょっとでもとっつきにくいものだと思ってほしくないんです。
だから、『大乱戦スマートバランサー』の回(第3話)も、「格闘アクションのガチなバトルは面白いけど、ガチじゃない面白さもあるよね」という意図で、アバターの作成とか、パンツ撮影みたいな話を持ってきていたりして。そもそもゲームの面白さの全部を、漫画で描き切るのも難しいので。そんなふうにネームを考えているんですが、そんな時、“やっぱり僕、マジでゲームが好きなんだな”と思います(笑)。
●セクシー描写はまだ勉強中? 今後もアゲハさんから目が離せない!
――公開中のお話では、太田くんとアゲハさんの距離がだいぶ近づいてきましたが、今後ふたりの関係はどうなっていくのでしょうか。
ゆずチリ先生:
3年生の男木部長と2年生の倉屋敷先輩が出てきて、これからいろいろな展開を考えています。ただ、せっかくゲームを題材に描いているので、ゲームが介在しなくても成立してしまう単純なラブコメ描写にはなるべくしたくないんです。ゲームを通してしか体験できない“エモさ”をしっかり優先しつつ、“まだラブではないふたり”が触れ合っていくことをいちばんに意識しています。
担当編集K:
担当としても、恋愛とゲームどちらか一辺倒という感じではなく、ゆずチリ先生がお好きな青春っぽい感じを出していってもらえるといいなと思っています。
ゆずチリ先生:
ゲームと恋愛の組み合わせって意外と描けることがあるな、とも思うんです。第10話のゲームボーイのエピソードはまさにそうですし、他にも男の子向けの恋愛シミュレーションゲームを題材にすると、ちゃんとラブコメを絡ませられるな、とか。ジャンルも多いですし、「このゲームでないと描けない」みたいなこともあまりない印象です。それだけに、これから題材に使いたいゲームがたくさんあります。
――アゲハさんが見せるセクシーな一面も見どころですよね。
ゆずチリ先生:
実は僕、『きみピコ』で初めて本格的に女の子の胸やパンツを描き始めたので、今まさに勉強中なんです。担当さんの話に出た『漫画学科のない大学』では「パンツは見えない方がいい!」と描いていたんですが……あの頃の自分に「ついに僕もパンツを描くようになりました」と教えてあげたいです(笑)。「マガポケ」で同じくラブコメ読み切りから連載になったシンジョウタクヤ先生の『さわらないで小手指くん』とか、他にも色々な漫画のセクシー描写を参考にさせていただいています。
▼シンジョウタクヤ先生の『さわらないで小手指くん』はこちら!
――ありがとうございました。最後に「マガポケ」読者にメッセージをお願いします。
ゆずチリ先生:
『きみとピコピコ』はゲームという題材を生かして、楽しんでもらえるようなものを目指して描いています。読んでいただいた方それぞれの楽しみ方で、いろいろな感想をもっていただければいいなと思います。この作品を読んで「このゲームを遊んでみようかな?」と思っていただけたら、ひとりのゲーム好きとしてすごく嬉しいです。
ゲーム好きの人もそうでない人も、かわいいアゲハさんとのドキドキのゲーム部ライフを楽しめる『きみとピコピコ』。ぜひ周りの人にも教えてあげてください!
『きみとピコピコ』単行本第1巻、8月6日発売!!