【専門家に聞いてみた】シリーズは、連載中の作品で語られるいろいろな疑問を、その道の専門家に「これって本当にできるの?」、「この話ってあってる?」と聞いてみよう、という企画です。
今回、切り込むのはこの作品!
スポーツドクターを目指す高校生・小手指くんとスポーツ万能女子5人のドキドキ寮生活を描く『さわらないで小手指くん』です。
彼の目指す「スポーツドクター」という職業はどういうものなのか?
どうすればスポーツドクターになれるのか? 卓越したマッサージ技術は必要なのか?
などなど気になることが盛りだくさん…。
そこで今回は、スポーツマッサージの専門家にお話を伺って来ました!
都内の強豪サッカーチームのトレーナーもつとめるTOHL所長・小澤武志先生です。
──今日はよろしくお願いします! 単刀直入にお伺いしますが、スポーツドクターになるには、すごいマッサージ技術が必要なのでしょうか?
小澤(以下、小):はい、よろしくお願いします。最初に言っておくと、“マッサージの技術がすごくても、スポーツドクターにはなれません”。スポーツ「ドクター」なので、まず医学部のある大学に受かって、卒業して、そこから医師免許とらないとダメです。その後で、「スポーツドクター資格」を取得します。日本だとこの3つの資格が有名ですね。
• 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
• 日本整形外科学会認定スポーツ医
• 日本医師会認定健康スポーツ医
―――なるほど、まずはお医者さんに…。マッサージの技術は関係ないと?
小:関係ないということはありませんが、必ずしも必要ではないですね。それと、実は「マッサージ」にも国家資格があるんですよ。
私の場合は「はり師」「きゅう師」「あん摩マッサージ指圧師」の国家資格と、スウェディッシュマッサージ講習の受講、あと、CSCS(Certified Strength & Conditioning Specialist)という、スポーツ中の傷害予防とパフォーマンス向上をサポートするトレーナーの勉強をして資格を取りました。
―――マッサージだけでなく、はりやきゅうにも資格が必要なんですね!
小:お金をもらって人の身体に触らせて頂くわけですから、それなりに勉強は必要です。でも「手当て」という言葉があるように、人間はケガをしたところに触れるだけで、本当に癒されるんです。だから、スポーツドクターがマッサージについて知っておくことは、良いことだと思います。
―――なるほどなるほど…。では、本題なのですが…小手指くんは道行く女性の腰に触れて「ぎっくり腰」を治しています。これって本当に可能なんですか?
小:「道で急に他人に触る」のは法に触れますが、「やさしく触っただけで治す、効果を出す」のは、ある程度であれば出来ます。
――私、ちょうど「ぎっくり腰」持ちなんですが…。
小:なるほど。そうですね…まず「立位体前屈」してもらっていいですか?
──はい。うぐぐ…全然曲がらない…!
小:固いですね―。そもそも人間の骨格としては、床にペタッと手がつくのが「当たり前」なんです。つかないってことは、どこかが緊張しているんですね。…じゃあ…30秒くらい軽く押しますよ。
──はあううううう…。
小:はい、いいですよ。じゃあもう一回、曲げてみましょうか。
──あれ…?
――ちょっと押してもらっただけなのに本当に…って、ぜんぜん違う! 床に相変わらずついてないけど…5〜10センチぐらい違います…!
小:効果が出てよかったです(笑)。さっきは、お腹の横にある「腹斜筋」「腹横筋」を刺激しました。マンガで小手指くんが押しているあたりです。腹斜筋が硬くなっていると、猫背で首が前に出ちゃうんです。さらに、股関節がロックされてしまうため、身体が曲がらなくなる。でも、腹斜筋を軽くゆるめてあげると、腰椎がまっすぐ伸びた「いい姿勢」を維持できるようになります。すると、身体を倒した時にも柔らかく曲がる。体幹が変わると、動きも変わるということです!
──なるほど!
小:じゃあさらに漫画と同じような方法を試してみましょうか。ちょっと寝てもらって。かかとの裏に手を添えるので、グーって押してみてください。
──漫画にもありましたね、このポーズ。
小:そうですね。小手指くんはかなりストレッチを入れてましたが、今回はそこまでがっつりとストレッチはしません。
──なんか…めっちゃ揺れてます…気持ちいい…。
小:(左右が終わって)なるほど…。膝自体が緊張してるのは右だけど、動きは左のほうが少し悪い。重いかばんをいつも同じ方に掛けてますね?
──はい!(そんなこともわかるんだ…)
小:そうしたら、ゆっくりお腹に力を入れながら起き上がっていただいて。
──はい。…おっとっとっ!(よろめくインタビュアー)
小:今、リラックスして全身の力が緩んじゃったから、急に立つとよろっとしちゃうんです。それじゃあ、また前屈してみましょう。
──グイーっ…また伸びた! もうちょっとでつま先につきそうです!
小:最初が曲がらな過ぎたのもありますが(笑)。ご本人が「差がある!」と実感できたならよかったです。しかし、肩がとにかく悪いですね。前に出ちゃってる。今度は椅子に座ってもらってもいいですか? 動き自体の差はそんなに出ないかもですけど、この施術で少しは楽になると思うので。
──(グルグル)あぁ~、効く~。…でも、「世間一般のイメージ」よりも軽くしか動かさないんですね。
小:私は「治し過ぎない」ように気をつけてるんですよ。マッサージして可動域を増やしたとしても、それは結局「普段使っていなかった筋肉」を動かすことになるんですよね。スポーツの選手だと、治し過ぎるとだいたいそこを怪我してしまうんです。だから最低限、今と同じ動きが楽になるというくらいにしたほうが良いなと思って。
──(マンガでよくある、「強すぎる力は身を滅ぼすッ」的なヤツ…!)
小:さてどうでしょう? 身体が楽になりましたか?
──なんか肩から腰にかけて楽になりました!
──しかし、なんで私はこんなに肩がこるんでしょうか?
小:それはもう運動不足と…歩くのが下手!
――歩くのが!? 肩なのに?
小:ええ。本来、人間は前に進むために足を「後ろ」に蹴り出すんですけど、猫背で体が前のめりになっていると、足を蹴り出さなくても前に重心が発生しますよね。それだけで歩いちゃってると、ふくらはぎの筋力がどんどん衰えてつっぱって、足に引っ張られて肩も凝っちゃう。
――確かに、前屈するとき 膝の裏からふくらはぎがつっぱりました。
小:上半身の重さを、頭のてっぺんから肩の先を通って「大転子」という太股の付け根を通して、膝の膝蓋骨の裏、内くるぶしの真ん中のあたりを通して歩くようにすると、自然と下半身の筋肉もついて、体幹も安定した歩き方になります。
──?? ………!??
小:簡単に言うと、地面に対して真っ直ぐ立って、かかとを後方に蹴りだすように歩こうってことです(笑)。姿勢が悪い人ってどこかに力が入りすぎてるんですよね。
――なるほど、それならわかります! 姿勢を正すために、何か有用な運動ってありますでしょうか?
小:そうですね…。単純な運動で、身体に対して肩を90度にして、手のひらを内側にして肘も90度。この状態で手のひらと同じ大きさの円を描くように、左右同じ方向で交互に肩を回してください。こんな感じです。
──やってみます! …あっ、これっ…結構キツイ…。
小:全然90度になってないですね(笑)。歩く時って、足と一緒に手も振るじゃないですか。この動きはそれと同じように、肩と股関節が連動している動きなんですね。これがうまくできない=足の筋肉も衰えている、ということになるんですよ。
――なるほど…というか、これ…結構キツイ…!
小:それは力を入れすぎてますね(笑)。力が入っていると、それ以上の動かすための力をかけなきゃいけない。止める力を抑えるほど、動かす力も弱くっていいってことです。
──もう力学ですね…。関節の連動、勉強になりました! 話はちょっと戻りますが、肩と言えば作中にも登場した「肩甲骨はがし」とは実際どういうものなんですか?
小:私自身、「肩甲骨はがし」という施術を受けたことがないのでなんとも言えないのですが、肩甲骨に付随する肩甲下筋にアプローチしてるのかなと思います。基本的に肩甲骨が動かせない人は、そこに刺激を与えることによって筋肉が収縮を始めて、一気に肩は軽くなるということかと。ただし、すごく痛いんですけど…。
──え、作中だと気持ちよさそうでしたけど…。ちょっとやってもらっていいですか?
小:いいですけど、本当に痛いと思いますよ?
――いやいや、あんなに気持ちよさそうにしてるならぜひ受けたいです!
↑こんなに気持ちよさそう!
小:では…。
(※いわゆる「肩甲骨はがし」ではなく、肩甲下筋へ直接アプローチしています)
──おっおっ…? おああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!
──いいい痛い痛いいだいいだい!!!!!!!!!!!!
──痛いです! 痛いです!!! 大げさじゃなくて痛いです!!!!!!!!!!!!
小:ははは(笑)。これ、肩こりは取れるんですけどね。肩甲下筋は肩甲骨の裏に付いてるんで普通は揉めないんですよ。筋肉痛になってる足とか腕を押されると痛いのと同じでね。
──痛い…おっさんには痛みしかなかった…。でも確かに左より右のが回る気がする! ありがとうございました…。ハァ…ハァ…。
小:今のは「クリニカルマッサージ」という、機能改善するためのマッサージです。いわゆるリハビリみたいなものです。リハビリも辛かったり痛かったりしますが、機能改善には効果があります。
──なるほど、ゆるめる系と、痛い系があるんですね。
小:はい。はりやきゅうも、よく「痛くない」っておっしゃる方もいますが、やっぱり痛かったり熱かったりするんです。でも、その刺激で治癒力・回復力が引き出されるんです。ただこれは、素人さんがマネすると危ないので、痛いようなことはしない方がいいですね。
──ところで、プロの目からみて、小手指くんはスポーツドクターになれそうですか?
小:小手指くんはタッチテクがすごく上手いですよね。整体の才能はすごくあると思うし、栄養学も頑張ってるんで…あとは学校の勉強の偏差値も下げないように! 医学部の推薦をゲットしても、大変なのはそこから先なんでね…。
小手指くん、勉強がんばって!(笑)
――小澤先生、ありがとうございました!
スポーツはもちろん、普通に生きていくにも身体は何より大切。ちょっと身体の調子がおかしいなと思ったら、プロのマッサージ師から施術を受けてみるのもいいかもしれません。
小澤先生曰く「揉まなくても、お話聞いただけで治って帰って行かれる方もいますよ」とのこと。相談するだけでも違ってくるみたいですよ!
余談:マッサージ店って、だいたい経絡が描かれた人形が置いてありますよね。小澤先生の施術所にもご多分に漏れず置いてありました(笑)。
今回、取り上げた作品『さわらないで小手指くん』は、マガポケベースにて金曜更新で連載中! おっさんではなく、美少女スポーツJKたちの気持ちよさそうな姿が見たいなら、ぜひチェックしてください!
今回お話を伺った、小澤先生に施術してほしい! という方は、以下のQRコード、もしくはメールアドレスにご連絡してみてくださいね!
TOHL はり・きゅう・マッサージ
千葉県船橋市 JR西船橋駅より徒歩13分
oztake70@gmail.com
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