この世の中では大小の差はありますが、さまざまな事件や事故が毎日のように起こっています。
そして、今回ご紹介する作品『母という呪縛 娘という牢獄』は、実際にあった事件の犯人である女性に取材を続けた記者・齋藤彩氏によるノンフィクション(実話に基づく話)が原作の漫画です。
物語はとある町の河川敷で、頭部、両腕、両足が切断された体幹部だけの遺体が発見されたところから始まります――。
その遺体の身元は、宮川八重子(みやがわ やえこ)。
そして、犯人として逮捕されたのは、八重子の実の娘・宮川ひかりでした。
当時、実の母親を刺殺するという事件は大きな波紋を呼び、さまざまなニュースで取り上げられていたのですが……。この凄惨な事件の背景には、長年にわたって母・八重子の教育虐待に苦しめられてきた、娘・ひかりの壮絶な日々があったのです――。
それでは先日、待望のコミックス1巻が発売した本作のあらすじをご紹介していきましょう。
●『母という呪縛 娘という牢獄』はこんなお話
物語の語り部は、講談通信社の若手記者・真木沙耶香(まき さやか)。
真木が取材をしたいと思ったきっかけは、ひかりの綴った公文書にあった「母の呪縛から逃れたい」という一文。
この言葉が頭から離れず、ひかりへの取材を始めます。
そして取材を進めるにつれ、真面目な少女が母親殺害に至った壮絶な過去を知ることになったのです――。
ひかりは、母親・宮川八重子の管理下で非常に厳しく育てられました。
学歴至上主義で選民思想の強い母親は、幼い頃からひかりに優秀な成績を求め、過剰な教育を施してきました。
感情の起伏が激しい母は、ひかりが自分の思うようにならないと、容赦なく攻撃的な態度で威圧します。
そんな過剰な教育虐待から逃れるために母親を殺害したひかりでしたが、話を聞くとどうやら、「どちらかというと母が好きだった」と振り返ったのです。
母から受けた暴力行為は耐えがたいものでしたが、その根本には「憎しみ」と「愛情」がない交ぜになった複雑な感情がありました。
娘は母のため――母は娘のため――。
お互い、自らを犠牲にし続ける2人の生活。
「医者」の肩書きに強い執着を持つ母の願いを叶えようと、幼いひかりは医者になると言葉にするのですが……。
その言葉はやがて、ひかりにとっての呪縛になってゆくのです。
そうして、あの悲劇的な事件が起こってしまったのです……。
●小学生時代。母親が絶対的権力を握る窮屈な家庭環境で――
ひかりが小学校に入学すると、母・八重子の行き過ぎた教育は激化しました。
問題が解けなかったり、テストの点数が母の求めていた点に達していなかったりすると、ひかりは強い言葉で罵られるようになります。
そんな家庭において、ひかりが安らぎを得られるのは父親と過ごす時間でした。
ひかりの父親は、母親とは対照的に穏やかな性格で、ひかりを叱ったり優秀な成績を求めたりはしません。
その穏やかな性格も相まってか、父親はいつも気性の激しい母親に叱責されており、とても夫婦仲が良好とは言い難いものでした……。
ひかりは、笑顔の少ない自分の家庭と周囲の家庭を比べることで、次第に自身の家族関係の歪さに気づき始めます。
やがて、中学受験という具体的な目標が見え始めると、母からの教育虐待はさらにエスカレート。
成績が悪いときには、ひかりに向かって刃物を投げつけることもありました。
ひかりが小学6年生になった頃、父親は仕事の都合で家から離れて生活をするようになります。
ついに、彼女の周囲には優しく接してくれる人がいなくなってしまったのです……が、ひかりからしたら「母の機嫌が悪くならないだけマシ」と、どこまでも母からの虐待を気にする心情となっていたようです。
こうして、母と2人きりの時間が長くなったひかり。彼女は平和な日常を取り戻すため、「母は望みを叶えることで優しくなるだろう」という不確かな希望を胸に、必死に受験勉強に打ち込むことになったのでした。
●中学生時代。友人の反応を受けて、母の躾が異常であることに気づき始める
学力は足りていたものの、第一志望の中学校に抽選に外れて入学できなかったひかり。彼女は他に合格していた私立中学校に進学することになりました。
仲の良い友人もできて、年相応の中学生らしい学園生活を送り始めます。
特に、小説を書くという勉強以外に打ち込める趣味を見つけたことで、友だちとの交流も盛んになったのです。
しかし、小説を書いていたことが母にバレてしまい、その交換物語のノートをビリビリに破かれてしまいました……。この頃から、勉強以外でも過剰に干渉されるようになります。
学校では楽しいと感じられる時間もあったのですが、このように家庭では変わらず母に怯え、罵倒され続ける日々が続きます――。
さらに、中学での勉強が難しくなると、ひかりの成績は伸び悩みます。
母親の課したボーダーラインをクリアできないとひどく叱責されるため、ひかりは成績表を偽造するのですが、それがバレたときには……。
怒り狂った母親に熱湯を浴びせかけられてしまいました……。
その事を聞いた友人たちの反応は、どう見ても引いているように見えました。しかし当時のひかりはそのことに気付かず、後に母の行動が常軌を逸していたのだと理解します。
そんな恐ろしい母ですが、ひかりが中学生になるまでは、勉強の息抜きにとひかりをテーマパークへ連れ出してくれることもあったと言います。
普段とは全く違う、笑顔で娘を連れまわす母の表情。そんな母の姿にひかりも、「お母さんが嬉しいなら、わたしも嬉しい」と思っていたようです。ただそこには、誰もが純粋にテーマパークを楽しむ中で、自分にだけ薄い透明な膜がかかったような違和感があったと語ります。
この違和感はひかりが高校に進学する頃にはさらに大きくなり、やがて精神的にも肉体的にも、限界が見え始めるのです――。
●高校生時代。医学部受験は絶望的、それでも進路を変えることは許されず――
高校に進学すると、ひかりの成績はますます下がり始めます。
母からのプレッシャーに追い詰められたひかりの不安定な精神状態は、テストのカンニングや、不真面目な授業態度という行動として表面化していきます。
全ては、成績が落ちると母を怒らせてしまうという恐怖心からの行動でした。しかしそれを伝えることもできず、次第にひかりの正常な判断力は失われていきます。
高校3年生になると、いよいよ医学部受験へ――。
しかし、ひかりは「なんで医学部を目指しているんだっけ」と、子どもの頃に母に伝えた言葉を忘れてしまっているようでした。
また、もともと理系科目が苦手なひかりの成績は芳しくありません。
成績が伸びないため、体罰はさらにエスカレートし、痛みで寝付けないほどの仕打ちを受けます。
身も心もボロボロになっていくひかり。
母からの虐待を親しかった教師に伝えたりもしましたが、ひかり本人が「通報はやめてほしい」と言ったことで、結局は意味もなく時が過ぎ去っていくのでした……。
三者面談では教師からも医学部は無理だと告げられますが、それでも医学部進学への強いこだわりを崩さない母から、自身の学業成績に見合わない受験を強いられます。
ひかりの医学部進学のために、家庭の支出削減・無駄な時間を減らすためにと、毎日母娘で一緒に風呂に入るというルールまでありました。本来疲れた身体を癒すために入るお風呂ですが、「疲れた」なんて言葉をこぼそうものなら次々と罵倒の言葉が飛んでくるのです……。
勉強だけでなく日常生活までも支配される暮らしに耐えかねたひかりは、家出を試みるのですが……。
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今回は、衝撃作のコミカライズ『母という呪縛 娘という牢獄』をご紹介しました。
人生でさまざまな体験をして見聞を広めていく貴重な時間を、自分の意思とは反する浪人生活で失ってしまったひかり。数年後、大人になった彼女は、その手で母親を殺めることになります……。
もし、この家族に手を差し伸べてくれる人が周囲にいたら、と考えずにはいられません。
信じがたいほどの壮絶な実話ですが、この母と娘の関係性に多くの共感の声が寄せられ、漫画の原作となったルポルタージュは、大きな反響を呼びました。
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