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『ランウェイで笑って』 そもそもファッションショーってなに?謎の組織ってなに? ファッションメディア編集長に話を聞いた〜後篇〜

 

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少年マガジン連載中でファッションをテーマにした漫画『ランウェイで笑って』(作:猪ノ谷言葉)。様々な壁にぶつかりながら、純粋に夢に向かってもがく若者たちを描き、話題を呼んでいます。

 

普段ファッションに興味がなかった人でも、関心がでてきたという方も多いはず。そこで、ファッション業界の常識から裏話まで、日本のファッションブランドをもっと広めていきたいという思いのもとファッションメディア「ROBE」の編集長をされている、佐藤亜都(あづ)さんにお話をうかがいました。

  

【Profile】

佐藤亜都さん

「スタイラー株式会社」所属。編集者・ライター。ファッションアプリ「FACY」内の記事制作や、ファッションメディア「ROBE」のディレクションを担当している。

 

 

トレンドは謎の組織が作る? 流行が繰り返す理由は?

 

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--デザイナーはどのようなことからインスピレーションを受けて、デザインを作っているんでしょうか?

佐藤:そのデザイナーが求める女性像を形にしている場合が多いですね。面白いのが、男性がデザインする女性服と女性がデザインする女性服って全然違うんですよ。例えば、有名なエピソードとしてご紹介したいのが、シャネルの創業者ココ・シャネル。20世紀初頭、それまでコルセットをつけ、とにかく縛り付けて細く美しく見せることだけを考えて作られていた女性服に、彼女(ココ・シャネル)は動きやすさを重視したジャージ素材を使うことで”解放”しました。それは、彼女が「身体的・精神的な束縛から女性を解き放ちたい」という思いを込めてデザインしたものなんですよ。ちなみに、その後に男性のクリスチャン・ディオールDior創業者)が、第二次世界大戦によって社会が暗くなってしまったので、装いだけでも華やかにしたいという欲求に答えるように、貴婦人のためウエストを絞ってふわっとした、女性らしいシルエットを強調した服を売り出したのですが、それにシャネルは激怒したそうです。現代のブランドでも共通することが多々あるのですが、女性は実用的に、男性は理想の女性像をそこに描き出すのが面白いなと思います。

 

--有名ブランドだとデザイナーが変わってしまうことがありますが、そうすると服のデザインが全く変わってしまうこともあるんですか?

佐藤:ここ最近だと、GUCCIがいい例ですが、3年ほど前にデザイナーが変わったことがあるんです。それまでのデザイナーの作る服は、超セクシーで強い女性の服でした。それがデザイナーが変わったら、コテコテのリボン、ビジュー(装飾細工)が目立つようなガーリーな服にコロッと変わったんです。はじめこそギョッとしましたが、こういった変化を何シーズンも見ていくと、ブランドとしてのGUCCIが提案したい女性像や伝統をしっかりベースにしながら、今の時代のなかで打ち出したい女性像というのをデザイナーはしっかりと解釈して発表しているので、実はそこにブレはないと思います。それがブランドを軸に時代を読むということなんです。

 

--そういえば、トレンドは謎の組織2年前に決めるという噂を聞いたことがあるのですが、これは本当ですか?

佐藤:私もその噂を聞いたことがあるんですけど、これは嘘ですね(笑)。一応、流行色を決める会はあるんですけど、それはあくまで参考程度です。トレンドは時代が作るものなんですよね。誰かが言った言葉や、誰かが出した造形とかそういうものが独り歩きしてトレンドを作るので、コレクションブランドから生まれてメディアが報道するトレンドは、本当のトレンドとは言えないところもあって。やっぱり、本当のトレンドは街中にあるんです。例えばこの夏は、透明なバックが流行っていましたが、それはどこかのコレクションブランドが出したからではなく、どこからともなくSNSで広がっていく波によるものでした。ただ、ファッションデザインをするときに生地が必要になり、それありきで服作りが始まっていくので、生地のトレンドっていうのがあるんですよね。それによってブランドが作る服が似てくるというのはあると思います。

 

--デザイナーがデザインを作るのに、過去に流行していたものが突然流行りだすときがありますよね。あれは一体なぜなんでしょう?

佐藤:洋服は、人間の体をベースに作っているので、シルエットはもうこれ以上進化しないと言われています。ある程度のアイデアは出し尽くされているんですよね。なので、過去のものからインスピレーションを受けてデザインをしていて、それで流行が繰り返していくわけです。あとは、今世界で活躍しているデザイナーさん同士は大体年齢層が一緒になるのですが、彼らが青春を過ごした時代にインスピレーションを受けているというのも理由の一つですね。今でいうと90年代に流行っていたものが多く出てきていますよね。もし私達の世代が影響力を持つようになったら「“平成最後の夏”ってあったよね」ってなって、そこからインスピレーションを受けたものが世に出てくるんじゃないでしょうか。

 

--東京発でおすすめのブランドはありますか?

佐藤:若手ブランドやレディースになりますが、デビュー当初から好きだったのは「EAUSEENON(オウシーナン)」ですね。ヨーロッパで学ばれた女性のデザイナーさんがやっているブランドです。あとは今日も着ている「LOKITHO(ロキト)」。このあたりは、私がレースや刺繍の甘いテイストがすごく好きなのでお気に入りです。

 

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東京コレクションに出ているブランドだと「MURRAL(ミューラル)」も好きですね。男女2人でやっているブランドで、最近では、乃木坂46の衣装を作って話題になりました。コレクションブランドって一着一着が高いし、私もお金あるわけじゃないのでそんなに買えていないんですけど、ちゃんと作られた服って気分を上げてくれるんですよね。漫画の中でもデザイナーをあきらめようとしていた育人が、自分を変えようと自分に服を作るシーンがあって、すごく共感しました。服は人を変えられると私も信じています。

 

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※『ランウェイで笑って』1巻より。

 

--ファッションに携わる方から見て、この『ランウェイで笑って』はどうですか?

佐藤:すごくリアルだと思います! 私がこの漫画を知ったのも、ケイスケヨシダというブランドのデザイナーさんのツイートでしたし、業界で読んでいる方もいらっしゃいますよ。

そうだ、私、もう一箇所すごく共感したところがあって。2巻で新人ファッション編集者の新沼文世が、ファッションに悪態をつくシーンがあるじゃないですか。

 

 

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※『ランウェイで笑って』2巻より。

 

--そこですか!? 意外です()

佐藤:あのシーンには共感しました…!(笑) ファッションで人の格を測るようなことは…!っていう。私は高い服とか派手な服だったらえらいとは全然思わないですし、さっき言ったように、心をひっぱってくれる服であれば、ファストファッションで安くてもいいと思っています。ただ、感動を呼び起こしてくれるような服となると、自分で一生懸命働いたお金で買った憧れのブランドの服だったり、自分のために作ってもらった服だったりするのかなと思うんです。

 

--決して高い服が偉いわけではないと。そう言っていただけると、安心します。ここまで色々お聞きしてきましたが、この漫画がリアルなファッション業界を描いているとわかりました。最後に一言あればいただけますでしょうか。

佐藤:はい。ファッションに対して興味をもってくれるきっかけになってくれればいいなと思って、私もメディアをやっているので、こういう漫画があることで、ファッション自体やファッションのビジネスとしての側面に興味を持ってくれたらとてもうれしいなと思っています。そして、できたらできたらみなさんにファッションショーにぜひ行ってみてほしいです。ファッションショーって、実は業界でもあんまり興味がない人もいるのですが、私はショーのなかの5分に、その半年間がすべて詰め込まれていると思うと感動してしまうんです。コレクションブランドって浮ついたものに見えるかもしれないですが、漫画の中にも出てきますが、ビジネスの厳しい世界です。このインタビューでも、『ランウェイで笑って』 でも、少しでも興味を持ってくれる人がいたらうれしいですね。漫画の展開、これからも楽しみにしています!

(上野郁美)