いつの時代も僕たちを悩ませる「見えそうで見えない」――
そんなギリギリラインを攻めているのが、「マガポケ」で連載中のラブコメ?サスペンス?コメディ?漫画の『お願い、脱がシて。』。
今回は、作者の川中康嗣先生に、このエロさをどう生み出したのか。漫画家になりたいと思ったきっかけ、どうしたらこんなに続きが気になる作品を生み出せるのかといった秘密に迫ります!
前作よりエロく、いきなり頂点へ
――見えそうで見えないギリギリの構図や、女子のパンツを男子が脱がすというシチュエーションにいつも興ふ……楽しく拝読しています。女子のパンツを脱がすのに不思議な爽やかさがある……この感覚はいままでなかったです。どこからその着想を得たのでしょうか。
川中先生:
前作『オークが犯してくれない!』 が終わって、「さて次の作品はどうしよう」と考えていました。僕の中では「描くからには単行本として売れる作品を作りたい」という想いがあったんです
どうしたら書店に並んだときに「おっ」と目を引いて、手にとってもらえる単行本になるのか。
諫山創先生の『進撃の巨人』は、ほとんどの人が第1巻の表紙を思い浮かべると思うんです。巨人に斬りかかろうとしているエレン。あの一枚を見るだけで、「なぜ巨人?」「どこから来たのか?」「このあとどうなるのか?」と続きが気になってしまう。とても力のある絵、あれを目指したいと考えました。
一枚の絵で、読者に「なんで?」「どうして?」と思ってもらう。それが単行本の表紙になっていたら、手に取ってもらえるんじゃないか……
そこで思いついたのが、「夕暮れの教室で、女の子がパンツを脱がされている」というシーンだったんです。
そのシーンを生かすために、「どうして脱がされているんだろうか」「なんでこんなことになってしまったんだろうか」というストーリーを考えていって『お願い、脱がシて。』が生まれました。
紆余曲折あって、1話は教室ではなくトイレになってしまいましたが。
――じゃあ、最初はその一枚絵のイメージだけ?
川中先生:
そうです。あの絵を描きたいなぁと思ったところがスタートでした。
担当編集:
川中先生にその絵を見せていただいたとき、直感的に「これだけで成立する!」と思いました。
川中先生:
以前、松井優征先生が「『面白いのはここ!』という頂点が決まっていれば、逆算してそこに向かって進んでいくだけだから、必ず面白いものが作れる」と話していらっしゃいました。
また、山本崇一朗先生の『からかい上手の高木さん』や『それでも歩は寄せてくる』は、作中で「からかう?からかわない?」「寄せる?寄せない?」って分岐をさせないんですよね。
高木さんは作中でからかうこと前提でストーリーが進んでいくんです。じゃあ、どうからかうのか。それを魅せるのが作品の面白さにつながっているように感じたんです。
僕は「面白くなるかどうかわからないけど、どんどん話を盛り上げていこう」というものでは、本当に面白くなるのか、どこまで面白い作品になるのかわからなかった。でも、松井先生や山本先生のように作品の頂点を面白くできれば、作品としても絶対に面白くできるだろうな、と考えたんです。
それに、「絶対に面白くなるよ、これ!」とわかっているうえで企画会議をしたほうが会議も面白くなりませんか?
――作中、いろんなシチュエーションで女子たちはパンツを脱がされていますが、そのストーリーの中で大切にしていることはありますか?
川中先生:
主人公の神手が無理やり脱がしているのであれば、単なるセクハラ的いじめになってしまいます。
大切なのは、女子から「お願い…脱がシて」とお願いしてもらうこと。合意の上で脱がし、秘密を共有することを大事にしています。
あと、「転校してきた美少女」ではなく、クラス委員長、図書委員、バレー部のキャプテン、ちょっとしたギャルなど、どの学校にも普通にいるような女子たちが登場するのもこの作品で大切にしているところです。
ありふれた立ち位置の登場人物のほうが「ワンチャンあるかも!?」とワクワクしませんか?
パンツを脱がしているだけなのに作中ではヒーロー
――さっき、担当編集は絵を見て「これなら成立する!」と思ったと話していましたけど、それはなぜですか?
担当編集:
漫画として重要な部分である盛り上がりの頂点が明確だったからですね。絶頂点に向けていくにはどうすればいいのか。川中先生も仰るように、ゴールが面白ければそこに至るプロセスを考えるのも楽しくなるんです。
川中先生:
そうそう。「なんで脱がしているんだろう?」って。女子が学校内でいやらしいことをしてしまって、それでパンツが脱げない呪いにかかって、それを解くために主人公がいて……って。想像が膨らみますよね(笑)。
実を言うと、今でも「なぜ?」の部分では苦労しています。どうすれば、合意の上でパンツを脱がせることができるだろうか、というところですね。
これが、合意ではない、セクハラ的いじめであれば、面白くもなんともない。
合意の上で、しかもその行為が主人公を救いのヒーローにしている、というところがこの作品の面白さだと思ってます。オタクで「キモイ」と学校中の女子から嫌われている男子が、単にパンツを脱がせているだけでヒーローになっていく。それって面白くないですか(笑)。
――際どくてエロい、エロいのに爽やかというのはそういうところからきているんですね。
川中先生:
「マガポケ」は少年誌のアプリなので、裸を描くわけにいきません。裸を描かなくても感じてもらえるエロ、というところではオリジナリティがあるのではないかなぁと思っています!
――少年誌としての制約があるがゆえに生まれた漫画なんですね(笑)。
漫画好きだった少年時代――初投稿は小6で
――ところで、川中先生が漫画家を目指したきっかけってなんだったんでしょうか。
川中先生:
子どもの頃から絵を描くのが好きだったことと、漫画を読むことが好きだったから。タカラ(現タカラトミー)の「せんせい」って玩具がありますよね。ペンでなぞると砂鉄がくっついて絵が描ける。
子どものときは、あれで日がな一日、絵を描いていました。
――先生が好きな漫画、影響受けた作品は何ですか?
川中先生:
本当に申し訳ないんですけど、僕は「週刊少年サンデー」が大好きだったんです(笑)。当時、『らんま1/2』『め組の大吾』『ARMS』『名探偵コナン』『H2』『MAJOR』を夢中になって読んでました。
そんなわけで、最初に漫画を投稿したのも「週刊少年サンデー」。小6の時のことです。
――え、小学生で投稿したんですか?
川中先生:
「何か行動を起こさなくちゃ!」と小5で思い立って描き始め、完成したのが小6の時だったので。中1の時にも投稿しましたが、どちらも箸にも棒にもかからないという感じでした。
その後、ちょっと漫画を描くのをお休みしていて、カードゲームにハマり、大会で賞をもらえるところまでいきました。
でも、大学生になって、みんなが就活を始めるようになると、僕もそろそろ本気出さなきゃな、と思うわけですよ。漫画での。
――そこで漫画に本気を出す!?
川中先生:
それが僕にとっての就活というわけです(笑)。
担当編集者さんに名前を覚えてもらえるよう、毎月毎月、月イチペースでまんがカレッジ(小学館の月例新人漫画賞。現在は行われていない)に応募していました。
――それは凄いですね。
川中先生:
週刊誌で連載を持つ先生たちはみなさん月ごと、週ごとにお話を考えて描いていますよね。自分も同じ土俵を目指していたので、毎月描いて応募していました。
3カ月ほどしていたら、編集さんからご連絡をいただけたんです。しかもその編集さんは、僕が大好きな若木民喜先生の『神のみぞ知るセカイ』を担当しているかたでした。そして、若木先生からアシスタントとしてお声もかけていただけたんです。
連載のなかった5年間――人とのつながりが身にしみる
――そこから「マガポケ」に移籍するまでに、どんな経緯があったんでしょうか。
川中先生:
新人としての一発目、『ミキティ・ブラッド』という短期連載を描いていました。「重版になったら、継続ね」と言われていたのですが、残念ながら重版はかからず……
自分でも何かしないと!と考えて、他誌に持ち込みをかけてみることにしたんです。持ち込み先をリスト化し、「連載してみたい!」と思う出版社に上から順番に当たっていきました。
そしたらなんと一番上、最初に持ち込んだマガジン編集部で「一緒にやろう」と言っていただけて、すぐに担当編集さんもついてくれたんです。あれは奇跡的でしたね。
担当編集:
でも、まだ奇跡は続くんですよね。
川中先生:
最初の担当さんとは連載までいけなかったんです。マガジンってレベルがものすごく高い上、当時は月刊誌だった「マガジンSPECIAL」が休刊になったタイミングで……
同じく月刊誌の「別冊少年マガジン」にどんどん人が移っていきました。掲載の倍率がとても高くなっていったので、僕が入る余地はなかったんですよ。
担当編集:
そのときに、「マガポケでオリジナル作品を20から30本はじめたい」という話が出てきたんです。あれは奇跡でしたね。
川中先生:
そんなに枠が空くことってないのでありがたかった。
もちろん、応募する全員が連載を持てるわけではないんですけど、数の論理で気持ち的に余裕が生まれました。
応募作品の提出までに2週間あったので、まずはホラー作品を描き、担当編集さんから「もう1本出してみませんか?」と言われて描いたのがエロ系の前作『オークが犯してくれない!』。
こちらも、数の論理で、「1本より、2本のほうが確率が高まるのでは?」という目論見があってのことでした。
――川中先生がホラー漫画も出していたんですね!
川中先生:
連載が決まったのは本命だったホラー漫画じゃなかったんですけどね……僕も「そっち!?」という感じでした(笑)。
でも、「週刊少年サンデー」での連載が終わってから5年間ほど漫画を描けていなかったわけですから。とにかく嬉しかった。
――5年間はアルバイトなどをやっていたんですか?
川中先生:
友だちがアシスタントとして僕のことを使ってくれ、食いつなぐことができました。
「使ってもらえている=期待してもらえている」と金銭的な面だけでなく、精神面でもサポートしてもらえたことで「絶対に連載を持つ!」というモチベーションを保ち続けることができました。そういう人の縁のおかげで、今の僕があります。
「スポーツ漫画は少年誌の存在意義」
――今後、こんなジャンルを描いてみたい!という想いはありますか?
川中先生:
僕に期待されているかわからないんですが、できればマジでガチの野球をテーマにした作品を手掛けたい。いや、わかるんですよ、『ダイヤのA』や『H2』、『MAJOR』など、すでにすごい野球漫画が世の中に出ていて、間に合っているのは。
でも、やっぱり少年誌には野球漫画が掲載されていてほしいと思うんです。野球漫画がたくさんあれば、読者もいろんな角度で野球を楽しめますよね。
僕が少年誌をよく読んでいたときには、熱い少年誌=スポーツ漫画という図式があった。迫力のあるシーンに夢中になった。
野球選手やサッカー、バスケットボールの選手の中には、子どものときに読んだ漫画の影響でその道を選んだ、という人がいますよね。スポーツ漫画には影響力があるんです。少年の“これから”を創る力と夢がある。
少年に夢を与えられるって素敵なことだと思いませんか? それこそが少年誌が少年誌たる意義だと思うんです。そういうきっかけを、僕も漫画で与えられたらなぁと思うわけです。
――さっき「『ワンチャンあるかも!?』とワクワクしませんか?」と仰っていましたが、なるほど、『お願い、脱がシて。』でも夢を感じられますね。「自分にももしかしたらそんなことが起きるかも!」みたいな……エロがこんなに奥深いとは。
川中先生:
(笑)
――先生にとって漫画とはなんでしょう?
川中先生:
僕がそうだったように、「きっかけになるもの」ですよね。それを読んで、物語の主人公たちと同じ夢を追い掛ける人もいれば、僕みたいに「漫画家になる!」と夢を創る側を目指す人もいる。
きっかけと同時に、僕にとっては生きがいでもある。漫画を通して知り合えた人がたくさんいるし、恩を受けられた。だから、その恩を漫画で返したい、売れることで恩返しをしたいと思うんです。
僕の漫画を読むことで、またそれが誰かのきっかけになれれば幸せですよね。描き続けられるかどうかは、僕だけの力ではなく、沢山の人に支えられるかどうかにかかっている。人とのつながりを感じられるのも漫画の魅力だな、と感じています。
――ロジカルなエロの話から、ジーンと来る話につながるとは……最後に、川中先生が最も好きな脱がせるシーンってどの話でしょうか。
川中先生:
1話に登場した “かおり”の妹、“みのり”のパンツを脱がすところですね(19話から)。姉妹ものというシチュエーションに加えホットパンツ、そして暗がり。
みのりが恥ずかしさのあまり、手にしていたゲーム機で股間を隠すんです。でも、そのせいで……
――あれは読んでるこちらもモジモジしちゃいました(笑)。今日はありがとうございました!