こんにちは、ライターの間野久です。
私はマンガを4つ離れた姉から教わりました。
姉はマンガを大量に所蔵していて、本を月一冊しか贖えない私をみかね、情け深くもコレクションをときどき貸しあたえてくださったものです。
いや、貸してもらった、って表現は正確じゃないな。「三日以内に全部読まないと殺す」って言われたんだ……。
ともかく姉には感謝しています。彼女の慈悲のおかげでたくさんの名作マンガを知りました。
今回ご紹介する『SAMURAI DEEPR KYO』もそうした思い出の一つです。
かっこ良すぎるキャラクターたちが、かっこ良すぎるバトルを繰り広げ、かっこ良すぎるセリフで決める……ちょっとエッチなシーンも、ある。
少年・久の心はガッチリ摑まれてしまったわけです。
あと、マンガから「畏敬や恐怖の対象としての肉親」にどう立ち向かえばいいのかを学んだ、という思い出の……(オロロン)。
今回は、そんな『SAMURAI DEERER KYO』の話をさせてください。
『SAMURAI DEEPER KYO』(以下、KYO)は1998年から『週刊少年マガジン』で連載された時代ファンタジーバトル漫画。
上条明峰先生の筆による秀麗な作画と魅力的なキャラ、そして屍山血河のバトルと壮大なストーリーが人気を呼び、2002年にはアニメ化もされました。
で、こちらが主人公の壬生京四郎さん。
日々、少年漫画名物・ラッキースケベに鼻を伸ばす、少々頼りない優男。
ところが、いったん気が昂ると、
瞳が爛々と紅くかがやき、天下無双の漢「狂」へと人格が入れ替わります。めっちゃ強い。
そんな彼が、ヒロインの賞金稼ぎ「ゆや」や愉快な仲間たちと共に江戸初期の日本を飛び回り、立ちはだかる強敵たちと闘いながら、ゆやの殺された兄や狂の秘密に迫っていくーーまさに王道の伝奇バトル絵巻です。
見どころはなんといっても、バトルを通じて浮かびあがる漢たちのアツい物語でしょう。戦うキャラクター同士の関係性を切り口に、KYOは多様なストーリーとテーマを描きます。強さとは何か、信念とは何か。孤独とは、友情とは。
特に中盤から終盤にかけての描写はすさまじいの一言。剣と剣による漢たちのぶつかりあいが新しい愛の物語へと昇華されるさまは、2000年代前半の『週刊少年マガジン』に咲いた大輪の華でした。
今回はそんなKYOのバトルから、最高にホットな対決と最高にクールなセリフを(ネタバレにならない程度に)ご紹介していきましょう!
【第一番】
狂 vs 爾門(KC2巻)
初期のKYOから、まず、この一戦。どんなバトル漫画でも最初期に出てくる敵は、負かした後で仲間になるやつか一蹴されるザコ、と相場は決まっています。爾門の場合は後者です。
そんな爾門との闘いがなぜ重要か。何はさておき、この決めセリフのおかげに他なりません。
一見、「力 is POWER」的な、天才にしか許されない俺様発言です。が、KYO全編を通じて幾度も反復される超重要フレーズでもあります。
KYOの序盤では、こうしたわかりやすく印象的なセリフ以外でも、何気ないセリフや振る舞い、設定がのちのち重大な意味を帯びることが多いです。読み直すたびに新しい発見があります。
そんな再読性の高さも、長く読み継がれる理由の一つなのでしょう。
もちろん、バトルそのものもアツい。
爾門の繰りだす神速の抜刀術「飛燕剣」に対し、自らも刀を鞘におさめて居合の形で対峙する狂。ところが狂の得物は5尺(約1・5メートル)もの大太刀です。抜き打ちの速度は刃渡りに左右されます。絶対不利なはずですがーー。
強いやつが強い。強いから勝つ。
では、どうすれば強くなれるのか。
それがKYO全編を通しての問いかけとなります。
【第二番】
真田幸村 vs 真田信幸(KC4巻)
KYO世界をかきまわすトリックスター真田幸村。
ひょうひょうとした雰囲気とは裏腹に、狂と伍する剣力の持つ実力者であり、
他方では敬愛する故・豊臣秀吉に報いるべく、豊臣家に仇なす徳川家康の暗殺を目論む義の人でもあります。
その幸村が家康暗殺のために潜りこんだ幕府主催の御前試合(狂もいるよ)。
しかし、それは反逆者の一掃をたくらむ家康の罠でした。幸村は、かつて関ヶ原で袂を分かって家康側についた兄・信幸と真剣での血闘を強いられます。
実在した名将同士によるマッチアップです。真田兄弟同士の直接対決、というのがまたニクいですね。
傍目には優勢に闘いを進める幸村でしたが、観戦していた狂は「この死合、十中八九幸村の負け」と断言します。
なぜなら幸村の剣は「勝つための剣」ではなく「負けないための剣」だから。負けることを恐れるあまり、危険を顧みず後一歩を踏みこんで勝利をもぎ取ることが、幸村にはできません。
そこで出るのがこのセリフ。
言い換えればいかにして自分の殻を破るか、ということ。KYOのキャラは例外なく自らの命を燃やして殻をやぶる「賭け」を行います。その姿がたまらなく感動的なのです。
チキン野郎の私もこの言葉をいいわ……もとい実践すべく日々挑戦をしています。(具体的には、ソシャゲのガチャを回したり…)
【第三番】
狂・紅虎 vs. 「あの御方」(KC9-10巻)
封印&監禁された狂の本当の躯(からだ)を取り戻すべく、幸村や少年忍者・サスケらと連合して富士の樹海までやってきた狂一行。
そこに立ちふさがるのは謎の黒幕「あの御方」。「あの御方」配下の「十二神将」を撃破し、ついに大ボスとの直接対決へなだれこみます。
しかし、狂は「あの御方」の圧倒的な戦闘力のまえに敗北寸前にまで追いこまれてしまいます。あやうし! 狂!
「あの御方」が狂にトドメを刺そうしたその瞬間ーー文字通りの「横槍」を入れてきた漢がいます。影法師の紅虎です。
紅虎は、序盤で狂のパーティに加わる槍使いです。
基本ひょうきんな人物であるものの、実はある大人物の血を引いていますが、彼自身はそのことを隠したがっています。なんとなれば、部下や仲間に対して薄情な態度を取る父親の「血」を忌んで育ったのです。
血脈や地位といったしがらみに縛られた不自由さとの闘い、それもまたKYOをつらぬくテーマのひとつです。
自分は○○だから、○○にしかなれない。そうじゃないだろ。人間の可能性はそんなもんじゃないだろ、と謳う。
紅虎は狂パーティでも、そこまでの強キャラではありません。ふつうに考えれば、主人公の狂が勝てない相手には、まず勝てない。
それを自分でもわかっていながら、連戦で満身創痍になっている狂や仲間(ダチ)たちに対する想いひとつで「あの御方」に立ち向かいます。
そして、このセリフ。
アツい。
激アツです。
親が誰であろうと、何であろうと、自分はなりたい自分になる。人はそのために戦うのです。
ちなみにネタバレ防止用にベタ塗りされている部分がわかれば、アツさも十倍されます(これはマガポケで読むしかないですね!)。
「あの御方」戦は序盤のクライマックスとなる大一番です。一巻半に及ぶ闘いは見どころ満載、初読者もここまで来たらすっかりKYOの虜です。
【第四番】
ほたる vs 辰伶(KC21巻)
にぎやかに仲間を増やしつつ、物語の舞台は15巻あたりから京四郎&狂の秘密が眠る「壬生の地」を舞台へと移ります。
この「壬生の地」で、最終38巻まで一気に突き抜けます。全体の約三分の二すべてがラストバトル的クライマックスです。すごい構成だ。
「壬生の地」での闘いはざっくり「壬生五曜星」戦と「太四老」戦に分けられ、そのすべてがベスト級の熱戦ぞろい。全部ご紹介したい……ところですが、紙幅の都合上むずかしいので泣く泣く三つだけ選りすぐることにしましょう。
まずは、ほたる(ケイコク)対辰伶戦。
ほたるは狂のかつての仲間「四聖天」の一人。かたや辰伶は、「壬生の地」を守護する「壬生五曜星」最後の砦です。
この二人には異母弟同士という因縁があります。正統な長子として壬生の名家を継いだ辰伶とは異なり、妾腹の子でつまはじき者のほたるは「壬生の地」を離れ、狂から奔放な生き方を学びます。
辰伶は敵側に属しながらも、一本気で純粋な性格からKYOファンの間でも人気も高いキャラです。
そんな兄に対してほたるは、生まれた時からずっと薄暗い感情を抱きつづけてきました。
しかし「外の世界」にほのかなあこがれを持ちつつも、壬生一族を守るために情を捨てて誰よりも強くあらんとする窮屈な辰伶の姿に気づき、彼を「鎖」から解き放とうとするのです。
このあとの展開は一筋縄ではいきません。
束縛 vs 自由。正統 vs 異端。兄 vs 弟。
同じ血を分けながらも別々の道を選んだ二人。
この哀しい兄弟争いの結末の行方はいかにーー?
(マガポケで読むしかねえ! )
【第五番】
猿飛サスケ vs 風魔の小太郎(KC26巻)
「壬生の地」での闘いは、キャラクターたちの「関係性」の物語でもあります。親子、兄弟、師弟、恋人ときたら、やっぱり「友人」にも突っこんでいくわけで。
幸村の率いる真田十勇士のひとり、猿飛サスケ少年は「壬生の地」でかつての親友だった小太郎と刃を交えます。
小太郎との一戦に気乗りしないサスケですが、小太郎のほうは敵意満々。というのも、小太郎は、自分のことをサスケが裏切ったと思いこんでいるのです。
サスケは旧友に後ろ髪を引かれつつも、現在の友情(幸村や狂)に背中を押されて刀を抜きます。
こういうすれ違い、大好物ですわぁ……という読者の方も多いのではないでしょうか。少年少女のすれ違う友情の衝突(とその行方)には不思議な魅力がありますね。
サスケvs小太郎戦では「親友の条件」についてフォーカスが当てられます。本当の友達であるというのは、どういうことなのか。
このなまいきな少年忍者にそれを教えられた読者も多いはずです。
【第六戦】
アキラ vs 時人(KC32巻)
「才能」の話をしましょう。
アキラはほたると同じく元・「四聖天」のひとり。孤独な幼少時に狂に拾われて以来、狂を慕い、いつもその背中を追っていました。そうした経緯もあって紅虎らから「ブラコン」と揶揄されるほどの狂大好きっ子ですが、KYO本編では強烈な愛情が裏返って割りととんでもない行動に走りがちな問題児です。
アキラの持ち味は「努力」。
もともとKYOでは、特定の出自を持つ人間でないと刀から火を放ったり雷を生み出したりという、いわゆる異能を使えない設定があります。
そこへ来てアキラは平々凡々な人間です。常人なら異能を諦めるところですが、彼は狂についていきたい一心で、想像を絶する修練を積みます。
そうして異能を獲得した……
……までは良かったのですが、「壬生の地」での終盤になってあるキャラから「もとが人間だから、これ以上パワーアップできない」と事実上の戦力外通告を受けます。
壮絶な鍛錬の末に辿り着いた戦地で、己の「才能」の限界を告げられるという悲劇。
そしてアキラが迎えた太子老・時人戦。
壬生一族でも最強クラスの難敵を前に、アキラは名乗りをあげます。
時人は、壬生でも最強と呼ばれた人物の血を引いた選ばれた存在。生まれ持った才能は群を抜いています。そこについ先刻、「器」の限界を教えられたばかりの「ふつうの人」が相対する。
これだけで涙が出ないほうがどうかしていますが、内容はさらにアツい。
時人のすさまじい力に為す術なく翻弄されるアキラ。斃(たお)れ伏した彼の頭上に時人から「これがあんたの『限界』」「これでわかったろ? いくら望んだって世の中の法則は変わらない」という嘲笑があびせかけられます。
自らの力量を悟り、心が折れかけるアキラ。自らの持つ二刀に自分自身の「持っているもの」を重ね合わせます。
片方の「刀」を失ったときに差し出されたもう一本の刀、「友情」を手にしてアキラは立ち上がります。
いい。すごいいい…。このPで泣ける。ってか、今思い出してるだけで涙とストロングな感情が止まらないので、この一戦の結末に触れることをお許し下さい。
友情パワーで限界の先を超えたアキラは、時人に辛勝します。
なぜ自分が負けたのかと絶望的に毒気づく時人。アキラは自分の勝因を語ります。それがこの名台詞。
「”血”や”才能”など持たずとも、心の『限界』を超えられぬあなたより、今の私の心は、はるかに強い」ーーそして、その『限界』を超える力は「仲間」が与えてくれる。
アキラ-時人戦は「天才に『凡人』がいかにして打ち勝つか」という少年バトル漫画永遠の論理的難問に対する、ひとつの回答といえるでしょう。
六番勝負で終わるのも中途半端ですが、七番勝負に収めるには候補が多すぎる!
16巻の狂-ホタル戦、20巻の紅虎-太白戦、26巻の真田幸村-シンダラ戦、29巻の「あの」再戦、31巻のほたる-遊庵戦、そしてもちろんラストバトル……。
できることなら全部紹介したい、アタマからケツまでなにもかも割って話したいところです。でも、これからKYOを読むみなさんや再読するみなさんのためにとっておいたほうがよいでしょう。
マガポケの『SAMURAI DEEPER KYO』全話読破キャンペーンで是非あなただけのKYO七番勝負を選んでみてください!
《お知らせ!!》
マガポケでは『SAMURAI DEEPER KYO』イッキ読みキャンペーンを開催します!
★なんと、上条明峰先生が厳選してくれた章の冒頭を無料大公開!!
★そして、それ以外の話も、通常の半額(1話25P)で公開します!!
※エピソードは、「後編」は12月11日(月)よりスタートします。
詳細は、アプリ「マガポケ」で!
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(終わり)